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逃れなれない運命

昨日は、あのあと慌てて走って帰宅した。

心配したお母さんに「どうしたの? 大丈夫?」と声をかけられたけれど、あんな出来事、とても説明できる気がしなかった。ましてや信じてもらえるなんて、なおさら無理だ。


私はただ「大丈夫、少し疲れただけ。今日はもう休むね」とだけ言って、すぐに自分の部屋へ閉じこもり布団の中で丸くなった。

中々寝付くことができなかったが、起きているといろいろと考えこんでしまう。

「大丈夫、大丈夫」と何度も自分に言い聞かせているうちに、いつの間にか夢の中へといざなわれていった。




***


翌日、いつもと同じように目を覚まし、学校へ行く。

授業中も何度も昨日のことを思い出しては頭をかかえ、うなっていた。すると、ましろが心配そうに私のもとへやってきた。


「立花、どうしたの?何かあった?すごい険しい顔してるけど…」

「ううん、なんでもない…」

私はうなだれながら答える。

「は!もしかして体調悪いの!?だったら病院いかなきゃ!風邪を甘く見ていると痛い目にあうよ」

「ちっちがうの!体調は大丈夫、ただ…」

「ただ…なに?」


もうましろには全部話してみようか?

でもなんて言えばよいのだろう…

言い方を間違えると、違う意味で病院に連行されてしまいそうである。


「ましろってさ…妖怪とかって信じる感じ?」

とりあえずおそるおそる尋ねてみることにした。


「え、どうしたの急に?」


ましろは一瞬だけ言葉を失って、私の顔をまじまじと見つめた。


「い、いやあのね。私の友達が妖怪らしきものをみたって言ってて…それでその、本当に妖怪はいるのかていうことをずっと考えてたの!」

必殺!友達の話なんだけど戦法である。


「うーん。」

ましろが思ったより真剣に考えてくれる。

正直、ごまかしきれないかもと思っていたようだが杞憂だったようだ。


「いるのはいるとは思うんだけど、妖怪も人間に姿をばらすことはしないんじゃないのかなぁ。」

「というと?」

「いやだってね、わざわざそんなことするメリットなくない?もしかしたら退治されちゃうかも知れないんだよ。

「なるほど」

そう言われればそう思えてくる。


「よっぽどの理由がないかぎり、妖怪と会えることはないんじゃないかな」


そう言いながら、ましろがほんの一瞬だけ、寂しそうに笑ったように見えた。


でもすぐにいつもの調子に戻って、話題は自然と切り替わっていった。

そうこう話しているうちにいつの間にか時間も過ぎ下校時刻となった。


何ら変わり映えのない、いつも通りの日常だ。


そして「もしかして昨日のことは夢だったのかもしれない」と考え始めた。

そうだ、きっと疲れすぎて幻覚でも見たのだろう。そうに違いない。

そう思うとなんだか気が楽になってきた。


今日は寄り道する気もおきないため、まっすぐ家に帰ることにした。

「また明日ー!」「おつかれー」とすれ違う友達とあいさつを交わしたのち、下駄箱に向い靴を履く。


五月晴れの青く気持ちの良い空が広がる。

なんだか清々しい気分だ。


おそらく夏の試合に向けての練習だろう、いつもよりより一層力が入っているように見える野球部の練習を横目に、校庭を通り過ぎ校門を出ようとしたとき、










「よぉ」








私は膝から崩れ落ちた。


目の前には…

今会いたくないランキング堂々たる一位に輝く昨日の猫魈がいた。







***







「本当にすいませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!!」


私は限界まで腰を折り曲げて叫ぶ。

「神様だったなんて、つゆ知らず……!」



人目のつかない校舎裏で私は、全身全霊をもって謝っていた。


校門で会った猫魈についてこいと言えれ、こんなところにつれてこられてしまった。

校舎裏、二人きり。こんなシチュエーション、だいたい決まってる。告白か、リンチかだ。

今回の場合、前者である確率は限りなく低い。

つまり詰みまで秒読み段階まできている。


返事がない…

どうやらただ謝るだけではダメなようだ。

こうなったら仕方がない。

こちらも生き残るためにはなりふり構ってはいられない。


土下座…いや、五体投地が必要か。


そう思った私は膝を地面につけた。


「ちょ、ちょっとまて」と猫魈ギョッとした顔で言う。


「お主は何をしようとしているのだ?」

「いや、お詫びの気持ちを示すために、土下座、いや五体投地させていただこうかと思っている所存で…」

「そんなものはいらんわ!」


思ったよりも全力で拒否られる


「…いらないんですか」

「あぁ、お主のようなか弱き人間に土下座をされてもうれしくもなんともないわ」


「…」

ということは私はもうなすすべがない。

逃げてもダメ、謝ることも止められた。

もうどうしろというのだ!

