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苦手な方はご注意ください。

強欲王の外道錬金物語シリーズ

強欲王の外道錬金物語1

作者: 穂麦

 ~強欲王の物語~


 600年前。

 この地に楽園と称される国があった。

 国に住む者は誰もが飢えることはなく、いかなる病とて癒やされていた。


 だが、いつしか王は欲に駆られそれ以上を望むようになる。


 世界の全てを欲し戦争を引き起こした。

 偉大な錬金術師であった彼は、神秘の秘術により無数の悲劇を生み出す。


 だが己の手に納まりきらない物を望む者の末路は一つしかない。

 最期、強欲なる王は魔神と化し英雄達に滅ぼされた。


 それでも悲劇は終わらなかった。

 王は死の間際に、自らの国を巻き込んで消えたのだ。

 己の所有物が奪われるのを許せなかったのだろう。


 多くが失われた。

 楽園に住む多くの命も、高度な文明も。

 残されたのは戦果の痕のみであった。


 *


 ~始まり~


 ヴァールナ王国。

 王が貴族の傀儡となり、世代が変わるほどの年月が経った。

 欲に溺れた者達によって国力は弱まり、名ばかりの大国になり下がっている。


 リクレイン家。

 ヴァールナ王国の伯爵位を頂く一族。

 だが既に伯爵の位は肩書きが残るのみ。

 財は破綻しかけているだけでなく、借金を重ねるという愚を続けていた。

 だが、それは今を持って終わりを迎えることとなる。


 *


 既に実は無くとも、伯爵家というだけあり屋敷のある土地は広大だ。


 しかし調度品を見れば落ち目である事は分かる。

 いずれも趣味は悪く、素材も粗悪。


 見る目の無い者が集めたガラクタ。

 そうとしか評価のしようのない物ばかりだった。


 悪趣味な調度品の並ぶ1階を抜けた先。

 屋敷の2階はまだマシだ。

 運ぶのが大変であるため、自然と大きめの存在感のある品は少ない。


 特に奥にある長子の部屋周辺。

 そこには調度品が一切見られないほどである。


 望んでのことではない。


 与えられなかったのだ。

 最低限の物ですら。


 女主人として振る舞ってきた、目の前で倒れる者に。


「……なんということを」


 目の前の光景を信じられず、しばらく茫然としていた初老の執事。

 ようやく言葉を口にしたが、あまりもの凶事故に現実をまだ受け入れきれていなかった。


 倒れたドレス姿の女性。

 その背には、成人男性の背丈ほどはあろうかという大剣が生えていた。


 この状況を見ているのは執事だけではない。


 もう一人。


 誰も触れていないにもかかわらず、剣が女性の体から抜ける。

 そして宙に浮き、惨劇の犯人たる少年の傍らにまで帰った。

 

 アーシュ。

 リクレイン家を本来継ぐはずだった男子。


 銀色の髪に紫色の瞳。

 それは確かにリクレイン家の血統を色濃く持つ者の特徴であった。


 継母の死体を見る目は冷たく、とても8歳の少年の物ではない。

 そして僅かにあった女への関心も長く保たなかった。

 視線を執事へと向け、微笑んで訊ねる。


「ねぇモリス。君は誰に仕えるんだい?」


 執事は恭しく頭を下げる。

 従者としての礼をとっているようにも見えた。

 だが、それは見せかけのみ。


「私はリクレイン家に仕える身でございます」


 この継母には子がいる。

 とうぜん継母は、そちらをリクレイン家の当主にしようとしていた。


 継母の方が家格は上。

 アーシュが伯爵であるのに対し、相手は侯爵家。

 本来はルール違反ではあるが、家督に口出しをすれば追随する者たちも多く諦めざる得なかった。


 だが、もう夢の結末を見ることはない。


「ズルい答えだ」


 言葉だけ聞けば不快を感じたと言えるだろう。

 だが、彼の表情には笑みが浮かんでいる。


 その笑みは、決して子どもの見せる純粋な物ではなかった。

 執事のズルさを楽しんでいるような、人生の酸いも甘いも噛み分けて来た年長者の笑み。


「コレをあげるよ」


 差し出されたのは黄金のレイピア。

 先程まで、彼がこんな物は持っていなかったはず。

 だが、疑問を挟む余地など与えられなかった。


「君が選ぶといい。僕とカルシャ、どちらが次のリクレイン家の当主かを」


 貴族の血統とはいえ、目の前の少年には有り得ないほどの凄味があった。


 先程まであった執事の打算。

 適当な言葉で茶を濁し、安全な場所に立とうという想い。

 従者としてあってはならない侮りは既に霧散していた。


「いらない方を殺すんだ」


 与えられた黄金のレイピアは、思いのほか軽かった。

 だがこの手の武器の扱いに慣れた彼には理解できていた。

 計算し尽くされた重さであると。


 知らない。


 長くリクレイン家に仕える彼も。

 このレイピアを触れたことはおろか見たことは無い。


 名器とすら評せる武器なのだ。

 長く仕える彼が目にしないことなどあるハズがないのに。


 もっともリクレイン家にあったとすれば、売られて悪趣味な調度品に変わっていただろうが。


 このレイピアは軽い。

 だが重い。


 アーシュは言ったのだ。

 ”お前が選べ”と。


 ずるい問いかけだとモリスは思う。

 目の前に立つ紫眼の少年以外を選べば、間違いなく自分は殺される。


 継母とはいえ身内すら殺したのだ。

 執事を殺すかどうかで躊躇うことなどないだろう。


 少なくとも自分を害しようとした者を前に、無抵抗を貫き通すとは思えない。


 ああ、なんとも軽く重いレイピアだ。


 *


 1週間後。

 リクレイン家当主の後妻と、その息子が賊により命を落としたことが発表される。


 この結果、リクレイン家を継げるのは血筋からアーシュのみとなった。

 

 そして裏ではある噂が流れる。

 後妻の気狂いで子を殺害しようとし、そのときに階段から転げ双方が共に亡くなったという、貴族にとって大きな恥となる噂が。


 これは後妻を送り込んだ侯爵家への明確な敵対行為。


 アーシュによる反撃の狼煙であった。


 *


 ~領の再建~


 ずいぶん喰い荒してくれたものだ。


 早朝の光が眩しい執務室。

 アーシュは、体に合わない大きな机で書類を眺めていた。


 確認しているのは決算書。

 内容が酷過ぎて、苦笑いを浮かべるしかなかった。


 継母が買い漁った悪趣味な調度品は大半が偽物。


 それだけではない。

 彼女の息子の家庭教師。

 それらすらも評判の悪さで有名な者たちだった。

 にもかかわらず雇用料は通常の3倍。


 あの女は、何をやろうとしていたのだろうか?


 調度品は見る目が無かったで済ませられるが、せめて自分の息子の講師位はまともなヤツを集めるものだろうと彼は思う。


 余りにも継母の頭が酷過ぎて、怒りを通り越し、更には呆れすらも通り越して苦笑いを浮かべるしかなかった。


 だが、いくら笑えるからといっても決算書をずっと眺めているわけにはいかない。


 あの女の頭も酷いが、それに巻き込まれた我が領土はそれ以上に酷い状態なのだ。

 すぐに行動に移さねばならない。


「ガラクタの移動は終わったかい?」


 先のことに憂いを残しながらも、問題解決に動き出したアーシュ。

 最初の行動は、側にひかえる執事モウルへの指示だった。


「はい。指示通り、素材ごとに分けて離れにまとめてあります」

「そう」


 執事モウルの言葉を聞き、今後のプランを頭の中で反復する。


「死刑囚の方は?」

「盗賊狩りを行いましたので、本日の12時にコチラまで連れてくる予定です」


 モウルの言葉に黙り込むアーシュ。

 だが沈黙は僅かな時間。


「……そう」


 沈黙の後に出たのはたった一言。

 だが年齢にそぐわない言葉の重みをモルスは感じていた。


 *


 屋敷の裏にある庭。


 かつてバラ園だった場所。

 今は荒れ地が広がるのみ。

 例に漏れず、継母が手入れの費用を己の宝石に変えてしまったためだ。


 この場所は、あえて屋敷の死角となるように作られた特別な場所。

 あえて賊が隠れやすくすることで、侵入者の居場所を特定しやすくしていた。


 館の主が悪さをする場合には、都合の良い場所と言える。

 死角となる場所であるため、他人に見せられない悪さを行うにはちょうどよい。

 

 6つの穴が掘られた。

 中を覗くと、持ち運ばれた趣味の悪い陶器が放り込まれてる。

 穴は深く、投げ込まれた陶器は砕け残骸となっていた。


「ごくろうさま」

 

