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大神官は静かに説得(物理)したい

 狼獣人が牙を剥いて曲刀を振るう。


「よくもダチをやってくれたなぁああ!」


「友人なら悪事に手を染めるのを止めておあげなさい」


 光の撲殺剣で刃を弾く。軽くあしらったつもりだが、狼獣人は後ろの大きくのけぞった。


「ぬおあああ! 商人のくせになんてバカ力だ」


 そのままひっくり返った狼獣人の頭をコツンと光の撲殺剣で叩く。


「商人の強さを思い知りましたか?」


「ぐへっ!」


 軽い脳しんとうを起こして狼獣人も動かなくなった。


「次は誰が私の相手をしてくださるのでしょうか?」


 俺を中心に取り囲んだ海賊団員たちが、お互いに視線で牽制しあう。


 今、俺が倒した狼獣人は彼らの中でも一目置かれる使い手だったようだ。




「ウルぴっぴさんがやられちまったぞ」


「ぴっぴの称号をピニキから下賜かしされたウルフィンがッ!?」


「ヤベーマジヤベーよぉ」




 かかってこないというなら、そろそろこちらから――


 と、思った矢先。


 護衛を数名従えて、後方にデンっと構えた巨漢の海賊船長が大口を開けた。


「怯むな野郎どもぷぎー! 相手がいくら強いっつっても一人だぷぎー! 一人が五〇人に勝てるわけないぷぎー! その商人を倒したやつには、ウルフィンにかわってぴっぴの称号を与えるぷぎよ? みんなで一斉に突き殺すぷぎー!」


