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【コミカライズ第2巻6/27発売】ルベウスの魔女とアルスマグナ 〜乙女ゲームのアンチヒロインは世界の滅亡を回避したい〜  作者: 阪 みれい
第4章 ルベライト公女の求婚

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【特別短編(※時節)】ときめくオシゴト

 工房での仕事を終えてホテル・サフィレットに戻り、昇降機を使ってコンドミニアムに帰宅すると、家令がノヴァを出迎える。

「おかえりなさいませ、若様」

 フランツはいつも通りの無駄のない所作で軽く頭を下げた。

「あぁ」

 簡潔にこたえて家族の居間に入ると、アウロラの気配がない。そこから彼女の居間や居室に目を向けると扉が開け放たれており、不在であることを知る。

 ついでに言えば、彼女付きの家令やメイドたちの姿も見えない。そのためか、コンドミニアムはいつもより静かけさが漂っていた。

 アウロラの不在を不思議に思ってフランツに顔を向ける。

「アウロラは出かけてるのか?」

 外出の予定は耳にしていないが。

 彼の問いかけにフランツは一拍置いて返事をする。

「いえ、お嬢様はホテル内にはいらっしゃいますが」

 引っかかる言い方だ。

「……が、なんだ?」

「本日は特別な催し物がございまして、ホストとしてそちらで接待を」

「……は?接待?」

 催し物?ホスト?……一体何のことだ。

 ノヴァは怪訝に眉を寄せる。

「何の催しなんだ?」

「各界の令夫人やご令嬢たちを集めたティーパーティーでございます」

 やはり初耳だ。

「そんな話は聞いてないぞ」

「そうでございましょうね」

 フランツは涼しい顔で頷いた。

「いつから決まってたんだ」

「正式には先月でございます」

 家令はしれっと言い放つ。

「さてはお前、以前から知ってたな」

「…………」

 フランツは答えない。

 ノヴァの眉間の皺が深くなる。

 ……これは、俺だけが知らされたてなかった類の話じゃないか……?

 アウロラが俺に黙っていたということは、知られたくない内容だったからだ(大いにありえる)。

「どんな趣旨の集まりなんだか……」

 妙に嫌な予感がしてノヴァは改めてフランツを見る。

「どこでやってる?」

「3階の小広間でございます」

「わかった。ちょっと見て来る」

 おそらくアウロラに口止めされていたであろうフランツをこのまま問い詰めていても時間の無駄だと判断して、ノヴァは踵を返した。

 コンドミニアムの裏玄関から階段を用いて3階まで降りる。裏方で働く調理部門や宴会部門のホテリエたちの間を通り表に出ると、小広間の入り口に近づく。

 ……と、扉の前には可憐な花と大ぶりなリボンで編まれたアーチが配置され、周辺も華やかな花材が活けられた花瓶が飾られている。とにかく『可愛い』の洪水だ。

 全面に押し出された乙女的な装飾にノヴァは一瞬怯む(普段からアウロラのドレス等で女性的なものに慣れ親しんでいるはずの彼が)。

 扉は開かれているため恐る恐る近づき広間の様子をうかがうと、中の装飾は色調が変化しているものの様式は似たようなもので、ゲストも年齢を問わず着飾った女性で溢れかえっていた。

「……これは一体……」

 つぶやいた先で目に入ったウェルカムボードの美しいカリグラフィーに目を疑う。

『ローレンスを囲む会へようこそ』と。

「………………は?」

 ローレンス?ローレンスを囲む?

 ウィスタリアのいとこで、サイファーの一員、将来はホテル・サフィレットの支配人候補で、アウロラの家令……()()()()()()()()なのか????(他に思い当たらない)

 確認のため再度広間を覗いて件の青年を探すと、執事服ではなく以前のホテリエ姿で女性陣に愛想を振り撒いている彼を見つける。しかも、ローレンスのそばでアウロラまでもにこやかに女性たちに接し、彼女のメイドたちもゲストへの給餌に勤しんでいるではないか。

 そこで一体何をしてるんだ、アウロラ。

 ノヴァの念のこもった凝視に気づいたのか、アウロラはハッとした様子で彼と視線を合わせた。わずかに気まずい笑みを浮かべた彼女は、周囲を気にしながらも広間から出て来てノヴァと向き合う。

