ショートショート:「夢」
とある田舎町に、Kという男が居た。Kは二十六歳だが、職には就いていない。そんなKが、不思議な夢を見た。
自分が有名大学を出て、弁護士になって、大金持ちになり、都会に住み、美しい嫁をもらい、かわいい子供を授かる・・・。
Kはその夢から覚めると、悔しい気持ちになった。
「折角、こんな理想の夢を見れたのに。よし、もう一度寝て、続きを見よう。」
夢の続きを見るなど、普通は無理なことだが、Kにはそれが出来てしまった。
子供も有名大学を出、医者になり、自分たちを支えてくれ、更には、孫が出来、自分はゆったりとした年金生活へ・・・。
Kは再びその夢から覚めた。
「もう一度、続きを見よう。一回続きを見れたんだから、今回も出来る筈だ。」
Kは、なんとなく顎が気になった。だが、夢が見たかったので、そんなことも気にせず寝た。
老人ホームで、同じ年代の人たちと生活を楽しみ、妻が死に、自分も死ぬ・・・。
Kが目覚めることは、もうなかった。
一方、Kの見た夢のような、理想の人物であるSも、不思議な夢を見ていた。
親の金が無くて、高校には行かず、バイトもせず、親の脛をかじっているような生活・・・。
「不快な夢を見た。私は完璧な人間なのだ。このような夢を見てはいけない。おうい、Dよ。」
Dとは、Sの妻の名前である。
「おうい、D。返事をしなさい。」
だが、Dの声は聞こえない。
「まだ寝ておるのかね・・・。ま、とりあえず歯磨きをしよう。ん・・・?」
Sは、自分の体の異変に気づいた。背が高いのである。
「あれ・・・?昨日、牛乳をたくさん飲んだからかなあ。」
他の異変にも気づいた。部屋が狭く、間取りが明らかにおかしいのである。鍵つきのドアがある。
「ふむふむ、じゃあ私は、どこかに閉じ込められているというわけか。これは大変だぞ。誘拐だぞ。」
Sは恐る恐るドアの鍵を開けてみる。目の前に、田園風景が広がっていた。
「田舎まで連れ去られたのか?」
そこで、自転車に乗ったおばさんがやってきた。
「あら、Kさん。仕事は、まだ決まっていないの?」