泣きそうになってくる


「何でも、何でもするのでどうか呪い殺さないでください」

私は半べそをかきながら必死にお願いをする。

1分、1秒でも良いから生き延びたい一心だった。






だがその時、猫魈が思いがけないことを言う。

 



「殺す?誰が誰を」

「え?あなたが私を…?」

今まさにそのような状況だと思っていたのがだ、もしかして違うのだろうか?


「なんでそんな話になっておるのだ…」

猫魈は呆れたように頭をかかえる。

「え、違うんですか?てっきり私を殺すために今日来られたのかと…」

「我は偉大かつ器も大きい。これしきのこれしきのことで殺しはしないし、殺すならとっくに呪い殺しておるわ」

良かったぁ〜!

何か怖いワードも聞こえた気がするが、とりあえず今のところは寿命が縮むことはなさそうだ。



「では今日は何用で…?」

純粋な疑問をぶつける




「ちょっと聞きたいことがあってな」




ビードロの目が私の目をしっかりをとらえる。


「お主、狐の窓の使い手だな」











狐の窓…狐の窓、、、なんだっけ?


私は思考を巡らす。どこかで聞いたことがある名前だ。

その時はっと思い出す!

そうだ!

私が猫魈の正体を暴いた時に使った術だ!


「あの、その友達から教わって…」

「友達から?」

「はい、同じ学校の友達で…」

「どういうことだ…」


猫魈は何やら物思いにふけり、黙りこくってしまった。

長い長い沈黙がその場を支配する。


きっ気まずい…


沈黙に耐いかねた私はとりあえず聞いてみることにした。

「あの、なにかあるんですか?」

「狐の窓はこちら側の世界と人間の世界を繋げることができる一種のまじないのようなものだ。普通なら人間が知りえるようなものではない。そしてたとえ知り得たとしても、誰もが使えるというわけではない。人間の中でもこちら側と波長が近い人間しか使うことができないが、そんな人間はそうそういない」




するどい目線が私を射抜く。

「でもお主は使えた」



―ドクン。

心臓が一拍、大きく跳ねた。


……なぜ?

どうして私が、あんな不思議なものを。


思い出す。あのとき、私はただ、友達に言われた通りにやってみただけだった。

それなのに――私は、見えてしまった。


あれは偶然だったの? それとも、私だけが特別だってこと?


いや、そんなはずない。そんなはず、あるわけがない。


心のどこかが、ざわついている。


「なぜお主が使えるのかはわからぬが、大方祖先に妖怪と交わったものでもいたのだろう。以前お主と同じ様に狐の窓を使えるものに出会ったが、そ奴は妖怪の血が混ざっておったからな」



「え!私の祖先に妖怪がいるってことですか!?」


なんだそれは!初耳である


「まぁ、詳しいことはわからぬがな、その可能性が高いというだけだ。」


サラッとすごい情報を言われた気がする。

とんでもない情報に頭がまた混乱してくる。

だがそんな私を他所に猫魈は話を進める。


「いいか、お主の祖先に妖怪いようがいまいがひとまずどうでもよい。重要なのはお主が狐の窓の使い手だということだ。」


全くどうでもよくはないだろう!と思ったが、その迫力にひとまず黙る。




「いいか、お主にやってもらいたいことは、ただ一つ。――妖怪探しだ」


「妖怪……探し?」

「そうだ。」と猫魈がうなずく。



「我々妖怪は妖気を持っているため、たとえ人間の姿に化け、人間界に紛れ込んでいたとしてもお互いに妖怪だということはわかる。しかし妖怪だということはわかっても、どんな妖怪が人間に化けているのかまではわからない。化ける前の本来の姿を知ることはできないのだ。」


「だがそれを可能にする方法が一つだけある。」


まっまさか…

嫌なところで勘がさえわたる。



「察しがついたようだな。そうだ、それが狐の窓だ。」


「我は首に傷跡がある妖怪を探している。お主には狐の窓を使ってその妖怪を見つけてもらいたい。」


なるほど、わざわざこんなところまで私を追いかけてきたのはそういうことだったのか。

ようやく合点がいった。

というか今、決定事項のように伝えられたが、いやな予感しかしない。出来れば…というか全力で御免こうむりたい。


もうこれ以上変なことには巻き込まれたくはない!!


「ち、ちなみに……拒否権とか、あります?」

「お主、さきほど“なんでもする”と言っただろう?」


猫魈がにやりと微笑む。





「神に嘘をつくのは重罪だぞ。」




最後まで読んでくださりありがとうございます!

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