2-13辺境の町ゼルーノ
ゼルーノの町に盗賊団「三つ首の蛇狩り」が迫っていた。
対してゼルーノは籠城を選択した。
「……………おい、なんだよこの数。盗賊団ってレベルじゃないぞ」
「…………これじゃあ軍隊だ」
盗賊団はおよそ三千。籠城に徹する側が五百に届くかどうか。攻城の基本は防衛の三倍の兵数で攻めろと言われているが、六倍差というのは防衛側が不利に思えてならない。
若い冒険者たちは圧倒されていた。何しろ彼らは千を超える人の影を見たことがない。軍団を成す魔物のゴブリンすらいない辺境に住んでいればそこまでの人波に晒されることは少ない。ゼルーノの総人口が実際に千を超えていても広い土地に分散していて、集団化した時のイメージが湧きにくいはずだ。
不安がる若い冒険者たちを中年のベテランが飄然と近づいてきた。
「おい、調子はどうだ?」
「調子なんて、良いわけないじゃないですか」
「………………か、勝てるのか、こんなのに?」
「……………に、逃げた方が……」
「馬鹿野郎。数に圧されるな。俺たちはあんな盗賊どもに突撃していくわけじゃない。俺たちには城壁もあるし矢も石も十分にある。射って投げつけて数を減らしてから、俺たちベテランが斬り込む。そういう作戦だ。だからお前たちは安心して矢を撃ってればいいのさ」
「で、でも」
「それにあいつらの格好をよく見ろ。まともな装備をしている奴なんてほんの一部で、あとはボロ着で包丁で鍋の蓋だ。それに比べてお前たちはどうだ?」
若い冒険者たちが自分の身体を見下ろした先にあるのは新品同然の皮鎧だった。領主が武器庫を開放して中にある武具を残留組みに配ったのだ。さらに武器鍛冶屋にも命じて急ピッチで修繕と補修を行わせ、商品も領主が買い取り、それを配布したのだ。
それにたいして盗賊たちはまさにならず者といった風貌の男たち――中には女性もいたが圧倒的に少ない――は武器も防具もバラバラ。統一感は一切なく、拾ったもしくは剥ぎ取ったものをそのまま身に着けたといった感じだ。半裸同然の者もいる。
数の上では劣っていても、質という点では勝っていることを説いても顔色は晴れなかった。
中年冒険者は躊躇いながらも伝家の宝刀を抜いた。
「心配するなって。俺たちにはゼルーノ最強のキヒルが付いてる。負けることなんてないさ」
「………そ、そうだよな。キヒルさんがいるんだ。あの人がいれば負けるなんてないよな」
「無敵のキヒルさんがいればあんな盗賊なんて一瞬で真っ二つだな!」
「もしかしたらすぐにでも盗賊の頭の首を狙っていくかもな!」
「おいおい。そうしてくれれば嬉しいが、そう簡単にいかないのが戦いだ。相手が人だろうが魔物だろうがな。だから俺たちでしっかりサポートするぞ」
若い冒険者たちの顔に不安の色は消え去った。しかし希望に照らされた表情からは緊張感も消え去っていた。
やはりキヒルの名を出すべきではなかったかと、後悔をにじませる中年冒険者もといギルドマスター。
キヒルの名は劇薬だ。薬にも毒にもなる。いや、正直に言えば毒性の成分が多い。彼がいれば何とかなると、頼りになる存在というのはそれだけで重責を負わせるだけでなく、それ以外が腐敗させてしまうこともある。このゼルーノはこれまで大きな被害が少なく平和そのものだった。環境と頼りになるトップの存在が後進を育ちにくくさせているのだ。それ故にこの状況に対処する心構えも技術も育ち切れていない冒険者が多い。
自分がうまく後輩を育てていればと後悔するも時すでに遅し。
それに事務ばかりに時間を割いている元青銅級冒険者のギルドマスターと現場で輝く黒鉄級冒険者。どちらが信頼に厚いかは自覚していた。口惜しさを感じていないわけはない。
「あいつの名で士気が上がるならいくらでも使ってやるが、それにしてもこの数は異常だ」
ギルドマスターが思っているのは、どうやってこの人数を集めたのか、だった。装備の質は悪くても数で攻められればそれだけで脅威となる。たかが一介の盗賊団が四桁も集まるなんて異常すぎた。
