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【コミカライズ第2巻6/27発売】ルベウスの魔女とアルスマグナ 〜乙女ゲームのアンチヒロインは世界の滅亡を回避したい〜  作者: 阪 美黎
第2章 眩惑蝶の皇子

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眩惑蝶の皇子〜エピローグ〜

 森の中にあるルベウス屋敷(カントリーハウス)

 家族の居間でティーカップに口をつけ、紅茶を嗜みつつ、アレクシアは向かいに座る義弟を見る。

「……それで、ウィス。此度の騒動についてサフィルスの古狸どもの反応はどうだったのだ」

「アウロラの身柄が持ち去られた責任はノヴァにあると。ノヴァが彼女のフラテルとして至らぬからだとここぞばかりに糾弾するつもりだったようですが」

「であろうな…」

「ラトナラジュ王家の都合も大きく関わっていたことですし、王からの配慮で直接謝意を述べられていますから、お歴々が殊更彼を(あげつら)うことはできなくなったので、小言だけで終わりましたよ。ノヴァは自分が泥を被るつもりでいたようですが、彼はまだ成人前ですからね……全責任は僕にあります。それに、ホテル・サフィレットがノヴァの味方では…分が悪いと察したようです」

「ノヴァはサイファーの支持を得たか。よきことだ。…しかし、まさかフューシャ建国の王が関わっていようとはな。黒魔術に染まってまでルベウスを欲する執念深さ、ある意味尊敬にあたいするが……何故わたくしを狙わなかったのか」

 アレクシアは不満げに眉を寄せる。

「狙われたかったのですか?」

「もちろんだ。わたくしの小鳥(アウロラ)に魔の手が及ぶ前に返り討ちにしてやったものを」

「さすが姉上。ノヴァの話では、始祖様に懸想し、身代わりとしてアウロラの魂を取り出し、傍に置くことが目的だったようですが…」

「ふん……真の望みは、始祖様というより、『竜抱く乙女』だったのだろうさ。今、竜を抱く者はアウロラゆえ…」

 アレクシアは白ける。

「…だが、その建国のフューシャ王を成敗したのはノヴァなのだろう?フランツやサイファーの手も借りていないと聞いたが?」

「ええ、フランツにアウロラを託して離脱させ、サイファーがノヴァの元に参じた時には全てが終わっていたと。ただ著しく魔力消費していましてね、翌日は寝込んでいましたよ」

「闇に染まったフューシャ王がそれほど弱い敵だったとは思えぬ。半人前の魔術師ひとりで対処するには荷が勝ちすぎたのではないか。どのように倒したのだ?」

「それが…魔力消費の原因や、核心部分になると途端に口をつぐんでしまうのですよ。魔法獣と連携をとったようですが…いくら問い詰めてもだんまりで」

 困ったものです、とウィスタリアは肩をすくめた。

「なるほど。説明できぬのか、したくないのか…。どちらにせよ、ウィスも知らぬ隠し球をノヴァは持っているというわけだな?……ふふ、頼もしいではないか」

 アレクシアは笑みを浮かべてティーカップに再び口をつける。

「……それで、小鳥たちは今日は何をしているのだ?屋敷の中も朝から慌ただしい様子だったな」

 アレクシアの横に座り、それまで黙ってふたりの会話を聞いていたオルキスが口を開いた。

「今日は画家を呼んで、客間で肖像画を描いてもらっているよ。ウィスタリアの紹介の画家でね」

 アウロラは忘れていなかったのである。舞踏会の夜に肖像画を残したいと言ったことを。

「ええ…アウロラたっての『お願い』ですからね。宮廷内で売り出し中の若い画家です」

「ふ…肖像画を残したいなどと…まるで今から結婚でもするかのようだな」

「結婚とは聞き捨てなりませんね、姉上。義兄上もさすがにそれはゆるさないのでは?」

「え…?いや、彼にならアウロラを任せてもいいと思っているだけど…駄目なのかい」

「………。…義兄上はノヴァを気に入ってますからね。でもまさか、そこまでとは」

「ノヴァを選別し、連れてきたのはウィスだろうに。己が目の確かさを喜ぶべきところであるぞ」

「だからこそ複雑なのですよ」

「ふふふ、わがままな弟よな」

 肩をすくめるウィスタリアを笑って受け流し、アレクシアは話を戻した。

「その画家、ウィスがパトロンなのか?」

「僕が、というよりサフィルスが…ですよ」

「そうか。ウィスの紹介ならば腕は確かなのであろう。アウロラが肖像画に残したいと言ったのは、この間の舞踏会用に作った衣装なのであろう?あとで小鳥たちの様子を見に行こうではないか」

