05:明日を掴むために
「私、卒業式の夜、いつも同じ場所に連れていかれるんです」
九周目のとき、仲間になったキャサリンがそう言った。
「一年間学園に通っただけなのに、あれだけ人びとを魅了するのは、もしかしたらおかしな力を使っているかもしれないと言われて。だから『神の宝玉の間』で一晩すごして、その身の潔白を証明してほしいって」
毎回、王の特命のもと、城からの使者が来ていたらしい。
「『神の宝玉』ってのは、神なんかじゃなくて、悪魔を封印した水晶だよ」
そうゼロが言った。
「そしてキャサリン。君には、その悪魔が好みそうな、強大な魔力が宿っている。君が水晶のそばで一晩過ごそうものなら、悪魔はその魔力を吸い取って、封印解いて復活するね」
「『神の宝玉の間』で祈りを捧げていると、いつも意識が飛んで、そこで一年前に戻っていたようなんですが、それは――」
「うーん。たぶん、悪魔の封印が解かれるのを阻止したい、本物の神の意志、かなあ」
ゼロは、ステラに視線を向ける。
「近くに、ここまで悪魔が嫌いそうな魔力を持った人間がいるんだ。きっと偶然じゃない」
ゼロによると、ステラにも強大な魔力が宿っているらしい。
キャサリンと違い、悪魔のもっとも嫌う類のものだという。
力がすべて解放されれば、悪魔をより強固に封印してしまうらしい。
「そういえば、前世のゲームの流れだと、毎回私とキャサリンとキャサリンの恋人が『神の宝玉の間』で一晩過ごす流れになってたわ」
その後のステラについて描写はない。
『神の宝玉の間』に三人が入った。と書かれた後は、一か月後に時間が飛び、幸せそうに過ごすキャサリンと恋人のシーンがあるだけだ。
悪人は死ぬ部屋という設定だから、ステラは自分が死ぬのだと思っていた。
だがゼロによると、魔力を使い切って廃人になっているくらいだという。
いやそれ、死ぬのとあまり変わらないんですが……。
「ステラがその『神の宝玉の間』に入り、悪魔の復活を阻止しなくてはならない、ということだな」
フレンが確認すると、おそらく、とゼロは頷いた。
悪役令嬢に転生した以上、破滅するのは宿命だったのか。
ステラが犠牲になるしか手だてはない――。
「あ、でも大団円ルートだと、ラストに私も含めた全員で過ごしてるシーンがあったらしいわよ。私、そのルートを攻略してないから噂だけど……」
「ステラの言う、攻略対象キャラ……の俺たちもそれなりの魔力があるんだよ。俺たち全員があの部屋にいれば、ステラが魔力を使いきって廃人になるのを防げると思う」
問題は、大団円ルートの詳細をステラが知らないことだった。
どうやって全員が『神の宝玉の間』に入る流れになるのか、わからない。
そのため、フレンルートの流れをなぞり、フレン、キャサリン、ステラが『神の宝玉の間』に入れられる際に、うまく他の五人も潜り込むことになった。
嫌がらせイベントだのを起こしてはいても、裏では確かな友情で結ばれている。
実質は大団円ルートだったとステラは思う。
九周目にも発生した全員で一緒に遊びにいくイベントが、再度起こったりした。
いける。今回こそいける――。
希望を捨てず、八人みんなで頑張った。
***
断罪イベントの日の夜。
「お前たちは、もう下がれ」
「しかし……」
「ここまで来て、ステラも抵抗はすまい。この部屋に自ら入ると宣言した私やキャサリンが直前で怖気づくわけもない」
フレンの言葉で一緒にいた兵士や、大臣たちが去っていく。
『神の宝玉の間』の前に、ステラたち三人が残された。
「お前たち、来ているか?」
「ここにいる」
ゼロの返事と共に、彼の魔法で姿を消していたハリー、ヘイズ、ヒース、ホーリーが現れた。
塔の上にある『神の宝玉の間』の扉は、特殊な鍵で施錠されている。
中に入るには、王の許可のもとその鍵を持ち出さなくてはならない。
しかも扉には他にも特別な魔法がかけられていて、姿を消したままでは中に入れないのだ。
「とうとう決着がつくのね」
ステラは誰に対してでもなく言う。
長かった。
ここまで、本当に長かった。
同じ一年を何度も繰り返すのが、あんなに苦痛だとは知らなかった。
「何があっても、俺が守るから」
ステラの隣にそっとゼロが立つ。
その様子を見てフレンが苦笑しつつ、鍵をみなに見せるように持ち上げた。
「では、行こう」
全員で頷く。
扉は開かれ、ステラたち八人は力強く中へと歩みを進める。
すべては、明日という日を迎えるために――。