表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ第2巻6/27発売】ルベウスの魔女とアルスマグナ 〜乙女ゲームのアンチヒロインは世界の滅亡を回避したい〜  作者: 阪 美黎
第4章 ルベライト公女の求婚

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/63

お茶会への誘い(1)

 剣術の稽古のため軽装姿になると、アウロラは自らの家令を連れて庭に出た。

「ローリー、わたしはミディを使ってもいいの?」

 銀装のミセリコルディアを取り出し、家令を見上げて確認する。

「そうね。その剣はプリンセスのもうひとつの腕のようなもの。今のうちに剣の感覚や特性をしっかり掴んでおかなくてはね」

 ローレンスは稽古用の柔らかい素材で作られたレイピアの先を指先で掴んでピンと弾かせると、構える。

「さぁマイプリンセス。どこからでもかかって来なさいな」

 ローレンスは執事服のまま、余裕たっぷりに微笑む。

「ええ!…いざ、参る!」

 この稽古に遠慮は無用。

 アウロラはノヴァやローレスンから学んだ剣術の型と足さばきを用いて素早くローレンスに詰め寄り、刺突を仕掛ける。

「あらあら。こんな凡庸な突きじゃ、私はおろか新人のサイファーも仕留められないわね」

 ふふと笑みを浮かべてローレンスは彼女の刺突をひらりとかわす。

「言ったわね!」

 アウロラは身体能力を駆使して縦横無尽に駆け、連続攻撃を仕掛けるが、やはり軽々と受け流されていく。

「さすがローレンスだわ!全く、当たらない、わね…!」

「プリンセスはお忘れかしら?これでも私、一流なのよね」

 息を乱すこともなくせせら笑うローレンスに、攻撃の手を緩めることなくアウロラも笑う。

「もう!小憎たらしい顔して!」

「あら、ごめんあそばせ?」

 軽口を叩く余裕を見せながらも、反面冷静にアウロラを観察する。

 剣術の稽古をはじめたばかりの少女としては、異例の強さ。素直で飲み込みも早く、基本に忠実。反復練習も欠かさない愚直さもあって、その成長速度は目を見張るものがある。

 今の段階で気になる点があるとすれば、強い心肺機能と身体能力に頼りすぎるきらいがあることや、狡猾さが足りないところか。

「プリンセス、力押しだけでは駄目よ。攻撃には緩急が必要。タイミングをずらして惑わしたり、小さくフェイントを交えて相手を翻弄するの」

「緩急…?」

 アウロラは眉を寄せた。

「能書きを垂れるより、体験するのが一番。私の攻撃を避けてごらんなさい、プリンセス」

 それまで受け流しに徹していたローレンスが攻めに転じる。

 柔らかくしなる特性を持つレイピアの剣身がアウロラの胸をかすめる寸前に慌てて後退しこれをかわすも、ローレンスは巧みなステップで彼女を休ませることなく、次々に刺突を繰り出して来る。

 弛む剣身はぶれやすく、回避の目測を誤りそうになる。

「……っ…!あ、あぶな…」

「ほらほら、足元がお留守よプリンセス!」

 先に彼が述べた通り、緩急といくつかのフェイントが織り混ざり、調子を崩され、足さばきも乱れる。アウロラの肉体が敏感に反応し、なんとか回避しているような状態。

 この家令、全く容赦がない。

「逃げてばかりいないで攻めてきなさい。私を殺すつもりでね」

 ミセリコルディアでレイピアを細かくはねのけるのだが、ローレンスの振りは早く攻撃の隙を見つけることが難しい。

 魔法で自身を強化することはたやすいがそれでは駄目だ。素の肉体で戦えなければ。

 追い込まれているはずなのに、アウロラは知らず笑みが漏れる。

「どうして笑っているのかしら、プリンセス」

「…ふふ…だって、とても…楽しいから」

 劣勢が面白いだなんて、おかしな言い草かもしれないけれど。

「簡単ではないことが楽しいの」

「キリキリ舞いが楽しいだなんて、大物発言ね」

 防戦一方に見えてその実、アウロラの剣筋はローレンスの攻撃に順応しはじめている。

 さすがというべきか。

 これがルベウスの魔女の本領というわけね。教えたら教えた以上に成果を発揮してくれそうだわ。私の手でプリンセスを強くするというのは、存外悪くないかもしれないわ。…いずれ、私さえ下してしまうというのなら。