 アーシュの言葉に陶器を投げ込んでいた男が手を止める。

 そして、執事のモリスと男は僅かに話すと、この場には最小限の人数のみが残った。


 今いるのは、3人と素材のみ。


 多くの者に見せるわけにはいかない。

 これから行う邪悪なる儀式を。


「じゃあ頼むよ」


 アーシュの言葉にモリスが動いた。

 物置小屋に行くとノックを3回。

 すると扉が内側から開けられ、2人の男が出てきた。


 鋭い目の男と、縄で体を縛られ口には猿ぐつわをされた男。


 己の身に迫る危険を感じ取り、当然のように抵抗を試みる。


 だが無駄な怪我を増やすだけだった。


 地べたに転がされると腹を蹴られる。

 それだけで抵抗は終わった。


 抵抗がないのを確認すると、目つきの鋭い男は引きずって連れてきた。


 モリスが目で合図をすると、縛られた男が穴に放りこまれる。

 その穴は、先ほど陶器を放りこんだ穴。

 砕けた陶器が、男の肌を切り苦悶の表情を浮かべたが誰も気にする者はいない。


 男は死刑囚。

 盗賊行為を行い、何人もの人を殺めた。

 この世界で盗賊行為に走れば、人権を考慮されることは無い。

 ましてや殺人を犯せば、火あぶりにされるのが当たり前だ。

 故に、彼のキズを心配する者は誰もいない。


 男の様子を確認すると、アーシュが右手を僅かに動かす。


 手の動きに合わせ、何も無い空間から大剣が姿を現した。


 成人男性並みの大きさのある剣だ。

 鈍い銀色をした刀身には、不気味な赤い模様が描かれている。

 それは、まるで血が自らの意思で絡みついたかのような文様。


 見るだけで本能が警告する。

 これは人の道に反した道具であると。


 しかしアーシュが意にかいすることなどない。

 まるで何度も経験したかのように、手続きを踏んでいく。


「これを」


 アーシュは、執事モリスに白いカードを渡す。

 名刺程度のサイズのカードには、不可思議な模様がそれぞれに描かれていた。


 モリスは、男を放りこんだ穴を囲むようにカードを並べる。

 1枚、2枚……と己が禁忌に踏み込もうとしていることを理解していた。

 だが手を止める様子はない。


 その選択肢は与えられていない。


 彼は知っている。

 本性を見せたアーシュを目にしたときから。


 主は善悪の区別がない狂人ではない。

 善悪を知っているし、慈悲の心がどのような物かも理解している。


 ただ必要であれば善悪の境界線を踏み越えるし、慈悲の心を食い物にすることもできる。


 そこに一切の戸惑いを見せない。

 主は狂気の熱ではなく、理性の冷たさで人道を踏みにじれる存在なのだ。


 恐ろしい。


 狂人の限界以上の狂気を理性で再現する。

 いくら狂おうが些細な綻びで狂人は弱者になり下がるが、主は行動原理が理性にあるため綻びが生じることもない。


 従わなければ、理性が自分を殺す。


 しかし。

 従者としての悦びを感じざる得ない。

 恐ろしくはあるが、同時にどこまでも高みへと昇り続ける頼もしさがある。


 モリスは黙々とカードを並べていき、やがてアーシュの後ろへと戻った。


 準備は出来た。

 穴の中では、死刑囚が怯えた目でコチラを見ている。

 猿ぐつわをしていなければ、騒ぎ立てていたかもしれない。


 穴の周りに並べたカードを確認する。

 そちらも問題は無い。


 一通り確認し終わると、アーシュは宙に浮かぶ大剣に指先で指示を出す。


 そして、まっすぐに死刑囚へと突き刺した。


 猿ぐつわが声を出させなかった。

 だから声で彼が生きているのか判断することは出来ない。

 しかし、あの大剣が突き刺さったのだから致命傷は避けられないハズだ。

 そのハズだった。


「グ……グゴァ」


 だが、穴の中で男は一切の血を流してはいない。

 体を大剣が貫いているにもかかわらず。

 くぐもった声で声にならぬ声を発しているが、それだけだ。


 冷たい目で男を見下ろすアーシュ。

 目に人に向ける暖かさは無い。

 まるで物を見るかのような目。

 それは、決して人に向ける目ではなかった。


 次の作業を命じる。


 煮詰められた油が流しこまれた。

 生身で浴びれば全身が焼け爛れ、皮膚が意味を成さなくなるほどの油が。


 だが、穴の中に沈んだ死刑囚は生きている。

 大剣に貫かれた痛みと、皮膚に焼かれる苦しみと、呼吸を許されぬ辛さを味わされながらも。


 なぜ、これ程の事態であるにもかかわらず彼は生きているのか?


 誰の目にも明らかだ。

 男に突き刺さった大剣が放つ赤い光が答えであることは。


 油が穴に満ちたのを確認すると、アーシュは一枚のカードをどこからともなく取り出した。


 先程、執事のモルスに並べさせた白いカードと似ている。

 だが存在感というべきか、何かが根本的に違った。


「……イスラの炎」


 アーシュの呟きと共に、カードが黄金色に燃え始めた。

 自然界にある色ではない。

 まさしく真なる金とも言える黄金色。


 アーシュが燃えるカードを穴に放り投げた。


 辺りが黄金色に染まる。

 油に触れた黄金色が一気に膨れ上がり、閃光として空気を己の色に染め上げた。


 だが、それは一瞬。


 こちらが見えない場所で警戒していた兵士達。

 彼らが慌てたが、すでに伝えてあったことだ。

 錬度は低いが、まともな指揮官がいたため問題なく落ち着いた。


 未だに油は燃えている。

 油の奥底に沈められた男が、これまで以上に苦しんでいる。

 両手足を縛られ、口には猿ぐつわ。

 まともに動けぬ体を無理やり動かし、己の苦しみを主張している可能ようであった。


 だが、その様子はじきに見えなくなる。


 穴の底に敷き詰められた陶器の破片が黄金色に変わると、男の体も同じ色に変わり始めた。

 油も色を変えていき、全てが黄金へと変わった。


 呪われた黄金。

 600年前、そのように呼ばれていた金塊の完成だ。


「次を」


 黄金の完成を見届けると、アーシュは次の囚人を連れて来るように伝える。


 人の道に反する邪法。

 非道に身を置いてきた鋭い目の男すらたじろいだが、アーシュの目はそれを許さなかった。


 ただ視線を向けられただけ。

 それだけで男は残りカス程度の理性を捨て、次の死刑囚を連れに戻った。


 しばらく続け3人目を終えた頃。

 幼い体が限界を迎えた。


「お疲れさま。今日はこれでおしまいにしよう。金は後で僕が加工をするから屋敷に運んでおいて」


 限界まで力を酷使したアーシュ。

 彼は邪法の終了を笑みで伝えると、屋敷へと戻っていった。


 *


 ~強欲王の遺産~


 賢者の石。

 かつて強欲王と呼ばれた者が持っていた秘石。


 伝説にあるような”全てを識る石”というような代物ではない。


 基本として行えるのは、記録させた情報を次に伝えることだけ。

 転生したとき細胞を賢者の石に変えて、自らの複製後に膨大な情報を与える。


 アーシュは、この賢者の石を通して邪法とも呼べる錬金術を学んだ。

 強欲王と呼ばれた者の経験も含めて。


 しかし強欲王の人格を引き継いだわけではない。

 あくまで賢者の石を通して、転生体である彼が知識を引き継いだに過ぎない。


 だから、アーシュは強欲王の知識を全て引き継いだ弟子のようなものだ。

 もっとも、知識が多少は人格に影響を与えることにはなったが。


 そんな賢者の石には副産物ともいうべき、もう1つの効果がある。


 世界と繋がり膨大な情報と接続できる。

 だが、意図して世界の知識を吸い上げることは不可能。


 それでもだ。

 この特性は条件を満たしたとき、ある幻を見せる。


 *


 部屋に差し込む陽光。

 朝の清んだ色ではないが、夕方の重さを感じる色でもない。


 昼だ。

 正午を少し過ぎた位に指す陽光。


 アーシュは目を覚まし、ベッドから上半身だけ置き上がらせていた。


「……母娘おやことペンダントか」


 彼は先程見た夢を思い返していた。

 賢者の石が見せた夢だ。

 

