脱衣
「ふえぇぇ、ご無体だよぉ、突然、ご無体な要求されたよぉ」
私は当然、嫌だった。
けど逆らったら怖いことをされるかもしれないという恐怖のほうが勝っていた。
誰だって、痛い事をされるのは嫌でしょ?
幸いそんな時どうすればいいのか、私は知っていたんだ。
なるべく刺激しないように、相手の言う事を聞いておくに限る。
そうすれば、きっと酷い目には合わないってね。
ママに買って貰った服だけど、背に腹は代えられなかった。
「ふ、服を差し出せば、いいの?」
「う、うん、早く早く」
「じゃあ、脱ぎます……」
あの人は「ふひっ」と笑っていたね。
肌寒さを感じながら、私は不思議に思った。
この人は、私の服なんてどうするんだろうって。
「着るのかな?さっき幼稚園の服が可愛いって言ってたし」
そう呑気に考えていると、あの人は服の事を無視して、体をじろじろと眺めてくる。
更にペタペタと触れてきた。
くすぐったくて、思わず「ふぇ」っと声が出る。
「凄い、凄い白くて、スベスベで、可愛い」
何か妙に鼻息が強い。
凄くはぁはぁ言っている。
子供ながらにあの人が興奮しているのは理解できた。
だが、何故なのかわからない。
いや、そんな事よりも重要なことがあった。
「ううう、臭い、この人ちょっと臭いよお、ちゃんとお風呂入ってるようには思えないよぉ」
大きな声でそう主張したかった。
けど……。
私はそれが出来なかった。
「我慢、だよぉ……」
そう小声で呟くことしか、出来なかったんだ。
私はグラスをテーブルに置くと、いったん話を切った。
酒の席で話すネタとしては、これくらいで潮時なのかもしれない。
話を聞いていた幼馴染は、凄く心配そうだった。
心なしか顔色も悪い。
「いやいや、そんな顔しないでよ、当時の私はさ、裸になるのなんてそんなに恥ずかしくはなかったの」
「それに、言う事聞かないと乱暴されると思ってたしさ、殴られるのは嫌だし、言う事聞いておけば相手の気もすむかなって」
「顔色悪いよ?大丈夫?」
幼馴染は頭を振る。
そうして、話を促してきた。
「え?続き聞きたい?うーん、私から話しておいて何だけど、あんまり楽しい話じゃないよ?」
「いや、私はいいけどさ、まだ時間もあるし」
結局、幼馴染の強引さに負けて話を続けることになった。
久しぶりに飲んだ美味いお酒の味に負けたという事もあるけど。