「プリンセス、私も愉快になってきたわ」

「まあ!それは皮肉かしら」

 アウロラはここで一瞬、ローレンスの脇に隙を見つけ、好機とばかりに鋭く刺突を試みる。

 けれど、これは罠。

「…はーい、素直に誘い込まれてしまいましたわね」

 踏み込んで刺突したアウロラの手首を微笑みながら掴んで、ローレンスは彼女を軽く突き放した。

 家令は足を止めてアウロラと向かい合う。

「ご理解いただけて?こうやってさりげなく隙を作るのよ、猪突猛進なプリンセス。…ああ猪突猛進といえば、相手によっては挑発して怒らせるのも有効ですわ」

 猪突猛進。その評価に口を膨らませた。

「…悔しい。まんまとローリーの手のひらで踊らされてしまったわ」

「あーら、私が簡単に主導権を握らせると思って?そもそも、はじめたばかりのプリンセスに勝たれてしまったら、私の立場がないでしょう」

 ローレンスは肩をすくめる。

「それはそうだけど」

「まさかプリンセス、加減して欲しかったなんて言わないわよね。すでに充分加減しているのだから」

「…くっ…!今に見てらっしゃいローレンス。鍛錬を積んで自力であなたを本気にさせてみせるわ」

「ふふ、その意気よプリンセス。私の忠誠を勝ち取るための第一歩ね。もっと私を楽しませてちょうだい?」

 涼しい笑みを浮かべる家令をアウロラは改めて見返す。

「ローリーを家令にしてよかったわ、本当に。あなたは忖度しないもの。…その点、ノヴァは困りものなの」

「若様が?」

「ええ。ノヴァは剣術の型は教えてくれるし、打ち合ってもくれるけど、わたしと本気で戦ってはくれないの。お願いしてもいつも困った顔をして、自分の負けでいいと言うの」

 アウロラは息をつく。戦う前から放棄されてしまう。それでは稽古にならないのに。

「若様は稽古であっても、あなたに本気で剣先を向けるなんてことが出来ないのよ。…まあ、単にプリンセスに負けを晒したくないだけかもしれないけれど」

 冷笑を浮かべるローレンスにアウロラは瞳を細める。

「…ローリー?ノヴァはそんなに弱くないわ。わたしの大切なフラテルを貶めないで」

「失礼いたしましたマイプリンセス。ご容赦くださいませ」

 丁寧に礼をしながらも悪びれない口調の家令に、アウロラは「もう」とねめつけた。

「…じゃあローリー、もう一度最初から…」

 稽古の継続を口にしかけて、言葉を途切れさせる。メイドのマーガレットが彼らに近づく姿が見えたからだ。

 彼女は遠慮がちに歩み寄ると、アウロラに声をかけた。

「お稽古中失礼いたします。お嬢様、ルーキス・アダマス家のクラリス様から先ほどお手紙が届きましたので、お知らせにあがりました」

「…クラリスから?」

 思わぬ名前にアウロラは軽く目を見開く。

 クラリスは王都から離れ、兄のグロリアと共に自然豊かな郊外の屋敷へ移動し、長期休暇を静かに過ごすと話していた。前触れもなく手紙を寄越すとは…彼女の身に何かあったのだろうか。

「急用かもしれないわね。早々にお手紙を確認した方がよろしいのでは?プリンセス」

「…え、ええ…そうね。お稽古は一旦お休みにしましょう」

 アウロラはローレンスの提案を受けれて頷く。

「マーガレット、お手紙はどこに?」

 ローレンスは続けてマーガレットに問いかけた。

「お嬢様の居室の机に」

「では、私はお茶の支度をしてプリンセスのお部屋にお持ちいたしますわ」

「えぇ、お願いローリー」

 アウロラは微笑んで彼に背を向けるとマーガレットを連れて自室に戻る。

 アウロラの勉強机とは別に配置されているラウンドテーブルの上に爽やかな水色の封筒が置かれていた。アウロラの宛名とクラリスのサインが添えられている。封蝋はもちろんアダマス家の紋章だ。着替えは後回しにし、椅子に腰掛けると控えていたローズがペーパーナイフを差し出す。

