2-12辺境の町ゼルーノ
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草刈りから数日、またしてもシンクローを取り巻く事情が変わった。
冒険者からの悪態が消えて、腫物に触れるような、むしろ触らぬ神に祟りなしといった感じに接触しようという気配が無くなり、恐れている印象があった。
草刈りでの戦闘はその力の一端を披露する形になり、ごく少数といえどその話は瞬く間に冒険者とその関係者に伝聞していった。馬鹿にしていた新人冒険者が実はキヒルと僅差の実力を持っていて、伝説の飛行魔法まで扱えるほど。さらに奴隷を大切に扱っており、馬鹿にするようならそれは龍の逆鱗に触れることと同義だと。その裏付けで、とある宿屋で玉級冒険者を複数相手取り、祖の宿屋ごと冒険者グループを壊滅させた。
自分たちの行動が首を絞めているのでなく、爆弾の上でダンスを踊っていたことにようやく気が付いたのだ。今は何も起きていないが――いや、もう起こした奴がいるが――、いつ眠る龍が起きて暴れだすか戦々恐々の日々を送ることになった。
この恩恵を受けているのは畏怖を集めるご主人の横にいるロゼだ。奴隷は主の持ち物。傷付けようならスクラップにされかねないと、道を譲られるほどまでに平和となった。
それともう一人。シンクローたちが宿泊している宿の主人だ。龍殺しご利益がありますようにと、シンクローが立ち去ったあとにその泊まっていた部屋を「龍の部屋」と名付けて集客させる腹積もりだ。ドラゴンスレイヤーが泊まったということは、王侯貴族が宿泊したと同じくらい箔が付くものらしい。
そんなこんなで、まわりの視線がなんとなく変わったくらいしか思っていないシンクローさんは今日も今日とて薬草採集に野を飛び山を掛けていた。
「そういえば摘むばかりでポーション作ったことないな」
「……今まで一っ飛びでの行き来でしたから、作る理由を見失っていたです……」
採集するばかりでポーションを作っていない彼らは、草刈りでの臨時収入で懐が潤っているうちに野宿準備を整えて山に籠ってポーション作りに励んでいた。いつまでも冒険者必須技能ができないのは今後に響く恐れがある。それに手作業のためゲームのようにそう簡単に作れる訳ではない。できたとしても体で覚えコツを得るために何度も生成しなければならない。それはキャンプの練習も兼ねているので、町には戻らずゼルーノを留守にするという意味でもあった。
◆
繁忙期というものがある。簡単に言ってしまえば仕事が忙しくなる期間だ。季節の境、流行の波、新たな試みなど、様々なきっかけと要因があって起こりえる。
それは地球だろうと異世界だろうと変わらない。
特に異世界では季節の変わりや気候の変動の波を受ける農業の最盛期に起こりやすい。作物が育てば収穫量が増える。それをくすねようと野生の動物が田畑を荒らす。そしてそれらから守るのが冒険者の仕事だ。それはゼルーノも変わらなく、むしろ農業地帯だからこそ他より忙しい。
「おらああ!そっち行ったぞ!」
「おう任せろ!」
事前に張った障害物で行先を誘導させ、少ない人数でも狩れるように追い込む。対処が間に合わなかった野獣を簡素な櫓から弓を携えた冒険者が撃ち取った。
「あ!向こうで柵を壊そうとしてる!」
「行けぇえ下っ端!今回だけパーティに入れてやったんだ!報酬分はしっかり働け!」
「は、はい!」
「柵を飛び越えたぞ!?」
「そいつは任せろ!」
目の良い弓持ちが櫓から全体を見渡して指揮を執る。
横に長い障害物の柵に対して櫓もそれに合わせて幾つも建っておりそれぞれを橋代わりの太いロープで繋いでいる。
今も柵を無理やり突破しようとする野獣を後方に待機させていた若い冒険者に任せて、ロープを渡って射程を近づけて弓で射た。
この光景がゼルーノのあちらこちらで見られている。毎年恒例の依頼だ。柵も櫓も以前から建てられていたものを修繕しながら使われている。