「……さすがに気づかれちゃうわよね」

 メイド服を模したドレス姿のアウロラはノヴァの前で微苦笑する。

「何なんだ、この会は」

 ウェルカムボードを指差す。

 事前に情報を聞かされていなかった問題より、この集まりの不可解さをまずは解決したかった。

「あー、えっとね。話すと長くなるんだけど……」

「今は簡潔に頼む」

「え?ええ。あのね、実はローリーにはファンが多いの。ホテルを利用する際に、彼を指名してくださっていた皆様も多かったのよ」

「ああ、このホテルは執事制度があるからな」

 ハイクラスホテルの名に恥じず、上位客室を利用する場合に限り滞在中、執事を指名できるようになっている。日頃、ノヴァやアウロラの近くに仕えているホテリエは皆その資格を有している者ばかりだ。

 ローレンスの指名が婦人たちに偏っていたことはノヴァも把握していた。

「それが、わたしが彼を家令にしてしまったことから、ホテル業務とは距離を置いてしまったでしょう?残念がる方々が多かったみたいなの。なんだか、皆様から彼を取り上げてしまったようで、とても申し訳ない気持ちになってしまって……」

「……アウロラが気に病むことじゃないだろ。元々全員、ルベウスの……アウロラの下僕なんだ」

「言い方!わたしは皆さんをそんなふうに思ってないわ。もちろん、あなたのこともね」

「……わかってる」

 微笑まれてノヴァは小さく息をついた。

「皆様からしたら、ローリーは推しなの」

「お、推し?」

「ええ、アイドルよ!」

「あいどる……?」

 ってなんだ?

 首をひねる彼をよそにアウロラは続ける。

「推しの不在は生きる糧を失ってしまったようなものよ。心に穴が空いてしまうわ。だから、皆様がローリーと交流できる機会を作れないかと思いついたの」

 幸い(?)ローレンスも好意的にこの思いつきを受け止めてくれたため、アウロラは支配人のヴィクターや他のホテリエたちの協力を取り付け企画は始動、前代未聞の『ローレンスを囲む会』を実現させた。

「思ってた以上に参加のご予約をいただいて、わたしもびっくり。ローリーの人気って凄かったのね」

 会場を振り返ってアウロラは驚く。嬉しい悲鳴とはまさにこのこと。

 ローレンスが執事服ではなく、ホテリエの制服姿なのは、『みんなのローレンス』を演出するためだ。

 本当ならば、推しのそばに異性の存在がちらつくのは由々しきことであるからして、アウロラは黒子に徹し、顔出ししない方向で考えていたのだが、推しが仕える主人とも話がしてみたいという要望が多々あり、控えめな(?)メイド風ドレスをまとって同席する運びになった。

「それで?どうして俺に黙ってたんだ」

 本来の問題を問いかけると、アウロラは軽く唇を尖らせた。

「だって、あなたに話したら反対するでしょう?」

「……まあ、否定はしない」

「ほら!……それにこういうのは、勢いでやったもの勝ちだってローリーも言ってたから」

「…………あいつ……」

 アウロラに碌なこと教えないな……!

 女性たちに愛想を振り撒く美形の男を忌々しく見やる。

「それにね、ノヴァ。わたし気づいてしまったの」

「?……何を?」

 アウロラはぐっとノヴァに顔を近づけ小声で告げる。

「儲かってしまうの、この催しもの。定期的に開催すれば、ホテルの利益に繋がるわ!」

 確実に。

「…………」

 瞳を輝かせて述べる内容ではない。

 ノヴァは息をつく。

「アウロラはホテルの利益なんて考えなくていいんだよ」

 富を享受する側で、利潤を生み出す側ではない。

 彼女は深窓育ちで、金銭の授受もまともにしたことがなく、今も買い物はウィスタリアに持たされている為替手帳に書き込むだけの、貴族に近い暮らしをしている。金銭には疎い環境で育ちながらも、何故か昔から積極的に商業主義に走ろうとする姿勢が不思議でならない。

