世界一の大富豪
ここは何処にでもある、剣と魔法の異世界。
「あー、金が欲しいな」
そして、彼は山形県米沢市に住む28歳の男(独身)だ。
「こう言う時は神頼みだな」
偶然寂れた神社を見つけた彼は、平たい石コロを賽銭箱へと投げ入れ、力の限り祈った。
「神様! 俺を金持ちにしてくれーーーー!!!!」
彼の願いが神社に木霊する……。
「って、そんな簡単にいくわけないか(笑)」
彼がクルリと引き返した瞬間―――
「……その願い、聞き入れたぞ!!」
「な、何だ!?」
低い地響きみたいな声がどこからともなく聞こえた。彼が狼狽えていると、激しい雷光と共に一人のオッサンが現れた!!
「な、何だこのオッサンは!?」
「どうも。神様だよ♪」
「な、なんだ……神様か」
彼は神の神々しい姿に冷静さを取り戻した。
「この神社で願い事をするやつが久々に来たものだからな、願いを叶えてやったぞ?」
「え!? ……でも俺金持ちになった感じがしないんだけど?」
「ハハハ……お前以外の全てを底無しの貧乏にしてやった。これでお前は世界一の大金持ちだ!!」
「な、何だってーーーー!?」
彼は驚き慌てて神社の外へと駆け出した!
「な、なんてこった…………」
すると、そこにはボロ切れを身に纏う老若男女の姿があった! 車は一台も通ること無く、信号機はボロボロに朽ちている。民家は段ボールハウスへと変化しており、オフィス街も全てが段ボールだ!!
「……なっ!?」
道端の自動販売機をふと見ると、全ての商品が5円になっており、段ボールで出来たガソリンスタンドでは手書きの看板に『レギュラー 6円/L』と大きく書かれていた。
「ど、どう言う事だ!? 物価がやたら低いぞ!?」
「くくく……ついでに全ての値段も下げておいた。これでお前の貯金でも遊んで暮らせるだろう……」
オッサンはニタニタと汚い歯を見せ笑っている。事実、まともな服を着ているのは彼一人であり、彼は今この世界で唯一人浮いた存在となったのだ……。
「そんな……!!」
彼は再び走り出した。そして街の様子を見て回った―――!
牛丼3円、ポルシェ3000円、最新式スマホ30円、大型エアコン50円…………。
彼は目に映る全ての金額に愕然とした。道端では落ちている1円を巡って殴り合いの喧嘩が行われており、『飲み放題10円』と書かれた居酒屋には誰一人として入ろうとしない。
「……本当に……俺が世界一の大金持ち…………?」
「ああ」
オッサンがどこからともなく現れニタニタと笑う。
「……ヨッシャー!!」
先ずは牛丼屋へと入り、特盛を注文した!
「お待たせしました……」
しかし、待たされた挙げ句出された牛丼には小さな肉片が二切れしか入って居なかった……。
「……え?」
「くくく……牛丼屋も『貧しい』からな。そりゃあ肉も少なかろうに……」
隣で黙々と白飯を頬張るオッサン。ゲップをすると一人店の外へと立ち去った。
「そんな……そんな……!!」
居酒屋では限りなく薄いビールに限りなく少ない貧しい料理の数々。彼はとても満足出来なかった。
そして彼は夜の歓楽街へと駆けた! そして如何にも高そうな段ボールで出来たキャバクラへと足を踏み入れたのだ!
「……いらっしゃい……ま……せぇ!?」
ボロを纏うママと思しき女性が、彼の姿を見て驚いた表情を見せた。
「キャー! 大富豪様よ!! 皆、失礼の無いようにしなさい!!」
店中の女の子が彼の回りを取り囲んだ!
「ウヒョ! ウヒョヒョ…………?」
思わず顔が綻ぶ彼だったが直ぐに真顔へと変貌し何かに気がついた。
(……巨乳ちゃんが……居ない!?)
見渡す限り女の子は全て超ド貧乳であり胸タイラーでありムネタイラさんに3000点だった……。
「くくく……そりゃあお前以外『貧しい』からな……」
いつの間にかソファーに座り限りなく薄い酒をグビグビと飲むオッサン。しかし他の人にはオッサンの姿は見えていない様だ。
「そ、そんな……!!」
彼は店を飛び出し道行く人の乳を視姦して回った! ボロしか着ていないので乳の大きさは直ぐさまに分かり、そしてその貧しさに彼は絶望した。
「お、終わった…………」
こうして彼は、世界一の金持ちになったにも関わらず、変わらず質素な暮らしを送り続けたという…………
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