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ニーナをだいじに

 ラヴィーナが受け入れたその時――


 もう一度、教会正面の扉に小さな隙間ができて、すぐに閉じた。


 タッタッタッ! と、小さな影が円陣に潜り込む。


「ニーナもニーナもいーれて!」


 これは想定外だ。昼寝の時間なのだが、ステラとベリアルがいないのに気づいて、探しにきてしまったか。


 ステラが慌てて早口になる。


「だ、ダメよニーナは。まだ小さいんだから。お姉ちゃんたちはその……お、お仕事で行かなきゃならないのよ」


「あ、あうぅぅ」


 姉として心配に思うのは当然だ。


 このメンバーで魔王候補に殴り込むのに、幼女を連れていくわけにはいかない。


 前回の氷牙皇帝アイスバーンとの戦いは、ニーナの昼寝の間に終わらせることができたのだが……さてどうしたものか。


 幼女は肩を落として、背伸びをして伸ばした手を引っ込めようとした。


 自分が小さいからダメなのだと。


 このままでは心に傷を負ってしまう。姉に守られるだけの妹の負い目をニーナが背負ってしまいそうだ。


「……一緒にいく?」


 諦めのニーナに空いている手を差し伸べたのは、同じ妹のルルーナだった。


「え? で、でもニーナは小さいですから」


「……お姉ちゃんのお手伝いがしたいんだよね」


 毒舌腹黒物理攻撃型占い師らしからぬ、優しい問いかけである。


 ニーナはコクコクと二回、首を縦に振った。


 ベリアルがルルーナを睨む。


「ニーナ様を連れ出すのには反対だ」


 ニーナをみすみす危険にさらす必要はない。守護者で保護者のベリアルにとって、ルルーナの提案は軽薄なものに見えたのだろう。


「あ、あうぅ……ニーナは……」


 諦めが幼女の心を包む。


 俺は円陣に加わると、ニーナの手に手を添えた。


 ニーナ以外の誰もが目を丸くする中、断言する。


「ニーナさんは責任をもって、私がお守りします」


 ニーナは「……?」と、不思議そうに首をかしげた。


 反対派の急先鋒、ベリアルが静かな怒りの矛先を俺に向ける。


「それには及ばない。ニーナ様には残っていただく」


「指一本触れさせませんよ。もしニーナさんに危害を加えようという者があれば、このセイクリッド全身全霊をもって、その脅威悪意のすべてを根絶すると神に誓います」


 割と本気である。


 ベリアルが背筋をぶるっとさせながら、食い下がる。


「だ、だがセイクリッドよ。教会の仕事はどうする?」


案山子かかしでもおいて置けばいいでしょう」


「そもそも、前回は教会の出張所ということできさまは出動したではないか? 理由もなく動くのは教会の神官としてどうなのだ?」


「それは良い質問ですね。ベリアルさんの仰る通り。逸脱した行為は教皇庁から神官としての適性を疑われかねません。まあ、私は優秀なので問題ありませんが」


 カノンが思い出したように声を上げた。


「そ、そういえばそうでありますよ! 噂でありますが、教皇庁には影の密偵がいるって聞いたことがありま……」


 俺はそっと人差し指で彼女の口を閉じさせた。


「カノンさん。それ以上は口にしない方がよろしいかと」


「はうぅ……であります」


 教会は公平公正な“影のできない光”である。それが教皇庁の見解だ。


 だが、年に何人も神官が突然、その職を解かれるなり行方不明になっていた。


 影のできない光など存在しないということだろう。


 俺は一同に宣言する。


「ニーナさんは私がお守りしますから。それに、司祭が出向く理由もきちんと用意してあります」


 アコがうんと首を縦に振る。


「セイクリッドが守るってことは、移動要塞状態だね」


 言い得て妙だ。


 カノンがブルッと震えた。


「武者震いが止まらないでありますよ!」


 ベリアルは俺をにらみつけたままだ。


「……クッ……きさまの実力は認めるが……」


 苦しげなベリアルをニーナは心配そうに見つめた。


「ニーナはお留守番じゃなくていいの?」


 ニーナ自身も空気の変化に困惑する中で、最後の決め手はステラだ。


「お手伝いしたいのよね?」


「は、はいなのですステラおねーちゃ。だけど、ニーナはまだみじゅくものですからぁ」


 赤毛を揺らしてステラはニーナから視線を俺に向け直した。


「ちゃんとニーナの出番も考えて、なおかつちゃんと安全も確保しなさい。これは命令よセイクリッド!」


「仰せのままに」


 ベリアルもついに「ステラ様がそうおっしゃるなら」と、折れる。


 やりとりにラヴィーナが眉尻を下げた。


「ニーにゃん来てくれて百人力って感じ?」


「わああい! ニーナもお手伝いがんばるのです!」


 作戦の成功よりもニーナを守ることで全員の気持ちが一つになってしまったような気がするが、ともあれ俺に課せられた使命も責任も大変重たいものになった。


 万全を期する。大神官のあらゆる力をもってして。


 ステラが俺に訊く。


「それでセイクリッド。あたしはなにをすればいいの?」


「そうですね。まずはここにいる全員で、クッキー作りでもしましょうか」


 俺の言葉にニーナ以外が「は?」と、ぽかんと口を開けた。


「ニーナもクッキー作るのです!」


 全員の重ねた手を上下にさせてニーナがぴょんぴょんその場で跳ねた。


 今日も元気だ幼女がかわいい。


 さてと、クッキー作りをしながら、頭の中で脚本さくせんに修正を加えるとしよう。

 

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