迫ってくる野獣は力強く危険ではないが、とにかく数が多い。
森には食べるものに困らないほどエサが豊富にある。森にすみ着いたヌシは基本的に休眠近い状態であり森の外に出てこない。動くとしたら怒りを買ったか、一年に一回の食事の時のみだ。そして大飯喰らいのヌシが残した森の恵みをクーセフォールヴなどの強くて大型の動物の方から順々に分け前として貰っていくわけだが、当然その時は貰えなかった動物がいる。そいつらが里に下りて田畑の作物を漁る。冒険者は相手にするのは弱く小型の野獣たちだ。
それでも怪我を負うのは例年のとこ。でなくとも冒険者に怪我は付き物。
普段からあの手この手で依頼の奪い合いしているゼルーノの冒険者もこの依頼に関しては大人しくなる。広大な農業地帯を守るに対して冒険者が少ない。数で劣るので質と足の回転力が問われる。実力と機転が必要になるこの依頼は、実力・ランク・報酬の三つが稼げるので冒険者たちは嬉しい悲鳴が上げている。
別のところで柵を突破した野獣がいると報告を受けて、弓持ちが速足で綱を渡り駆けつけるが、既に射程の外にいた。
「……っち。一匹逃したか」
舌打ちを打ったが、すぐに切り替える。
一匹程度が冒険者を突破したところで、控えている農民がいる。その中には狩人もいるのですぐにでも矢が飛んでいくだろう。
「………それにしても、今回は時期が少し早い」
ヌシが目覚めるのは作物が実った時期と被ることが多い。今回はまだ実りが青く収穫には早い。
「それになんだ?去年より数が多い気がする」
矢筒の中の矢の消費具合から弓持ちの冒険者はその考えに至った。この調子でいけば間違いなく矢が足りなくなる状況に陥る。そうすれば野獣は田畑を荒し冒険者は農民からの信用を損なう可能性がある。
「――っ!?しまった!!」
思考に偏り、また一匹逃してしまう。
悔やんでも仕方がないと、思考を切り替えようとして、ふとその逃した獣を目で追ってしまう。
弓持ち冒険者必須スキルといっても過言ではない『鷹の目』はその獣を捉えていた。残念ながら長距離射撃スキルがないその男にはそれを射抜くことはできない。
冒険者の守りを突破した野獣はそのまま田畑に駆け寄り、そして|目もくれずに真っ直ぐに走り去っていった《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
その光景を『鷹の目』で見ていた。
「………どういうことだ?」
遠くで多くの鳥が飛んでいた。大小種類様々で群れを成しているように、一方向を目指して飛んでいるように見えた。
「………いいや、群れなんかじゃない」
もしかしたら、という考えが弓持ちの脳裏に過ぎった。それはこのゼルーノにおいてあってはならないものだ。
「おいお前ら!獣を殺すのはやめてそのまま通せ!」
「はあぁぁぁあ!?何言ってやがる!そんなことしたら報酬が無くなるだろうが!」
「いいから通せ!!責任は俺が取ってやる!」
弓持ちに圧されて不承不承ながら素通りさせる地上の防衛組。
「…………頼む、喰らえ。ほら目の前に喰いもんがあるぞ」
そのつぶやきは本来言ってはならないものだ。しかし弓持ちはそれを願っている。それが叶えば自分の考えがバカで的外れだったと証明できるからだ。
しかし獣は過ぎ去っていくばかり。作物に手を出そうという獣は一頭もいなかった。
「…………ちくしょう!」
「おい、どういうことだ!?ちゃんと説明できるんだろうな!?」
櫓から降りた弓持ちを仲間が胸倉を乱暴につかみ問い詰めた。
今も十数匹の獣を素通りにさせている状況だ。これでこの冒険者パーティの評判は下がっていくだろう。……………普通ならば。
「…………こいつらは腹を空かした害獣じゃない。逃げているんだ」
「は?何から」
その時、遠くから中型魔獣が現れたという叫びが届いた。
「――んな!?なんで中型が?早く討伐しねぇと!」
「…………いいや、必要ないさ」
