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シン・ラクシャ

 賢人超会議に参加するだけあって、魔法の心得のある冒険者たちは侮れない火力を持っていた。


 上級ランクの黒魔法がひっきりなしに鬼巨人の頭やら肩やら胸やらに炸裂する。


 結果、巨人はあと一歩というところで浜辺に上がることはできず、むしろ後ろへと押し戻されつつあった。


 攻撃に参加している中にはメイド服の集団もいる。指揮を執るのは……メリーアン学長だ。


「光弾魔法斉射よーい……きっちり狙って……(撃)てーっ!」


 十二人のメイド少女で構成された横隊陣から、光弾魔法が曲射された。陣形に参加せず双眼鏡を手にした観測役のメイドが「弾着……今ッ!」と声を上げる。




 ズガガガガガガガガーンッ!




 ほぼ同時に十二発の光弾が巨人の胸元で炸裂する。衝撃に青い異形の邪神は大きくのけぞり、参加冒険者たちから「おおぉー!」と、感嘆の声が湧きあがった。


 胸が大きく陥没し、各部装甲もボロボロだ。


 裂けた口から生える牙も折れ、半分崩れてぐずぐずになった顔の巨人が恨みがましく声を上げる。


「ざけんな……虫けらの分際で……くそ……くそくそくそくそくそくそくそくそくそがっ! わらわらと涌いてきやがってウジ虫ども……群れることしかできないクズに格の違いを教えてやるよ」


 未だにステラに動きは無い。背負った赤い鞄は目立つのだが、浜辺に大挙した冒険者の群れに彼女の姿は呑まれて消えた。


 ぴーちゃんも今の所、姿をくらませどこかでチャンスを待っているようだ。


 あっ……来ちゃったかぁ。


「祭りと訊いて我慢できずに駆けつけるお祭りッ子の勇者アコちゃんとはボクのことさ!」


「アコ殿これお祭りじゃなくて、きっとセイクリッド殿の仕組んだ罠的な何かでありますよー!」


 と、集団から飛び出したアコと追いかけるカノンのセリフを勝手にアフレコしてみたが、だいたい合っている気がしてならない。


 アコは剣を手にして、美しい教皇の姿をほとんど留めていない鬼巨人に向かっていく。


 勇者の登場に他の冒険者たちがその姿を刮目した。


 あれが噂の勇者少女か? ぱっと見たところ未熟の半人前だが、あれでも上級魔族を倒して街を解放した実績があるらしいぞ? 砂漠のオアシスで魔族の“海賊団”壊滅にも一枚噛んでるらしい。


 なんて噂が立ったかどうかはわからないが、名乗りを上げた勇者が突っ込んでいくのを、冒険者たちは見送った。


 アコが砂を蹴り走る。


 が、巨人は上陸一歩手前で足首が海に浸かったままだ。


 波が浜辺に寄せては返していた。


 勇者はぴたりと立ち止まり、足下の砂が波にさらわれていく感覚を楽しみ始める。


「ねえねえカノン! なんかすごいよ! 波打ち際に立ってごらんよ! 足下がずるずるーってもってかれるみたいで、気持ち悪くない?」


 追いかけ追いついたカノンが肩で息をする。


「な、なにやってるでありますか! 逃げるでありま……」


 巨人の顎がガクンと開く。


「死にさらせえええええええ!」


 ラクシャの叫びとともに、熱線がアコとカノンもろとも、浜辺の一同をなぎ払った。




「「あああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」」




 勇者と神官見習いに、心の中で合掌。


 目算ながら、熱線の一撃でおよそ二百人ほどが焼かれて昇天した模様だ。


 アコとカノンは“最後の教会”に強制送還から、案山子ことセイクリッドマーク2による蘇生&転移魔法でどこぞの街へと飛ばされただろう。


 そういえば、転移先どこに設定していたっけ。


 浜辺を埋め尽くしていた冒険者たちが、一人、二人と逃げ始める。


 ちょ! お金下ろしてきたばっかりなんですけど! いや無理無理、さっきから足止めにしかなってないし倒すとかイベント難易度高すぎぃ! などの怨嗟の声が今にも聞こえてきそうだった。


 俺はというと――


 およそ二百メートルほど離れた浜辺の状況を逐次確認しつつ走る。丘陵を駆け上る。


 砂浜を一望できる高台の防砂林に、白衣の集団が計測器を手にして何やら怪しい動きをしているのを見つけて、やっと彼らの元に到着したところだ。


 研究者風の彼らは大神樹管理局:設備開発部の連中だ。


 計測器で巨人のダメージのデータでも取っているのだろう。


 二百名ほどを葬った熱線を見ても眉一つ動かさず「本来は胸から出る光属性の連装魔光砲が変化した模様。熱線化したのは、おそらく超大型魔導炉に直結したのではないかと。魔族とゴーレムの融合は我々の技術を凌駕しています」と、考察する。


