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魔王「あーそーゆーことね完全に理解した」

 美味しい紅茶と食事を堪能し、ゆっくり休息したところで午後の部へ。


 黒魔法における新理論の展示と実演コーナーでは、ステラが魔法力の制御法について「こんな考え方があるんだ……あ、うそうそ知ってたから。うん、考案者と気が合うわね! ちょうど同じようなことをあたしも考えていたのよ! かーっ! 先に発表されちゃったかー! つらいわぁ」と、正々堂々ド直球で見栄を張った。


 口振りこそ素直ではないのだが、魔法への理解が深まったことで普通に強くなっただろう。


 この件に関して大神官セイクリッドは後に「魔王強化の責任は黒魔法の展示をした王都の黒魔導士協会にある」とコメントを残した。


 最新の光弾魔法強化理論の展示と実演では、眼鏡少女が興奮のあまり警備員に取り押さえられる一幕があったものの、概ねそれ以外はこれといって特筆すべきことはなし。


 この時、眼鏡少女の身元引受人となった大神官セイクリッドは「狂犬に光弾魔法の強化理論を与えれば、暴れて当然。つまり理論を発表した光弾魔法研究会(以下略)」と、コメントを残している。


 それらの出し物を見学している間も、ベリアルはずっとトイレに行くのを我慢でもしているように、うずうずもじもじしっぱなしだ。いったいどれだけ試飲会に期待しているのか、推して知るべし。


 さらにニーナはといえば、黒魔導士協会公式マスコットである黒翼の天使“血塗られし断罪の黙示録ヨハネカルマ”から、鎧通しという打撃技を伝授された。装甲の内側に衝撃を与えて内臓にダメージを与える高等技術である。天使も黒翼も鎧通しという技と関係がない。


 加えて光弾魔法研究会のマスコット“衝撃吸収ダミーのダミアン”は、ニーナに受け身を教えた。地味だがいいゾ~これ。技とマスコットが噛み合っている希有けうな例だ。


 さらに次の会場へ。


 大神樹の芽が枯れた廃教会を再現した、恐怖の体感型出し物“司祭オブザデッド”では、動く死体に扮した神官やシスターが次々と驚かしにやってくるのだが……。


「全然怖く無かったでありますな。所詮はメイクで誤魔化しているだけでありますよ」


「実在する大神官の方がやばいよね絶対」


 無事、教会を脱出したカノンとアコは口を揃えながら、俺の顔をじっと見つめた。いったい二人を苦しめる大神官とはどこのどちら様だろうか。皆目見当もつかない。




「フォーン……フォーン……フォーン」


「あっ! ちょ! だめホント開いたらダメなやつだから!」


「おねーちゃはこわがりさん? ニーナはかくれんぼ得意だから、暗くても大丈夫だよぉ」


 背負った赤い鞄から、女の歌声のような音を響かせるニーナと、必死に鞄が開くのを押さえるステラ。結果、ステラが中腰でニーナの背後から鞄ごと抱きつくような格好のまま、二人はゴール地点に姿を現した。「あたしが抱っこやめたら、死者が皆殺しにされちゃう」という魔王の迷言を俺は忘れない。



 最後は、ぴーちゃんとベリアルという組み合わせになったが、なんと……終始ベリアルが怖がっていたようである。


「勇敢な騎士様が、何を怖がることがありますの?」


「は、はあっ!? 怖がってなどいないぞ! いきなり飛び出してくるから、は、反射的に反撃してしまわないよう、気をつけただけだ! わたしは慎重な性格であって臆病者ではないからな!」


