表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あきらめない  作者: 八島
2/4

2



嫌なことが控えていると時間が経つのは、とても早い。ワイットに積み上げられた書類をせかせかと熟していたら、あっという間に四権会議の時間である。


「ワイット、本当に四権会議あるのかな?無くなったりしてるかもしれないね」


微かな希望に縋りたい気持ちになって、ワイアットを見つめると、ワイアットはただでさえ細い目をさらにきゅっと細めた。


「師団長、いい加減に観念して行きますよ!また遅刻しますよ!」

「ワイアットに師団長を押し付けたい気持ちでいっぱいだよ」

「何言ってるんですか、もう。はいはい行きますよ」


仮にも上司たるふよふよした煙をひっつかんで、ワイットは移動の術を編んでいく。アリアは掴まれたままワイットの移動陣に包まれ、四権会議のために王宮に飛んだ。




王がおわす王宮は落ち込む気分とは反対に、キラキラと相変わらず眩い。

ワイットを連れ、王宮の移動陣から会議の間に向かっていると後ろから見知った声が届く。


「やぁ、師団長殿!今日もふわふわだな!」

「宰相殿、煙を手で仰ぐのやめていただきたい」


我が国の宰相であるロジー侯爵は、アリアに会うたびにその体代わりの煙が気になるようで、手で揺らそうを煽ぐのだ。これが、ほかの人なら実力行使で辞めさせるのだが、アリアより背の低い好々爺にされてしまうと如何ともしがたい。まぁ、この方の見た目に騙されると痛い目をみること間違いなしだが。


「しかしながら、今日は遅刻しないなんて珍しいですなぁ。」


ほのぼのと言われると、反応しづらいが痛い点を突かれて言葉が詰まる。


「そんな毎回遅刻しているわけではありません。たまたま執務が滞ってしまった時があっただけですよ。」

「それは失敬。このじじいは元帥閣下と会うのがお嫌なのかと勘違いしてましたわい。」


図星であったが、曖昧に誤魔化しながら会議の間に入る。すると既に中には、天敵である元帥閣下が無表情に控えていた。


「元帥閣下、相変わらず早いですなぁ。ここに来るまで、閣下のお話を師団長としてたのですよ。」


アリアは内心、それを言うのかとうんざりしながら元帥と最も遠い席に腰掛ける。


「悪い話題ではないことを祈るが、叶わなそうだな」


話しかけられた当の本人は、表情を変えないままアリアを一瞥するとそう呟いた。元帥の顔を見るのも嫌だったアリアは王が入って来る扉の方に視線を向けたまま会話には入らない。

宰相殿は明らかに雰囲気の悪い二人を見ながら面白そうに笑うだけだった。


そんな微妙な部屋に王が入って来ると、流石に空気は切り替わる。白い髭がよく似合う今上陛下は、宰相と視線を交わし少し笑いながら会議開始の宣言をした。





毎度の会議と同様、最終的には元帥と対立することが多い。それは、戦法の違いであったり、政治的なものであったりと様々であるが、今日の対立は深刻だった。


近年、寒くなって来ると国端の森に魔獣の異常発生が起きている。それによる被害を防ぐために、初冬に大規模な掃討作戦を国軍は行なっている。

これには、魔術師団は体を温めらる温石を支給するなどの後方支援のみをしてきた。

しかし、元帥は、魔術師団と協力してこれにあたりたいと提案したのだ。


「今では兵士の負担があまりにも大きすぎる。魔術師団でもご負担をしていただきたい。あなた方は、最も前線で戦う兵士のことを分かっておられないようだ」

「閣下のご意見はもっともですが、現実的ではありません。ご存知の通り、我々は気が合わないし、過去できた溝も埋まってはいない。一緒に戦えば魔獣より先に死ぬのは王国軍かもしれない。」

「そんなに魔術師はコントロールが効かないのか」

「閣下、それは侮辱と捉えますよ」

「好きにとってくれて構わない」



様々な人が様々なものを失った大戦から13年、未だに戦時下で生まれた魔術師団と王国軍の溝は埋まっていない。アリアは気が合わないのはもちろん、師団のことを考えると王国軍と共闘するには時期が早いと感じていた。



「まぁまぁ二人とも、落ち着いてくれ。師団長、お前が心配していることもわかる。しかし、溝は埋めようと努めなければ埋まらんものだ。」

「しかし陛下!私は、部下に国軍との共闘を命じる気はありません。貴重な魔術師を失うおつもりですか。」


王は噛み付いて来る黒い煙を見ながら鷹揚に笑った。王が共闘を提案した元帥よりの考えを示したことで、苛立っていたアリアはその笑みを見て嫌な予感を覚えた。場を傍観していた宰相も、何かわかったようにニコニコと微笑んでいる。


「いや、部下を思う師団長は尊重しよう。しかし努力はせねばならん。今回の討伐、師団長が参加してほしい。そして隊長格ではなく、今回は元帥が師団長と共に指揮をしてくれ」

「何を血迷っておられるのですか!私が最も国軍と関わりたくない魔術師ですよ!」

「師団長、上に立つ者は下の者の手本にならなければいけないのですぞ!わしも協力するからがんばりなされ!」


最も嫌な展開になっていく場にアリアは必死で言葉を連ねたが、覆される気配はまるでない。更には宰相まで推してきて、アリアは絶望的な気分になった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