 研究者たちを掻き分けると、人の輪の中心に緑色の記憶水晶(?)が浮かんでいた。計測器で測定された情報が、随時水晶に書き込まれていく。


 緑の水晶に張り付いて「ああ、なんと、これは」と漏らし続ける中心人物とおぼしき男――眼鏡に七三分けの研究主任の襟首を掴み上げ、俺は笑顔で訊く。


「アレについての情報提供をお願いします」


 名前は知らない。知りたくもない。顔を合わせた回数も数えるほどだが、向こうもすぐに気づいたようだ。


 男は眼鏡のフレームを親指と人差し指でつまむようにして、掛けなおした。


「おや、これはセイクリッド氏ではありませんか。お送りした試作6号機改の使い心地はいかがでしょう? 参考までにご意見をいただけませんか?」


 それどころじゃないだろ。常識的に考えて。


「今、アレを止めるために、ぴーちゃ……試作6号機改も仕掛けるタイミングを見計らっているところですよ。彼女は生み出した親と違って、人格的にもとても優秀です」


 後ろで他の研究者たちが「おぉ~それは良いデータとれそうだ。我々も鼻が高い」と、小さく湧いた。あとで、この場所に熱線がピンポイントで降り注ぎますように。


 俺はぎゅっと七三分けの首を締め上げる。


「教皇は人間サイズのゴーレムを遠隔操作していましたよね? アレを止めてください」


「それが遠隔操作がまったく利かなくなってしまったんですよ、はい」


「データを取りたいからと嘘を吐いていませんか? 正直に話していただけないと、今すぐこの場で天の裁きが下りますよ」


 ブルブルと七三分けは首を左右に振った。きっちり分けられた髪型は一切乱れない。


「神に誓って。自爆装置も遠隔操作可能だったのですが、どうやら魔族によって大幅に書き換えられてしまったようで、ハッチすらこちらで開閉することもできませんです、はい」


「なるほど。有効な対処方法はどのようなものが考えられるでしょうか?」


 こうしている間に、巨人はついに浜辺に上陸を果たしてしまった。七三分けが思い出したように呟く。


「内部がどうなっているのかわかりませんですが、自爆スイッチはコックピットの操縦桿が真ん中にありますです、はい。熱線から察するに、動力源たる魔導炉は魔族と共存しているようですし、スイッチは魔導炉と直結しているので押せば吹っ飛ぶでしょう……街ごと、はい」


「冗談ですよね?」


 眼鏡七三分けは「いえいえ、地図の書き換えが必要です、はい」と真顔で返した。


「どうしてそんな威力にしたのですか?」


「本来は飛翔後に海上で爆発四散の予定でしたんですよ。ただ、こちらの計測値が正しければ、魔族との融合によって魔物化したことで、出力が増大しておりまして……魔族が力をつけるほど進化が進み、もはやどれほど強くなるのか想像も付かないといったところです、はい」


 開発部にとっては良い意味でも悪い意味でも、魔族とゴーレムの融合は想定外ということか。七三分けの研究主任はハァハァと呼吸荒くした。


「魔族をコアに結合した再生能力を持つ自己進化型ゴーレム開発……採取データは今後のゴーレム開発の発展に多大なる恩恵をもたらすことでしょう、はい」


 人類滅びるフラグキター。


 この連中に持たせるには危なすぎる情報だな。俺はミスター七三分けを解放した。


「ご協力ありがとうございます。ああ、そうですねみなさん。ここは危険なので待避していてください。貴重な情報の提供にも感謝いたします。ところで、採取した情報はこちらです……おっと手が滑った」


 光の撲殺剣を抜き払うと、俺は緑の水晶を木っ端微塵に打ち砕いた。研究者たちの心地よい悲鳴に見送られて、俺もようやく戦場へと馳せ参じる。


 しかし、下手に自爆させてマリクハどころか、湾の形が変わるなんてことになったら大事だ。


 ニーナとの楽しい思い出がつまったこの街を守るためにも、外部から破壊して動きを止めるより他無さそうだが……。


 今回も鍵を握るのは、先日魔法の物質化をするまでに成長した、黒魔法の達人――魔王様ステラになりそうだ。

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