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からだ……ちぎれて……ココロまでイタイょ……ゴメン…… またケンカしちゃった……でも……ぴーちゃんとステラゎズッ友だょ

 ステラがぽかんとした顔で俺を見上げる。


「あ、あれ? セイクリッド……なんでいるの?」


「なんでもなにも、爆弾と一緒に転移する必要はありませんから」


 さざ波の音だけが俺と少女を包むように流れる。


「…………え?」


「そのキョトンとした顔、やめてください」


 どこか遠くで爆発音が聞こえたような気がするが、マリクハから霊峰フージまでの距離は100キロ以上は遠方だ。


 大きく見開いた瞳がじわっと潤み、ボロボロと涙がこぼれ落ちる。


 ステラは前のめりに寄りかかるようにして、俺の胸におでこをぺたんとつけた。


「なによ! なんなのよ! まるでいなくなっちゃうみたいな言い方して!」


 軽く握られた少女の拳がポカポカと俺の胸を叩く。


「痛いですよやめてください。貴方の魔法力を受け止めただけで、実は身体がボロボロなんですから。骨なんて砂糖菓子くらいの強度しか残っていませんよ」


 魔力を多く使いすぎたことで、身体が消耗しきっていた。回復魔法でどうこうできる代物ではなく、休息が必要な類いのダメージの残り方だ。


「そんな風には見えないわね……けど、許さない。絶対絶対許さないわよ大神官。魔王のあたしに心配かけた罪は……重たいんだから……一生かけてでも償ってもらうわ」


 そのままステラは俺をギュッと抱きしめる。


 これで全てが終わった……わけではない。ステラの頭をそっと撫でて、俺は告げる。


「ほら、まだ終わりではありませんよ」


「声がふらついてるわよ? 早く戻って休んで、元気になってからお説教ね」


 俺は少女の涙を指でぬぐった。そしてステラにそっと促す。


「ぴーちゃんはまだ助かるかもしれませんよ」


 ハッと顔を上げて俺の視線を追うと、ステラは波打ち際に、銀に輝く女神像を見つけた。


 聖なる水銀でコーティングしたシスターゴーレム――ぴーちゃんだ。


 俺は巨人を転移魔法で飛ばす際に、彼女だけを巨人から切り離して、この場に残そうと試みたのである。


 残念ながら、救出できたのは上半分だけ。下半身は“持っていかれて”しまった。ステラの魔法力を借りても、これがやっとだった。


「半分になって……し、死んでる!?」


 穏やかに寄せる波に打たれ、ぴーちゃんの目がぱちりと開く。水銀のコーティングは流れ落ち、元の姿に戻るとシスターは口を尖らせた。


「死んでいるとは失礼ですわね。まあ、人間や魔族でしたら即死でしたでしょうけれど……いえ、やはりわたくしは死んだも同然ですわ。この身体では、シスターもメイドも務まりませんものね」


 ステラが駆け寄り抱き上げようとする。


「んと……ちょ! 重たいんですけぉ~!」


「レディーに重たいだなんて失礼でしてよ?」


 赤い瞳が俺を見据えた。


「ほらセイクリッド! ぴーちゃんを教会に転移させてちょうだい」


 ぴーちゃんが力無く笑う。


「それには及びませんわ。そのうち回収班がやってくるでしょうし……きっと研究者たちも、わたくしからデータを集められると喜ぶのでしょうね。その時には、もうわたくしはわたくしではないのでしょうけれど」


 開発部の連中は待避したらしく、もう高台にその姿は無い。


 回収班がやってくる前に“最後の教会”に運べば、今しばらくはぴーちゃんをかくまうことはできるだろう。


「そうですね。まずは一旦戻りましょう。ニーナさんにベリアルさんも、あちらで待って心配しているでしょうし」


 ぴーちゃんが首を左右に振る。


「ご主人様……わたくしの記憶を消去して、このまま何も見なかったと思って、ステラ様とお戻りください」


 記憶を消すということは、今日までの全てを失うということ。それこそが、ぴーちゃんにとっての死なのかもしれない。


 シスターゴーレムは開発部に戻ることも、自身が蓄積したデータを彼らに渡すことも拒むつもりだ。


 ステラが腰に手を当て胸を張る。


「そんなのダメよ。二度も手間を掛けさせないでちょうだい」


 聞き分けない魔王様に、ゴーレム少女は右手をそっと握り込んだ。


「でしたら自爆させていただきますわね。二分の一になったこの身体でも、魔導炉とコアは無事ですし、自分自身に始末をつけるくらいはできますもの。あまり近くにいると巻き添えを食らいましてよ?」


 チッチッチッチ……と、秒読みでもするような音が、ぴーちゃんの右手から発せられた。


「な、なんでそんなに死にたがるの!」


 ステラがぴーちゃんの右手を開かせようとする――が、ゴーレムの指はびくともしない。


 ぴーちゃんは無表情のままステラに告げる。


「肉体の痛みが無い分、わたくし心の痛みには敏感ですのよ。ふふふ……おかしいですわよね。造られしモノなのに心だなんて。けれど、動けない身体で何もせずにいて、ご主人様や皆様に優しくされるだなんて、それこそ生きた心地がしませんわ。ニーナ様も上半身しかない妹の姿に、きっと驚いてしまうでしょうし」