ただそれだけに思考を取られるわけにはいかない。
ゼルーノの戦力は元から人口が多くない上に非戦闘員を別の町に逃がしたため、グンと数が減った。それでも事前に防衛体制を万全に準備できているし、キヒルの存在も加味して士気は高い。ゼルーノの町を取り囲む城壁は丸太を隙間なく立てただけの一見簡単なものだが、魔素が満ちた森で育まれたそれは丸太の直径が異常なほど大きい。さらに防火剤を塗りこんでいるので簡単に燃えることはない。城壁を短時間で破壊することは難しいだろう。唯一の救いは森がある方向の東門に集中していることだ。取り囲まれて少ない数をさらに分散させられたら、防御する側に早く限界が来てしまう。
「もし勝てたら特別褒賞に加えて参加者全員ランクを昇級させるのもいいかもな。…………キヒルをギルドの副マスターに推薦する女性職員が多いし、経歴が不明瞭なところがあるが働き次第でそれも考慮すべきか」
実力もさることながら、美醜も備えている。そういう人物は荒事が多い冒険者ギルドにおいて花になるので重宝されやすい。人望厚ければ良いイメージと憧れが湧き、新規冒険者や依頼者が集まりやすい。そういう意味でもキヒルはぴったりだった。
「……………いや、今考えるのはよそう。あいつらが不気味すぎる」
ギルドマスターは盗賊団が現れたからというもの一つの懸念を抱えていた。
静かだった。今から闘争が起きようとは思えないくらいに。
風の音以外聞こえてこない。
ゼルーノ防衛隊の戦力は冒険者と衛兵隊と騎士、そして腕に覚えがあると言って残った農民。元の身分が農民だったことから緊張で身体が固まっている者が多数を占めていた。
だが、冒険者に違和感を覚えさせるほどに異常だったのは盗賊たちだった。挑発行動をしてこない。黙ったまま佇んでいた。目は虚ろに近い哀愁を感じさせていた。その姿は黙祷を捧げていると言った方が近い。
その様子を城壁から望むキヒルがいた。
「……………あれが、首領。蛇殺しのドウィンドス、か?」
そんな盗賊団陣営の中央に輿に乗る大男がいた。その体躯は筋骨隆々で無数の傷跡が刻まれていた。その傷は死戦をくぐり抜けた証として見る者すべてに畏怖をまき散らしていた。が、今の姿からはそれを感じることはない。輿に備え付けられた様々な骨で組み合わさって作られた王座に深く腰掛け背中を丸めていた。目線は自身の手元に注がれて、両の手の中には何かがあった。
覇気のない姿からはその男が首領だと誰が想像できようか。
だが首領であろうとなかろうと盗賊であることに変わりない。
「聞け!薄汚い盗賊たちよ!三つ首の蛇狩りだろうとなんだろうと、ここは我らの土地。我らの故郷。それを侵すというのなら我ら一丸となり剣を取り戦うまで!さらに既に他の領と騎士団に頼んだのですぐにでも到着する。そうなれば貴様らとてひとたまりもないだろう。それでも奪うというのなら掛かってくるがいい。我々は、ゼルーノは決して屈しない!!」
領主ゼルーノ男爵は勧告を行った。内容は真実と嘘が半分。他の領地に応援を求めたがすぐには来られないだろう。さらに言えば『三つ首の蛇狩り盗賊団』の名を前にして応えてくれる領主はいるだろうか。対抗できると考えている騎士団でさえ到着に時間がかかる。いずれかの戦力が到着するのに必要な時間は早くても三日は掛かる。それまでこちらの寡兵が見破れずに持つことができるか。仮に降伏した際は知れないように処理をしなければならない。寡兵だと気づかれれば町の内側から食い破られてしまう。
「……………動きがない?なにをしている?」
それでも反応らしい反応がない。それを訝しむか、それとも嵐の前兆として不気味に思うか。
ここで比較的に冷静な視点から観察していたキヒルがあることに気づく。
三つ首の蛇狩り盗賊団の首領と参謀は二人の兄弟が就き荒くれた手下たちを率いているという話は様々な方面から情報が流れてきている。それはもはや確定といってもいい。周囲の盗賊と見比べてもその風格が異なる点から骨の玉座にいる大男は首領の兄で間違いないだろう。
では参謀の弟はどこだ?