 アレクシアは小さく笑う。

「晴れ姿のアウロラは昔のアレクシアを彷彿とさせているよ。……あの子も大人になったんだね」

 オルキスはしみじみと呟く。

「アウロラのドレスはノヴァが選んだものですからね、上品かつ可憐ではありますが、襟がつまっていて楽しくありません。昔の姉上のようにどこまでも際どい(セクシーすぎる)ドレスがよかったと思うのですよ僕は」

「ウィス好みの不純なドレスなど、過保護なノヴァが許すわけあるまい」

「それは私も心配だよ」

 その、どこまでも際どい(セクシーすぎる)ドレスをまとっていた過去のアレクシアを知るだけに(そして圧倒されていただけに)、オルキスも我が娘で想像するとまったく承諾できるものではなかった。

「そもそも、アウロラにあれはそぐわぬし……そしてわたくしが注意をすれどもノヴァがあの子に対して過保護になるのも仕方がないことではある。あの子は、とにかく…可愛いからな」

 可愛い、を強調気味にアレクシアは告げた。真顔で。

「ええ。そこは全肯定です姉上。アウロラは、可愛い」

 神妙な顔で深く頷くウィスタリア。

 その中で、「え?」とふたりを交互に見るオルキス。

「どうしたんだい、ふたりとも。いきなり」

「オルキスはわからぬかもしれぬな。アウロラはわたくし以前のルベウスとは異なる性質を持つ娘。言うなれば、新しきルベウスだ。あの子は「お母様、お母様」とわたくしに楽しげに話しかけてくれるが……わたくしは母上と必要以上に会話を持つことはなかったし、そのことに疑問を感じなかった。代々のルベウス同様、始祖様を再びこの世に誕生させる『器』としての役割を持たされてきただけだ…」

 アレクシアはティーカップをテーブルに戻す。

「だがあの子はどうだ。くるくると表情をかえて笑い、振る舞いも自然で軽やかだ。他者を威圧することもなく、畏怖されるでもない。魔法学校でも友人が多いと聞く。愛されているのだな。ただの『器』であったわたくしとは大違いではないか」

「姉上は姉上で、可愛らしいところはたくさんありますけどね」

「そうだよ、アレクシア」

 ウィスタリアとオルキスは微笑んだが、アレクシアは微苦笑で返す。

「そう思うのは、そなたたちだけであろうよ。ウィスがあの子を構いたがるのも、わたくしに似ているからというだけではあるまい?アウロラをはさんでノヴァを刺激しているそなたも楽しそうであるぞ」

「楽しくないとは言いませんが」

「ふふ。…昔、わたくしに母上は言った。〝いかなることにも意味はあると〟。あの子の人格や魔術回路に変化が起こったこと、一連の騒動も含め、きっと意味があるのだ。たとえ残酷な答えであったとしても…。だが、新しきルベウスを…アウロラの可能性をわたくしは信じようと思う。…何せ、あの子はとにかく可愛いからな。可愛いは正義…全てに勝るのだ」

 不敵に微笑み、アウロラ得意の理屈を述べるアレクシアに義弟と夫は頷きながら笑った。



 ※



 舞踏会の日のように、再びコルセットを締め上げられて出来上がった正装姿でアウロラとノヴァは若い画家の前に立つ。

 ウィスタリアが連れてきた売り出し中の画家は、アウロラの蠱惑する瞳に微笑まれていつかのセディルのように石化してしまったが(ノヴァがそっとアウロラを遠ざけたが)、すぐに自らの仕事を思い出し、クロッキー、そしてカンバスを広げ、下絵を描き始めた。