 慎重派の女騎士は、暗がりから突然驚かされても大丈夫らしい。なんと頼もしいのだろう。今度こっそり気配を消して、後ろから声をかけてみようそうしよう。


 全員、恐怖の教会の裏手にある出口に集合したところで――


「では、行きますか」


 先導しようとする俺に、ステラが肩を怒らせ立ち塞がった。


「ちょっと! セイクリッドだけ参加しないのズルくない?」


「死体なら見飽きてますし、職業柄アンデッドの相手は日常ですから」


「なにそれ怖い」


 魔王にドン引かれる俺、参上。




 街の北にある魔法実験施設は、本日限りの屋内音楽堂に姿を変えていた。


 たくさんの見物客が中央ホールで開演の時を待つ。ステージを隠すように暗幕は降りたままだが、どこからかかすかにオルガンの音色が響いていた。


 雑踏の中で耳を澄ます。旋律はカンタータの147番だ。俺が“最後の教会”に赴任した日に弾いた曲だな。今では懐かしさすら感じた。


 観客たちでざわめく会場は、規模からして今回の賢人超会議でも、最大級と言えそうだ。自由席は立ち見まで出る満員っぷり。


 福引きの景品チケットに、このイベントの特別招待券までついていた。まさに至れり尽くせり。


 しかもアリーナ席の中央最前列という、関係者席のような好立地だった。誰が何をするのかはシークレットとのことだが、これを外すのはもったいないと、予定に組み込んだのである。


 運営の案内係から、小さな棒を渡された。どうやらアリーナ席の来場者には無償で配られるものらしい。


 ニーナが棒を手にフリフリすると――


「光ったぁ♪」


 薄暗い会場内で、棒が薄ぼんやりと光を帯びた。簡易魔力灯といったところだ。


 これから始まる歌やダンスのステージで、出演者を応援するのにぴったりの代物だ。


 俺はニーナに自分の棒を手渡した。


「ニーナさん、よろしければ私の分もお使いください」


「え、い、いいの!?」


 普段は遠慮したり空気を自然と読みつつ、アコやカノンやステラよりも大人な対応ができてしまう幼女も、光る棒にはテンションが上がってしまったようだ。


「どうぞ」


「で、でもおにいちゃの分だから」


「私は大丈夫です」


 光る棒なら自前のものがあるので、問題無しだ。


 ニーナは二刀流に進化した。左右の手で棒をフリフリ。実に素晴らしい。


 アコとカノンがニーナに詰め寄る。


「いいなーニーナちゃんばっかり」


「羨ましいであります」


 とたんにニーナが「え、えっと……アコちゃんせんせーとカノンちゃんも欲しかったの……?」と、心配顔になった。


 あまりにガチな反応に、ダメッ子シスターズが焦りだす。


「う、うそうそ! ニーナちゃん本気にしないで! ボクのも使っていいから!」


「じ、自分の分も使ってほしいであります!」


「ほえぇ……ニーナはだいじょうぶなのです!」


 拝啓、幼女様。大人げないダメッ子シスターズへの大人の対応ありがとうございます。


 ちなみにベリアルはというと、このステージが終わったあとに、ようやく最後のお楽しみが待っているため、気もそぞろだ。


 光る棒をフリつつ、空いた手で指折り数え始めた。


「赤に白に発泡性に貴腐ワインに酒精強化ワイン……待っていろよ」


 ニーナとステラがいては、護衛役が酔えないということで、このステージが終わったところで、ぴーちゃんに転移魔法で魔王姉妹を最後の教会まで連れ帰ってもらう手はずになっている。


 アコとカノンは王都かラスベギガスに俺が転移魔法で送り、残りの時間はベリアルにお付き合いする予定だ。


 ベリアルが鎧下に着込んだ拘束衣が、彼女の全身を締め上げ身動きができなくなったところを、回収、帰還して旅行の全日程は終了である。


 この街で暗躍する賢者の目的はわからずじまいだが、結局、直接こちらに仕掛けてこないことには、現段階で手の打ちようもない。


 まあ、仕掛けてくるなら相手をするまでだが。


 そろそろ開演まで五分を切り、ステージを隠す黒い暗幕が左右にさーっと流れるように開かれた。


 小山のようにそびえる“何か”に、白い大きな布をかぶせられている。


 特別な舞台装置か何かだろうか?


 ゆったりと流れていたカンタータがアップテンポな曲に切り替わる。


 同時にドームの壁や天井に、魔法による映像投射がされた。この企画に関係した出資者などの名前が次々と映し出されるのだが……。


 総合企画演出の項目に、大神樹管理局:設備開発部という不穏な一文が浮かび上がった。


 あっ……これ、本気マジでトラブル五秒前。

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