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好き

作者: 廣風直

 外国人に好きな日本食を聞くと、「オスシガスキデス」と答える人が多い。逆に、嫌いな日本食として挙げられる代表的な食べ物は納豆である。

「臭いが無理だ。」

「ネバネバしているので、ネバーギブアップの精神で挑んでみたけれど、無理なものは無理でやんす。」

「腐ってるものは食べられません。」

 理由は色々あるみたいだ。

 

 納豆のことを思う時、必ず思い出すことがある。坂上田村麻呂だ。読めない人もいるかもしれないので、ひらがなでも書いておく。さかのうえのたむらまろだ。カタカナの方が読むのが得意な人もいるかもしれないので、カタカナでも書いておく。サカノウエノタムラマロだ。折角の機会なので覚えて欲しい。私が中学生の時に、社会の先生が納豆を最初に食べた人として彼の名前を連呼していた。平安京に戻る途中に、背負っていた荷物の中に入れていた大豆が腐ってしまった、それを思い切って食べてみたら、なんと驚き美味でしたというエピソードだったと記憶している。

「彼が食べなければ、納豆は生まれてなかったんだよ。みんなは腐ってるものを食べる勇気はあるかな?」

 先生はそう言っていた。彼の名前は腐った大豆を最初に食べた偉人として、私の頭に強烈なインパクトを残した。誰もやらないことをやる凄さに痛く感心した。そして、「納豆」の名前の由来も、天皇に納めるための豆だったと考えれば辻褄の合う話である。ただし、私は後々知ったのだけれど、モノの起源には諸説あるということだ。私は面白おかしく話してくれた先生の話を信じている。ありがとう、たむらまろさん。

 外国人にはなかなか受け入れられない納豆であるが、私は好きである。私は日本人であるし、小さな頃から食卓にあったものであるし、家族のみんなが美味しく食べていたものだからだ。臭いが独特でも、ネバネバしていても、不思議に思ったことはない。私は一週間のうち、最低でも一度は食べたくなる。親しみのあるご飯の相棒である。


 好きな食べ物は何ですかと聞かれたら、私は「納豆です」と答えることにしている。聞かれない場合には、自分から話し出す。理由は話が膨らむからである。

「俺はシンプルに白飯にかけて食べるのが好きなんだ。」

「アレンジとかしないんですか? 例えばネギを入れるとか、砂糖を入れるとか。」

「色々試した結果、パックに付いてるタレを入れて食べるのが一番だったんだ。」

「からしは入れないんですか?」

「からしはたまに入れるけど、納豆にはわさびの方が合うと俺は思うんだよね。」

「納豆にわさびですか? そんなことしたことないですよ。」

「いやいや、じゃあ納豆巻きにからしつけて食べたことある人いる? いないでしょ? わさび付けて食べるでしょ。」

「あぁー、なるほど。確かに納豆巻きにからしは付けませんね。」

「でしょ。今度試してごらんよ。納豆にはわさびが合うって実感出来るよ。」

「納豆汁はどうですか?」

「納豆汁は言葉の響きが何故か好きじゃなくてね。なっとうじる…。うん、なんか嫌な感じなんだよ。美味しいって話は聞いたことがあるけど、実は飲んだことがないんだよね。」

 納豆の食べ方について、なんやかんやと話した後に、坂上田村麻呂の話をするのが私の定番の自己紹介の方法である。今日もいつもの調子で、初めて受け持つクラスの授業が終ろうとしていた。

「先生、今日のお昼は何を食べるんですか?」

 坊主頭の男の子が目を輝かせながら聞いてきた。

「えっ?お昼ご飯?」

「はい、昼ご飯です。お弁当ですか?」

「コンビニで弁当でも買おうかなと思ってるよ。何で?」

「なんだー。先生も僕と同じかと思ったんですけど、違ったんですね。」

 その子はカバンの中から、納豆三パックと白飯だけが入った大きなタッパーを取り出して、それを高らかに持ち上げて、こう言った。

「じゃーん。僕は毎日、納豆弁当ですよ。」

 納豆弁当…これは良い響きだ。私は初めて見るお弁当を前に驚きを隠せなかった。完全に私の負けである。しかも、毎日だとは私には考えられない。真の納豆好きとは彼のような人のことを言うのだろう。彼は後世に名を残す偉人になるかも知れない。

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