 ステラが手を開かせようと指をからめ「ふんぬ」と力を込めて顔を真っ赤にする。


「ニーナは人を外見で判断するような子じゃないから大丈夫よ! そんなことより、あなたがいなくなる方が万倍悲しむんだから!」


「わたくしの事は、どこか遠くへ旅立ったとでもお伝えください」


「そんなに働きたいっていうなら、開発部で新しい下半身造ってもらえばいいじゃない! 馬とかどうかしら人馬っぽくてかっこいいし!」


 個人的にはちょっと見てみたい気もするな。


「それこそ無理な相談ですわ。わたくしが開発部に戻れば、解体されて研究材料にされてしまいますのよ! わたくしに人を滅ぼすゴーレムの母になれとおっしゃいますの?」


 俺と同じ懸念をするあたり、ぴーちゃんはもはやゴーレムではなく人間よりの思考だった。


 それにしてもステラが食い下がるせいか、なかなか爆発しないな、ぴーちゃん。


 魔王のルビー色の瞳が俺を睨む。


「だったらセイクリッドが開発部に話をつけてきてよ! 教皇ボディーのスペアくらいあるんでしょ! そこにぴーちゃんを移植! うん! それしかないわ!」


 移植というのは良いかもしれない。


「名案ですが、まず開発部が首を縦に振らないでしょう。開発部を相手に無茶をすると、私も神官の職を解かれてしまうかもしれません。まあ、ぴーちゃんさんがお望みとあらば一戦構えるのもやぶさかではありませんが」


「そうよそうよやっちゃいなさいよ! 晴れて教会をクビになったその時は、我が栄光の魔王軍で終身名誉ニーナのお兄ちゃんにしてあげるわ!」


 悪魔神官から、よりダイレクトに俺に効く役職にクラスチェンジですかそうですか。


 ふと、熱線に焼かれた砂浜に、赤い鞄がぽつんと落ちているのが目に入った。


 歩み寄って拾い上げる。開くと背中の水晶収納スペースは空っぽだ。


 たしか、ステラを文字通り、身を挺して守ってくれた。それが魔王だったとしても、守るべき者を守り切った気高き水晶だった。


「ありましたねボディ。前任者の承諾は残念ながら、もう得ることができませんが……きっと、ぴーちゃんさんになら喜んで貸してくださるのではありませんか?」


 ぴーちゃんの右腕からタイマー音が消える。


「ほ、本気で仰ってますの?」


「名残惜しいかもしれませんが、貴方の肉体はここで爆発四散。公式に“死んだこと”にしてしまうのです。魔導炉の核である水晶をこちらに移して」


 ぴーちゃんは眉尻を下げて視線をそらした。


「けれど……わたくし……」


「セイクリッドマーク2さんだって、ほぼ剥き出しの記憶水晶状態ですが、案山子の身体できちんと教会の仕事を全うしていますよ?」


 俺は道具袋から魔法の鍵を取り出した。


「嫌だと言っても、この鍵で貴方の秘密の鍵穴をこじ開けて、あられもない本体を引っ張り出して差し上げます」


 困り顔のぴーちゃんは、ぷっ……と噴き出した。


「そんな鍵穴ありませんわ。けれど……」


 うつむくと、ついにゴーレム少女は観念したのか頬を赤らめた。


「ご主人様とステラ様のお好きなようになさってくださいませ」


 自ら胸をはだけさせたぴーちゃんの、胸部がそっと開いて心臓のあたりに固定されていた魔導炉から、彼女の魂が宿る水晶がゆっくりとせり出した。


 赤い鞄に水晶を移し、ステラが「ごめんね」と謝りながら、砂浜でぴーちゃんの身体を爆発魔法でバラバラに吹き飛ばす。


 適度に残った破片をみて開発部の回収班が、ぴーちゃんの自爆と判定してくれることを祈るばかりだ。


「では、帰りましょうかお二人とも」


 赤い鞄を背負ったステラが、うんと頷きながら俺に訊く。


「ところで、この戦いのMVPは誰になるのかしら?」


「私としては、ステラさんを守った初代赤鞄の中の水晶を推したいところです」


 と、突然ステラの背後で鞄が開き、手のひらサイズになったメイド服姿のぴーちゃんがステラの肩の上に立体投影された。


「本人も『大変光栄』と、喜んでいますわね」


 色々と驚かされるが、本人とはどういうことだろう。俺はミニぴーちゃんに確認する。


「まるで生きているみたいな言い方ですが、まさか、貴方の心の中にいるとでも?」


「こちらに来る前にデータを同期して一部並列化していますから」


 あ、はい。人間の常識をゴーレムや水晶に当てはめて考えるのは、もうよそう。




 ――同時刻、遠方にて


「ハァ……ハァ……あいつら……次こそ絶対殺す」


「…………」


「おまえ……おまえ……おまえおまえおまえおまえ! なにが賢者だ! やっと心が読めない……友達ができたと思ったのに……おまえなら信頼できるって……思ってたのに! おれの前からいなくなりやがって! おれをハメやがって! おまえとさえ……おまえとさえ出逢わなきゃ、おれはあああああああああ――ッ!?」


「…………」


「なあ……おまえ……ほんと……なに考えて……だょ……」


 黒い刃が胸を貫き鬼魔人は焼け野原に倒れると、完全に消滅した。

読み直したら整合性とれていないので94部終盤ちょっと変えました。

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