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ぅゎょぅι゛ょゃさc

 ルルーナの特訓を終えた翌日――


 教会の聖堂にニーナがやってきた。


 普段の元気で明るい天使のような幼女が、どことなく寂しげな顔で長椅子に座って脚をぷらんぷらんとさせた。


 俺は膝を折って目線をニーナと同じ高さにした。


「何かお力になれませんか?」


「セイおにーちゃ……」


 小さな口から吐息が漏れる。


「欲しいモノがあればなんでも仰ってください」


 ニーナは小さく首をかしげた。


「えっとえっと……ニーナね、赤ちゃんが欲しいなぁ」


 鎮まれ俺のフィーリング。


「赤ちゃん……ですか?」


「うん! それでね、ニーナがおねーちゃになっていっぱい育てるの」


 幼女はやっと笑顔を見せた。


「どうしてまた、そのようなことを?」


「ステラおねーちゃはニーナに秘密って言うから、ニーナがおねーちゃになったら、きっとステラおねーちゃの気持ちがわかるかもって思ったのです」


 なんだこの聖女は。神か。


 ステラのニーナを喜ばせたいというクッキー作りが、幼気な妹を傷つけてしまったようだ。 が、それでもステラを信じるニーナの心に、このセイクリッド心を打たれたと言わざるを得ない。


「ニーナさんは大変お優しいですね。きっとステラさんもニーナさんを思っていますから、ご安心ください。もし違ったなら私を大神樹の下に埋めてくださってもかまいません」


 ニーナは笑う。


「セイおにーちゃ埋まっちゃうのだめですからぁ」


 幼女が眩しすぎて直視できない件。


 と、そこにようやくステラが現れた。


 聖堂の扉を開いてバスケットいっぱいのクッキーをカゴに抱えたまま、ニーナを見つめる。


「やっと出来たわよセイクリ……はうあああ!」


 魔王城で姉に秘密と言われ、傷心の妹が駆け込み教会していなかったと思わなかったのか魔王様。


「おねーちゃ?」


 ぽややんっとした表情でニーナはステラを見つめる。


「ま、待って! まだ秘密なの!」


 焦って帰ろうとするステラに俺は告げた。


「そろそろ秘密がベールを脱いでも構わないのではありませんか?」


「まだまだ完璧じゃないから! ちょっと焦がしちゃったし」


 退却しようとするステラの前に、魔王城の門番――ベリアルの巨体が立ちはだかった。


「ステラ様。そろそろお覚悟なさいませ」


「だ、だめよ! まだもうちょっと改良の余地っていうか……」


 教会の入り口付近であたふたするステラに、ニーナはとっとっとっと歩み寄る。


「おねーちゃだいじょうぶ?」


「だ、だだ、大丈夫よ!」


「わあぁ! 美味しそうなクッキーなのです」


 俺もニーナのあとに続いた。


 ステラが言うように、手作りクッキーは所々焦げてはいるのだが――


「おねーちゃ、ニーナ、食べてみてもいい?」


 上目遣いで幼女が姉に懇願するように訊いた。


「え、ええと……」


 悩むステラに俺はそっとうなずく。


 なにも、王都の菓子職人のような上質なものを求めているわけじゃない。


 ニーナが欲しいのは“おねーちゃの手作りクッキー”だ。


 ステラが声を震えさせた。


「で、でもまだちゃんとできてないし」


 背後からベリアルの巨体が教会の入り口にふたでもするように迫る。


「魔王様、お覚悟なさいませ」


 ベリアルの身を挺した(?)説得で、ついにステラはバスケットを手にしたまま、ゆっくり腰を落とした。


「ほ、本当はニーナにはもっと美味しいのを作ってあげたかったの!」


 差し出されたバスケットから、一番焦げ焦げな一枚を手にしてニーナはハムっと食べる。


「とっても美味しいのです。ステラおねーちゃはお菓子作りの天才かも」


「う、うわああああああああん!」


 ステラはしゃがんでニーナを抱きしめる。


 ニーナは少しだけ苦しそうだ。


「おねーちゃ、どうしちゃったの?」


「ごめんね! ごめんね! 黒焦げで……」


 ニーナはニッコリ笑った。


「このクッキーはニーナが好きな香りがするのです。おねーちゃの愛がいっぱい詰まってるから、どんなお菓子よりもおいしい!」


 砂漠の都で二人で選んだ香辛料が姉妹の絆を深めたようだ。


「せっかくですからこのクッキーを囲んで紅茶などいかがですか? ベリアルさんも」


「いただくとしよう」


 ベリアルの巨体が縮んで女騎士の姿になった。


 ニーナがとびきりの笑みを浮かべる。


「おにーちゃに大賛成!」


 まだクッキーの出来に満足していないステラだが、喜ぶニーナに心の底から安堵しているようだった。




 我が私室にて午後の紅茶を楽しむことになった。


 ベリアルは紅茶にワインを入れて欲しいというのだが、彼女はまだ勤務時間内である。


 不許可だ不許可。


 香の強い茶葉を選んで、端が焦げたものの、これまでで一番クッキーらしく焼き上がったステラの手作りのそれを食べる。


 ステラはずっと自信なさそうにしていた。


「もうちょっとで完璧だったのよ」


 俺はステラのクッキーを食べつつ返す。


「いえ、これは完璧ですよ。ニーナさんへの愛でいっぱいですから」


 ニーナもうんうんと、何度も首を縦に振る。


「おねーちゃ、ニーナがクッキー大好きだから作ってくれたの?」


 尻尾をたらりと下げてステラは「うん」とだけ応えた。


「ありがとうなのです! ニーナはおねーちゃのこと、もっともっともーっと大好き!」


 見る間にステラの顔が耳まで真っ赤になった。


 と、同時に、ニーナが椅子から身を乗り出してステラのほっぺたに「ちゅっ!」と唇を添える。


「きゃっ! ちょ、ちょっとニーナ! いきなりびっくりするじゃない!?」


「ニーナに秘密にしてたから罰ゲームなの」


 そんな罰ならいくらでも受けたい。


 そして幼女は姉にこう言った。


「あのね、あのね……今度はニーナも、おねーちゃのクッキーのお手伝いしたいなぁ」


「に、ニーナにお手伝いできるかしら?」


「できるよぉ!」


 姉妹のやりとりに俺は心の中で悶絶し、同席したベリアルはティーカップを手にしたまま「尊い! 尊い!」と連呼した。


 ベリアルの意見におおむね同意である。


 かくして、ステラとニーナ姉妹の小さな問題は解決に向かいそうだが、もう一方の姉妹について、そろそろ魔王様にもご協力を願いたいところだ。


「このクッキーを引き出物にするのもいいかもしれませんね」


 ステラが目を丸くする。


「えっ!? セイクリッド結婚するの!?」


「いえ、私ではありませんが……」


 ホッとしたようなステラとギョッとした顔のベリアルに挟まれて、幼女は不思議そうな顔だった。


 そんな顔もまた、尊い。間違い無く尊いのだ。

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