盗賊団のナンバー2が取り巻きに埋没するような恰好をしているはずがない。格差をつけなければ兄の擁護があるにせよ、舐められてしまい統率どころじゃない。
見回りの冒険者に町の周囲に異常がないか尋ねても盗賊団の影はない。盗賊の軍勢にも町の周囲にもいないとなると、遅れての別動隊での参戦が考えられた。正面の軍勢は囮か?こちらが疲弊したところを待っているのか?
「蛇殺しのドウィンドスよ!愛しの弟の姿が見えないようだがどうした!?高みの見物か?それとも臆病風に吹かれて何処かに隠れているのか!?」
それは牽制だった。既に見破っているから別動隊は意味をなさないと叫んだ。別動隊の対策はあらかじめ済んでいたおので、自分たちはそれを念頭に置いておくだけでよかった。
ここで初めて反応らしい反応を見せた。
遠視系のスキルを持つ冒険者がそれを見つけた。
「――――――」
「……ん?キヒルさん。あいつ何か喋ってますぜ」
「なに?聞き取れるか?」
「さすがにそれはちょっと」
「誰か!?遠視と読唇のスキルを持つ者はいないか!?」
首領の口が動いた。
読唇のスキルを持つ冒険者がそれを用いて読み解く。
「……………弟は、死んだ。弟は死んだのだ。可愛い俺様の弟が、なぜ?なぜ、死ななければならん。弟が何をした?…………ああ、そうか。そうなのか弟よ…………お前たちか。お前たちが弟の命を奪ったのだ。お前たち家畜が、俺たちに牙を剥いたから弟が死んだのだ!もはやそんなもの家畜とは呼べん!!害獣だ!俺たちに歯向かう者はすべて駆除する!!弟がお前たちの命を求めている!ならばお前たちの屍を弟への手向けとなれ!行くぞお前たち!奪え!犯せ!殺せ!そこにある命すべてを刈り取れええええええ!!」
弟の死。
理不尽な逆恨み。
狂気の境地に至って得た身勝手な凶宣。
嘆きは咆哮となり、ゼルーノを戦慄させた。
動き出す黒潮は津波がごとく押し寄せる。
「――っち!来るぞ!!」
◆
援軍到着までの時間を稼ぎたかったゼルーノ男爵だったが、キヒルの一言によって盗賊団首領のドウィンドスに火が付いてしまい、時間稼ぎはご破算となった。
「ヒャッハー!殺せぇ!犯せぇ!奪えぇ!」
ドウィンドスに着いた火はあっという間に全体に広がり、盗賊たちが攻め込んで来ようとしていた。
それを眺めているゼルーノ男爵ではなかった。
「弓を構えろ!――――放てぇぇ!!」
城壁の上から、城壁付近の建物の屋根の上から弓を携えた者たちから放たれた矢は宙で放物線を描いた。
凶器の雨が降りそそぎ城壁に近づく盗賊たちを次々と突き刺さっていった。倒れる者。その姿を見て逃げる者。逆に雄叫びを上げて城壁に取り付く者。盾――倒れた仲間を構えて近付く者。連携が取れているふうには見えない。
盗賊にも弓で反撃する者はいたが、地上と城壁で高低差がある為ある程度近づかなければ城壁の上の冒険者には届かない。そして届くころにはすでに冒険者の射程の中にいた。
「おいお前!弓持ってんならとっとと打てや!!」
「任せろ!!―――ぎゃっ!!」
弓を構えた盗賊の一人に矢が突き刺さった。
「………撃たせると思っているのか?」
弓を構えた冒険者が次の矢を番える。といってもすぐには撃たない。
作戦にはあらかじめ射る優先順位が決められていて、弓持ちと攻城に関わる物をもつ盗賊を優先して倒すように冒険者に指示があった。志願兵は城壁には登らず、城壁付近の建物の屋根から矢を撃っていた。
思うように攻められない様子をドウィンドスは静かに眺めていた。
仲間が次々と倒れていこうともその瞳に沸く感情はない。静かに凪いだままだ。それは周囲を侍る盗賊たちも同じだ。
「………」
