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【コミカライズ第2巻6/27発売】ルベウスの魔女とアルスマグナ 〜乙女ゲームのアンチヒロインは世界の滅亡を回避したい〜  作者: 阪 美黎
第3章 魔法銃カルブンクルス

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魔法銃カルブンクルス(2)

 風通しのよいテラス席で、ノヴァと向かい合いお茶を嗜む。

 騒動後、アリザの言葉が蘇り、いくつか考えたことがあった。

 そもそも、アウロラはゼノについて何も知らない。ゼノにつながっているという明夷の門もこの国にあるというのに、実際にこの目で確かめたこともない。ゼノを知ると同時に、一度、明夷の門には訪れてみる必要がある。

 しかし、明夷の門とされる割れた岩山の周辺は広大な禁足地となっており、調査目的の学者や魔導石を採掘する者、警備兵以外は立ち入ることを許されていない。もちろん、例外もあるが。

 それが、母のアレクシアである。代々のルベウスの魔女は王命により一帯を管理してきたのだ。

 お母様には先に話さなければいけないことがあるわ。アリザ様は、まずは『魔法銃カルブンクルス』を手に入れろと言っていた。

 まずはそこを足がかりにしようと決めていた。

 でも、その前に…。

 アウロラは居住まいを正して目の前のノヴァに目をやる。

「ノヴァ。お話したいことがあるのだけれど、いい?」

 ティーカップをテーブルに戻してノヴァは頷いた。

「改まってどうしたんだ」

「ノヴァは、『血石』を知ってる?」

 アリザが便利だと言っていた、その存在。彼女の弟、初代サフィルスにも所持させていると述べていた。

「血石……って、もしかしてブラッドストーンのことか?随分と古い言い方をするんだな。…それがどうかしたのか」

 唐突な質問に、ノヴァは首を傾げながらも答えた。

「あなたはその、ブラッドストーンを作れる?」

「宝石を砕いて粉状にしたものと血液を混ぜて作るんだ。さほど難しくはないよ。大昔は珍しいものではなかったみたいだけど、今は忌諱されて、作ったり、身につけようって人は稀だな」

「そうなの?どうして?」

 今度はアウロラが首を傾げた。

「ブラッドストーンっていうのは、いわゆるグロテスクジュエリーの類なんだ。ブラッドストーンはその名の通り、血液を固めた石。人によっては生理的嫌悪感を伴うわけだ。理解できるだろ?」

「…ええ」

 アリザの時代には珍しいものではないのかもしれない。しかし、時代が下るにつれ、認識も変わったのだろう。

「どうしてそんなことを聞いたんだ?」

「ええっとね…」

 尋ねた相手がたった今『生理的嫌悪感を伴う』と言った手前、言い出しづらくなってしまった。

「…実はあなたにわたしのブラッドストーンを持っていてほしくて」

「?!…アウロラのブラッドストーンを、俺に…?」

 ノヴァは面食らう。

 ぎょっとするのは当然のことか。

「嫌ならいいの!そ、そうよね、生理的嫌悪感があるわよね!わかる、わかるわ!気持ち悪いわよね?!」

 あたふたとフォローを入れると、ノヴァはすぐに澄まし顔に戻る。

「嫌じゃない」

「え?」

「嫌じゃないよ」

「……ほ、本当に?無理してない?」

「してない」

 いやにはっきりと言い切る。

「…ただ、どうして俺に持たせたいと思ってるんだ?」

 当然の質問だ。

「ある人に便利だと教えてもらったの。これから、あなたがわたしの魔法で傷つくことを避けたくて」

 それに、ミセリコルディアが誤ってノヴァを傷つけることも避けたい。

「ある人?」

「それについては、いずれ説明するわ」

「……そうか」

 と呟いて、ノヴァはわずかに考える姿勢を取る。

 これもアウロラの中に起こった変化というものの影響なのか、今までの彼女ならばしなかったであろう提案である。そもそも、ブラッドストーンは忌避される奇異の宝石。現代でも一部愛好家は存在してるが、宝飾品に関わっているノヴァですら、制作方法は知っていても、実物は目にしたことがない。

