「好きなアイスの味は」
(初出 note、2023年11月3日)※大学の授業課題として提出したもの
私が好きな食べ物を尋ねられた時、自信を持って「アイス」(「クリーム」も「キャンディ」も好きなので、敢えて「アイス」と表記する)と答えるようになったのはいつ頃であっただろう。
高校入学頃まで私は、一般的にごく簡単な質問とされる「好きな食べ物は?」という問いが最も苦手であった。目の前に食べ物を用意し、いざ食べる、という時になれば「これは美味い」「これは苦手かもしれない」という事は考えられるのだが、これをというものを挙げるとなると言葉に詰まってしまった。あまり好き嫌いしない方だった、と言えば聞こえは良いが、それは好きな食べ物を楽しみにする喜びもまた味わえなかったという事である。
アイスも、当時はその例外ではなかった。
夏場の暑い日、もしくは近所のレストランでごく稀に食事をする時、食べれば「美味い」と感じる程度の嗜好対象だった。
変化のきっかけは、唐突に訪れた訳ではない。高校時代、体育の授業は火曜日の週一日、三限目と四限目の二限のみだったのだが、私は当時つるんでいた友人と授業が終わるや否や購買に向かい、アイスを買って割り勘で払い、教室で着替えてから食べるという事を週課にしていた。疲弊し、過熱した体に、融かされて尚冷たい甘味が流れ込む感覚は、五臓六腑に染み渡るとはこの事か、と思わせるものだったといっても過言ではないだろう。
あくまで、疲れた体が求めるものを摂取した事による充足感である。喉が渇きすぎた時、水道水にこの上ない美味を感じるのと同じ感覚だ。しかし、そこはアイスである。無味無臭の水とは比較にならない滋味妙味がある。体育の授業を受ける度に「これが終わったらアイスだ」と考えるのは、自然な事だったと言えよう。
きっかけや動機は、そこまで重要ではない。私がいつの間にか、「アイスを食べる事」を楽しみになってきた事は、自分がアイスという好物を得る最も重要な転機だったのだ。
修学旅行で沖縄に行った際、私はアイスを食べまくった。那覇国際通り「ブルーシール」のブルーウェーブ(ソーダとパイナップル)、サンフランシスコチョコミントを始め、琉球村ではシークワーサー味を、帰りの空港ではバニラソフトをという具合である(因みに胃腸は無事だった)。後で自分で自分の行動を客観視し、そこで初めて「私の好物はアイスだったのだ」と気付いた。
他に私は、数少ない好物としてチョコレートがある。幼い頃の誕生日ケーキは全てチョコレートケーキだった程だが、好きなアイスもまた「ジャイアントコーン」「ピノ」「板チョコ」「チョコバリ」とチョコ系が上位を占めている。食べ終わればなくなるものにあまりお金を使いたくないやや吝嗇な私だが、時折母から仕事帰りにコンビニでそれらを買ってきた、と言われた時の喜び、また風呂上がりに冷蔵庫を開け、偶さかにそれを発見した時の、駄目元で蜃気楼の方向へと進みオアシスを見つけたかの如き高揚は筆舌に尽くし難いものがある。更に、基本的には他の味のアイスが、期間限定でチョコ味を発売した時の歓喜も凄まじいものだ。
この間、私がアイス「クリーム」の中で最も好むラクトアイス「爽」が「生チョコ in バニラ」という魅惑的な逸品を発売した。過去にも何度か出回った事があるようだが、今回はチョコレートを十パーセント増量という、これまた心憎い取り組みが実施されていた。
全てに於いて、至高であった。「爽」特有の、口に含んだ瞬間感じるシャリッとした歯触り。それが融けた瞬間、口腔に広がるバニラの甘味。そして、今回は更にその中に「生チョコ」が含まれている。呼気まで甘くなりそうだが、そこは「爽」だけに食べ進めても胃もたれしそうなくどさはない。シャキッとした食感が手伝い、渇水した体にシェイクを流し込んだ時のような爽快感すらある。私はいつも、「スーパーカップ」を一度に完食する事が出来ないが、「爽 生チョコ in バニラ」は食べ終わってむしろ物足りないくらいであった。風呂上がりの喉が渇いた時だった事も、その味わいを一層無上のものにした。