「…………おい。腑抜けたんなら早くそう言えや!!」
「違う!!そうじゃない!少し待ってろ!」
続々と現れたその中型魔獣は冒険者たちもくれずに走り去っていった。森であったら戦闘になる獣が一瞥もせず走り去った。その目には怯えの色があったことを弓持ちは見えていた。
「…………どういうことだ」
「言ったよな。逃げてるって」
「だから何から。なんで森から逃げる必要が………まさか」
どうやら仲間たちもその考えに至ったらしい。十を言わずに察してくれる誇らしくも頼もしい仲間だが、今は嬉しい気分に浸れない。
「ああそうだよ。これはいつもの『ヌシの大飯喰らい』じゃない。どっかのバカタレがヌシに喧嘩を売ったことで周りが逃げ惑っている『大移動』だ!俺たちも行くぞ!ギルドに知らせないと!」
◆
複数の冒険者から「これは大移動なのではないか」という報告を受けた冒険者ギルドのギルドマスターはすぐさま偵察と隠密に長けた冒険者たちに指名依頼を出した。同時に正式所属のキヒルにはいつでも動けるように指示を伝え、ゼルーノ全域に緊急と非難を告げる鳩を飛ばした。
送り出された冒険者は事態の深刻さを分かっており顔色が優れていない。森へは馬を使って一日で行ける距離で探索に時間を使っても往復で三、四日もあればゼルーノの町に帰還できるはずであった。しかし時間を過ぎても帰ってくることはなかった。
そのことをオドがギルドマスターに報告していた。
「………起こしてしまったのか」
「かもしれませんね。腹を空かせ弱っている今を狙い寝込みを襲ったのでしょう」
今起きていると思われるのはゼルーノの森の王を決める戦いだ。森に君臨するヌシとそれに挑む魔獣。森の一、二の強者が激突している。その余波で巻き込まれないようにと非難したのが今回の獣たちの大移動に繋がる。
ギルドマスターが危惧しているのは挑戦者が勝ち新たなヌシになってしまった場合だ。今のヌシは温厚で縄張りを侵さなければ人を襲わない。しかし新たなヌシが誕生した場合は人を襲わないという保証はない。最悪の場合、ゼルーノの町に籠城しつつ騎士衛兵冒険者問わず全兵力を投入して討伐しなければならなくなる。
「避難状況は?」
「近隣の村の住民は避難済み。遠い所や森に近いところはまだです。森と反対に位置している村は警告だけだったので避難していません。万が一ヌシが飛び出してきても鳩を飛ばせば逃げ切れるでしょう」
「町の動きと冒険者たちは?」
「衛兵たちが壁の補強を急いでいます。冒険者たちも有事に備えています。騎士の皆様なんですが………」
「それは言わなくていい」
「…………はい」
騎士は仕える主人の剣であり盾であり、領主と領民の間を受け持つ行政代行者でもある。イメージ的には警察と政治家を足して二で割った存在だ。彼らは貴族の三男以下で構成されており、は平民に堕ちたくないと駄々をこねたのをきっかけに生まれた名と形だけの名誉称号だ。しかし実際に功績次第では国王から爵位が与えられる。しかし爵位を得ようとやる気を見せているのは中央近辺や戦火が絶えない地域の騎士のみで、平和と辺境に近いほど功績を上げるのは難しいのでぐうたらしている。
ゼルーノの騎士もそれにもれず、緊急事態にも関わらず下部組織である衛兵隊に任せっきりであった。プライドと声は無駄に高いが、実は逃げ出す準備をコッソリとしていることを領主も冒険者も領民すら知っていた。頼りになるのはやはり衛兵と冒険者だった。
ゼルーノの町は物々しい雰囲気に包まれていた。
町を囲う壁は木材を重ねて分厚くなり、防壁の上には人よりも大きなボウガン――弩砲・バリスタが設置された。数に限りがありさすがに全方位に配備できないので、森のある方面に集中している。街中には二機の投石器が大通りに置かれている。バリスタで足止めしつつ投石器で大ダメージを負わす作戦だ。
領主の指示のもと、ほとんどの住民は後方へ避難させた。また領主に住民の保護と騎士団の応援を求める書状も出していた。冒険者ギルドを通じて冒険者も派遣されてくるようにも手配が済んでいた。
