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緊急クエスト 迫りし青き邪神を撃破せよ!

 俺は寝息を立てたままのアコとカノンを確認した。起きる気配がまるでない。


「アコさん? もしもーし。ああ、これはダメみたいですね」


 アコの身体を揺すっても「ムニャムニャもう食べられない」と、こんなことを言う人間が実在するのか的な寝言が返ってくるだけだ。普段から寝言は寝て言えと思うこともしばしばだったが、寝言まで残念すぎる勇者に処方するお薬募集中。


 しかもアコの寝相は悪く、いつのまにかカノンに腕ひしぎ十字固めをしていたので、神官見習いの右腕が壊される前に腕を解いて、二人をそれぞれ椅子に座らせた。


 アコを抱き上げると不意に、指先に硬い金属片のようなものが当たる。


 魔法の鍵だ。使えるかはわからないが、先ほどラクシャが「内側から鍵をしておく」と言っていたのも気になった。たまっていたツケということで回収しておこう。


 アコもカノンも修行で強くはなったものの、今回は相手が悪い。魔法でわざわざ起こして連れていくわけにもいかないか。まあ、起きて勝手に来る分には自由だが。


 何せ冒険者は魔族や魔物と戦って敗れても、教会で復活できるのだから。


 問題はステラたちである。赤毛の少女はじっと俺を見据えて告げた。


「あたしも一緒に戦うわ」


 ニーナをベリアルに預けて参戦希望する魔王様に、俺は溜息で返す。


「帰還魔法で戻っていただいた方がよろしいかと」


 ニーナを背中におぶったベリアルが、俺の言葉に珍しくうなずいた。


 ちなみに、脅威が去ったからかニーナの背中の鞄は閉じて、防壁も解除されていた。


 深刻そうな顔つきのベリアルにステラは告げる。


「玉座を持った上級魔族を倒すのは、あたしの役目だもの。そうすることでニーナを守れるなら……ここで逃げるわけにはいかないわ。これは命令よ」


「承知……いたしかねます」


 拳をぎゅっと握り締め、ベリアルが下唇を噛む。


「でしたらどうか、わたしもお連れください」


「ニーナが起きた時に、そばにベリアルがいてほしいの」


 これまで、玉座を持つ魔王候補の上級魔族を倒してきたのはステラである。


「ベリアルさんの気持ちを汲むのも、王の務めではありませんか?」


「今は緊急事態でしょ? ここで自分から動かなくて何が王様よ!」


 以前はニーナに王の“器”を感じたが、どうやら血は争えないらしい。


 俺はベリアルに視線を向けた。


「試飲会、こんな状況ですと中止でしょうね」


「……くっ……仕方……あるまい」


 そっと近づくと、ベリアルの背中で寝息を立てるニーナから、俺は鞄をそっと外した。


「ニーナさんのための装備でしたが、ステラさんに使ってもらいましょう。私と別行動を取っていても、ある程度はこの鞄が守ってくれるはずです」


 ほんの一瞬、ニーナが微笑んだように見えた。


「では、先に帰って待っていてください」


 ステラが腕組みをしてベリアルに胸を張る。


「大丈夫よ。アコやカノンと組んでアイスバーンの砦を攻略した時も、やられる前にハーピーの羽でちゃんと帰還できてたでしょ? 撤退の見極めくらい一人でできるんだから」


 デカブツ相手にもしベリアルが戦うなら、本気モードの姿をさらすことになる。それでも巨大ゴーレムinラクシャを相手にするには、力不足だ。


 ベリアルが俺をにらみつける。


「絶対にステラ様にはご無理をさせるなよ」


「わかりました。きちんと私がじゃじゃ馬さんの手綱を握っておきますから」


 未練たっぷりの眼差しのベリアルだが、小さく首を縦に振る。それを確認して俺は、ベリアルとニーナを転移魔法で魔王城へと送り返した。


 残ったステラに赤い鞄を背負わせる。


「ね、ねえちょっと……なんだかわからないけど、この鞄……無性に恥ずかしいんだけど」


「良くお似合いですよ」


 うつむくと魔王は膝頭をモジモジとすりあわせて尻尾をゆらりとゆっくり左右に振った。


 顔が熟れたリンゴのように真っ赤だ。何をそんなに恥ずかしがるのか、これがわからない。


「あたしの事を敵認定してないわよね? 水晶が内蔵されてるものって、基本的にやばいし」


「そのやばい力を従えた魔王様は無敵です」


 ステラは赤い瞳をぱちくりさせると――


「し、知ってたから! うん! いまね、そう言おうと思ってたところなのよ!」


「流石です魔王様」


 準備が整ったところで、ホールの入り口付近に斥候に出したぴーちゃんが姿を現わした。


「ラクシャに乗っ取られた巨大ゴーレムは、海側に転移したみたいですわ。再上陸まで時間はありませんわね」


 海というと砂浜の辺りか。腕に覚えのある黒魔導士系の冒険者が、ステラが叩き出した大会記録に挑戦しようと、集まっている頃合いかもしれない。


 俺はぴーちゃんに返答する。


「わかりました。お二人は先に現場に急行してください。私は一カ所、寄ってからすぐに追いかけます」


 俺は転移魔法で独り、マリクハの教会に跳んだ。




 異形化した巨大ゴーレムはそれ自体が魔物であり、ラクシャにとっての城だった。


 孤独な玉座。ぼっちの動く居城に鬼魔族は喜びの声を発する。


「これでおれ……最強じゃね? 仲間なんか最初っからいらなかったんだよ……庇うとか守るとか、足手まといだってはっきりわかんだよ……マジで……」


 海面を白く波打たせて異形の邪神像が立ち上がった。浜辺に集まっていた魔法自慢たちは、禍々しい青白い巨人に威圧されたのだが……。




 ピンポンパンポーン!




 マリクハの各所に配置された、連絡用の拡声器から同時にお知らせのチャイムが鳴った。




『ただいまより、浜辺にて巨大ゴーレム撃破ミッションイベントを開催いたします。教会に冒険者登録をしている方でしたら、どなたでも参加いただけます。腕に覚えのある冒険者の皆様は、奮ってご参加ください。なお、最優秀参加者には教皇様より抱擁と祝福のキスが贈呈されます』




 マリクハ最寄りの教会で場所を訊き、そのまま賢人超会議運営本部に向かうと、俺はでっち上げのイベント内容をお偉方にプレゼンした。


 俺の顔はここでも利いており、企画は5秒で採用された。賢者の積み重ねた信頼を今は全力で利用してやろう。


 すぐさま本部から街の全域に向けて、俺はアナウンスをしたのである。


 副賞の抱擁とキスについては事後承諾だ。教皇の人気を考えると、それなりの数の冒険者が参加するだろう。


 浜辺にいる魔法大会参加者も、そのまま全員戦闘参加だ。


 ラクシャの弱点は心を読めるのが同時に一人までというところにある。


 数百か、下手をすれば四桁の冒険者が殺到すれば、その能力は封じたも同然だった。


 あとは紛れ込んだステラが上手くやってくれることを祈りつつ、俺も運営本部のある街の中心部から浜辺へと急ぐ。


 すでにイベントは火蓋を切り、上陸しようとする巨人めがけて火、雷、爆、氷といった属性の黒魔法が次々と打ち込まれ始めていた。

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