 彼女に入れ知恵した人間の意図が気になるが、いずれ話すと言っているのだから、今は問いたださない方がいいだろう。

「……便利という意味では、便利かもしれないな。いつ作る?」

 ノヴァの肯定的な意見にアウロラは少しほっとする。

「すぐ作れるものかしら」

「できるよ。この後、早速やってみるか?」

「!…ええ!是非!」

 アウロラは力強く頷いた。



 お茶を終えて、ふたりはその足でのノヴァの部屋へと移動する。

 カントリーハウスのノヴァの部屋は、もうほとんど作業部屋を兼ねた博物蒐集家のそれになってしまった。ここに彼の客は来ないので問題ないのかもしれないが、家令のフランツからは苦言を呈されているようだ。

 ノヴァは上着を脱ぐと清潔な小皿を手に取り、杖を取り出してそこに魔法陣を描く。

 次に、棚から小瓶を取り出す。あらかじめ砕いておいた宝石の粉だ。用いるのはルビー。

 こういった粉は、売り物にならない屑石を砕き、人工石にするためにある。

 ルビーの粉を平らにならして、ノヴァは切っ先が鋭いナイフを手に取った。

「……アウロラ…血を分けてもらっていいか?」

「ええ!どれくらい必要なのかしら」

「2〜3滴欲しい」

「そんなに少なくていいの?」

「……。一体どれだけ大きなブラッドストーンを作るつもりでいるんだ」

「…ポケットに入るくらい、かしら」

「……大きすぎる。大量の血が必要になるだろ。危険だ」

 ノヴァは横に首を振った。駄目らしい。

 ナイフを手にしてはいるものの、アウロラを害することには抵抗があるらしい彼は困り顔を浮かべている。アウロラはノヴァからナイフを抜き取り、率先して自らの指先を切りつける。わずかな痛みが走った。

「……お皿の中に垂らせばいい?」

「あ…ああ…。痛いだろ」

「ノヴァったら、そんな顔しなくても大丈夫よ」

 心配性な弟に微笑んで安心させる。

 数滴垂らすと、ノヴァがアウロラの手を取り、素早く治癒魔法を使う。

「ありがとう。ノヴァ、もしかして血が苦手だった?」

「いや。単にアウロラが血を流してるところを見ていたくないだけだ」

 そんなことを言われたら、怪我できないじゃない。……気をつけないと。

「……さて、ここからが本番だ」

「見ていてもいい?」

「あぁ」

 ノヴァは頷くと、すぐに集中をして魔法陣が描かれた小皿と向かい合う。魔力をみなぎらせて両手をかざすと、粉となったルビーとアウロラの血液が溶け合って混ざり合い、光を放って固形となった。その際に、小皿に描いた魔法陣は消る。

 ころんと転がったブラッドストーンはカボションカットで固まっている。表面に模様が浮かび、さらに鮮やかに内側から輝きを放っていた。まるで、生き物が鼓動するように。

「うまくできたみたいだな」

「……すごく綺麗だわ!表面に浮かんでる模様はなに?」

 ノヴァ越しに覗き込みながら、アウロラは声をあげた。

「アステリズムスター…つまり、星彩効果だよ。六条浮かんでるな」

「もしかして、スタールビーってこと?」

「ああ」

 小皿に転がっているルビー…いや、ブラッドストーンを取り上げ、ノヴァはアウロラの手のひらに乗せた。

「これがアウロラのブラッドストーンか。合成ルビーを作る要領だったんだが、まさか屑石の粉からスタールビーができるとはな。…アウロラの血液に反応した変化なんだろうが…驚きだ」

 本来はもっと血液の色の強い、どす黒い石が出来上がるはずなのだが、そのようなグロテスクさは皆無で、美しい色彩と星彩だ。天然石の高品質スタールビーを上回っている。おそるべし、アウロラの血液と魔力。