 見せられたのは、母娘とペンダント。


 母娘にもペンダントにも覚えがあった。

 確か──記憶の詳細な部分を思い出そうとしたところで頭痛に見舞われた。

 賢者の石が発動したせいだ。

 脳にかなりの負担を掛けてしまった。


 今すぐ休みたいところである。

 だが、二度寝をすれば間違いなく忘れてしまうだろう。


 少し辛いが、枕元のベルを振る。

 すると部屋の外に控えていたメイドが、すぐさま部屋に飛び込んできた。


 主の目覚めを喜んでいるように見える。

 僅かな時間だけ動きを止めたのがその証左。

 だが、すぐさま普段通りの冷静な姿をメイドは見せた。


「メモをしたい。書く物を頼むよ」

「かしこまりました」


 親しみを感じる優しげな声と共に動く。 

 彼女はすぐさまペンとインク、そして羊皮紙を板の上に置くとアーシュの元へと戻った。


「こちらを」

「ありがとう」


 道具を置いた板ごと受け取るとすぐさまメモを始める。

 書かれるのは、夢で見た母娘の特徴とペンダントの簡単な絵。

 上手とは言えない絵ではあるが、文字と一緒であれば特徴を忘れることはないだろう──多分。


 少し不安は感じたが、一通り書き終わるとメイドに道具一式を元あった場所に戻させた。


 これで一安心だ。

 メモを見れば記憶は思い出せる。


 また頭痛も、時間を置いたおかげか少し楽になった。

 そのおかげか、先程まで気にならなかった喉の渇きに気付く。


「少し喉が渇いた」

「ご用意いたします」


 指示に舌が、メイドは水を用意するためすぐさま部屋を出ていった。


 思い返す。


 寝込んでしまった。

 無茶な錬金術を行ったせいで、賢者の石が発動してしまったようだ。


 発動すると酷い体調不良となる。

 最初は極度の眠気がきて、しばらく眠り続けてしまう。

 目を覚ました後は、いま感じているような強い倦怠感がしばらく続く。

 頭痛の方は1日とかからず解消するだろうから問題はないが。


 賢者の石は、星が持つ全ての情報と繋がっている。

 その情報を引き出すことは難しいが、条件を満たしてしまうと今回のようなことを起こす。


 現在の星に存在する情報から未来を推測して幻を見せるのだ。

 これから起こりうる未来の幻。


 かつては未来視と呼んでいた。


 だが、見られるのは情報の断片。

 今回の例であれば、母娘とペンダントという未来の部品のみ。


 たったこれだけの情報から、適切な行動をしていかなければいけないのが辛い。


 だが、何もしないという選択肢は危険すぎる。

 未来視で見るのは、死を避けるための情報であることが多いのだから。


 しばらく考えていると、再び頭の痛みが強くなった気がした。

 余計な神経を使ってしまったようだ。

 だが丁度タイミングよくメイドが戻ってきた。


「失礼いたします」


 渡されたのは吸い飲みだ。

 コップではなく、なぜか病人なんかに使う吸い飲みで水を持ってきた。


 継母達には冷遇されてきた。

 それどころか何度も殺されかけた。


 だが、一部のメイド達は過保護だった。


 メイドよりも継母達の方が立場は高い。

 だが伯爵家だけあり、メイド達も相応の家柄の者が僅かだがいた。

 辞めさせられる者も多くいたが、立場ある者たちは残りアーシュを見守ってくれた。

 だからこそ、表だった殺害は出来ず暗殺という手段しか継母達は選べなかった。


 このおかげで、賢者の石に込められた強欲王の知識を自分の物にする時間をとれたのだ。


 もしも彼女達がいなければ、賢者の石から知識を得る前にあの世に送られていたことだろう。


 過保護な扱いをされるのは好かないが、美女にされるならむしろ嬉しい。


 それに彼女達は命の恩人だとすら言える。

 しばらくは抵抗せずに、過保護な扱いを受け入れることにした。


 *


 しばらく呪いの金を作り続け、素材・・・が無くなった所でインゴットへと加工する。


 これも強欲王と呼ばれた錬金術師の魔法で行う。

 呪いの金は純度が恐ろしく高い。

 売るのに困るほどの純度だが、裏のルートを使うので問題は無い。

 だから形を整える以外を行う必要はない。


 インゴットの作成に大した時間が掛らなかった。


 これで金銭はなんとかなる。

 問題は食料だが、すでに手は打ってある。


 *


 ~村へ~


 アーシュは馬に相乗りをし、領内の村を目指していた。


 馬車を使うわけにはいかない。

 継母専用の悪趣味でゴテゴテした馬車しか屋敷に無かったからだ。


 こんなのに乗って飢えに苦しむ村に行けば、喧嘩を売りに行くのと同意義だ。

 よって馬車を使うわけにはいかない。


 だから馬に乗っている。

 なぜかメイドと相乗りという形で。


 彼女は過保護なまでにアーシュに尽くしてきたメイドの一人。

 実家が良い馬が育つ地域だったらしく、彼女自身も乗馬を経験してきた。

 このことからアーシュと相乗りをする事となった。


 通常は騎士か兵士と相乗りするハズなのは、アーシュとて分かっている。


 だが基本は恩人たるメイド達の意向には従うつもりでいる。

 それに、男と密着するよりも年頃のメイドと触れ合う方が彼自身も嬉しい。


 また、当たるのも嬉しいと感じていた。

 身長の低い彼の後頭部に。

 何がとは言わないが。


 *


 領主(仮)に従う兵士たち。

 彼が持ってきたのは、大きな鍋といくつもの麻袋。

 それと赤い実。


 痩せ衰えた体の村人たちは、突如の領主(仮)訪問に慌てて集まった。


 アーシュは、たかが8歳の子供だ。

 だが子どもとはいえ貴族の一言で、兵士達の剣は自分達に向けられる。

 このことは、彼の継母によって既に知らされている。


 継母とその子が死に、リクレイン家を継げる血筋はアーシュのみが持っている。


 このことは、すでに誰もが知っていた。

 とうぜん、彼を囲む兵士達も知っているハズだ。

 兵士は間違いなくアーシュの命令に従う。

 

 痩せ衰えた村長は、急いで村の住民を集めた。


 集められた彼らは驚いた。

 兵士達の後ろに立つ巨人に。


 岩が集まって3mほどの巨体となったかのような姿。

 人の姿をしているが、明らかに人ではない。

 ゴーレムだ。


 魔法人形と呼ぶべき道具。

 力仕事で使われることの多い人形。


 説明されても納得は出来なかった。

 だが気分を害すことがあれば、兵士と共に巨人が自分達を襲うかもしれないのだ。

 黙るしかない。


 アーシュは、村人を集めるとすぐさま作業を命じた。


 騎士と兵士を合わせて6人程度。

 そこに何故か来たメイド1人。

 追加でゴーレム3体。


 正式な領主ではないとはいえ、いくらなんでも少なすぎる人数だ。

 そのことは学の低い村人にも分かった。


 事実、少ない人数だ。

 継母達を葬ると、すぐさま人材の選別を開始した。

 汚職をした者とそうでない者とを。


 リクレイン家の裏で働く者たちが集めた情報。

 それを使い、文官、武官に関係なく一気に捕まえた。


 不評だった。

 捕まえた者は、実家が貴族や有力な商人という者も多い。

 そういった者達からは一斉に抗議の声が上がった。


 だが放置すれば、後で面倒になる。

 健全な運営をしようとしても、確実に足を引っ張られる。


 それに、どうせ継母によって最悪になっているのだ。

 これ以上は酷くなるはずもない。

 一種の開き直りの気持ちとなり、遠慮なく行うことにした。


 その結果が、今回の圧倒的な人手不足の中での視察だ。


 人を集めている暇は無かった。

 時間を掛けるほど、飢え死にする領民が増えていく。

 継母が馬鹿をやったおかげで、リクレイン領は限界を迎えていた。

 だから少ない兵の補充としてゴーレムを導入した。


 ちなみに持ってきたゴーレムは、大雑把な動きしかしない。

 戦うような細かい作業とは程遠い存在だ。

 すなわち、見せて脅すだけのハリボテに過ぎない。


 兵士達が動き始める。

 指示を出しているのは、なぜかメイド。


 だが、おかしな話ではない。

 彼らが行っているのは調理なのだから。


 荷車に置いてあった鍋を火にかける。

 湯が沸騰し始めたのを見計らい、赤い液体を注ぎ込んだ。


 赤く染まる湯。

 混ぜ続けて水分を蒸発させると、残るのはトロミの付いた液体。

 熱のせいか色は薄れて、わずかに赤みが残っているだけ。


 出来上がった液体を、よく冷えた水を張った別の鍋に移す。

 少し時間を置いて固まれば完成。


 固まった物をメイドに包丁で切らせると、アーシュは口へと運んだ。


 見た目は赤い寒天。

 率先して食べる者がいなければ、食料とは誰も思わなかったことだろう。


「青臭いが栄養価だけはある。材料となる実を付ける草も3日あれば育つからうまく使うといい」


 貴族であるアーシュ自ら配布物の安全を証明した。

 これで食べずに餓死したのなら、それは村人の責任だ。


 使った種と鍋を置いていくと告げると、担当者を置いて次の村へと向かった。


 *


 ~呪いの金は何処に行く~


 一通りの村や街に種を配り終えたのは3日後。

 村を回って種を配るという作業は、予定よりも時間が掛ってしまった。

 それでも、なんとか次の重要な予定までには済ますことができた。


 屋敷の一室。

 アーシュと執事モリスたち数人と、数十人もの商人が向きあう形で座っていた。

 まるで、不祥事後に見る謝罪会見のような席並びだ。


「忙しい中、集まってもらえたことに感謝をする」


 明らかな上から目線に商人達の眉が僅かに動いた。


 継母のせいだ。

 ヤツが借金をあちこちでしまっくった結果がコレだ。


 借金をした当人ではないが、支払う義務のある立場にある。

 それに8歳の相手に侮りを持たない方が無理だ。

 だから貴族相手とはいえ、商人が良い気がしないのは予想できることだった。

 しかし、馬鹿の行動を予想するのは難しいものだ。


「もう少し誠意という物を見せて頂きたいものですがねー」


 商人(馬鹿)の言葉が室内に響くと、アーシュは手元の資料から身元を割り出す。


「スチュート商会の方ですね」

「それが何か?」


 貴族に対してとは思えないふてぶてしい態度。

 明らかに侮っている。

 隣に座るモリスは眉を顰めるも、その様子に何も思う所は無いようだ。


「スチュート商会は、ワルム山の伐採で地崩れを起こしてワルム村に損害を与えておりますね」


 手元の資料を読み上げると、商人の表情が変わった。

 あれは目の前に座るガキの義母に金を握らせて黙らせたハズ。

 それを持ち出されて、気分がいいハズがない。


「なにを仰りたいのやら」

「私の言いたい事は、彼らがじっくりと説明してくれるさ」


 指示と共に、兵士が部屋に走り込んでくる。

 会場は騒然するも、用があるのはスチュアート商会の者だけだと伝えられて落ち着きを取り戻した。


「こんなことをしてタダで済むと思っているのか!」

「タダで済むからやっているのですよ」


 商人の言葉に切り返したのはモリスだった。

 やはり同伴させて良かったと感心しながらも、アーシュはさらに追い打ちを掛けることにする。


「スチュート商会に与えたワルム山の伐採権に関する契約書には、地崩れによる損害に関する免罪については一切書かれていない。さて一体いくら賠償金を積むことになるんだろうねえ」


