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【コミカライズ第2巻6/27発売】ルベウスの魔女とアルスマグナ 〜乙女ゲームのアンチヒロインは世界の滅亡を回避したい〜  作者: 阪 美黎
第4章 ルベライト公女の求婚

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公女クラウディア・ルベライト(1)

 朝日の差し込む広い居室。

 部屋の主人であるクラウディアは無言でロカイユ様式を取り入れた豪奢な鏡と向き合っていた。

 光を放つ豊かな銀の髪、白磁の肌、珊瑚の唇に、赤い瞳。神々の寵に満ちた、美しいこの容姿。

 支度を終えて整えられた自身の姿は、ここエーデルシュタイン城の華と誰もが持て囃す完璧さだ。

 ドレスを飾るのは濁りなき大粒のルベライトの襟飾り(ブローチ)

 代々ルベライトの公女が受け継いできた身の証。

 誕生した瞬間から、彼女は選ばれし者として陰りなき自信に満ちた日々を送れるはずであった。……ただひとつの不遇を除いては。

 鏡越しにブローチを見つめる。

 このブローチはわたくしのプライドであると同時に、重い楔。足枷と同じ。

 彼女は侍女たちに悟られぬよう小さく息を漏らす。

 クラウディアは15歳になった。……なってしまった。

 そろそろ婚約者を正式に定める年頃だ。

 彼女には兄が在るが、ルベライト公国の実質的統治権はクラウディアが担っている。後継者の彼女には次代のルベライト公女を生み出すという逃れられぬ定めがあった。

 お母様は早々にわたくしを産んで、役目を果たしたと好き放題。

『あなたもわたくしのように早く子供を産んで、娘に役目を押し付けてしまいなさいな。……ああ、その()()()()()()()()()を近づけないでちょうだい。わたくし、本当にそれが大嫌いだったの』

 立場を象徴するブローチと役目を押し付けた当の娘を前に、よく似た容貌の母は少女の思考のまま無責任に言い放ち、顔をしかめた。

 魔女の家系であること疎み、王侯であること望んだ母。

 責務を放棄することばかり考え、クラウディアを思いやる気持ちのない母にはもう何も期待していない。

 ルベウス、ガーネットと並び立つ太古の赤き魔女のひとり、ルベライトの名はクラウディアの肩に重くのしかかる。

 かつての大戦において、この国と民を戦火と混乱から守った女帝の末裔。

 その面影は、もはやこの瞳にしか残されていない。

 わたくしはお母様のようにはならない。必ず、取り戻してみせる。

 偉大なる魔女、ルベライトの矜持を。



 ※



 ノヴァは深刻な決断を迫られていた。

 腕を組み、ロイヤルブルーの瞳はせわしなく左右する。

 彼の前にはドレスが2着。

 透け感のあるシフォン生地をたっぷりと使用したペールブルーの大人びたフリルドレスと、高級レースとリボンで飾られたジャガード織のオールドローズのクラシカルなドレス……。

 デザインと質感の差で印象やシルエットも大きく異なり、彼に深い迷いをもたらす。

「……右か…、いや左も捨てがたい……」

 どちらも、アウロラをより引き立てる麗しいドレスだ。

 評判のよいドレスショップに入店するなり、厳しい眼差しでドレスを吟味し、ここまでなんとかこの2着に候補を削ぎ落としたのが、最後の選択に踏み切れない。

 いつもの彼であれば当然のごとく双方を手に入れるのだが、今回はそういうわけにもいかない。

 考えあぐねた末、背後で静かに事の成り行きを見守る家令を振り返る。

「……フランツ、どちらがいいと思う?」

 アウロラのドレス選びに関して、平時であれば家令に意見など求めないノヴァであるが、それだけ心理的に追い詰められているのだ。

 家令は顔色を変えることなく告げる。

「どちらもお嬢様によくお似合いになりますかと」

「!…そうだろう?……うん、そうなんだよ」

 家令の同意に気を良くしたノヴァは笑みを浮かべてウンウンと頷いた。

「若様がお気に召したのでしたら、双方お買い求めればよろしいのではありませんか」

「……それができれば苦労しない……」

 ここで一転、ノヴァの表情は曇る。

 外商の旅の終点であるルベライト公国に入ったのは数日前。

 ルベライト公国に至るまでに各国各地で貴族や富豪からの公の注文を取り付けつつ、それとは別にノヴァは各地のモード商とも積極的に交流を持った。若年層向けに展開しているアクセサリー事業で取引をしているアダマントのモード商たちから、信頼できる他国のモード商をあらかじめ紹介してもらっていたのだ。