「か、頭!!なにか指示を下せえ!俺の子分がみんなやられちまう!」
油なのか汗なのか、テカテカと全身が光った巨漢がドウィンドスに近づいてきた。今攻めている盗賊たちはすべてこの油の巨漢の指揮下にある者たちだった。
「そうか。ならば今以上に攻めろ」
「……………はぁ?何言ってやがんだ。攻めてっから反撃されて仲間が倒れてんだろうが!」
「……そうか」
「そうか、じゃねぇだろうが!!な、なぁ側近の兄さん方、アンタらからも頭に何か言ってくだせぇ。このままだといろいろと不味い状況になることは分かってんだろ?」
取り付く島もない様子のドウィンドスから周囲の側近に助けを求めた。よりドウィンドスに近い者の言葉ならドウィンドスも動くと思ったからだ。
「ボスは何と言った?」
「…………は?」
「ボスは何と言ったと聞いている」
「せ、攻めろとしか」
「ならば攻めろ」
「………アンタらもか。頭も、アンタらも、攻めろ攻めろって馬鹿の一つ覚えみたいに言いやがって!!それで死ぬのはおれの子分なんだぞ!死ぬために攻めてるようなもんじゃねぇか!!」
「ああ、死ね。弟もそう言っている」
「………………………は?今なんて」
「聞こえなかったのか?死んで来いと言ったのだ」
油の巨漢は固まった。ドウィンドスとその周りの側近の様子は冗談を言っているようには見えなかった。
「………な、んで?俺たち仲間だろ?」
「弟が言っていた。お前らは役立たずどころか俺たちの財を食い荒らす虫でしかないと。いや繭から糸を作れる虫もいたから虫以下だと言っていたか?」
油の巨漢が率いる盗賊たちは、元は別の盗賊団だった。三つ首の蛇狩りの名に惹かれて傘下に加わっただけに過ぎない。そしてその名のもとに自由と悪逆の限りを尽くしていたが、その行為がドウィンドスの弟が布いていた規則を破り続ける結果となり、散々注意しても変わらない彼らは盗賊団の中で邪魔で迷惑な存在になりつつあった。
「そんな弟がお前たちに機会を作っていた。役に立たない虫であろうと役に立つ機会を。それが今だ。さぁ死んで来い。そして弟の墓標となるのだ」
「ふざけるな!そんなの仲間でもなんでもねえぇ!奴隷以下じゃねえか!」
「そう言っている。弟もだ。理解できなかったか?」
「じょ、冗談じゃねぇ。だったらこの盗賊団を抜ける!子分たちも連れていく!……………あとはそうだな。他の盗賊にあったら行っといてやるぜ。三つ首の蛇狩り盗賊団は参謀の弟が死んでから腑抜けてもう駄目だってな。結局ご自慢の弟様がいなけりゃ脳筋の集まりでしかないだよ!あ、今後立て直すために脱団料としてアジトにある金品と女を貰って――」
――ブオオォン、と。重低音を鳴らす風が吹き去った。
そして風に扇がれて倒れるがごとく、油の巨漢の左腕がポトリと落ちた。
「………え、―――――――ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?腕が俺の腕がああああああああああああ!?」
腕を押さえて地面を転がりまわる油の巨漢。
そして油の巨漢の悲鳴を聞き駆けつけてくる元子分の盗賊たち。
「お、親分!?何があったんでさぁ!?」
「殺せえええええええええええええ!こいつが俺の腕を斬りやがった!全員で囲んで殺せええええええええええええええ!」
油の巨漢の子分たちは迷う素振りも見せずに武器を構えた。いくら三つ首の蛇狩り盗賊団の傘下に入ったからといっても彼らが信じているのはドウィンドスではなく親分と慕う男だった。そして規則のない盗賊稼業をしていた身としては規則のある三つ首の蛇狩り盗賊団は閉塞感がある息しづらいところで鬱憤が溜まっていた。脱団か乗っ取りか、ついに来るべき時が来た、とその笑みが語っていた。