 兵士に連れて行かれる最中、なにやら喚いていたがどうでもいい。

 噛み付くようなら、罪を増やしてあげればいいのだから。


「彼だけではない。継母が行ったリクレイン領に関する公文書の偽造について、それなりの数を把握している」


 会場をゆっくりと見回す。

 すでにアーシュを子どもだという理由で侮る物はいない。

 居心地悪そうに眼を背けるものがいるのがその証左。


「この中にも心当たりのある者が多いようだが──私は話の分かる領主を目指すつもりだ」


 普段とは違う口調。

 背伸びをした子供という見方もあったが、先程の出来事の後なのだ。

 貴族に相応しい威厳がそこにはあった。

 

「その証拠としてスチュアート商会に借金を返すとしよう。借りた物を返すのは当たり前のことだからね」

「手配をしておきます」


 場が騒然となる。

 なぜ、無礼を働い者への借金返済を決めたのか理解が出来なかった。


「これが私の誠意なのだが伝わったかな?」


 笑みを向けて問いかけるも、答えが返ってくる事はなかった。


「なるほど。商人に誠意を見せるには借金の返済話ではなく、儲け話をプレゼントした方が良さそうだ」


 主導権は掴んだ。

 アーシュが動くと、モリスが机の横に立つ。


 足を止めたのは机の横。

 緑色の布で覆われた小さな山の前。


「返済話と儲け話の2つの選択肢を用意した。君達とリクレイン領の未来を決める選択肢になるが、好みの方を選ぶといい」


 アーシュの言葉が終わると共に、会場の雰囲気が変わった。


 誰もが布を取り除かれた山を見ている。


 山の正体。

 それは積み上げられた金のインゴッドだった。


「あの愚かな女が君達にした借金。それを完済できるだけの金がココにある」


 どよめく声の中に子ども特有の高い声が響く。


「鑑定については後で君達に行ってもらうが、その前に一つ聞きたい」


 この瞬間、リクレイン家への評価が変わった。

 借金にまみれた貴族から上客へと。


 これだけの大見えを切った上に、後で鑑定を自分達にさせるとすら言っているのだ。

 誰も目の前の金塊が偽物だとは思っていない。


 だが、現実は彼らの思っている程度の話ではない。


 目の前にあるのは高純度の金だ。

 この場にいる商人への借金が倍あっても、容易く返せるほどの価値がある。


「私は考えている。この金を返済のために使うのが領のためになるのか……それともこの金を君達から集めた金として、君達が主導権を持つ大商会を作ることの方が領のためになるのかと」


 誰もが呆けていた。

 前半の言葉は分かる。

 自分達の期待していた言葉だ。


 しかし後半は想像すらしていなかった。


 もちろん目の前の少年、商会の舵取りをするというのなら反対をした。


 だが言った。

 ”君達が主導権を持つ”と。

 すなわち解釈が正しければ、これ程の金塊を自分達の好きに使えるということだ。


「優秀な君たちであるのなら、我がリクレイン家の借金を把握している事だろう。そんな君たちなら予想できるハズだ。目の前にある金でどれ程の事が出来るのかを」


 広がるのは子どもの声。

 だが軽んじる事のできない提言。

 場の様子が変わったことを確認すると、中心に立つ少年は立ち上がった。


「君らで話し合うといい。これらの金を売り払い君らに借金を返済するか、大商会の軍資金とするかを」


 商人達はすでに理解していた。

 この選択は、間違いなくリクレイン領の未来に大きな影響を与えると。


 そしてスチュアート商会に借金を返済するとしたのは、この選択権を与えなかったからだと。

 彼は大きな儲け話から遠ざけられたのだ。


「アーシュ・リクレインは君達の選択に尊重すると約束する。よく話あってくれ」


 そう言い残し部屋を後にした。


 *


 商人が領の未来に関わる選択をする機会がどれ程あるのだろうか?