 高級宝飾(ジュエリー)というものは王侯貴族や富豪といった特権階級のもの。一般階級でも宝飾の類は成人向けに作られている。業界の常識として、若年層のための装身具(アクセサリー)など、商売として成り立つものではないと考えられていた。

 が、アウロラの発案(おねがい)から業界の常識を打ち破り、サフィルスは若年層に向けた商品作りに着手した。結果、大衆の少女たちに歓迎され、思わぬ富を生み出した。市場で一定の成功を納めたことで自信を持ち、他国への事業拡大を視野に入れてサフィルスは動き出した。

 年若くともノヴァはこの仕事の先駆者。さらには責任者であり、尖兵だ。

 モード商は流行を作り出すことも仕事の内。特に若いモード商は興味深くノヴァの話に耳を傾けてくれた。

 流行を流布させるは年若い娘たちだということを彼らは熟知している。大衆少女向けの商品とあらば、彼らも安易に無視はできない。

 想定以上にモード商への営業活動は手応えがあり、契約を取り付けるに至った案件もあった。この旅での成果を持ち帰ることが出来そうで、ノヴァ自身も安堵した。

 そして仕事の合間に目星をつけていたドレスショップや、懇意になった現地のモード商から推薦された店舗を意気揚々と巡った。アダマントでは見られないデザインや生地、レースやリボンに彩られた各国のドレスショップで湧き上がる欲望を抑えきれず彼はもうすでに5着を発注している(もちろん、それらに相応しい帽子や靴も)。

 確かな審美眼故に注文こそ細かいが、その分、金払いの良い彼にどの店も好印象、好対応であった。

『言っておくけれど、ドレスはダメよ。もちろん帽子や靴もね』

 ノヴァに釘を刺したアウロラの言葉が蘇っては彼を悩ませ、泣く泣く諦めたドレスも何着あったことか……。

 クローゼットが弾けてしまうわ!と軽く頬を膨らませていたアウロラの表情を思い出すと遣る瀬無い気持ちになる。

「すでに俺は宣言した5着という努力義務をすっかり消化してしまっているからな……これ以上持ち帰るドレスを増やせばアウロラに何を言われるか……。やっぱり上限は10着にしてもらえばよかった」

 いつから俺はこんなに煮え切らない男になってしまったんだ……と眉間にしわ寄せ嘆く主人に家令は案を上申する。

「若様、カントリーハウスには長く使用されていないお部屋がいくつかございます。帰国後、お嬢様の衣装部屋へ改装するご提案をアレクシア様とオルキス様になされてはいかがでしょう。さすれば、お嬢様も今後クローゼットのご心配をすることもございますまい」

 彼女専用の衣装部屋を作れば、ノヴァは気兼ねなくドレスを購入することができる。そしてアウロラは衣装が増える。

 なんと!いい事尽くめではないか!

「それだ!よくわかってるじゃないか、フランツ」

 我が意を得たり、とばかりにノヴァは家令の上申案を採用する。

 アークメイジも義父上も反対はしないだろう(アウロラは……説得する方向で)。

「恐れ入ります」

 フランツは涼しい顔で黙礼した。

 これでアウロラ付きのメイドたちもクローゼットとの戦いを収束させ、ドレスの管理が容易になることだろう。

 ちなみにアウロラの衣装部屋について、ローレンスに相談を持ちかけられていたため、フランツは上申のタイミングをはかっていたところだった。

 希望の明光が見えたノヴァは、しがらみから解放され、輝く美少年の微笑みで告げるのだ。

「2着とも注文させてもらう。ああ、もちろん帽子や靴も……!」

 と、溌剌と心を躍らせて。



 清々しい気持ちで散財を済ませ、ノヴァは宿舎としているホテルに戻り、ウィスタリアや同行している職人たちと食事をすませると、当てられた自室に篭ってモード商たちと交わした契約書を横目に、彼らから提案された商品開発のためのデザイン案起こしに集中した。