今、町に残っているのは騎士、衛兵、冒険者だ。衛兵は見張りに勤めて、冒険者はバリスタと投石器の矢弾の調達に勤しんでいた。騎士は察してくれ。
そこに一人の血塗れの男が辿り着いた。指名依頼されて偵察に出ていた冒険者のうちの一人だ。顔は殴られ腫れており原型を崩していた。鼻と耳は削がれていた。両腕もなく、止血が代わりに短い腕には紐がきつく結ばれていた。腹にも切れ込みが入っていて少しだけ内臓が飛び出していた。背中にはいくつもの矢が刺さっていた。
明らかに、魔獣類の仕業ではない。
「な、なにがあった!?」
「………………く、来る………」
詰め寄った衛兵に瀕死の冒険者が伝える。身体に力が入っておらず倒れたところを衛兵が支えた。既に生気が感じられないほど冷たく衰弱していた。
「……………ヌシの……闘争じゃ……なかった……みんな……殺された…………首に……剣が刺さった………三又の蛇の旗………三つ首の蛇狩り盗賊団……の……仕業…だった……」
文字通り死力を尽くして伝えた冒険者は息を引き取った。
この命がけの報告はすぐさま領主ゼルーノ男爵と冒険者ギルドマスターに伝えられ、主要な人物が集まって会議が行われた。
決めるのは、戦うか、逃げるか。
レベルと呼ばれているものが存在している。それは人々の間で『強さを表しているもの』として常識にあるが、あてになっていない。極端な例でレベル100とレベル1のレベル差九九では勝負にならないが、このレベルが十と二十だった場合、二倍差のレベル二十が勝つとは限らないのだ。二十が普通に勝つときもあれば十が勝つときもある。だから、あてにならないとされている。
このレベルはどこでどういう仕組みで上がるのかも未だ解明できていない。それどころか下がることだってある。魔獣を倒した時に上がる。人を殺した時に上がる。足に不自由な子供が立つだけでも上がる。
方や魔獣を討つ冒険者。方や悪逆の限りを尽くす盗賊。
レベルなんて判断材料にならないもので、いまだ不明瞭な人数差や戦力の差など不確定要素で臆しているわけではなかった。
三つ首の蛇狩り盗賊団には、一つの噂が付きまとっていた。
ヒュドラを倒した、という噂。
ドラゴンよりも劣るが、それでも地上最強の部類に属するその魔獣。倒したとなれば当然称号と加護は手に入れているはずだ。そうでなければ他国から騎士団が返り討ちされ全滅したなどと噂が流れてこないはずがない。
ヒュドラ以上の強さを持つ盗賊団。実際にその実力を知らないからこそ、恐怖が浮き彫りとなり怖気を震わせていた。
土地や家財を捨てて逃げるか、命を懸けて戦うか。ゼルーノの人口は主に農民と商人が多く占める。ここ以上に肥沃な大地と安定した利益を生み出す場所はないが、すべては命あっての物種。
議論が過熱する中、ゼルーノ男爵は口を堅く閉じていた。それは迂闊な発言は控えていたからだ。彼が守るのは領地の前に、まず領民なのだ。この地の生まれではない彼が領主に就任されてから大きな改革をしていない。せいぜい防衛設備と常駐医と冒険者ギルドを充実させることくらいだった。ゼルーノは現時点でも充分な収益を得られていたから、それを守るために心血を注いでいた。冒険者に明け暮れていた彼にとってこの地の穏やかな時間は宝石のように輝いていた。血塗れの日々にふと大地を見れば汚れていない一凛の花が咲いていたように尊いものだった。それを守りたいと主張する冒険者の顔と、無理だと否定する領主の顔が鬩ぎ合っていた。
ゼルーノの武力は殆どが冒険者頼みだからだ。衛兵は農民からの募集から出来上がっている。畑仕事で腕っぷしがあっても、害獣被害を冒険者に任せているので対人戦に対する心構えや度胸などの意識が低い。既に逃げ腰の騎士は役に立たない。平和な大地が逆に仇となっていた。
白熱する議論。消費する時間はかえって背筋が冷やしつつあった。