 困惑、興奮、畏れ。

 様々な思いが錯綜する中で、アーシュが真に必要とする人材は動き始めていた。


 青年は見定める。


 乗り気ではない者を。

 準備の出来ていない者を。

 真意に気付いていない者を。


 彼はチャンスが訪れた時のために、自由に動かせる金を常に用意してある。

 だから動けた。


 執事モリスの指示により鑑定が始まる。

 装飾品を扱う店の者たちを集め、さらに興味のある者たちにも鑑定の許可を与えた。


 青年は待った。


 鑑定を行うのが自然な行動だ。

 だが、前に出れば動きが遅くなりかねない。

 このため、今日は連れてきた部下に鑑定をさせた。


 一瞬でも遅れまいと構えていた。


 鑑定が行われている。

 その様子を睨むように見続けているとおかしな事に気づく。


 黄金を鑑定した者たち。

 その中でも特に貴金属の扱いを得意とする者たちが、驚愕の表情を浮かべていたのだ。


 だが、彼らも商人だ。

 己の真意を商売敵に晒す愚は好まない。

 一人が表情を戻すと、他の者たちも表情を隠す。


 彼らは気付いたのだ。

 鑑定した黄金が、ありえない純度を誇っていることに。

 山に戻す手が震えるが、なんとか黄金を戻すことに成功した。


 唾を飲み込み、声が震えないように気を付ける。

 一度だけではダメだった。

 もう一度飲み込んだ所で、彼は鑑定の結果を口にした。


「……本物です」


 その声に追随するように、他の者たちも鑑定の結果を口にする。


 鑑定の結果が聞こえると、待ち構えていた青年が即座に動いた。

 狙いを定めた数人に声を掛ける。


「私はラング商会のリーンハルトという者です。よろしければ、あなたの借金を買わせて頂けませんか?」


 人懐っこい笑みを浮かべた青年。

 彼の行動に”先を越された”と悔しい思いを胸に他の商会も動き始めた。


 国に影響を与える大商会を作る。

 商人であれば、誰もが夢として見る妄想。

 この夢を追いかけ現実に目を向ける者であれば、他の商会から借金を買わざる得ない。


 リクレイン家からの借金が最も多い商会が勝者となる

 大商会が出来たとき、最も出資をした事になるのだから。 


 *


 青年リーンハルトも含め、この場ですぐさま動いた一部の者たち。


 彼らは知っていた。

 次期伯爵であるアーシュが用意した金の価値を。


 彼の継母が遺した莫大な借金。

 それを返して余る価値がある高純度の金。


 この場にある金の全てを、これから作る商会に与えると聞かされている。


 しかも伯爵家の名を使い、商人達をまとめる。

 その上で、商会の運営は商人達に任せるとも約束してくれた。


 人格と実力が共に信用できると評価された者達は、事前に集められすでに金の価値を見せつけられていた。


 そのように事前に伝えられていた。


 しかも目の前にあるのと同質の金塊を預けられ、借金を返済金という名目で受け取るか? 大商会の資金にするか? 好きな方を選べと言われ。


 彼らはすぐにでも動きたかった。

 だがそれは、リクレイン家との契約で許されていない。

 他の商会が持つリクレイン家の借金を買える(・・・・・・)のは、この場で金の鑑定が終わってからという約束だ。


 彼らは待った。

 今日という日を。


 少しの遅れが、これから生まれる大商会での立場に影響を与える。

 自分に対し、リクレイン家がどれ程の借金をしているかが大商会での地位を決める。


 だから地位を求める商人達は、率先してリクレイン家の借金をまとめる必要があった。


 *


 話し合いは終わった。

 用意した金塊が本物であると証明されれば、借金を買う商会が出てくるという予想に間違いは無かったようだ。


「彼らの様子は?」

「計画に参加する商会は決定しました」


 借金を買いあつめ、計画している大商会で高い発言力を持つ者は決まった。


 モリスに渡されたのは、人の名が書かれたリスト。

 予定通りだとほくそ笑みながら計画の参加者を確認する。


「だいたい君の予想通りの人が集まったみたいだねー」


 アーシュは、力の抜けた声を出しながらリストを眺めている。

 全てがとは言わないが、それでも大半がモリス達が予想した通りの名前が並んでいた。


「発言力が一番高いのはラング商会か……どんな所かもう一度聞かせてもらえる?」

「私が説明させて頂きます」


 アーシュの問いに答えたのは目つきの鋭い男の名はライズ・プロント。

 リクレイン家を裏から支えてきた一族の長子。

 情報収集において、かなり彼らをアーシュは重宝している。


 * 


 出所不明の金塊を事業費とする、大商会の輪郭が見え始めた。


 任せた者たちがうまく動かしてくれれば、税金という形でリクレイン家に金銭が入ってくる。


 だが税金を得るのはオマケだ。

 一番の目的は、大量の金を安全に売り捌くことに合った。

 呪いの金を下手に流通させると、金が暴落する可能性もあり慎重にならざる得なかったのだ。


 今回の場合であれば、大量の金が商人の間で出回り金の相場が暴落しかねなかった。


 だが大商会が一括管理をするという形になり、市場に流出する金を最小限にできた。

 いずれは全ての金が流出するだろうが、その辺りは結束した大商会の者達がうまく動いてくれるだろう。


 それに運用に失敗したとしても、痛手など些細な物だ。

 素材さえあれば、他の金属や宝石であっても大量に作れるのだから。


 そもそも借金の返済を、金の暴落無しで行えただけでも御の字なのだ。

 税金の方は欲張らず、人と金の流れを把握できる範囲で彼らに任せておくことにした。


 ~母娘とペンダント~


 空の支配権が太陽から月に変わる時間帯。

 荒れた道を走る馬車があった。


 今は視界の悪い夜。

 馬車を急がせるのは賢い選択ではない。

 ましてや昼ですら薄暗い木々に囲まれた道であればなおさらだ。


 だが、この状況では誰も咎めることはないだろう。


 後ろから迫るのは蹄の音。

 一頭や二頭の馬の物ではない。

 12頭もの馬が追いかけている。


 黒い馬車に突き刺さった木の色をした矢。

 これが追う者たちが友好的でないことをよく表わしていた。


 だが、同時に矢では堅牢な馬車を止める事は出来ない証でもある。


 目的の馬車を止めるには、馬か御者を射るか車輪をなんとかするしかない。


 それでも矢で射れば牽制にはなる。

 馬に乗った賊は矢を放ち続けた。


 矢を逃れるかのように、更に馬車は加速する。 

 曲がりくねった区画に入るも、スピードを落とすことは無い。


 それは逃げるための決死の選択。

 だが、数回曲がったところでこの選択が最悪の結末を生むこととなる。

 激しい音共に、馬車は崖へと転落したのだ。


 追っていた賊は、徐々に馬の足を緩め馬車を上から見下ろす。


 一人の男が目で合図をすると、3人が崖の下へと降りた。

 慎重に近づきおかしな点に気付く。

 御者が見当たらない。


 嫌な予感がした。

 剣を馬車のドアに引っ掛け器用に開ける。

 罠がないことを確認し、急いで中を確認すると──。


「……ブラフか」


 怒りを感じるも、おもてに出すことは無かった。

 それは彼らが訓練された者である証。

 同時に、馬車に乗っているハズだった者たちは、彼らが動くほどの人物であるという証でもあった。


「アレを連れてこい。狩りを行うぞ」


 馬車へと戻った部下に話を聞くと、嫌な顔をしながら次の指示を出した。


 アレを使えば、確認は難しいだろう。

 できれば、死体の顔を確認したかった。

 それでもこの機会を逃すわけにはいかない。


 最悪、死体の確認が出来なくともペンダントさえ手に入れば良い。


 *


 御者はうまく逃げられただろうか?