 彼の前に立つ麗しき少女と美形の少年は、宮廷画家に求められる能力『美を盛る』必要性など皆無で、とにかく筆が踊る、やりがいに満ちた時間となった。これは傑作の予感しかしない。

 休憩時、アウロラはノヴァをテラスに誘う。

「肖像画を描いてもらうって大変なのね」

 夜会服でめかし込んだノヴァを再び鑑賞できたのは嬉しいが、やはり記念写真を撮るのとでは手間が大違いだ。

「同じ姿勢を保ってると、肩がこるだろ」

「あなたは平気?」

「…暇なのがつらいな」

「それは確かに!ダンスを踊っていた方が楽しいわ」

 ふたりの間に笑いが漏れた。

 フューシャ国からアダマントへ帰国し、日数をおかずにふたりは魔法学校での日常に戻った。

 教師や生徒たちはラトナラジュ家側が用意した正式文章の効果によりにアウロラとノヴァの不在に疑問を持つことはなかった。ラウルスとステラにはノヴァが個別で顛末を説明し、アウロラはステラに諸々の礼を述べた。

「ヘレル皇子から手紙が届いたそうだな」

「ええ、丁寧なお詫びが書かれていたわ。それに、廃嫡を免れたことも…。直筆で、とても綺麗な文字だったの。形式的に送ってくださっただけかもしれないけれど……わたし、皇子のことをちゃんと知りたいと改めて思ったわ」

「……そうか」

 会話をしたのは一瞬のことだったが、冷めた目をした皇子の姿に、ノヴァは自身を重ねた。あれは大切なものを持たない、孤独な者の目だった。アウロラのフラテルにならなければ、ノヴァも独り、彼と同じ目をしていたかもしれない。

「だからね、これを機会にわたしと文通友達になってもらうと思って。さっそくお手紙を送ったわ」

 手紙というより、日記のような内容だが。

「皇子と文通友達に?……相手は王族だぞ」

「いいじゃない。王族だろうとなんだろうと。せっかく繋がったご縁なのよ」

「そういうところは妙に強気だよな。…転んでもただでは起きないって?」

「ええ、その通りよ」

 雨降って地固まる、である。

 にっこり微笑むアウロラに、ノヴァは小さく息をついた。

「逞しくて何よりだ」

「ふふ」

 アウロラは微笑みながら、別のことを考えた。

 日常に戻っては来たが、何もかもが今まで通りとはいかない。もう、以前と同じではない。

 夢のような空間で邂逅した始祖ルベウス…アリザの言葉は日を追うごとに鮮明に蘇ってきた。

 アウロラの肉体は本来彼女が有するはずであったこと、また、明夷の門が開いてゼノが攻め入ってくること。…そして、アリザのかわりにアウロラが魔物たちと戦う定めにあるということを。

 身震いした。

 ひとりで抱えるには大きすぎる使命。

 わたしは、この世界に来てからずっと、小さく収まることばかり考えて来たわ。無害なウサギでいることを望んでいた。

 厄災の魔女にならないように。それがわたしと、この世界と人々のためなのだと。でも、そんなことになんの意味もなかった。

『なれは食われる側のウサギではない。だが地を駆け、空を舞う単純な捕食者でもない。なれは、どれにも属さぬ、理から外れた異端の者だ』

 そうアリザ様は言っていた。

 ゼノと戦うための、異端者。結局のところ、アウロラはどうあがいても厄災であり、ブラッディ・ルベウスなのかもしれない。

 わたしが成り代わった所為?クラリスの敵ではなくなったから?

