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あきらめない  作者: 八島
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草もない茶一色の荒野に色鮮やかな赤が広がっていく。悲鳴と怒号が飛び交う戦場でアリアは一人立ちすくんでいた。

共に生きて帰ろうと誓った仲間たちはいつのまにか姿が見えなくなった。何のために戦っているのかそんなことも分からずただひたすら赤が滲んでいく景色を眺めるしかできない。

そしてふと思い出したように瞬きをした。









アリアは自室の天井を見つめ、安心したよう息を吐いた。ここは戦場ではない。戦争が終わり13年が経ち、人々は戦争のことなど忘れつつあった。

寝床にしているソファーから立ち上がると、アリアは慣れたように鏡の前に立った。

癖のあるプラチナブロンドも紫色の瞳も顔立ちも確かに美しいのに、鏡に映る彼女はなぜか幽霊のように虚ろだった。

アリアは幻影の魔法を自分にかけるため、鏡の表面に絵を描くように指を走らせる。すると鏡の中の女は搔き消え、黒い霧のようなものがもやもやと辛うじて人の形を保って漂っているばかりとなる。


「この姿がもはや私の真実の姿よね」


自分の顔を好き勝手に妄想して、噂する人々を思い浮かべて口の端を上げる。

出勤の準備の最重要項目を終えたアリアはのんびりとパジャマがわりの白いワンピースから黒いローブに着替える。そして、部屋の窓を開けた。

窓は人が小さく見える程度には高く、高所恐怖症の者なら見下げるのも嫌だろう。しかし部屋には、窓以外に外つながる所はない。石造りの高い塔の出入り口と上にある部屋までの階段は完成と同時に塗り込められ、完全に閉ざされていた。

出勤の時間の迫るアリアは窓枠に足をかけると、空中に身を投げ出した。そして暫く落下感を楽しんだのち、地面すれすれで浮き上がりふよふよと職場に向かって飛んで行った。





アリアの住む塔からそうは慣れていないところに職場である魔術師団の総本部がある。というより、無駄に広い魔術師団本部の所有地内にアリアは住んでいた。

気の利く副官であるワイットが開けてくれた窓からふよふよと執務室に入り椅子に座る。

アリアを待ち構えていたワイットは何度言っても窓から入ってくる不可思議な上司を見て苦笑いがこぼした。


「おはようございます、アリア様。何度見てもその姿は慣れませんね。」


「おはよう、ワイット。あなたはこの姿があまり好きじゃないみたいだね。」


あまりこの煙姿が好きではないような副官の為に執務室にいる時は、ナイスバディの美女にでもなろうか、と提案するがワイットは嫌々と首を振った。


「ところで、本日は通常業務のみの予定でしたが、午後から四権会議の招集がありました。って、そんな嫌な顔しないでくださいよ。」


「嫌な顔なんてしてないよ、というより顔ないからね」


四権会議という単語を聞くだけでイライラする心を文字通り煙に巻きながら、アリアはため息をついた。

四権会議とは、国を取り仕切る四つの権力の長が集まり重要な決定を下す会議であるが、ここ最近は災害が地方で起きたこともあり頻繁に開かれていた。


「アリア様は四権会議と聞くと、いつも煙が激しく波立つのでとてもわかりやすいんですよ。陛下の前では気をつけてくださいね本当に。」

「四権会議を三権会議にしてくれるならとても幸せなんだけどなぁ。ワイット、どうにかしてくれないかな。」

「無理に決まってるでしょう。どんな権限があって元帥閣下を会議から外せるんですか!」


それもそうだと思いつつも、天敵である王国軍団長の顔を思い浮かべるとため息しか出ない。元来、肉体労働が仕事であり、日々体を鍛え精神を鍛える王国軍と、体を鍛えるなんてまっぴらなもやしっ子魔導師団は気が合わないのだ。王国軍の長である元帥閣下なんてもってのほかだ。


「お嫌な気持ちは分かりますが、これも仕事ですよアリア魔術師団長。さて、午前のうちに書類仕事を進めますかね」


気分がひたすら沈んでくアリアを引っ張り上げつつ、優秀な副官は机の上に遠慮なく書類を積み上げて行く。黒いもやもや姿のアリアは一度大きく煙を波立たせながらも、観念して書類に目を通すしかなかった。意外とワイットは怒らせると怖いのである。








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