 自分達の代わりに、囮となった彼を心配する気持ちはあった。

 だが、命を賭けた御者の気持ちを汲むためにも、振り返るわけにはいかない。


 森の中を走る母娘。

 母は20代前後、娘は10歳に満たない。

 本来であれば我が子を抱き抱えて走りたいが、彼女の細腕ではその余裕はない。


 それでもだ。


 ここは魔法のある世界。

 ましてや魔力の強い血統である彼女達であれば、相応に動く事が出来た。


 暗い森の中を走り続ける。

 途中で休みながらも、それでも逃げ続ける。


 日が昇れば、少しは追っての手も緩むはずだ。

 そう信じながら2人は走り続けた。


 だが、何度目かの休憩を終えた頃であった。


 突如として寒気を感じたのは──。


 *


 継母を殺害して3ヶ月が過ぎた。


 相変わらずアーシュの従者は少ない。

 多少の人材は集まっている。

 だが、そもそも人手が不足し過ぎていて、何人集まろうとも焼け石に水状態だ。


 派手に汚職した者達を捕えたのだが、3分の2以上を牢屋に放り込む結果になってしまった。


 囚人の食費などは、呪いの金を売り払ったので問題は無い。

 だが大半の仕事を、外部から借りて来た人材でこなしている状況だ。

 信用という面で問題があり過ぎる。


 特に護衛だ。

 リクレイン家を継げる血統を唯一持っているアーシュの護衛は、かなり慎重に選ばなければならない。


 これまでも、継母に殺されかけた事が何度もあるのだ。

 彼女亡き今も、実家の方からチョッカイが掛けられかねない。

 もしも護衛の中に、継母に関係した者が入り込んでいたらとんでもないことになる。


 それでもアーシュには、護衛を引きつれて屋敷から出なければならない理由があった。


 マナと呼ばれるエネルギーを集めるためだ。

 このマナはアーシュの使う邪道な錬金術で必要となる。

 得るには人や家畜を殺すという手もあるが、モンスターから奪った方が効率的だ。

 このため、治安維持のためという名目で外に出る必要があった。


 アーシュは馬には乗っていない。

 彼は大剣に座っている。


 青い水晶を削ったかのような片刃の刀身。

 大きさはアーシュの体が隠れるほど。

 成人男性であっても、あまりもの重さに持ち上げることすら困難であろうソレは、フワフワと宙に浮いていた。


 彼を囲むように騎馬が並んでいる。

 合計で6人。


 領主になると確定している人物の護衛としては足りない。

 だが信用できない者を置くわけにはいかないのだ。

 この状況を甘んじて受け入れるしかない。 


 だが大きな問題は出ていない。

 強欲王の知識を継承するアーシュにより、彼らには上位の武具を与えられている。

 人数通りの戦力と考えるわけにはいかない。


 右手に森。

 急襲に備え、やや距離をおいて進んでいる。


「もうじき休憩に入ります。それまでご辛抱を」


 子どものアーシュに気を使ったのだろう。

 この隊を指揮する騎士が謝罪をしてきた。


「僕は馬に揺れることもなく快適だからね。君らのペースで進んでくれていいよ」


 大剣に座るという奇抜な移動手段。

 だが、馬に乗った時の揺れもなく、最も負担が少ないのは間違いなくアーシュだ。


 それでも見かけの勝利というべきか。

 幼い彼は必死に役割を果たそうとしていると、領民たちを勘違いさせる。


 いつものことだ。

 悪人とはいえ、生きた人間を素材として扱うことに全く抵抗感を抱かない外道アーシュ。

 彼の評価は、その見かけだけで勝手に上方修正されていっている。

 身近な者達以外は──。


「なにか来るぞ!!」


 兵士の一人が声を上げた。

 途端に部隊全体が臨戦体制をとりアーシュを囲む。

 森に向かって盾を持った3人が前に立ち、背後に槍士2人が構える。

 そしてアーシュの傍で指示を出すのは隊長である1人の騎士。


 大きい力を感じる。

 魔力や生命力というエネルギーを読み取り、こちらに向かっている存在の強大さを悟った。


「盾隊、指示があるまで待て」


 隊長を務める騎士が指示を重ねる。

 強大な存在を発見すると共に、少々厄介な事になっていることを理解していたからだ。


「僕も結界位は張れる。2人に関しては僕の事を考えなくてもいいよ」

「ありがとうございます」


 アーシュの言葉に騎士は、対処方法を改めることにした。


 2人。

 怪物に追われている様子の大人と子供。

 魔力や生命力の読み取りだけではどのような者達かは分からない。


 それでも騎士の性分というべきか。

 助けられるのなら、多少の無茶をしてでも助けたい。


 本来であれば上から許可が下りても、主の身を優先するべきだが。

 主たるアーシュが、自ら結界を貼るのであれば全く問題はない。

 彼の結界の頑強さは、この場にいる全員が身を持って知っている。


「盾隊、中央を開けよ。追われている者を陣に取り込んだのち即座に結界を発動するように。なお、槍隊は追われている者がおかしな真似をしないように警戒せよ」


 強大な存在を待つ。

 気配を見逃さないように、意識を張り詰めながら。

 そして──見えた。


「そこの2人、お前らを保護する。急いでコチラに来い!!」


 見えたのは2人。

 その後ろには赤い影。


 必死に走る母娘を、今すぐにでも喰らわんと追う影の主は獅子。


 子の方は無傷。

 だが母の方は右肩に矢が刺さっていた。

 流れた血が金色の髪を赤く染めている。

 必死に子を守った証なのだろう。


 だが、親子の情愛など獣の前では無意味。

 距離を詰めたかと思うと、獅子が飛びかかった。


 見えたのは獰猛な白い牙。

 赤い影はいっそう大きく感じられ、母の生命を喰らおうとしていた。


「伏せるんだ」


 声変わりのしていない甲高い声が響く。

 兵士たちは寒気を感じると共に大きく頭を下げた。


 眼前に怪物が迫った状態で、頭を下げて視線を逸らすなどあり得ない。


 しかし彼らは分かっていた。

 自分の後ろにいる、天使のような顔をした怪物の方がヤバイと。

 だから頭を下げるのを戸惑う理由などなかった。


「GuGYaaaaaaa」


 宙に浮く大剣から飛び降りたアーシュ。

 彼は飛びおりざまに、座っていた剣を手にし横一閃に振る。

 それだけで凄まじい衝撃が赤い獅子を吹き飛ばし、更に数本の木に深い傷痕を残した。


 一方で兵士たち。

 彼らは今しがた使われた剣の魔導に、僅かな間だけ絶句していた。

 頭を下げるのが遅れていたら──。


 だが、さすがはプロというべきか。

 もしくは何度も経験させられた故か。

 次の行動は早かった。


「よし、親子を保護しつつ敵を牽制。距離をとるぞ」


 親子を陣に入れると盾隊3人が動く。

 陣の穴を埋めると、獣を警戒しながらも交代を始めた。


 部隊全体が後ろへと下がる。

 母親の怪我が気になるが、治療をしている暇はない。


 森から離れる。

 この距離があれば十分だ。


 自分達の間合いを維持して、敵が動き出すのを待つ。


 穏やかな風が吹く。

 森で木の枝が揺れた。


 何度か風が吹き、やがて不自然な枝の動きが混ざった。

 赤い獅子が動き出したのだ。


 気を引き締めて待つ。


 相手に急ぐ様子はない。

 どうやら、こちらを敵として認めたようだ。

 じっくりと腰を据えて殺すつもりなのだろう。


 敵は、まだ森の中。


 気配が動く。

 徐々に近付いてくる。


 そして姿を現した。


 複数の生物を無理やり混ぜたような姿。

 赤い獅子の体。

 尾は蛇。

 獅子を中心に山羊と鷹の頭。

 四足で立っていながら、兵士の背丈ほどの体高。


 キメラだ。


 相応に装備の格が必要な相手。

 準備もなく対峙して良い相手ではない。

 だが、今は贅沢を言っている状況ではなかった。


「盾隊、結界準備」


 騎士の指示が平原に響いた。

 盾兵が魔力を通わし準備に入る。


 経験した事のない、大物相手の戦いだ。


 勝負は一瞬でつく。

 こちらの陣計が崩されればどうなるか分からない。

 だが、陣を崩さなければ──。


 敵が動いた。


 背の羽根は使っていない。

 強靭な四肢を使った方が小回りが利くからだ。


 天性の狩人というべきか。

 それも絶望的なまでの力を持った。

 本能で戦いの最適解を導き出した。


 キメラが疾風の如きスピードで迫る。

 巨大な体躯が迫る様は、数トンもの岩を連想させる。


 この強大な力をもつ生物の前では、人は餌として喰われるのが正しい姿だ。


 しかし、この場にいるのは当のキメラが敵とみなした者達。

 怪物の命を脅かしうる存在なのだ。


「結界!」


 緑色の壁が盾を中心に展開される。

 キメラの強靭な前爪が弾き返された。


 攻撃を防げば、そこに相手の隙が生じる。

 例え怪物が相手であっても。


「槍隊、展開!」


 槍をもった2人。

 彼らは盾隊を迂回し、左右に展開した。


「突撃!!」


 槍がキメラを襲う。

 だが、この程度の武器では強靭なキメラの毛皮を貫く事は出来ない。


 その程度の事は理解している。

 故に──結界を張った。


 キメラが動きが止まる。


 槍の先から広がる緑色の光。

 それは盾兵が使った結界と同じ光。

 結界は身を守るのに使えば強固な壁となり、相手を囲めば堅牢な牢獄となる。


 だが、この強大な力を持つ生物を押し留められるのは僅かな時間だ。


 盾隊が動き、槍隊の結界を強化する。

 これで更に強度を増した。


 それでも、いつまでもキメラを閉じ込めておけるわけではない。

 だが問題はない。


 彼らの目的は第一に決めらの足を止めること。

 そして、もう一つは──


「準備は出来ているよ」


 ──アーシュの魔法によって生じる余波を防ぐこと。


 アーシュの前には美しい模様が広がっている。

 それは先程まで座っていた大剣を中心にした作品。


 青い水晶のような大剣を囲むように8枚のカードが並んでいる。


 剣とカード、カードとカード。

 それぞれを繋ぐ緻密に張り巡らされた線は芸術性すら感じる。

 だがその実、魔の道を歩む者が見れば恐れ慄く程の力を有する魔法陣。

 魔導の奥義と呼ばれる物の一つ。


 騎士は知っている。

 この力が解き放たれれば、間違いなくキメラを葬り去れると。

 だが、この魔法は動き回る相手には当てにくいことも知っている。


 故に必要なのだ。

 対象の動きを封じる彼らが。


「総員、雷撃に備えよ!」


 騎士の指示に、キメラを囲っていた兵士達が覚悟を決めた。


 結界の色が変わる。

 キメラの周りが薄く最低限の色に。


 だがキメラを囲む兵士達の周りは逆だ。


 結界が色濃くなっていく。

 深緑とも呼べる色に。


 準備は整った。

 絶望的なまでの暴虐を解き放つ準備が。


 アーシュが展開する魔法陣が赤く変わる。

 禍々しくも美しい色。

 神秘的かつ蟲惑的な光。

 戦いの地を染め上げ、支配者が誰なのかを知らしめる。


 天が滲む。

 魔導により作られた幻想によって。


 全てを覆い尽くすようなドス暗い雲、今まであった現実の青い空。

 青い空に暗い雲が投影されたかのような光景。