「おお!ついに乗っ取りか?だったら俺たちも加勢するぜ!」
「俺たちもいくぞー!」
その様子を見ていた他の傘下の元・盗賊団がいくつかが参戦した。
三つ首の蛇狩り盗賊団はいくつもの盗賊団を傘下に加えている。盗賊団同士で争い、力の差を見せつけてから迎え入れる場合もあれば、油の巨漢のようにゴマをすりながら加わる場合もある。加勢したのはゴマすりながらも三つ首の蛇狩りの名の影で好き勝手しては罪を押し付ける――面従腹背の盗賊ばかりだった。
取り囲まれても一向に動きを見せないドウィンドスと少数の取り巻きの側近たち。
対して、数の上では圧倒的有利で、他の側近たちは布陣の各所で指揮を執っている為駆けつけて来れない孤立無援の状況に、その先にある未来に酔っている盗賊たちはその様子に不信感を覚えないでいた。観念したのだろう、と。
一斉に凶刃が振るわれた。
防御の姿勢すら取らない無防備のドウィンドスの至るところに突き立てられた。
ドウィンドスを殺した達成感から禍々しい笑いが湧き起こった。
だが、それは次第に小さくなっていき、止まった。
違和感がようやく追いついたのだ。
「弟の言うとおりだ。お前たちは愚か者だ」
声を発したのは凶刃に身を晒すドウィンドスだった。
その声に傷を負ったと思しき苦悶の色はない。
再び、死の風が吹いた。取り囲んでいた盗賊たちが真っ二つに切り裂かれた。
まるで雛が孵るように、肉の殻を破り噴出した大量の血霧が晴れたその先にいたのはロングソードを握った血塗れのドウィンドスであった。
しかしその肉体は無傷。すべて返り血だった。
「……ば、ばかな」
「――くっ!もう一度だ!たぶん魔術の類だろ!効果が切れるまで刻み続ければ―――ガグャ!」
油の巨漢及び他の元盗賊団を率いていた者たちの頭には飛来したマチェットが食い込んだ。
投げたのはドウィンドスの側近たちだ。
自分たちの頭が殺された。例え掲げる旗が違えども、慕っていた自分たちの頭が殺されたのだ。復讐心に扇がれてドウィンドスたちを睨みつけた。
だが、それも一瞬で消え去り、代わりに恐怖心に縛られた。
盗賊たちの目に映ったのはドウィンドスでなく、骸の玉座に座る鬼。その重圧の幻影だった。
「聞け。お前たちのかつての親は今死んだ。俺が殺した。恨みたければ恨むがいい。刃を突き立てたければそうすればいい。だが、無意味だ。お前たちでは俺たちにかすり傷一つ満足に付けられない」
一人の盗賊が悲鳴を上げて逃げ出した。それに釣られにように二人三人と逃げる動きを見せた。
しかし、先頭を走って逃げた男の頭にマチェットが飛来した。悲鳴を上がることなく倒れた。
その姿に逃げ出した盗賊たちが足を止めたところで、ドウィンドスが声を掛けた。
「逃げることは許さん。お前たちの頭は弟を侮辱した。そして、そいつらに組したお前たちも万死に値する。………だが、弟は言った。どんな死駒だろうと使い道はある、と。それが今だ。行け。そして門を開けてこい。だが逃げることは許さん。逃げようとすれば殺す。お前たちの代わりはいくらでもいる。お前たち助かる道は前進あるのみだ」
逃げられない。ここで邪魔だった俺たちを殺しにきた。
そう悟ったところで有無を言わせない威圧に圧されて、自暴自棄な叫びを上げながら門に向かって疾走していった。
それは本当に自棄だったのか、本当は一縷の望みに掛けて冒険者たちに助けを求めるつもりで投降したのか。
全員が倒れた今では、それすら分からない。
ゼルーノ攻防戦一日目。ゼルーノ側は軽傷者が多数いながらも死者は出さず。三つ首の蛇狩り盗賊団は多くの被害を出したが、主力と多くの手駒を残していた。