(そもそも、彼女が持たされている為替手帳は家族が渡したものではなく、ウィスタリア個人が与えたものだという事実が気に入らない。近々、ノヴァの口座から引き落とされるように手帳をすり替えてやろうと思っている)

「ホテルの利益だけじゃなくて、わたしも自分でお仕事をして、お小遣いが欲しいと思っていたの。そうしたらローリーがヴィクターに交渉してくれて、3%のマージンをくれるっていうから、張り切ってしまったわ」

「……はぁ?マージン?……小遣いを渡す側が違うだろ」

 主従の関係が逆転しているではないか。

「いいえ、これは正式なお仕事だから、ホテルからお給料としていただくのよ!」

「だからって……!」

 互いにムキになって言い合いが始まるかと思われた時、ローレンスが颯爽と割って入る。

「おふたりとも、それくらいになさってくださいませんこと?お客様の注目を浴びていましてよ」

「え?」

 ふたりで広間に目を向けると、令夫人や令嬢たちが興味津々の眼差しで扇子越しにこちらを伺っていた。小声なので会話の内容までは聞こえていないはずだが、気まずさでこそこそと廊下の隅に寄る。

「私がメインホストのパーティーですのに、おふたりが目立ってしまっては意味がございませんわね」

 やれやれとばかりにローレンスは軽く肩をすくめた。

「誰の所為だと思ってるんだ」

 この諸悪の根源め!とばかりにノヴァはローレンスを睨んだが、すいっと視線をかわされる。

「ノヴァ、怒らないで?このローレンスを囲む会の企画はわたしが発案しているのだから」

「プリンセス、若様は怒っているわけでございません。せっかく早めに帰宅したというのに、プリンセスに構ってもらえなくて拗ねているだけですわ」

「……なっ……!」

 思わぬ切り返しにノヴァは言葉を失う。

 こいつ、俺を黙らせるために話の矛先を捻じ曲げやがったな……!(しかも俺が恥ずかしい方向に!)

 ローレンスの言葉を素直に受け取ったアウロラは眉を寄せる。

「まあ、そうだったのね!わたしったら……ごめんなさいノヴァ。あなたを蔑ろになんてしないわ。皆様をお見送りしたら、お茶にしましょう?今度はあなたをおもてなしするから、ね?」

 子供をあやすように微笑まれて、ノヴァは口をぱくぱくさせる。

 そうじゃない!

「ところでプリンセス、皆様があなたとお話ししたがっていてよ?ホストが長く離席するのはいただけませんわね」

「ええ、そうね!広間に戻るわ!……じゃあノヴァ、あとでね!」

 手を振りながら、軽やかな足取りでアウロラは広間に戻って行く。

「…………お前、どうしてアウロラを止めなかった?」

 この場からアウロラがいなくなったことで、ノヴァはローレンスを厳しい口調で問い詰める。

 ローレンスは姿勢を正して口を開く。

「今回のことは、私が諌める立場にはないと判断いたしました。お嬢様が私のお客様を慮ってのこと。また当主ウィスタリアや支配人ヴィクターの許諾もあり……。であるならば、私はお嬢様の犬として最大限に己を使い、お嬢様のご希望を叶えるのが職務でございます」

「…………尤もらしい説明(いいわけ)だな」

 ヴィクターばかりかウィスタリアまでもが承諾したというなら、フラテルとはいえどもノヴァも口出しする立場にはないのかもしれない。だが、一言くらいあってもよかったのではないか?ひとりだけ除け者にされた気分だ。

 彼の不満を察してローレンスは言う。

「若様が協力的であれば、お嬢様はすんなり打ち明けて相談して下さいました。ですが現実は異なりますでしょう?」

 ローレンスは瞳を細めてノヴァを見下ろした。

「お前の謎の会のことはともかく……俺は、金が綺麗なものだとは思ってない。だから、アウロラには金勘定なんかして欲しくないんだ」

「とはいえ、お嬢様は労働とその対価にご興味のあるご様子」

「必要ない立場だ」

「ええ、それでも作られた安寧に囲い込むだけでは、お嬢様は自ら成長の機会を失うことになります。あらゆる自由、経験が許されるのは、魔法学校に在籍しているわずかな期間なのですから。いずれお嬢様が至る宮廷がいかなる場所か、解さぬ若様ではございますまい」