 双方が重なり合うかのように存在している。


 偽りの空。

 空を騙し天候を操る大魔法。

 圧倒的な破壊の兆候。


 やがて解き放たれた。

 天を裂き地を砕く、全てを絶望せしめる暴虐の力が。


<天雷>


 一瞬。

 白が世界を覆い尽くした。

 何人なんぴとたりとも他色の存在を許さぬ白。

 天も地も人も魔も、全てが飲み込まれた。


 崩壊する。

 あったはずの地面は砕け散った。


 喪失する。

 一瞬の間もなく赤い獅子の影が消え去った。


 白が消えると音が広がる。

 神の威光に挑む悪魔の叫びが如き雷鳴が。

 衝撃と共に大地を駆け抜けた。


 静寂。


 残ったのは大穴。

 地面は黒く焦げ付き、所々溶けている。


 キメラの姿はない。

 あの雷によって、肉片も残さずに消え去った。

 消し炭程度は残っているかもしれないが、焼け焦げた地面の上では探すことすら難しい。


「よく耐えた!!」


 騎士の称賛が響く。

 大きく張り上げた声であったが、バカげた雷鳴の後だ。

 いくら魔導で耳を保護していたとはいえ、兵士達に聞こえていたかは怪しい。


 それでもだ。

 ややあってから、彼らは勝利したことを気付くことが出来た。


 肩から力が抜けた。

 キメラも恐ろしかったが、主の恐ろしさの方が遥かに上だ。

 あの訓練を何度もやらされたせいで、キメラが少し恐ろしい程度にしか感じられなかったほどに。


 隊列を組み直すために戻る兵士達。

 勝利の後でも、すぐに臨戦態勢を組める辺り優秀と言えるだろう。


 アーシュも同様だ。

 彼は黄金の火がついたカードを手にしていた。


「人が来るみたいだね」


 主の言葉に、兵士達の動きが早まる。

 そしてようやく隊列を組み直した頃、森の方から人がやってきた。

 3人だ。


「大きな音がしたので駆けつけたのですが、まさか追っていた罪人がいるとは思いませんでした」


 全員が革鎧などの軽装。

 それなりに使い込んだ痕がある。


「名乗りもしないか」


 対応したのは騎士。

 隊をまとめていた男だった。


「失礼。私はウルグという者で冒険者をしております」

「そうか。私はリクレイン家に仕える騎士、ルーヴィス・クラウスだ」


 一応の名乗り。

 相手は笑顔だが油断してはいけない雰囲気がある。

 正確には、その雰囲気を出していないことこそが油断ならない相手だと物語っている。


「私どもは、アルヴァン子爵の命で罪人の親子を追っていたのですが……」


 視線は母娘に向けられている。

 まだ肩の傷が残っており、兵士の一人が治療をしている最中だ。

 しかし、あまりにも治りが遅い。


「クラウス様のおかげで、ようやく見つける事ができました。ありがとうございます」


 近づくウルグ。

 笑顔を見せているが信用するわけにはいかない。

 そう考えているのは騎士ルーヴィスだけだった。


 兵士の誰もが警戒をしていない。

 だからこそ彼は気付けた


 騎士ルーヴィスの脳裏によぎったのはある職業の技。

 別の目的を告げて近付き、己の間合いに入った所で──。


「僕達と一緒だね」


 思いがけない人物から声が掛けられ、ウルグの足は止まった。


 大人になっていない幼い声の主。

 アーシュだ。


「おや。君は誰かな?」


 子どもを前に中膝となり人懐っこく話すウルグ。

 対してアーシュは前に出る。

 騎士ルーヴィスが主を止めようとするも無駄であった。


「僕はリクレイン家を継ぐ事になっている、アーシュ・リクレインと言います」


 いったい猫の皮を何枚かぶっているのだろうか。

 普段の彼を知る兵士達は嫌な予感しかしない。


 外道な錬金術は見せていない。


 それでも普段の彼は、子どもの純粋さなどとは程遠い人格である。

 なにかを企んでいるとしか思えない。


「これは失礼を。私は隣のアルヴァン領で冒険者をしているウルグと申します」


 騎士ルーヴィスは感じていた。

 主たるアーシュには申し訳ないが、胡散臭さはウルグが霞むほどだと。


 同時に確信していた。

 キメラを欠片も残さずに消し去った先程の大魔法。

 あれを放ったのがアーシュであるとウルグは分かっていないと。


 そうなると、ウルグが自分達と接触したのは偶然だったと考えられる。

 キメラとの戦いを観察していたのであれば、異常なアーシュの魔導を知らないハズがない。


 少なくとも、今の距離まで近づくハズがない。

 ウルグの間合いのつもりだろうが、アーシュの宙を浮く剣や魔法が十分に届いてしまう。


「ウルグおじさんも悪い人を探しているみたいだけど、僕達も悪い人達を探していたんだ」


 その笑顔はまさしく天使。

 アーシュは自分の武器を100%フル活用している。

 ウルグも警戒を全く解いていないわけではないが、先程までの警戒はない。

 逆に味方である兵士達の間では、警戒心が高まり続けているが。


「そうだったのですか。私たちもお役に立てれば良いのですが、なにぶんコチラの領には詳しくないもので」


 好意的な姿勢を崩す様子はない。

 あくまで良い人を演じ抜こうとしているように見える。


「じゃあ仕方がないね。それじゃあ、あの子達なんだけど……」


 アーシュが振り返ったとき。

 これまで、合わせていた目を離したときだ。

 油断していた。


 向けられていた好意的な視線を失ったとき、僅かに人の心は揺らぐ。

 その隙を狙われた。


「ヴッ」


 喉に血が詰まり呼吸が妨げられた。

 彼が見たのは、胸元に深く突き刺さった剣。

 次に目の前に突き出された白いカード。


<雷撃>


 カードからほとばしった雷光。

 胸元の剣に光が吸い込まれるくと全身が激しく痙攣した。


 彼が倒れたときに漂ったのは、内臓が焼け焦げた臭い。


 ウルズの胸に突き刺さった大剣。

 宙に浮く剣は、自らが少し奥へと動く事で死体を後ろへと倒させる。

 そして剣を抜くと共に、新たな白いカードを残り2人へと向けた。


 雷光が迸る。


 アーシュによる突然の凶行に、誰も反応ができずにいたのだ。

 魔導を防ぐことなく、僅かな火傷を残り2人に与えた。

 致死には程遠いダメージ。


 だが、これは牽制。


 相手の反応を僅かに遅らせた瞬間。

 アーシュは大剣を横に振った。


 キメラの巨体を弾き飛ばし、大木を深くえぐった衝撃が人を襲う。


 肋骨も肺も押しつぶされた。

 まともに動く事はおろか、命も長くはないだろう。


「この者達は、リクレイン領主の嫡男であるアーシュ・リクレインに対し、キメラを使って襲撃するという暴挙を行った。よって私自らの手で罰を下すことにした。異論のある者はいるか」


 呆然とする兵士達に、己の正当性を告げる。

 突然の凶行であったため、混乱して何かを言葉にする者はいなかった。


 そもそもだ。

 ウルズは自らを冒険者と名乗った。


 一方でアーシュは貴族だ。

 それも現在は領主がいない地の。


 すなわちアーシュはリクレイン領の最高権力者であり、彼が白と言えば黒い物も白くなる権限を持っているのだ。


 ウルズが冒険者を名乗ったのであれば、実際の立場がどうであれ関係ない。

 この状況では、貴族という権力者が冒険者という根なし草を裁いたに過ぎなかった。


「異論がないみたいだね。なら君達はブレヒト公爵夫人の治療を続けてもらえるかな」


 隊に指示を出すと、アーシュは罪人を確実に仕留めるために動きだした。


 宙を舞う大剣を動かし、罪人たちに突き刺す。

 その上で雷撃を浴びせている。


 一方で治療をしていた兵士たちは、顔を青くしていた。

 中には青を通り越して、顔を白くしている者すらいる。


 知らなかった。

 自分達が治療している母娘が公爵夫人だったとは。


 彼らの気持ちを代弁するかのように、一仕事を終えたアーシュに騎士ルーヴィスが訊ねた。


「あの、アーシュ様はお二方が公爵侯爵家に連なることをご存じだったのですか?」


 恐る恐るという感じだ。

 本来は怯える必要はないのだが、公爵家など遥か雲の上の存在なのだ。

 止むを得ない事かも知れない。


 アーシュの口も重い。

 答えるのにいつもよりもモタついている。

 一見すると公爵家を畏れてとも取れるが──違った。


「……父上が再婚した時に会ってね」

「……すみません」


 再婚した相手というのは、もちろんあの継母だ。

 アーシュとしては思い出したくない記憶であるし、家臣の間でも継母の話は避けなくてはいけない雰囲気となっている。


「お二方は結婚式の後で、しばらくウチの屋敷に滞在してね。その時に少し話たんだよ」


 二人が帰った後から、継母が本性を現した。

 だからこそ強く印象に残っていたのかもしれない。


「でも気になるよね」


 治療を行われるブレヒト公爵夫人達。

 その様子を見る限り、かなり衰弱しているように見える。

 いくら逃げていたとはいえ、ここまでの状態になるだろうか。


「僕は裏から調べるから、君達は表から調べてもらえるかな」

「ええ。まずはお二方の足跡を探ってみようと思います」


 逃げていた公爵夫人。

 少なくとも、護衛をつけていなかったのはおかしい。


「従魔契約って知っているかい?」

「存じております」


 魔を従える術。

 それが従魔契約。


「従魔契約をした場合、魔核の所に主の魔力がこもるっていうのは?」

「それは……ウルズがキメラと契約していたと」


 察しがいい。

 彼の答えに満足したアーシュは笑みを浮かべて話を続ける。


「一応だけど僕は魔導師だからね。そういう確認は得意なんだよ」


 大き過ぎる話だ。

 もしもウルズが追っている相手の正体を知っていたのなら、それは公爵家に喧嘩を吹っ掛けたようなものだ。


「従魔登録のためには生きたキメラを捕まえないとならない。でも強いからねー。それなりの権力を持っているか、お金を出さないと……自分で捕まえるっていうのもあるけど、彼程度じゃ無理だろうね」


 油断させたとはいえ、アッサリと殺害される程度だ。

 実力の底は知れている。


「子爵が絡んでいるかは断定できないけど。でもキメラを従魔にしている大物のウルズが追っていたんだ。それなりの大物を捨て石にするのは考えにくいからね。相手が公爵家だって知っていたと考えるのが妥当だろうねえ」


 苦笑い。

 領内の事だから見逃すことは出来なかったが、改めて情報を整理すると面倒な事になっていると再認識される。


「騎士クラウス。これは、リクレイン家の次期当主としての命令だよ。今、僕がいった事は必要となるまで忘れておくんだ。でも調査で必要になったらいくらでも思い出していい。約束できるね」


 アーシュの言葉に従うと誓う騎士クラウス。

 彼の目に映る次期当主は幼さとは無縁の存在であった。


「深入りは裏側でするから、そっちは調査をしたっていう実績だけを残してくれればいい。その実績が近いうちに必要になるだろうからね」


 暗に示していた。

 近いうちに公爵家に喧嘩を売った連中が動くことを。

 その事にクラウスは気づかぬフリをした。


「それにしてもお二方はどうしようか。ウチの領に来たのは本来の計画じゃなかったんだと思うよ。ウチの評判って酷いからねー。助けてもらうにしても、もっとマシな貴族を頼るはずだし」