 ルベライト公国の首都、クライノート。

 クライノートとは古い言葉で宝玉を意味する。かつて世界中の宝石がここに集い、売買されていた名残だ。今でも宝石商や宝飾業者が多く集い、宝飾を生業としている者からすれば憧れの地。

 二度と戻らないと決めて小さな田舎街を出て自立を選んだ時のノヴァは、自身がルベライト公国のクライノートへ降り立つことなど考えもしなかった。到着後、すぐに有名店やこの地に根ざしたサフィルスの工房を見て回ったが、学ぶことは多い。

 サフィルス・コランダムの当主自ら外商でルベライト公国まで足を延ばすのは、10年に一度ほどの周期のようだが、次回からノヴァが当主を名乗っているのかと思うと不思議な気持ちになる。

 次の10年……、ゼノに関わる全ての事柄に決着がついていたのなら、アウロラは娘をもうけているのだろうか……。

 だとしたら、一体誰と……?

 焦れるような、胸に昏いしこりを感じてノヴァは息をついた。

「……雑念が入り始めてるな…。今夜はこれまでにするか」

 椅子から立ち上がるとぐっと伸びをする。

 風呂を済ませて寝室に入ると、ベッドの上には実体化した魔法獣のルシファーが寝そべっていた。

 ベッド脇にあるナイトテーブルの上にある花瓶に挿したバラの花を見つめている。

 魔力を宿した大輪のバラは小さな輝きが弾けあい、絶えず煌めいている。

 このバラはアウロラがノヴァのために用意してくれた餞別で、実態は彼女の髪を用いたアナテマの花だ。

 花瓶は旅立ってからノヴァが用意したものだが、襟飾りにしていないときはこのように一輪挿しにして彼の心を和ませてくれている。

「お前もアウロラの魔力が近くにあると安心するんだな」

 微苦笑を浮かべて魔法獣の狼を撫でながら、ベッドにおさまる。

 朝露を滑らせるように、瑞々しい姿で花びらを広げるバラはアウロラの微笑みを思わせた。

 寝しなにバラを見つめては、今日一日、彼女は何をしていたのだろうかと思いを馳せる。

 その一時はノヴァに安らぎを与え、次第に優しい微睡みが彼を包み、満たすのだ。

 明日はウィスタリアと共に、ルベライト公子との面会が予定されている。

 宝石の中の宝石、エーデルシュタイン城へ。

久々の(?)ノヴァさんのターンです。

仕事もちゃんとやってますけど、ドレスを注文するのもわりと必死な感じで旅をしてました(真顔)。

ローレンスさんがフランツさんにお嬢様の衣装部屋作りについて相談したのは、お嬢様がまともに取り合ってくれないので外堀から埋めていこうという判断からだったと思います。

いやー、クローゼットはとっくに弾けてました(笑)。でもメイドさんたちは弾けるクローゼットとの戦いをお嬢様には悟らせないようにしていたはずです(お嬢様付きメイドのプライドで。笑)。

それから。モード商の方々との交流はすごく彼には大事で、彼女のドレスをショップで買うことは仕事につながっている部分も多くあるんですね。モード商の信頼を取り付けると、逆に仕事の依頼をされたりもするわけですし。持ちつ持たれつの部分もありますが、ノヴァさんの趣味と実益が見事に一致している部分で、双方がwin-winな関係なんですね、これは。笑

とはいえ初めは仕事関係なく、ただ単に彼女のドレスを発注しに行ってただけなんだと思いますが(後から気づいちゃったんでしょうけど。笑)。

ようやくこの4章の(物語の)核心部分に場面が移ってきたかなぁという感じでしょうか。

前からお知らせしている通り、今回のお話はあまり長くならないので(中編くらい)年内には終わりたい……ですね(月1更新だから無理かもだけど。汗)。

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