03:繰り返される一年
五周目。
今回はヒースは仲間にならなかった。
キャサリンが入学する前の日。
ヒースの屋敷を尋ねたステラ、フレン、ハリー、ヘイズは、それとなく話を振ったものの、冷たい目で見られて終わった。
やっぱりバッドエンドルートだったから……。
そんな呟きをつい漏らしてしまい、ステラはフレン達に問い詰められ、とうとうこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームに似ていることを白状した。
バッドエンドでは時が巻き戻る上に仲間も増えない。
これは何も前進していない。
ということで、とりあえずキャサリンの恋がちゃんと成就するよう見守ることになった。
前世の記憶を駆使し、キャサリンとヒースの恋愛イベントが成功するよう、協力してシチュエーションを作り上げる。
断罪イベントでの苦い記憶を超えて、ステラたちは戦友のような関係へと変わっていった。
そして卒業を祝う晩餐会がやってくる。
ステラはキャサリンへの嫌がらせ云々の犯人――の一味として、とばっちり断罪をくらった。
しかし確実に罪は減っている。きっとこれは進歩だ。
そして、夜寝て、朝起きたら――。
***
六周目。
参謀キャラ・ヒースが仲間になった。
前世の乙女ゲーム知識によると、残る攻略対象はホーリーのみ。
ステラ指揮のもと、五人でキャサリンとホーリーの恋路がうまくいくよう、全力投球した一年だった。
すべての攻略対象との恋愛ルートを最後まで迎えれば、このループは終わると考えたのだ。
ちなみにフレン達は巻き戻り現象への混乱でいっぱいいっぱいなのに加え、他の男性との恋愛模様を見ているうちに、キャサリンへの想いは薄れたらしい。
可愛い妹分だね、とフレンは達観した顔で笑っていた。
キャサリンは同じ歳ですよ、と控えめに突っ込んでおいた。
逆にステラとフレン達の中は深まっていったが、ステラのほうは彼らのことを戦友という目でしか見れなくなっていた。
どっかにかっこいい隠しキャラとかいて、劇的な出会いでもして恋に落ちたりしたら楽しいなーとステラは逃避気味に考えたりした。
断罪イベントは、やっぱりとばっちり断罪をくらった。
でもそんなことは、小さなことだ。
大事なのは、これですべての攻略対象キャラが主人公キャサリンと恋愛し、上手くいったということなのだ。
ようやく、ステラたちは卒業式の次の日が迎えられる。
夜寝て、朝起きたらきっと――。
***
七周目。
芸術家天然キャラ・ホーリーが仲間になった!
もう意味がわからない。
なにが正解なのか……。
これ以上、攻略対象キャラはいない。
キャサリンは今回、誰と恋に落ちるつもりなのか?
と考えたところで、ある記憶が蘇った。
このゲーム、隠しキャラがいたわ。
間違いなく今回、キャサリンは隠しキャラと恋に落ちる。
しかし前世のステラは隠しキャラを攻略していなかった。
つまり、自分たちがどう動くべきかがわからない!
唯一ある情報は、隠しキャラは本当に最後の最後まで他のキャラの前に姿を現さずに終わるということだけだ。
六人でキャサリンのことを注意深く観察し、互いへの報告を欠かさず、こうなればヤケだとステラがキャサリンの恋の悩み相談友人役までやって、なんとか卒業を祝う晩餐会を迎えた。
よくわからないが、断罪イベントは、とばっちりでやっぱり責められた。
正義感の強い一部の生徒たちが、キャサリンに嫌がらせした犯人とその一味を告発したのだ。
そこに巻き込まれてしまった。
第二王子のフレンが証拠不十分を指摘し、曖昧に終わったが。
ようやくすべてが終わった。
明日の夜は、みんなで祝勝会だね――。
そんな会話を交わして、フレン達と別れた。
前世で言うフラグっぽい会話だと思ったのが、悪かったのかもしれない。
夜寝て、朝起きると――。
***
八周目。
隠しキャラ・封じられし最強魔法使いキャラ・ゼロが仲間になった……。
みな、疲れ切っていた。
バッドエンド回避のため気の抜けない一年を過ごし、そして辿りつくのがこれでは諦めムードが流れても仕方ない。
今回は、好きに一年を過ごそう。きっと、そんな一年があってもいい。
そう決まって、自由な一年を過ごした。
なぜかステラはキャサリンに懐かれた。いい子ではあるので、それなりに仲良くした。
……あと、ゼロといい雰囲気になった。
なんと彼は、この巻き戻り現象という異常事態に薄々気付いていて、前回の七週目ではキャサリンと恋仲になったフリをして様子を見ていたらしい。
驚いたと同時に気になるのは、ゼロがまだステラに何かを隠しているようだということだ。
でもいつか話してくれるだろう。
そう思いながら一年すぎた。
もはや言いがかりもここまでいくと感心するわ、というレベルの断罪イベントでは、被害者当人のキャサリンがステラをかばってくれた。ありがとう。
あ。これはもしや主人公が誰とも恋仲にならない女友達ルート……?
断罪された夜、寝る直前にそう思い至った。