 アークメイジ、筆頭宮廷魔術師、王佐……これらの輝かしい肩書きと引き換えに、アウロラは純粋さ、無垢さ、そして自由を失う。

 宮廷という華やかな伏魔殿は、安寧秩序を欠いた権謀術数の醜悪な世界だ。

 金勘定くらい、可愛いものだとローレンスは言いたいのだろう。

「…………」

 まったくその通りで、ノヴァは黙るしかない。

 道理に合わねば諌め、同時に希望を叶えながら学ばせることをローレンスは可能にしている。大人なのだ。

 反対に、自分がまだまだ子供の思考で彼女と接していることに気付かされ、複雑な心境になる。経験値の差は如何ともし難い。

「もちろん、お嬢様の要望を全て受容せよということではございません。見極めよ、ということでございます。……とはいえ、犬ごときが分をわきまえぬ諫言……ご容赦くださいませ」

 ローレンスは頭を下げた。

「いや、いい」

 ノヴァは嘆息する。

 ……見極めよ、か。

「…………わかった。今度からはきちんと俺にも説明するように諭すし、頭から反対もしない」

「それがよろしいかと」

「それから気になったんだが」

「?」

「利益が出てるなら、アウロラへのマージンは10%にしろ。3%は不当だ」

 不満気に告げて、ノヴァはローレンスの傍から立ち去った。

「あらあら。存外、立派なマネージャーですこと」

 一寸虚をつかれたローレンスだったが、ニヤリと笑い、彼を待つファンたちの元へかえった。




 了

(今回は後書きが長めです。興味がございます方だけどうぞ)


連載の流れぶったぎりで申し訳なく(汗)。

バレンタイン企画ということになっていますが、まったく内容がバレンタインではないっていう(短編アップのための名目だから。笑)。

最初から完璧であるわけもなくて、周囲の大人たちに育てられていく彼らです。。。

なんだかんだで、アウロラさんのためにマージンをもぎ取っていくスタイルのノヴァさんです。笑


アウロラさんのメイド風ドレスですが、マーガレット&ローズの意見を取り入れてキャイキャイ言いながら楽しくデザインされたものだと思います。メイドとして動くには不合理で無駄な装飾がたくさんついてると思いますが(きゃわいいだろうな〜〜!見たい〜〜!笑)。

普段は頼んでもないのに次々ドレスを発注しちゃう人が身近にいるせいで(笑)、彼女自身はあまりドレスを作る機会がなさそうだから……久々に頼んだのかもしれないですね(汗)。


で。推しを囲む会っていうのは、つまりファンミ。

今回はお試しの企画という感じで、まずは中産階級の令夫人&令嬢たちが集まっていたと思います。推しへの課金が惜しみないんですよ、きっと(だって新興資本家勢力だもん。笑)。

推しと推しが仕えるお嬢様というセットで拝める(しかも会話までできちゃう)ファンミとあっては、行かないわけにはいかないでしょう。ええ、行かないわけにはいきませんよ(笑)。

イケメン、イケオジだらけなので、それぞれお客さんの推しホテリエも違うんだろうなと思います。ホテルにおける商売の新しい可能性が見えましたね(何が。笑)。


わたしのお話には、仕事が密接に関わってます。霞食って生きてられませんからね(遠い目)。

こういう令嬢系小説関係って、基本何してんのかわからない男性陣多いと思うんですけど(言っちゃだめ。笑)。

作中の為替手帳は、小切手帳のことを意味してます。小切手使えるような場所でしかお買い物できないようにしてあります(信用商売が通用する場所)。現金使うような買い物は使用人にお願いします。


先月。ホテル・サフィレットとサイファーの設定資料を同人系イベントで出す予定で冊子を作っていたのですが、わたしが高熱を出したり風邪の症状が長引いたりと体調がすぐれなかったためイベント参加を取りやめることになり、冊子を世に出すことができませんでした(涙)。

コンドミニアムの間取り図とか、そういうのも載せてあるんですけども……残念。。。

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