行きはよいよい、帰りは…
この道を進んで行くと、廃墟となった洋館がある。大正の頃にどこかのお金持ちが別荘として建てたと云われている建物だ。
この建物は呪われていて、入ると出ることが出来ない、と云われている。私の知り合いで入ったことがある、という人はいないので真偽のほどは分からない。
今日、私はめでたく運転免許証を手に入れた。周りにあの廃墟に行った人がいないのは自転車で行くのは坂道ヤバすぎ。と言われるこの道のせいである。
「流石に夜はヤバすぎだし」
土曜日の朝10時にうちに集合して、例の廃墟に行くことにした。
『帰って来れなかった時のためにメモを残しておこう』
そう、私はノートに書いた。
『10:00自宅出発』
『10:15廃墟の洋館の前にアキとナオと私はいる』
『玄関に鍵は掛かっていない』
中は電気が点かないので薄暗かった。よくテレビで見る廃墟は荒れ果てているけれども、ここは綺麗だった。生活感がないだけで整然としている。外から見た時は窓ガラスが割れていて、いかにも廃墟という風体だったのに。
「ヤバイ。廃墟じゃないかも」
ナオと私は頷いた。
「帰ろう」
私たちは玄関に向かった。
「開かないよ?」
「間違えて鍵でも掛けた?」
「なんで?」
鍵も掛かってないのに、ドアは開かない。
「窓から出よう」
窓の鍵をクルクルと回して外したが、窓は開かない。古い建物だから歪んでいるのだろうか。一階の窓は全て開かなかった。
「ねえ、外から見た時、窓ってかなり割れていたよね?ねぇ、なんで全然窓、割れてないの?」
アキはガクガクと震えている。
「お母さん呼ぶわ」
私はビデオを止めて電話をかけようとした。
「圏外…」
ポゥっとランプに灯りが灯った。
「いらっしゃいませ、お嬢様方。帰り道はございません」
クラシカルなメイド服を着た中年の女性が薄暗い闇から現れた。シャンデリアに灯りが灯る。
洋館の中は華やかで賑やかだ。