「不思議だわ……光を受けているわけでもないのにキラキラしてて…普通のルビーよりずっと鮮やかな色彩になったわね」

「さすがはアウロラの血液といったところだな」

「?どういう意味?」

「魔女や魔術師の血液には深く魔力が溶け込んでいる。アウロラの魔力が溶け込んだことで、鮮やかに輝いてるんだ」

「そうだったの」

「ちなみに。たぶんこれ一粒で低く見積もっても、王都の一等地に複数屋敷が買えるくらいの価値がつくんじゃないかな」

「………えっ?!こんなに小さいのに?!」

 目を見開いて手のひらのブラッドストーンとノヴァを交互に見た。

「売れるの?売り物になるの?」

 色めき立つアウロラに、ノヴァはすっと瞳を細めた。

「……ブラッドストーンの売り買いは駄目だからな。というか、アウロラのものは絶対に駄目だ」

「…………」

 フロストシャンデリアの提案も否定されたので、恨めしい気持ちで見つめると、ノヴァは盛大なため息をついた。

「アウロラ、こいつはお前の魔力がこもった石なんだ。単なるブラッドストーンとは比較にならない。これひとつでも、そこそこの魔法を展開できる。さっき、ポケットに入る大きさなんて言っていたが、そんなものを用いたら、素人でも地図からひとつ国が消えるくらいの魔法を放てるようになるぞ」

「……う、うそ…」

 核弾頭級の危険物ではないか。

 そんなにも取り扱いの難しいものだったのか。

「本当だ。魔力を悪用したい人間なんて、世間には腐るほどいるんだ。そんなやつが誤って手にしてみろ…どうなるか想像はつくだろ。お前のブラッドストーンを売り物にしようなんて考えは賛成しないし、俺が絶対に阻止する」

 強いノヴァの口調にアウロラはしゅんとする。

「………影響力の大きさを理解していませんでした。ごめんなさい」

 素直にあやまると、ノヴァはアウロラの頭を撫でた。

「気安く他のやつにあげようとか思ったら駄目だからな」

「……はーい…」

 こういう時のノヴァは、完全に兄の口調だ。姉の立場としては、少し、悔しい。

「でも…あなたはこの子をどうやって管理するの?」

「簡単だよ。落とさないように身につければいい」

「指輪とか?」

「いや、もっと直接的な方法だ」

 アウロラの手からスタールビーになったブラッドストーンを受け取ると、ノヴァは部屋の隅に置かれた姿見に向かう。その後についていく。

 黙って見守っていると、ノヴァは片耳を鏡に写して、つまんでいるルースを耳たぶに近づける。

「俺をこいつに喰わせて、根付かせてやればいいんだ」

「えっ?」

 耳たぶに押し付けたブラッドストーンはみるみるうちに埋まっていく。まさに、彼が表現した通りに喰わせる形で。

 驚きのあまり、声も発せずにいたアウロラを振り返り、耳を見せる。

「似合うか?」

「に、似合うとかどうとかの問題じゃなくて…いえ、似合ってるわ、似合ってるけど…!…痛くないの?めり込んでるわよ?!」

 狼狽えてノヴァの袖をぎゅっと握り、見上げる。改めて確認してみても、アウロラのブラッドストーンはノヴァの耳たぶに埋まるかたちでおさまっている。

「大丈夫だよ、痛くない。これがブラッドストーンの特徴だ。…見かけはピアスみたいなものだから、心配いらないよ」

 ノヴァはあっけらかんとしている。

「気持ち悪くない?」

「そんなわけないだろ。むしろ、光栄の至りだ」

「?どういう意味?」

「アウロラのブラッドストーンの恩恵だよ。アウロラの魔力が俺の回路に馴染んだら、アウロラの魔法も少し使えるようになるんじゃないかな」

「…わたしの魔法を?」

「ああ。それに、探知も強まるはずだ」

 ノヴァにとっても有益であるなら、血石…ブラッドストーンを彼に委ねたことは間違いではなかったかもしれない。彼の耳に埋まっているならば落とすこともなく、第三者の手に渡り悪用される心配もない。

 一見すると、ただのスタールビーである。とても高価には見えるが。

 アリザ様は便利だと言っていたけど、他にはどう便利なのかしら。

 ノヴァはわたしへの探知が強まると言っているけど、逆に、わたしがノヴァを探知しやすくなったりするものかしら。…いえ、むしろ、もっと別のことに使える気がするわ。例えばそう…、ノヴァのところに瞬間移動、とか。

 瞬間移動、すごい。超能力っぽいわ。

 魔法で実現可能なものかしら?

 浮かんだ発想をすぐに試してみたくなり、顔をあげる。

「ノヴァ、これから時間ある?」

「?あぁ、問題ないよ」

「じゃあ、少しわたしの実験に付き合って!」

「実験?なんの?」

「いいから、いいから!」

「…おいアウロラ…」

 嬉々と腕を引っ張り、アウロラは戸惑うノヴァを屋外へと連れ出すのだった。

次回、イチャイチャ回です。

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