04:そして10周目がやってくる
九周目。
超強力なキャラが仲間になった!
とうとう、主人公キャサリンがすべてを思い出し仲間になったのだ。
みんなで協力して、このループを抜け出そう。
そうして、みなの心が一つになる。
素晴らしい光景……。これこそ大団円……。
と考えたことで、恐ろしいことをステラは思いついた。
もし前回が女友達ルートだったとして。
この乙女ゲームに残された、ハッピーエンド、グッドエンドと呼ばれるのは、あとはステラ含めた全員と主人公が仲良くなる、まさに大団円ルートのみなのだ。
巻き戻り現象は、すべてのハッピーエンドをなぞれば終わりではないかと勝手に考えていた。だが、もし間違っていたら?
卒業式の次の日を迎える条件が他にあって、それを満たしていないから巻き戻っていたとしたら?
そしてその条件を満たすためのチャンスは、ハッピーエンド・グッドエンドの回数しかないとしたら……。
もしそうだとしたら、今回が最後のチャンスになる。
ステラは疑惑をフレン達に話した。
そしていくつかの事実を突合せた結果、ある予測を立てた。
だが予測した条件を満たすには、もう間に合わない。
ステラは攻略対象たちを指揮して、全力で大団円ルートが潰れる行動をさせた。
強制的にバッドエンドにもっていき、次の一年に望みを託す――。
そして卒業まで1か月を切ったギリギリのタイミングで、なんとかバッドエンド分岐に成功した。
***
十周目。
ステラを含めた八人の仲間たちは、今回こそ卒業式の次の日を迎えると心に決めた。
まず、キャサリンはステラの婚約者フレンと仲良くなる。
ステラは嫉妬してキャサリンをいじめる。
そのせいでフレンはステラをうとましく思うようになる。
フレンの取り巻きのヒースたちも同じく、キャサリンの悪行に怒りを覚える。
という本来の乙女ゲームのフレンルートを再現した。
フレン以外のルートでもよかったのだが、全員の演技力等を考えると、これが一番成功率が高そうだったのだ。
卒業式のあとに、社会的評価をできるだけ回復できるよう、嫌がらせ等の加減を絶妙にうまく調整した。
不幸な勘違いだったとか、本当に悪いことを考えてるやつが裏で操ったせいだったとか、そうなるように証拠を用意したり、やりすぎないようギリギリを見極めたり……。
特に、周囲に存在を知られていない、隠しキャラの最強魔法使いゼロがめちゃくちゃ頑張ってくれた。
……そして今。
ようやくクライマックスの断罪イベントにたどり着いた。
断罪直前にあまり交流を持つのはよくないと、段取りはフレン達に任せていた。
なかなか恥ずかしいセリフやちょっとすべってる前フリなんかは、誰が考えたのだろう。芸術家天然キャラのホーリーか、とステラは予想する。
「私との婚約は神の前で約束された神聖なもの。破棄だの、別の女性と新たに婚約だの、そんな簡単におっしゃってはいけません……!」
ドレスをぎゅっと握りしめながら、婚約破棄を口にしたフレンに言い返す。
広間中の視線が自分たちに集まっているのを感じていた。
想像以上の緊張感に、口の中がからからだ。
「わかっている。だからこそ私は――誰が正しいのかを神に問おうと思う!」
ざわっと周囲がどよめく。
「私とキャサリン、そしてステラの三人で、今宵は『神の宝玉の間』で祈りを捧げる!」
「そんな、そこまでしなくても……!」
とっさに声をあげたのは、ステラの父だ。
『神の宝玉の間』とは、その名の通り、『神の宝玉』と呼ばれる水晶玉が安置されている部屋だ。
ここで一晩祈りを捧げると、神が悪だと判断した者は死に、罪はないと判断した者は生きる。
「神に誓った婚約を破棄すると宣言したのだ。私はこの身の正しさを神に問いたい」
かっこよくフレンが決めた。
彼の演説に影響されたのか、他の生徒たちが口ぐちに賛成の声を上げはじめた。
大人たちはもう少し冷静なようだが、勢いを止めることはできない。
「父上、許可を」
「……よかろう」
未来をしょって立つ貴族の子息たちの声に、王もここで反対するのはうまくないと判断したのだろう。
フレンに、『神の宝玉の間』の使用を許した。
やった、成功した……!!
フレンたちの顔にも安堵の表情が広がる。
私たち、やりきったんだね……!
涙を浮かべながら、ステラは心の中でそう叫んだ。