第9話 朔斗、ミャーゴ、そして私
柔らかな風が頬を打つ。
制服のスカートが靡いた。
日が長く、夕日がまだ高いところにあった。
朝日と間違えるんじゃないかというくらいの明るさ
だった。
梨花は、コード付きイヤホンを耳につけて
バラードを聴いていた。
今日は、1人で、学校から最寄駅まで歩いていた。
学校からは不審者が出ることもあるからなるべく1人で帰るんじゃないとかあるが、そうも言ってられない。帰る方向に誰もいなければ1人になるのだ。
致し方ないこと。
この間の不審者に対する抗体もついて、
対処方法を学んだ。
防犯ブザーはあまり役に立たないということがわかる。いざとなれば、朔斗が助けに来るという期待をいつもしていた。願望も含めて思っていた。
そんな上手いように人生まわるわけではないが。
梨花はいろんなことを考えながら、
足元に転がる石を蹴飛ばして、
蹴飛ばしてを繰り返した。
誰もいないのだから何も言わないだろう。
今日は、ミャーゴに会えないなとずっと思っていると、駅の改札口で朔斗に会った。
「…朔斗。」
まだ学校に近いからか、無口だった。
恥ずかしいのか。他人のふりか。
梨花は、反応してくれない朔斗に不満を抱きながら、階段を上って、渡り廊下を進んだ。
一般の人の中に
ゾロゾロと同じ高校に通う先輩後輩が
行き来していた。
ぼーっとして、階段を一段踏み外して、
ガクッと転びそうになると、
誰かの手が梨花の腕をおさえた。
「あぶねぇ。」
朔斗だった。
後ろからついてきていたようで、
転びそうな梨花に気づいて咄嗟に手が出た。
その手がなければ、後頭部を打ち付けていた
かもしれない。
「朔斗…ごめん。
ありがとう。」
「ん。」
言葉少ない。
近くにたくさんの高校生がいるからか。
また他人のように離れていく。
どうしてそんなに冷たいのか。
悲しくなってきた。
発車ベルが鳴る。
バックのひもをもう一度かけなおした。
車両にそれぞれ乗り込んだ。
****
いつものペースだと、家に着くまで離れて
移動する。駅から徒歩10分。
駅から出ても、2人の距離は縮まらない。
ギリギリ家の前に着くころ、
朔斗がボソッと声をかけてくる。
「ミャーゴ見るか?」
今までずっと無口で話していないのに
着いた途端話し出す。
朔斗の脳みそがどうなっているのか
わかるなら、ねじ回しでも開けてみてみたい。
でも実際には無理だ。
梨花は、謎に思いながら、
その言葉に苦渋の返事をする。
「あ、ごめんね。
今日、友達と電話する約束してて、
誘ってくれてありがたいんだけど…。」
梨花の言葉にあからさまに嫌な顔をする朔斗。
ハの字だった眉毛が、イライラの顔に
変わっていく。
「もういい!!
声かけないからな!!」
むつけてしまわれた。
バタンとドアが閉まる。
もう、ミャーゴは見れないのだろうか。
梨花はがっかりして、泣きそうだった。
(嘘ついてまで言わなければよかった。
ミャーゴ見たかったよぉ。
恵麻と美貴が誘うからぁ。)
それでもミャーゴを見れなくて、
悲しみに暮れていた梨花だった。