「ありがとう」

 ペーパーナイフで封筒を開き、中の便箋を取り出すとクラリスの香りがふわり漂う。彼女が好んで纏っている花のインセンスだ。

 便箋を開き、内容を読み終えるとアウロラは笑みを漏らす。

「…お嬢様、どうなさいました?」

 問いかけるローズにアウロラはそっと便箋を机に戻して答える。

「…お茶会のお誘いよ。彼女と顔見知りのご令嬢たちもお誘いしているみたい」

 長期休暇中は王都を離れ旅行へ出かけたり、遠方の生徒は帰省をしたりと、生徒同士の交流は極端に希薄になる。

 ノヴァが外商に赴いたように、ステラも情報交換と社交のために他国へ出国した。彼らのように家業のために休暇を利用することも珍しくないのだ。

「…というのは建前で、郊外のお屋敷でゆっくり過ごしているうちに人恋しくなってしまったみたい。遊びに来て欲しいっていうおねだりよ」

 アウロラは微苦笑する。

 手を合わせて「お願い」と頼りなく眉を寄せるクラリスを想像すると可愛らしさで和む。ヒロインは何をしていても可愛いのだ。

「お茶会は3日後……急な提案だから集まれるご令嬢も少ないかも…って書いてあるわ」

「アダマスの姫君や貴族のご令嬢たちの交流、とても楽しそうですわね」

 ローズは我が事のように笑みを浮かべる。

「そうね。しかもノヴァの新作指輪をさりげなく宣伝する場が持てそうで大感謝よ。わたしには外出予定が全くないから問題ないわ」

 貴族令嬢のお茶会は情報交換の場でもある。彼女らの情報伝達力は侮れない。

 意気込むアウロラだったが、即座に水を差される。

「…まあプリンセスったら。年頃の娘が遊びはおろか、デートの予定もないなんて胸を張って言うことではなくてよ」

 素早くお茶の支度を済ませて戻ってきたローレンスが半分呆れた視線を寄越す。

 メイドたちは苦笑いを浮かべている。

「し、仕方がないでしょう?ノヴァはお仕事に出かけてしまったし、このお休みは徹底的に剣術のお稽古をするつもりでいたのだから…」

「剣術はともかく…常日頃、若様しかデートする異性がいないプリンセスも考えものね。…オルキス様や…あぁ、ウィスタリア様もいたわね()()

 つまり、全員身内。現状、遊びに誘ってくれるような異性の友人(ボーイフレンド)は皆無。

「………」

 い、言い返せないわ…。

 気まずく黙るアウロラの前に、ローレンスはお茶を注いだティーカップを置く。

 手に取り、ティーカップに口をつけながら、眉を寄せる。

 長らく狭い世界で暮らしていたのでさほど気にしてこなかったが…確かに、年頃の娘としては寂しい交友関係。異性はおろか、同性の友人も少ないとあっては…。

 しかし…やらねばならないことが山積している中で、遊びにうつつを抜かしている暇はない…と、アウロラが言い訳をしても、ローレンスはきっと「それはそれ、これはこれ。彩が欠けていてよ」と涼しい顔で返して来るだろう。まさか、アンチヒロインだから友人を持ちづらい…とは言えないし。

「お、お友達はこれから作ればいいの!…とにかく、クラリスにすぐお返事を書きます。お茶会には是非参加させてもらう旨をね!ローズ、レターセットを用意してくれる?」

「はい、お嬢様」

 ローズは直に行動に移し、マーガレットが一歩前に出る。

「お嬢様、お茶会のドレスは如何いたしましょう」

 さらにローレンスも続く。

「ご令嬢たちとのお茶会とあっては、小粋なお土産が必要ね。ホテル・サフィレットから候補をいくつか取り寄せましょうか。指示してちょうだいプリンセス」

「ええ。このお茶を飲み終わったら…早速始めましょうか」

 着飾るのも、お菓子を選ぶのも楽しいことだ。

 普段であればノヴァが手作り菓子を用意してくれたり、ドレスも見立てくれるのだが…今はそれが叶わない。

 今頃ノヴァはどのあたりを移動しているのかしら…?

 胸をかすめる面差しを、紅茶と一緒に飲み干して、アウロラは家令とメイドたちに微笑んだ。

二ヶ月以上更新を放置しておりまして大変申し訳ございませんでした。

気づいたら二ヶ月以上過ぎてしまっていた…というのが本音です。

それからそれから…お気づきの方も在るかもしれませんが(表にも記しておりますが)、一迅社(とピクシブ)様主催のコンテストでこの『ルベウスの魔女とアルスマグナ(以下略)』が佳作をいただきました!

お恥ずかしい話ですがお知らせをいただくまで、最終選考に残っていたことにもまったく気づいておりませんで…(汗)。

客観的に見て(諸々の数字的にも)、人気作品とはいえないこのお話に、賞をくださった一迅社(とピクシブ)様がとにかく猛者すぎると慄いている次第です。ありがとうございます。そして、これまでにブクマや評価をくださった皆様もありがとうございます。

今後とも、拙作をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