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おねーちゃはおそろいなのです

 結局、ルルーナの占いがどんな未来の暗示だったかは、わからずじまいだ。


 これでは客もつかないだろうと、俺は占い師の少女に助言した。


「……ビンタ占い始めました」


 ルルーナが平手を素振りする。この占いは客のほっぺたを彼女がビンタして、その赤さや痕の形から、ルルーナが直感的に未来を視るというものだ。


 正直、占い部分はオマケである。


 無口系美少女にビンタしてもらいたい層をピンポイントで狙い撃ちがコンセプトだった。ルルーナが掲げる看板を書き換えた途端、行列ができはじめる。どこで待機していたんだ、この客たちは。


 降って湧いたような客をビンタでさばきながら、ルルーナが俺に視線を向けた。


「……ありがと。しばらくこの芸風でやってみる」


 少女の腕のスイングは、王都でも人気の格闘興業集団の王者ブラックバタフライを彷彿とさせるキレがあった。


「まさか列ができるとは思いませんでしたが……がんばってみてください」


 彼女ルルーナの場合、占い師の看板を、早い内になにか別のものに掛け替えた方がいいかもしれないな。




 俺は懐中時計を取り出し短針を確認した。時刻は正午を回り、昼食と休憩の頃合いだ。


 知人が特別に席を用意してくれているのである。今回はご厚意に甘えさせてもらった。


 疲れて途中でお昼寝してしまうかと心配していたのだが、ニーナは好奇心溢れまくりで、まだまだ元気そうだ。


 冒険者として日々を送っているアコとカノンの方が「つかれたー!」「冷たいものが飲みたいでありますー」「お昼にしようよ!」「お金貸してほしいでありますセイクリッド殿!」と、俺に堂々とたかってくる始末。


「おにーちゃ、アコちゃんせんせーとカノンちゃんがおつかれさまなのです」


 幼女に心配される勇者と神官見習い、しっかりしろ。


 ニーナのためにも、せっかくの楽しい旅行の雰囲気を壊すようなことはできなかった。


「仕方ありませんね。店は予約済みですし、立て替えておいてあげましょう」


「「やったー! セイクリッド(殿)のおごりだー(であります)」」


 ん~、言葉の通じない足りない子軍団め。


 次に二人が“最後の教会”に死に戻ってきた時には、財布ごと寄付してもらうことにしようそうしよう。なんなら身ぐるみ剥いでくれる。


 と、アコが不意に鼻をヒクヒクさせた。


「あっちがイカ臭いよ!」


「アコ殿言い方! 言い方がおかしいでありますから!」


 視線を風上に向ければ、生鮮市場街の鮮魚店の店先で、シーフードバーベキューの屋台が香ばしい音と匂い立つ煙を上げていた。


 ベリアルが手元の古酒の瓶と、屋台のイカを交互に見比べて、ゴクリとつばを呑み込んだ。


「このイカ臭さがたまらん……いや、まだだ我慢しろ……うう……しかしあんなに大きくぷっくり膨らんで……頬張ってしまいたい! ああ、汁がボタボタと……このままでは生殺しではないか……」


 突然どうした上級魔族。


 串刺しにされたイカから汁が流れ落ちるたび、パチパチと炭火が爆ぜてイカのエキスを含んだ匂いが広がる。


 ステラが首をかしげつつ部下ベリアルに告げる。


「生じゃなくて焼き殺してるでしょ? それにしても、すっごくイカ臭くて美味しそう。マリクハ名物のハラライカ姿焼きだって! ちょっと聞いた事がない種類のイカだけど、本当に有名なのかしら? 食材としての実力が怪しいわね」


