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悟って大神官

 鬼魔族ラクシャは俺の顔をまじまじと見つめ続ける。


「私は上級魔族デストロイヤーを名乗ったことはありますが、賢者などと分不相応な自己紹介はしたことがありませんよ?」


 ラクシャは首を傾げた。


「なんだ……いや……同じ顔だが……賢者の力は無いのか……」


 額の金色の瞳を輝かせたまま、鬼魔族はブツブツと呟く。世の中には自分にそっくりな人間が三人はいるというが、他人のそら似だろう。


 俺は光の撲殺剣を構えた。


「始めると言ったからには最後までお付き合い願います」


 丸めた猫背を反るようにしてラクシャは天を仰いで笑い出した。


「ふふふはははは! おれが……見間違うわけがないだろ。おまえは違う。ニセモノだ」


「どなたか存じ上げませんが、その方のニセモノ扱いとはまいりましたね」


 スクッと背筋を伸ばして鬼魔族は口元の牙をちらつかせながら、金棒を両手に持つ。


「なら、おれをからかってあの力を使っていないのか……」


 あの力とはいったいなんのことやら。


 ラクシャが再び背を丸め前傾姿勢をとった。


「まあいい……その顔に生まれたことを呪え」


 一瞬、鬼魔族の身体が沈み込んだかと思うと、瞬きする間に俺の眼前に飛び込んでくる。


 本能の赴くまま力任せに金棒を振り上げた。


 動きは速いが単調だ。振り下ろすのに合わせて俺は前方に爆発反応装光の防壁魔法を展開する。


 せいぜい魔法力でできた防壁を打ち据えるがいい。衝撃が倍になって攻撃した相手に返るカウンターだ。


 ラクシャが金棒を振り下ろすモーションに入ったところで、光の壁が俺と鬼魔族を遮った。


 が――


 金棒は最後まで振り下ろされることはなかった。


「危なっかしい技だ……賢者も同じ手を使うがおまえもか」


「おや、反応装光は私のオリジナルと思っていたのですが、賢者という方も使うのですね」


 技や魔法も突き詰めていくと、似通ったコンセプトにたどり着くことがある。


 防壁を挟んで俺は後ろ手に回した左手に中級火炎魔法を用意する。


 光の壁が消えた瞬間、早撃ち勝負といったところか。


 タイミングを計る。あと5……4……3……2……1……。


「シャアアアアアアア!」


 爆発反応防壁が雲散霧消する瞬間をまるで知っていたかのように、ぴったりのタイミングでラクシャが吼える。


 距離にしておよそ1.75メートル。金棒の間合いのギリギリ外から俺は中級火炎魔法を左手から解き放つ。


 神官装束の俺が黒魔法を撃つとは思うまい。


 火球がラクシャの胴体を完全に捉えた――はずだった。


「ぶっ潰すッ!」


 鬼魔族は振り上げた金棒で俺の放った火球を、いとも容易く上段から打ち付け地面で爆発させた。




 ドゴォォォォン!




 爆風を防ぐ魔法は間に合わず、俺は爆風に飲まれて後方に吹き飛ばされる。


 即座に回復魔法で焼けただれた肉体を再生しながら、受け身を取って着地をすると前方に視線を向けた。


 黒煙の中にラクシャの影が揺れる。橋の中央に小さなクレーターが出来上がり、石畳がめくれて基部が剥き出しになった。


 金棒を肩に担いだまま、ラクシャはゆらりゆらりと俺に近づきながらブツブツ呟く。


「黒魔法の使い方まで……そっくりじゃんかよ。よくできたニセモノ野郎だな」


「どうあっても私を賢者とやらのニセモノにしたいようですね?」


 賢者の正体が余計に気になるのだが、今は目の前の鬼魔族に集中しなければ。


 とはいえ隠し球の黒魔法まで見切られるとは思わなかったな。


 ラクシャがわらう。


「次は……どんな手品でおれをもてなしてくれる?」


「こういった趣向はいかがでしょうか」


 左手にも光の撲殺剣を生み出して、二刀流の構えを取ると今度は俺から仕掛けた。


 演舞のように撲殺剣を振るって、連撃を高速で叩き込む。


「なるほど……だが、見えるぞニセモノ」


 ラクシャの身体が風のように俺の撲殺剣をすり抜ける。そう錯覚するような紙一重の回避を魔族は平然とやってのけた。


 まるで風に揺れる柳の枝だ。俺が放つ一撃の軌道に逆らわない体捌きには、速さも鋭さも切れもない。


 緩やかに静かに受け流された。アコの言っていた「動きは速くないのに攻撃が当たらない」とは、この事か。


 軽く後方に跳んで間合いと呼吸を整え直す。


 ここに来て、ヒントはたった今、ラクシャの漏らした呟きの中にあった。


「まるで未来が見えているか、私の心の動きを読み取っているようですね」


 と、ラクシャが口ごもった。


「ど、どどど、どうして……わかった?」


 この手の能力持ちは自身の能力にかまけて、戦闘における考察力が実力に見合わず低かったりもする。


 バーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカ。


 ラクシャは全身を激しく震えさせて吼えた。


「バカに……するんじゃねえええええええ!」


 心を読むパターンだな、これは。


「そうだ……くそ……おまえ……口調と中身が違って気持ちが悪い。賢者は違ったぞ。ほんとマジでキモイ」


「そのような事を申されましても」


 鬼魔族の額の瞳が金色に光る。


「おまえ……本当に賢者を知らないんだな」


 金棒を振り上げラクシャは腰を落として重心を下げた。る気は依然、満々というところか。


「知っていようといまいと、私を倒すつもりなのでしょう?」


「秘密を知られたんだから当然……だろ。人間の冒険者ってのは甦る。だから死なないように手足を潰して、じっくり痛めつけて心を破壊する……ふふふ、ははは!」


 これはますます放置はできないな。


「おれを止められるもんならさ……止めてみろよ」


 こちらの心が読まれている以上、駆け引きは通じない。なら“わかっていても避けられない”攻撃に切り替えていくまでだ。


 ラクシャが一歩踏み出そうとして踏みとどまった。


「え? あるの……そういうの?」


「私の心に直接訊いてみてはいかがでしょうか?」


 俺は不敵に笑みを浮かべた。


 ない。ありません。いやまいったな。


「ハッタリ……じゃねーかあああああ!」


 防御と時間稼ぎは出来そうだが、手持ちのカードではラクシャを倒すまでには至らない。


 それに俺の手札は第三の目によって見透かされていた。


 これは持久戦になりそうだと溜息が出た矢先――




「お帰りが遅いので何をしているのか心配で見に来てみれば、ずいぶんお困りのようですわねご主人様」




 ラクシャの後方十数メートルに、神官服姿のゴーレムメイドシスターが姿を現した。


 切り札が勝手に手の内に生えてきたな。

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