中学時代、同級生から「ハーゲンダッツは好きか?」と尋ねられた時、私は「濃すぎるし硬いからあまり好きではない」と答え、それが爆弾発言として出回った事がある。しかしその時、私は高価なハーゲンダッツを切って捨てるつもりでそう言ったのではなく、アイスの種類として「爽」の風味や食感の方が好きだ、というつもりだったのだ。
他に風呂上がりに食べるアイスには、最も手頃で充足感のあるものとして「ガリガリ君」が挙げられる。こちらは本当に多様な試みをするアイスキャンディで、この間は「大人なガリガリ君 いちご」が店頭に並んでいた。ナポリタン味という愚挙に出た事もあったが、私は正統派らしい味違いを幾つか試した上でやはりスタンダードなソーダ味がいちばん、という結論に至っている。
「ガリガリ君」は、ソーダアイスとしてもアイスキャンディとしても花形だと私は考える。表面の、霜のような薄い層の中にかき氷の如き食感が詰まっている。薄い氷の層を噛み破り、中の氷から甘いシロップが流れ込んでくるのは堪らない。物足りなさも飽きもなく最も手軽に食べられるし、更に時々「当たり」が出、もう一本無料で貰える時はささやかな「ラッキー」も味わえる。
日常で手頃に、軽く口にするアイスとしては「パピコ」もある。これも主力はチョココーヒー味であり、私の好きなものだ。「クーリッシュ」程ドロドロでもなく、飲むアイスと食べるアイスの中間的な位置づけか、と自分では思っている。祖母もこれが好きで、繋がっている二つのボトルのうち私が消費した片割れを啜っている事もよくある。
パピコの妙味は、「半分に割って分け合う」という事にもある。季節を問わずカップルの行う定番といった印象があるのは、決して私だけではないはずだ。私自身は高校時代、友人数人と歩いていてコンビニに立ち寄り、女子と半分にした事があるが、場にはその他の友人も複数人居た為、冷静に考えてみればそこまでの出来事ともいえない。
日常的に食べるアイスもいいが、やはり外出先で時たましか味わえないアイスの味は格別である。私に特に思い入れがあるのは、仙台の銘菓「喜久水庵」のミックスソフト、それから「サーティワン」だ。
前者の店は食堂も経営しており、近所に店舗があった為、私は幼少期から、祖母と共にそこで休憩にソフトクリームを食べたり昼食を取ったりする事が度々あった。ソフトにはバニラ、抹茶、ミックス、期間限定で変わる「季節のソフト」があるが、私はミックスを最も愛した。最近では足を運んでおらず、自身も成長したのでどうかは分からないが、当時は食後のデザートがどうにも多すぎて、食べ切れないのが常だった。そこである時から、デザートは食堂で注文せず、ミックスソフトを買って食べるという事を行った。
「喜久水庵」は「お茶の井ヶ田」が経営している事もあり、抹茶を使った料理や菓子が多い。どれも至高だが、私が幼少期の外出、そこでの食事を思い出す時、いつも毎日店の前を通るはずの「喜久水庵」、そしてそこのバニラと抹茶のミックスソフトに懐古の情を催すのである。
「サーティワン」は、街中での遊びでアイスを食べるとなった時の定番である。私はInstagramを使わないが、持てば撮りたくなる、撮れば今を満喫しているという実感が湧いてくる、そんなアイス店だ。私が最も好きなのは「ポッピングシャワー」、甘さもだが、あの喉に入る直前でパチパチと爆ぜる音が何とも言えず楽しい。子供の頃は喉の奥で爆ぜさせ、痛かったような覚えもあるが、それが今やいちばん好きといえるようになったのも自分の成長なのだろうか。
アイスは、ものによって味わいが全く違うものの、不思議と一貫して、どんな状況であっても私を満足させてくれる。他にも色々なアイスに思い入れがあるが、きりがないのでこの辺りで切り上げるとする。