 貧乏貴族という悪口が生温いほどの経済状況。

 それがリクレイン領の現状。


 継母が色々とやらかしている。

 借金だけでなく、伐採権であったり漁業権であったり色々と貸し出されて酷い事になっている。


 さらに、もともと土地が肥沃というわけではない。

 荒野や砂漠地帯といった不毛の大地が大半だ。

 なんでも、大昔に魔法の実験で災害があった土地である事が原因らしい。


 それでも、これだけなら貧乏貴族という悪評で済む。


 特に酷いのが周りの領だ。

 隣と言える領が3つあるのだが、いずれも敵対派閥だ。

 しかも、なまじ血筋が良いリクレイン家は妬みもあり相当嫌われている。

 昔から嫌がらせされてきた。


「アーシュ様。ご報告いたします」


 クラウスと話していると、兵士の一人が走ってきたのに気づいて報告を促す。


「お二方の応急措置は終わりました。ですがブレヒト公爵夫人の受けた矢には毒が塗ってあったらしく容態が芳しくはございません」


 毒が塗ってあったという事は、本気で殺す気だったと考えるべきだろう。


 殺しても問題はなかった。

 もしくは、殺した方が都合が良かった。

 どちらにせよ、かなり厄介な事に首を突っ込んだのは確かだ。

 だが、今さらだとも言える。


「じゃあクラウス。これから、どう動くのがいいと思う」

「はっ。ブレヒト公爵夫人の治療をするために屋敷に戻る隊と、残って戦闘の痕跡を消す隊とに分けることを提案いたします」


 およそ自分の考えていた動き方と同じだ。

 ウルズ達の痕跡を消しておけば、子爵が関与していた場合にも時間を稼げる。


「じゃあ、その通りにしよう」


 アーシュの決定と共に、部隊は準備を始めた。


 *


 屋敷へと戻ると、すぐさま本格的な治療が開始された。


 だが貧しい領地なのだ。

 優秀な医師は残っていない。

 毒の正体を掴むことすらできず、時間ばかりが過ぎていった。


 潮時だ。

 なんとか8日の間、ブレヒト公爵夫人の命を繋ぎとめた。

 だが、これ以上の好転することはないと判断を下す事にした。


 彼女の部屋のドアを開けた。


「ごきげんよう。ブレヒト公爵夫人」


 僅かに開けられた部屋の窓。

 そこから入った優しい風を頬に感じた。


「このような姿で失礼いたします。次期リクレイン伯爵」

「いえ、お気になさらずに」


 ブレヒト公爵夫人ローレリア。

 ようやく意識を取り戻したが、未だに体は毒に蝕まれている。


 弱りきった姿。

 だが美しさは変わらない。 

 それどころか、儚さがいっそう美しさを引き立ててすらいる。


 だが望まぬ美しさだ。

 彼女自身にとっても、看病に疲れ果てて母の横で眠る公女にとっても。


「今日は、治療方法を変えることを伝えに参りました」

「そうですか」


 もしもアーシュではなく医師が同じ言葉を口にすれば、それが意味するのは1つ。

 目的を、治療から苦しみを取り除くことを主眼にするということ。

 すなわちそれは──だが、彼女が取り乱すことはなかった。


「アーシュ様、お願いがございます」


 優しげな雰囲気はすでに無い。

 そこにあったのは、公爵夫人とも違う母の強い眼差まなざし。

 最期の願いだった。


 *


 子爵が動くことはなかった。

 動いたのはメルネス侯爵だ。

 数代にわたって宰相の位を頂いてきた大貴族。


 リクレイン家へと、母娘を保護するという名目で使いがやってきた。


 分かっていたのだろう。

 ブレヒト公爵夫人ローレリアの死を告げると、怒り狂いリクレイン家を責め立てた。


 使いの者はアーシュに怒鳴り続ける。

 子どもに対して口汚く罵る様相は異常な光景であった。


 分かっている。

 血筋故にリクレインは妬まれ、陥れられたのだ。

 使いの者もそちら側なのだろう。


 そして知っていた。

 メルネス侯爵家は、裏で動きあの継母を押しつけた存在であると。


 そう。

 この罵りは、ブレヒト公爵夫人が死した原因がリクレイン家にあるとアピールするためのもの。

 どう反論しようとも彼らが口を休めるはずなど最初からないのだ。


 アーシュは、黙って嵐が通り過ぎるのを待つことしかできなかった。


 *


 ~外道なる錬金術~


 棺が運ばれていく。

 大小2つの棺が。


 母であるローレリア・ブレヒトは、賊によっ放たれたて矢に塗られた毒で命を落とした。


 娘であるリーナ・ブレヒトは、逃走による疲れと慣れない環境で徐々に弱っていき、最後に母の死が決定打となり死に至った。


 リクレイン家の者が、棺を見送ることは許されなかった。

 貧しさを理由にして満足いく治療を施さなかった落ち度と、領内で公爵夫人とその娘を死なせた事を咎められたのだ。


 棺を見たのは、ローレリア・ブレヒトが所有していた身分を証明するペンダントを使者に渡したのが最後だった。



 棺の見送りを許されなかったアーシュ。

 彼は屋敷の2階から、遠目に棺が運ばれていくのを眺めていた。


 使者達も気付いているのだろう。

 嫌悪感に満ちた視線を向けてくる者が何人もいた。

 見下した目だ。


 彼らにとって、リクレイン家は八つ当たりをしやすい立場にある。


 誰もが羨む血筋。

 だが貧しく力のない貴族。

 それがリクレイン家。


 どのような扱いをしようとも、まともに抵抗できないのだ。

 血筋を妬む者たちにとって、蹴り飛ばすのにちょうどよい存在であった。


 アーシュにとっても都合が良かった。


 勝手に馬鹿どもが油断してくれる。

 罵りを適当に聞き流しているだけで、それ以上の事はしない。

 殊勝な態度を演じていれば、調子に乗って勘違いしてくれる。


 おかげで、今も笑いをこらえるしかない。

 向こうから棺の見送りを拒否してくれてよかった。


「ブレヒト公爵夫人。あなたの棺を一生懸命に運んでいますよ」


 口を押さえて笑みを隠し振り向く。

 そこには黒髪の女性が1人。


「少し悪趣味が過ぎるかと」


 アーシュなりの冗談だったのだが、彼のセンスに時代は追い付いていなかったようだ。


「それと今の私は、リクレイン家に雇われた家庭教師のマルグリート・レノーです。お間違いの無きようにお願いいたします」


 不愉快そうな表情というわけではなく笑顔。

 だが感情を読み取れない怖さを感じる。


「ですが私をブレヒト公爵夫人とお呼びするのなら、1つお聞きしたい事がございます」


 笑顔という仮面が剥がれた。

 あえて剥がしたのだ。


 彼女は感じ取っている。

 目の前の少年が、見た目通りの存在だと考えてはいけないと。

 礼儀を持って接するべき相手だと。


「あなたは、何者なのでしょうか」


 目の前の少年は礼儀を持って接するべき相手だ。

 だが、実際はそれ以上だというのも分かっている。


 彼は用意した。

 短期間で自分と娘の瓜二つの死体を。

 あの棺の中身がそれだ。


 彼は知っていた。

 霊薬の誰も知らなかった使い方を。

 だから自分は助かった。


 彼は作り出した。

 遥か古代に喪失した技術の結晶たるペンダントを。

 ペンダントは公爵家の者である証。

 アレさえあれば自分達の死を疑う者はいない。


「僕はアーシュ・リクレイン。次期リクレイン家当主で……あなた達の味方。これだけでは足りませんか。ブレヒト公爵夫人?」


 今は──そう心の中で呟き笑顔を向ける。


「十分です」


 彼女も理解したのだろう。

 これは仮初の協力体制。

 お互いに利益があるからこそ成り立つ関係。


 今はアーシュに対して提供できる利益はない。

 一方的に保護されている形であり、役に立つことを示せねば容易く母娘は切り捨てられる。


 だが、この異質な少年の傍にいる事は、他のどの場所に隠れるよりも安全だ。

 そう思わせるだけの結果を彼は示した。

 おかげで自分と娘は束の間とはいえ、安寧を得る事が出来た。


 それでも素直に降伏して、己と娘の未来を預けるわけにはいかない。

 目の前の少年は危険過ぎる。


「私マルグリート・レノーが、必ずやあなたを立派な紳士に育て上げてみせますわ。リクレイン伯爵」 


 彼女なりの抵抗。

 それはアーシュに仕え、やがて手放せないほどの価値を示すこと。


 今は保護を受けねばならないか弱き存在。

 だが価値を示し彼が手放せなくなれば、彼の力を利用することができる。


「ええ、今後ともよろしくお願いします。マルグリート女史」


 お互いに笑顔の仮面を貼り付けてのやり取り。

 寒々しい空気が沈黙と共に流れる。


 決して本心は表に出ていない。

 だが十分に覚悟は伝わっていた。


 しばらくすると、アーシュの笑顔に柔らかさが戻った。


 十分な覚悟を見せてもらったのだ。

 これ以上は腹を探る必要などない。


「このまま話し込むのも良いですが、娘さんが寂しがるかもしれませんね。挨拶はここまでにしましょう」


 声色も変わっていない。

 だが、不思議と柔らかさがあった。


 マルグリートもそれを感じ取ったのだろう。

 彼女もまた笑顔に柔らかさを取り戻すと部屋を後にした。


 執務室にいるのは、アーシュ一人となった。


 まだ王の承認を得ていないとはいえ、他に継げる者がいないため彼が伯爵の地位を得ている。


 書類仕事は、立場に見合うだけの量が。

 本来は子どもが手を出せる仕事ではないが幸か不幸か──今回は不幸というべきか。


 ただの子どもであれば、やる必要のなかった書類を捌いている。


 いずれ代理でやれる人間を用意しよう。

 そう決心しながらも、今はひたすら手を動かし続ける。

 

 ふと外が気になった。


 窓の向こうを覗く。

 運ばれていた棺が馬車へと乗せられ、ちょうど出発する瞬間であった。


 御者が馬に鞭を入れると、ゆっくりと動き出す。

 重厚な鎧を纏った者たちが隊列を組み、馬車を囲むかのように歩いていく。


 遺体とはいえ、公爵家の関係者を乗せているのだ。

 隊列を組んだ者達は相当数に及んでいる。


 これだけの武装をした兵を領に入れさせるのに、許可を求めようとする侯爵家からの声はなかった。


 軽んじられているという事だ。

 許可を得なくても誰も文句を言わない。

 そう公爵家も他の貴族も考えているからこそ、許可を求めなかった。


 だが──と、思考を切り替えペンダントのことを思い返す。


 身分証明書となるあのペンダントを。

 あれは、強欲王の弟子が作ったペンダント。


 そのまま渡すのも芸がないから、新しく作り直して少しだけ細工をしておいた。


 一方で形をあの母娘に整えた死体は、早々に処分をされることだろう。

 あの連中が母娘にした事は、これだけではないと報告を受けている。

 悪さの証拠が出かねない死体を長く残しておく筈がない。


 そうなれば、あの死体がブレヒト公爵夫人であると証明できるのはペンダントだけだが──。


 彼らの未来を想うと、つい口角が上がってしまう。


 これでは悪趣味だと言われても否定できない。


 だが、お目溢めこぼしを願いたいところだ。

 自分が外道を行うのは、悪人を相手にする時だけだと決めているのだから。


 だから──


 広がる風景を眺める。

 棺を積んだ馬車が遠ざかっていく。

 進むのは荒れ果てた領地。


 我が物顔で進む馬車。

 この光景こそが領地の実情。


 長く喰い潰されてきたのだ。


 欲深いあの連中に。

 あの馬車が帰る場所で笑みを浮かべている者に。


 ──君達が相手なら、いくらでも外道になれそうだよ。


 馬車が遠ざかっていく。

 長く伸びる隊列がまるで蛇のようにすら見える。

 今のリクレイン領では、とてもではないが用意できない数だ。


 彼らは脅しているつもりなのだろう。

 貧しいリクレイン家と、裕福な自分達との違いを見せることで。


 しばらく葬列を眺めていたら、フと思った。


 他愛たわいもない話だと。


 自分を笑うと共に窓を閉める。

 部屋に流れ込んでいた僅かな風が止んだ。


 相手を破滅させることは、すでに決めた事なのだ。

 それなら物想いにふけって時間を無駄にすることに、何の意味があるのだろうか?


 アーシュは机に積まれた書類に目を向けると、再び手を動かし始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 続編待ってます。 いっそこれを数話に分けて連載にしませんか?
[良い点] 是非とも続編をお願いします。
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