 このゲームの行方がもうわからない。ヒロイン(クラリス)を置き去りにしてシナリオは進む。

 まるで、アウロラを軸にしているかのように。

 まだうまく飲み込めていない。わたしの中でもう少し整理がついたら、ノヴァに話さなければ。アリザ様が語ったゼノのこと。彼は、信じてくれるかしら。こんな途方も無い話。

 そして、彼を巻き込むことになるのだろうか。その、戦いに。

 じっと見つめるアウロラの視線にノヴァは怪訝に眉を寄せた。

「…どうした?」

「……あ…えっと」

 誤魔化しを口にしようとして、ふと、落とした目線の先にあるペンダントに「そういえば」と再び顔をあげた。

「どうして教えてくれなかったの?この子…アイギスのこと」

 ロイヤルブルーのサファイアのペンダントに触れながら尋ねる。

「…!…気づいてたのか」

 アイギスが発動していたとき、アウロラには意識がなかった。てっきり、まだ仕掛けには気づいていないものと思っていたのだが。

「わたしは気づいてないわ。教えてくれたのよ、アイギスが」

「………?…教えてくれた?アイギスが…?」

「ええ。あなたに面差しが似ていて…小さな男の子の姿をしていたわ」

「…いや、ちょっと待て。……まさかアイギスが、人格を?」

「そうよ。…実体ではなかったけれど、わたしと手を繋いでくれていたの。とっても、可愛らしい子だったわ」

「………」

 ノヴァは思わず片手で頭を抱えた。

 ああ、またなのか。

 アウロラは意図せず物に命を与えてしまう。

 自分の常識の物差しが通用しないことは重々承知しているのだが、ルシファーに続き、アイギスまでも…。

 ノヴァは観念するように嘆息した。

「…アイギスのことをアウロラに知らせなかったのは、変に意識させたくなかったのと、胸を張って俺の作品だと言えない部分があったからなんだよ。俺の意地の問題だな」

 増幅された魔力で途中から意識がなく、かつ、シアナスの手が加わっているのだから後ろ暗い。

 泣かせたくないので、アウロラの作った魔力増幅クッキーについての言及を避けたかったこともある。

「まあ!気にしなくてもよかったのに!あなたは自分が天才であることをもっと自覚した方がいいわ!」

「……天才ねぇ…」

 本物の天才が目の前にいるのに?

 無自覚なのはどちらなのだとノヴァは呆れる。

「うーん、でも…わたし、あの子をぎゅっとしてみたかったわ。…また会えるかしら…」

 残念そうに呟くアウロラに微苦笑する。

「…ルシファーのように実体化するわけじゃないんだろ?」

「ええ、あくまでも精神体みたいで……」

「それなら……俺でいいんじゃないか?」

「え?」

「似てるなら、俺でいいんじゃないのか。その、ぎゅっとするのは」

 昔みたいに。

「ほら」と、ノヴァはアウロラに向かってわずかに腕を広げる。

 身長差がなかった頃、アウロラはノヴァによく抱きついてきたのだが、長じるにつれ遠のいた。

 当初は羞恥心から抵抗感が強かったが、次第に慣れて、近しい距離が当たり前のようになった。

 今となっては、こちらから引き寄せたくなるほどに彼女の存在が、距離が物足りない。

 けれど、すぐに自身の中の邪さに気がついて「……いや、やっぱりいい…」と顔を背ける。

 自分から()()()()()()()を求めながらも恥じらうノヴァが可愛らしくてアウロラは柔らかく微笑み、腕を伸ばす。

「まあ、ノヴァったら。遠慮しないで?わたしの大切なフラテルがお望みなら、いくらでも」

 一歩を踏み出し、ノヴァの背中に手を回して文字通り『ぎゅっ』と抱きつく。

「……っ…」

 素直な彼女の行動にノヴァは頬を赤らめるも、躊躇いがちにアウロラに腕を回し、彼女の優しいぬくもりをそっと胸にしまい込む。

 もう二度と、彼女を見失うことがないように。



 第二章/了

当たり前のように自分たちの世界に入り込み(=イチャイチャしている)、使用人の皆さんはいつものことなので気にしていませんが(邪魔しないようにしていますが)、たぶん画家さんは見て見ぬふりができずスケッチ(してどうするのか)。

そして様子を見に来たお母様たち御一行にしっかり目撃されて、ふたりしてあたふたするまでがデフォ展開でお願いします(笑)。

ふたりの肖像画については、別で登場するのではないかと。あと皇子様も、またきっと登場します(いつになるのやら)。


2章開始の日付を見て気づいたのですが…まるっと半年かかって終了いたしました。半年……自分でもびっくりです(想定では三ヶ月くらいを目処にしていたはずなのですが…あれ?汗)。

とりあえず、2章を無事に終了いたしました。

3章等の情報については、活動報告の方を参照していただければと。

今後ともおつきあいいただければ嬉しいです。

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