血も凍る闇が濃くなろうとも、しかし、希望の光は確かに輝いた。
「………皆、落ち着いてほしい」
立ち上がったのは、ゼルーノの希望、最後の砦、ゼルーノ最強冒険者キヒルだった。
「現状を確認しよう。ここに迫ってきているのは盗賊団三つ首の蛇狩り。他国でもその名を轟かせているヒュドラ殺しの狂人者たち。そうだな?」
「その通りだ」
答えたのはゼルーノ男爵だった。混乱を防ぐため口を開きたそうな他の物を視線で牽制した。
「それをきちんと確認した者は誰かいるか?」
「ここに命をかけて伝えに帰ってきた冒険者がそうだが」
「そう、勇敢だった彼しかいなかった。ここにいる全員が本当に三つ首の蛇狩りが迫ってきていると信じている」
「………なにが言いたい?」
「もし、その情報が誤りだったなら」
「ばかな」
「そう、そんな馬鹿な話を信じられない。だが、命の瀬戸際で伝えた言葉がどうして信じられる?」
「キヒル。死者をあまり悪く言うものじゃない」
「私だって彼を尊敬しているし、馬鹿にはしていない。だが正しい情報を伝えてきても、元の情報まで正しいとは限らないのではないか」
「………欺瞞情報か」
「そうだ。三つ首の蛇の名を騙る別の盗賊だと、俺は考えている」
「根拠はあるのか?」
「ない。が、最後に目撃された場所からゼルーノまでの間にどれだけの国や町や村があるか。略奪の為とはいえ、それがピンポイントにこのゼルーノに来るか?それの方が信じられない」
「………ふむ」
悪名轟く三つ首の蛇狩り盗賊団のネームバリューはその脅威度から最悪の事態を想像させていた。それゆえにそれ以外の考えを無くさせていた。楽観視もできないが深刻になりすぎても真実が曇ってしまう。人間は信じたいことを信じてしまいがちで、今回の場合は信じがたいことを信じてしまっただけだ。
「冷静な目を持っているようだな、キヒル。そんな君に意見を求めたい」
「………戦うべきだ」
一瞬空気がざわついた。再び静寂が戻り、領主ゼルーノ男爵が問いかける。
「理由を聞こう」
「領主様、あなたがかつてはそうだったように。私は冒険者だ」
キヒルは議論に集まった一人一人の目線を合わせるように見渡した。
「冒険者は救いなき人々に手を差し伸ばすために存在している。その始まりは苦境に悲しむ世界を憂い何とかしようと剣を取った若者が由来とされている。その若者は歴史に勇者と呼ばれ今も刻み込まれている」
かつて世界を脅かした魔王が現れた。国を救う英雄でも勝てなかった魔王に単身で挑み討ち勝った。誰もが知っている物語は、その名残として魔物の脅威度に「英雄級」の次に「勇者級」がある。
「そして今、助けを求める声が聞こえる。救いを求める声を無視することは冒険者の沽券にかかわる。なによりも私のプライドが許せない!私は逃げるために冒険者になったのではない!」
語りかけるように言の葉を紡ぐ。
「皆だって守りたいから戦うのだろう。守りたいから逃げるのだろう。その声に応えるために私たち冒険者がいる、そうだろう?」
最期の問いかけはこの場にいる者に向けてのものじゃなかった。
扉が開かれた。そこにいたのはこの会合に参加できなかった冒険者たちだ。何も言わない。でもその目は闘志に燃えていた。
「さて、冒険者諸君。相手は悪名轟く三つ首の蛇狩り盗賊団だ。もしかしたら命を落とすかもしれない……………それでも、英雄になる覚悟はあるかい?」
言葉は返ってこない。目が語っていた。
それを確認したキヒルは黄金の剣を引き抜き掲げた。
「俺たちの力で、このゼルーノを守るぞ!!!」
「「「おおおおおおぉぉぉおおおおお!!!」」」
彼が上げた気炎は熱となり拡がり、周りの人々の冷めた心と体を温めた。それだけではない、伝播した熱は種火となり心を燃やし始めた。
目に力と光が戻った。もはや、彼らの中に怖気づくものはない。
ゼルーノの町は迎撃を選択した。
そして、数時間後ゼルーノの大地が黒色に侵された。