 ステにゃん、それ以上いけない。


 カノンが眼鏡の奥で瞳を曇らせながら、俺に助けを求めるように視線を向けた。


「セイクリッド殿、ツッコミきれないでありますよ!」


「そうですね。ニーナさん、少し疲れたのではありませんか?」


「ニーナはだいじょぶです。けど、ぴーちゃんが疲れてるかもぉ」


 金髪幼女は妹の心配をする余裕があるくらいだ。疲れることを知らないと、言わんばかりのシスターゴーレムがゆっくり首を縦に振る。


「ご配慮いただき感謝の言葉もありませんわニーナ様」


「もー! ニーナおねーちゃですわよ」


 ぷくっとニーナはほっぺたを膨らませた。突然、口調がお嬢様だ。


「そ、そうでしたわね。おねーちゃま」


「うふふぅ♪ ニーナはおねーちゃまなのです」


 ニーナ様→おねーちゃ→おねーちゃまの活用術が、三連綺麗に決まったな。


「昼食は休憩も兼ねて、カフェにいたしましょう。そこのイカイカ三姉妹さん、とっとと先に進みますよ」


「ボクはイカも食べたいんだけどぉ! ああ! お金がないっ!」


「イカよさらば。試飲まで飲まぬと誓ったのだ……」


「あたしが買ってきてあげてもいいけ……ちょっとセイクリッド! 首根っこつかまないでよ」


 走りだそうとしたステラに俺は囁いた。


「イカは猫が食べると腰を抜かすそうですよ、ステにゃんさん」


「にゃあああああ」


 ニーナはまだ、親愛なる姉が猫語で神官に甘えたガールだという秘密を知らない。


 もし判明すれば、ステラの姉として魔王としての威厳は崩れて消え去りかねない……と、ステラ自身は思っているようだった。


 借りてきた猫のように大人しくなったステラを連れて、俺は予約しておいたカフェに向かった。




 マリクハには薬草学の研究もかねて、立派な植物園があった。その園内の一角にある美しいローズガーデンが期間中は開放され、花園にパラソルとテーブルがずらりと並ぶ。


 美しい薔薇を愛でながら、紅茶と軽食を楽しむ――ここは王立メイド女学院が運営する、出張メイドカフェだった。


 学院のメイド候補生たちが丁寧かつスマートに接客にいそしんでいる中、支配人自らが、メイド服姿で俺たちをもてなした。


「お帰りなさいませご主人様。うふふ♪ それともセイクリッド先生とお呼びした方がいいかしら?」


 銀のトレーを抱えて支配人――メリーアンが瞳を糸のように細める。


 彼女のご厚意もあって、来場者で大賑わいの行列が途切れないカフェながら、バックヤードからこっそり入れてもらった。


 貴族や大商人から事前に依頼があっても、席の予約は受けないそうだ。


 支配人が認めた真のご主人様のみ、予約席を用意するのがポリシーだそうな。


 まあ、俺がどうこうというよりは、先日女学院を訪れた際のあれやこれやベリアル脱がしなどなどを、メリーアンが大いに気に入り喜んだ結果だろう。


 やってて良かったメイド地獄の三本勝負。


 カフェはメニューも様々だ。テーブルの上で各々、何が食べたいか少女たちは申告し始めた。


「ボクこのミートマシマシサンドイッチとシュワシュワっとした冷たくて甘い飲み物!」


「じ、自分はええと……ええとどうしよう目移りしてしまうであります!」


「くっ……酒のメニューなど置くな! 目の毒だ!」


「ニーナは何が食べたい? おねーちゃんが頼んであげるから。ふふん♪ 料理を頼むくらい、あたしにかかれば楽勝よ」


「えっとー……はっ!? これがおねーちゃの役割だったんだ。ぴーちゃんはなにがたべたいですか?」


「え、ええと……そうですわね……ニーナさ……ニーナおねーちゃまにはお子様ランチセットがオススメですわ。ステラおねーちゃま……じゃなくて、ステラ様にはスモークサーモンとチーズのサンドイッチなどいかがかしら?」


 ニーナが両手を万歳させた。


「ニーナとぴーちゃんは、お子様ランチセットなのです! おそろいなのですよ」


「そ、そそそそうですわね」


 ニーナに合わせる、ぴーちゃんに心の中で敬礼。


 ゆっくりと13:30くらいまで、食事と休憩の時間に充てることにした。


 しかし……ルルーナの占いにあった女教皇とは、メリーアンの事だったのだろうか。


 だとすれば偶然ながらも当たりと言えなくもないな。

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