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神に仕えし者たちに光アレ

 俺と魔族が橋の真ん中で対峙している。


 両手に光の撲殺剣を構える神官と、もう一方は金棒を肩に担いだ鬼魔族である。


 状況から戦闘中なことは一目瞭然だ。


 ぴーちゃんの右腕を聖なる水銀が覆った。左腕も音を立てて砲身を伸ばす。


「戦闘モード起動。最終安全装置を解除。AMFアンチマジックシールドの展開を確認。対上級魔族戦用プロトコルDにて対処いたしますわ」


「なんですそのプロトコルDというのは」


「デストロイのDに決まっていましてよ」


 強力な武装や備わった戦闘力からして、PD(パーソナルディレクターシリーズ試作6号機改とは仮の姿である。


 PDパーフェクトデストロイヤーの方がしっくりくるじゃないか。


 ラクシャを挟み込む形になった。


「二対一かよ……卑怯じゃね?」


「あいにく説得は出来るときにしっかりやるようにしておりますので、このまま再開させていただきますね」


 これまでの鬼魔族の目撃情報を訊く限り、常に単独行動だった。


 徒党を組んだり群れるのを嫌うタイプの上級魔族なのだろう。拠点を置かず椅子も作っていないなら、倒してしまえばそれっきりだ。


「チッ……なんで人間が椅子のルール知ってんだかな」


 俺はとっさの判断でニーナの可愛さを思い起こす。


 目を閉じればまぶたの裏に走馬灯のごとく流れていく、幼女の笑顔、ほのかな甘い匂い、触れた手の小ささ、ほっぺたのぷにぷに感。


「うわ……おまえ……それは犯罪だろ」


 ラクシャの金色の瞳が俺からぴーちゃんへと向けられた。


 危うく魔族の椅子について、ステラから訊いたことを“見られる”ところだ。幼女の加護が無ければ危なかった。


「こちらから仕掛けますわ」


 俺の指示など待つことなく、ぴーちゃんは石畳を駆け抜けて鬼魔族に斬りかかる。彼女の右腕を覆う聖なる水銀は、ノコギリのように細かい刃の集積物だ。それらが高速で振動し、相手を切り裂く。


 ラクシャは動かない。黄金の瞳でシスターを凝視したままだ。少女の振動手刀が鬼魔族の胸を易々と貫いた。


「あら、ずいぶんあっけない幕切れですわね」


 ラクシャが口元から血の筋をツーっと垂らしながら、ぴーちゃんの右腕を掴む。


「なんだ……おまえ……あの技が使えるのか? なら……賢者と同じだな。おまえはおれの最強を脅かすから殺す」


「離れなさいぴーちゃんさん!」


 俺の声に反応してシスター少女は腕を引き抜きにかかるが、彼女のほっそりとした手首は鬼の手に掴まれて腕を引き抜くことができない。


 その間にラクシャは胸を貫かれたまま金棒を振り上げ、ぴーちゃんの脳天めがけ振り下ろす。


右腕うわんパージ。光魔砲最大出力ですわ」


 少女の右腕が肩の辺りから外れて自由を取り戻した。


 ※この少女は専門家の指導の下で戦闘を行っています。


 と、一筆添えたくなるような回避方法だ。


 ラクシャの脳天めがけた一撃をかいくぐり、左腕の砲身がラクシャの腹部に密着した。


「発射ッ!」


 閃光が爆ぜて鬼魔族が二十メートルほど吹き飛び、俺の後方で石畳を数回跳ねて転がった。


 人間にはできないゴーレムならではの戦闘術である。良い子のみんなは是非参考にしてみよう。ただし、近くに完全回復魔法が使える大神官がいるときだけだぞ。


「痛てぇぇ……マジかよこいつ」


 生まれたての子鹿のようにプルプルと全身を震えさせながら、ラクシャはゆっくり立ち上がる。


 そこめがけてぴーちゃんの光魔砲が三発放たれたが、避けることなくすべて金棒で弾き返した。


 おかしい。相手の思考を読み取ることができるラクシャなら、ぴーちゃんの腕が取り外しできることや、零距離からの光魔砲も避けることができたはずだ。


 試しに俺も光弾魔法をラクシャに放ったが、発射と同時に横に跳んで鬼魔族は避けた。


 先ほどまでの紙一重の回避に比べれば、動きも大きく安全マージンをしっかり確保しての回避運動だ。


「ざっっけんな……ゴルアアアアアアアアアア!」


 胸に刺さったままのぴーちゃんの腕を引き抜いてローヌ川に放り投げる。


 ぴーちゃん、動かず。腕の回収は後回しにして、彼女は俺に提案した。


「ご主人様。コンビネーションで、このまま一気にたたみかけますわよ」


 アコとカノンの連携に触発しょくはつされたのだろうか。


「どうやらそれが良いようですね。鬼魔族はぴーちゃんさんの攻撃は避けられないようですから、私に合わせてください」


「ええ、ご主人様の攻撃タイミングに完璧に同調してさしあげましてよ」


 俺が光弾魔法を放つと、それを避けながらラクシャが金棒を振り回し突っ込んでくる。


 その避けた直後の事だ。


「狙い撃ちますわ」


 回避地点を先読みするように、ぴーちゃんの光魔砲がラクシャの顔面を直撃。のけぞり後方に吹き飛ぶ鬼の髪がチリチリパーマになっていた。


 左手から突き出た砲の銃口に、ぴーちゃんはフッと息を吹きかける。


「素敵な髪型になりましたわね。少しは女性におモテになるかもしれませんわよ」


 そんなセリフを言われては俺に出る幕が無い。


 牙を剥き魔族は吼えた。


「今回だけは……見逃してやる」


 鬼魔族の額の瞳が激しく光る。まるで熱を持たない太陽の中にでも、放り込まれたような閃光に包まれた。


 白く視界を焼く闇の中で、鬼魔族の影が天に羽を掲げる。


 光弾魔法を掃射したが、かわされる間にラクシャの姿は光の中に溶けて消えた。


 閃光が収まり橋の上にただ、風が吹き抜ける。


「逃げられてしまいましたね、ぴーちゃんさん」


 俺の光弾掃射に合わせて光魔砲を放つかと思ったのだが、ぴーちゃんはその場に膝を着いて全身から白煙を上げていた。


 俺に合わせると言ってはいたが、無理をさせてしまったようだ。


「ににににがががががしてててしままままままま」


 俺はそっとシスターの頭を撫でる。


「大変よくがんばりました」


「くくくくややややししししいいいい」


「少し待っていてください」


 俺はその場で神官服を脱いで畳むと、靴も脱いで揃えた。


 橋の縁にある高欄の上に立ち、ローヌ川に飛び込む。


 ラクシャに投げ捨てられたゴーレム少女の腕が落ちたあたりは、だいたい目星もついていた。


 死の海を渡って以来、久しぶりの水泳だが、ローヌ川のトビウオの異名はまだまだ健在だ。


 川底に落ちていた腕を拾って橋の上に戻ると、白煙がようやく収まりつつあるぴーちゃんに肩を貸して、俺は転移魔法で王都へ跳んだ。

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