ひとりで殺(で)きるもん!
「アコさん。カノンさん。やっておしまいなさい」
勇者と神官見習いが武器を掲げる。
「「あらほらさっさー! ほいさっさー!」」
ノリがよろしくてけっこう。二人はそれぞれ、腹痛で剣も抜けない獣人たちを倒していった。
剣の腹でポカリと頭を叩いてアコが虎獣人を気絶させる。
「一方的なのは卑怯でちょっと勇者らしくないよなぁ」
「中級光弾魔法! 中級光弾魔法! 勝てば良かろうなのでありますよ! フーッハッハッハ!」
悪のカリスマを感じさせる神官見習いの将来が不安だ。
左右の手に剣を構えて舞剣士が跳ぶ。
身体を独楽のように回転させながら、獣人たちを次々となます斬り。
ややグロい。
「アーッハッハッハ! みんな死んじゃうよおおお! アタシの剣で死んじゃうんだからあああ!」
どうやらタロットの死神のカードとは、ラヴィーナのことだったらしい。
踊り子は笑いながら、船のメインマストから下がったロープを駆使して舞い踊る。
滑車でビュンと空高くあがり、畳まれていた海賊船の帆がばさりと開いた。
ショーの観客たちは抵抗もできず、次々と倒されていった。
空中を飛び回り、剣を手足のように振るって無双する姿は、まるでどこぞの兵団の兵長である。
地上でチマチマと戦うアコが、お腹を抱えてよろよろの獣人を一人倒す間に、ラヴィーナは五人は倒していた。
「死ねば助かるんだよぉ!」
腹を抱えた巨体の熊獣人が野太い声を上げた。
「お、おだずげぐだざぃいいい!」
「うん! いいよー」
ラヴィーナが熊男の胸を一瞬で×字に切り裂いた。
「ぐぎゃああああああ!」
ドサリと後ろに倒れる熊男。
この技量がありながらラヴィーナが死んで教会で復活したのはなぜだろう。
その答えはもう一人の彼女にあった。
ルルーナの奮戦である。妹の自立が機動力を武器とする舞剣士を解き放った。
下剤を食らってなお腹痛に負けず、剣を抜いた一団が占い師を囲む。
血走った目で連中は「ピニキに手をあげやがってえええええ!」と、ルルーナに襲いかかった。
「……笑止」
先頭で仕掛けたネズミ顔の剣をすり抜け回避すると、カウンター気味に水晶玉のボディーブロー。
腹にめり込み埋まってドガンッ! と、爆ぜる。
「――ッ!?」
漏れたな。崩れ落ちるネズミ顔のお尻の辺りがブロンッ! と、もりあがった。
このほぼクッキーのような下剤にも、作り手の良心くらいは宿っている。
食物の繊維がたっぷりなのだ。
ルルーナは淡々とした口振りで海賊たちに告げる。
「……顔はよしておいてあげる」
「こいつ腹狙いだ!」
「なんて性格が悪いんだ!」
「鬼か悪魔か邪神か破壊神だぞ!」
「腹パンやめてマジで!」
魔族も恐れる占い師は、握った水晶玉に光の魔法力を込めてグルグル回す。
「……次は誰?」
獣人四人に囲まれにらみ合いだが、成長したルルーナなら捌くだろう。
そして――
「ぷ、ぷぎー! よくも結婚式を無茶苦茶にしてくれたぷぎーね! この貧乳まな板女!」
魔王ステラと海賊団長ピッグミーの対決だ。
左手のかぎ爪を振り回して豚男がブヒブヒ鳴くと、ステラの髪が赤く燃え上がるようにさかだった。
「だ~れ~が~低刺激系ボディーよ!」
「そんなこと言ってないぷぎー!」
さすが魔王様。相手が事実を突きつけてもポジティブに言い換える。
「焼豚になりなさい! 上級火炎魔法!」
ステラの手から炎が渦巻いてピッグミーを包み込む。
「ぐあああああああああああ!」
炎に包まれ白いタキシードが燃え尽きた。
が、股間の部分が残る。魔王の炎をもってしても、その部分を焼き尽くすことは難しい。
オークの肉体が露わになった。丸太のような腕にどっしりとした脚。
抱えるような腹は驚くことに六つに割れていた。
ピッグミーは全身筋肉ダルマだ。
ステラの炎に焼かれて煤だらけになりながら、豚男は吼える。
「もうめちゃくちゃぷぎー! 許さないぷぎー!」
巨漢だが迅い。三歩でステラの目前まで間合いを詰めると、拳を打ち下ろした。
「――!?」
ピッグミーの思わぬ反応速度にステラは棒立ちだ。
そこにベリアルが飛び込んだ。割り込むようにステラを肩で突き飛ばし、ピッグミーの拳を代わりに受ける。
腕を×の字に組んでのクロスブロック。それを上から岩石のような拳がハンマーよろしく叩きつける。
ベリアルの身体が膝のあたりまで甲板にめり込んだ。
「くああああっ!」
「べ、ベリアルッ!?」
ステラが魔法を放とうとするが、ベリアルとピッグミーの距離が近すぎる。半端な黒魔法ではピッグミーはびくともしない。上級爆発魔法など範囲の広い攻撃などもっての他だ。
鼻から激しく息を吐き、ピッグミーは「フー! フー!」と興奮のあまり口からべろんと舌を出すと、ベリアルめがけてさらなる追撃の鉄拳を叩きつける。
ガゴンッ!
鈍重な音とともに、女騎士は甲板を貫通して船倉に落ちた。
「次はオマエぷぎーよ!」
野獣の視線がステラを見据える。
「ちょ、ちょっとなんとかしてよセイクリッド!」
「すみませんステラさん。ニーナさんのそばにいてあげなければなりませんので。自力でどうにかしてみてはいかがでしょう?」
ニーナはキラキラモザイクモードの視界に「ほえぇ~」と見入っている。
ステラが魔法を構築しながら悲鳴を上げる。
「な、なんとかって! 大きな花火だとみんな巻き込むでしょ!」
「わかっているなら工夫なさってください」
「も、もう! ベリアルを助けに行かなきゃならないし……働きなさいよ役目でしょ!」
魔王はゆっくり間合いを詰めるピッグミーに、小さな火球を連打で浴びせかけた。
ドシン、ドシンと豚男の進軍は止まらない。
「いやああああああああ!」
俺の隣でニーナが(`・ω・´)顔を俺に向けた。
「おにーちゃ。ステラおねーちゃがたいへんかもです」
「大丈夫ですよニーナさん。貴方のお姉さんはとても優秀ですから、お一人でなんとかしてくれます。信じましょう」
「え? は、はぁい!」
さあがんばれ魔王。妹の信頼に応えて一人でその窮地から脱するのだ。
と、そろそろ団員たちも残り僅かだな。
雑魚が片付き次第、俺にも出番が回ってきそうだ。




