表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

脱出

小さな犬用の出入り口に体を押し込む。

上半身だけは通った。

だが、下半身がなかなか通ってくれない。

私はもぞもぞと身をよじりながら、何とか通ろうとする。


「ふえぇぇぇ、なかなか通れないよぉ、けど諦める手はないよぉ、幼女の一念、岩をも通すだよぉぉ」


ジタバタジタバタ。

そうあがく私の耳に、あの人の声が聞こえだ。

その声はひどく焦っていた。


『あ!だ、駄目!外に出ちゃダメ!戻って!』


あの人が起きてしまったのだ。

急がないと。

急いで抜け出さないと。

焦る私の足を、誰かが掴んだ。


「痛っ!」


身体が出入り口に食い込む。

痛がる私の声を無視して、あの人が叫ぶ。


『駄目!駄目だって!駄目駄目駄目駄目駄目!外に出ちゃ駄目!』


『駄目って言ったじゃん前に!駄目だって!戻って!早く!』


すごい勢いで足が引っ張られる。

痛い。

痛い。

すごく痛い。

けど。


「我慢、我慢、我慢、早く、早くママの所へ戻らないと」


「今戻ってもいっぱい叩かれるだろうけど、ご飯も抜きにされるだろうけど、酷い事を一杯されるだろうけど」


「でも、戻らないと、だって、そうしないと、あとからもっとひどいことをされるから、私はそれを知っているの」


「知ってるの」


「だから」


私は、強くあの人の手を蹴った。

屋内から「痛っ」と叫ぶ声がする。

その隙に私は体を這わせ、痛いのを無視して、外に抜け出すことに成功した。


「ふぇぇぇ、やっと扉から抜け出れたよぉ……けど、あの人の手、蹴っちゃった、大丈夫かなぁ」


あの人の部屋の扉を振り返る。

その扉が内側から叩かれた。

ガンガンガンガンと音が響く。


『駄目、駄目だよ、戻って、今すぐ戻って、私の所へ戻って!』


『ここなら君を守れるの!この家の中なら!だから今すぐ戻って!』


『外では』


『外では!私はあなたを守れない!』


『だから!』


私は少し安心した。

扉を叩けるくらいだから、骨が折れているとかではなさそうだ。

それと同時に、考えてしまう。


「本当に、このまま、外に出ていいのかな、ママの所に戻っても、いいのかな」


「だって、あの人は優しかった、だったら、あの人の所に居た方が、私にとっては……」


そう考えた段階で、私の頭にママの顔が浮かぶ。

ああ、だめだ。

私は、やっぱり怖い。

ママが怖い。

だから。



あの人の家を飛び出した私は、そのまま夜道を走ったわ。

町は真っ暗だったけど、月明かりはあったの。

だから私は走る事が出来た。

見つからずに、大通りに出る事が出来たの。


大通りには沢山の人が居た。

そのうちの1人に見覚えがあった。

学校の付近を良く巡回していた巡査さん。

ママとも顔見知りの、大人の人。


私は、その人に助けを求めたの。

助けてください、ママの所に戻りたいんですって。


その場に居る人は、全員、私の方を振り向いたわ。

まるで、ずっと私を探していたみたいに。

全員の視線が私に注がれた。


その後の事は、正直、思い出したくないんだけどね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