 曲刀は刺突しとつよりも斬撃ざんげきを得意とする武器だ。


 剣を振り回して俺一人を囲んでも、一度に攻撃できるのは左右正面と四人がせいぜい。それ以上で仕掛ければ同士討ちになりかねない。


 海賊団員たちは剣を突きに構え直した。360度、切っ先が俺を狙う。


 まさに大神官危機一髪。


 まさか俺が剣を刺される方に回るとは。


 後方の安全地帯で、ピッグミーが手を握り親指を立てる。腕を前にぐいっと出すと、手首をひねって親指をゆっくりと下に向けた。


「やれぷぎー」




「「「「「「「「「「うおああああああああああああああああああああ!!」」」」」」」」」」




 砂煙をまき散らし、男たちが俺めがけて切っ先を向けながら突進してくる。


 避けきれる数ではないか。




 粉塵のように細かい砂が巻き上がり、団員たちの怒声が風の中に消えた。


 俺の状況はその砂煙の中にあって、ピッグミーからは見えない。


「やった……ぷぎー?」


「残念。そのセリフはやれていないフラグですね」


 俺の全身に刃が突き立てられる。


 手足はもちろん、胴体も喉元も隙間無く曲刀の切っ先が貫こうとした。


 が、それらは阻まれる。


 光輝く魔法力の鎧によって。


 剣を手に、いくら力を込めても突き刺さらず、切っ先が欠けたことにも気づかないまま、団員の一人が悲鳴をあげた。


「ピニキッ! こいつ! こいつメッチャ硬い! あと、なんか眩しい!」


 久しぶりに使ってしまった……この全身を光で包む鎧の魔法。


 俺は忠告する。


「早く離れた方がいいですよ」


 剣を押し込もうとする彼らは、俺の身体を包む光の正体を理解していない。


 これもいわば、神官見習いのカノンが放つ光弾などの光属性魔法を応用したものだ。


 剣のようにすれば光の撲殺剣。


 それを鎧にして身にまとった姿から、いつしか俺に説得(物理)された者たちは言うようになった。


 光輝くデストロイヤー……と。


「うるせえええ! なんで! なんで死なないんだよ! 剣が刺さってるはずだろ?」


 ピッグミーほどではないが、巨体の熊獣人が肩を戦慄わななかせる。


「残念ですが……狼狽うろたえるな小僧ども」


 瞬間――


 カッ! と、俺を中心に閃光が夜の砂漠を一瞬だけ、まるで昼間のように明るく染め上げた。


 爆風で俺を囲んだ五〇人以上の海賊団員たちは、四方八方ちりぢりとなって吹き飛ばされる。


 それはまさに銀河の爆発によって飛翔するかのように。


 周囲をなぎ払った爆発の中心地で、俺は夜空の星を見上げた。


「爆発反応装光魔法。敵味方問わず自分以外みな吹き飛ぶ。いやはや、砂漠が広かったおかげで壁や天井に叩きつけられなくて、みなさん良かったですね」


 一瞬で団員のほとんどが退場したところで、ピッグミーの顔つきが変わる。


「なん……なんなんだぷぎー! なんなんなんなんなんなんだぷぎーよ!」


 余裕は消し飛び焦りが海賊船長を早口にする。


「おや、あんなにたくさんいた部下も、今では片手で数えられる程度に。いかがいたしましょうピッグミーさん。死ぬかられるか、どちらになさいますか?」


「どっちも一緒だぷぎー!」


 側近の護衛たちも、今にも海賊船に逃げようかという雰囲気だ。


 フック状のかぎ爪をこちらに向けて豚が鳴く。


「おまえ何者ぷぎーか!?」


「先ほど自己紹介しましたが」


「光輝く死の商人……その顔、覚えたぷぎーよ!」


 (´・ω・`)これを覚えてどうするの? ねえねえ(´・ω・`)に団員みんな吹き飛ばされてどんな気持ち?


「まあ素性は明かせませんが、別に私の正体がなんであれいいじゃないですか」


「な、なんだぷぎー? そんな怖い声で言われても全然怖くないぷぎーよ!」


 恐怖を自覚しているのに否定するの、魔族の間で流行はやっているのか。


「どのみちここで、私に倒されるわけですから」


 勇者アコの時と違い、今回はラヴィーナとルルーナの成長を後援する必要はない。


「ひ、ひいいいッ! 見逃してほしいぷぎー!」


 じりりと後ろに下がり始めるピッグミーに、俺はゆっくりと歩み寄る。


 およそ二十メートルほど。縮地歩行は使わない。あえてね。


 じわじわと真綿で首を絞めるように距離を詰める。


 心憎い死の商人の演出が魔族の心に深傷を負わせた。


「ウウウウ! 来るな! 来るなぷぎ~~! あっ! こらおまえたち逃げるんじゃあないぷぎー!」


 側近も悲鳴をあげて、ちりぢりに逃げていった。統率力はあったが、それも相手が弱い時限定か。


 残るはピッグミーのみ。


 わざとらしく全身をゆらして幽鬼かゾンビのように、俺は砂の海を進む。


「悪い魔族はいねぇぇかあぁぁ……悪い魔族はいねぇぇかあぁぁ……」


「魔族はだいたい悪い事するぷぎーよ! その質問はおかしいぷぎっ!」


 俺があと五メートルまで迫ってもピッグミーは腰の剣を抜きもしなかった。


 ピッグミーまで三メートル。踏み込んで光の撲殺剣で成敗できるところまできて、俺は問う。


「ところでピッグミーさん。貴方は人間に求婚しているそうですね?」


「な、なんで商人がそのこと知ってるぷぎーか?」


 震える声で海賊船長は否定しなかった。


「彼女の故郷から離れるという条件で迫るのはいかがなものかと」


「約束は守るぷぎーよ! それが誠意ぷぎー! ラヴィぴっぴの村とそれに続く交易路では略奪しないぷぎー!」


「では、その双子の妹を殺すというのは?」


「当然ぷぎー! 愛するラヴィぴっぴと同じ顔の女が、別の男とイチャイチャするなんて想像しただけで吐き気がするぷ……」


 光の撲殺剣を抜き払い、踏み込み、打つ。


 瞬きする間にピッグミーの身体が宙を舞う。


 ピニキをフルスイングでホームランするRTAリアルタイムアサシネーションはーじまーるよ。


 終わりました。


「ぷぎぎぎぎっぎっぎっぎ!」


 予想外というか、手応えはあったものの、ピッグミーは十メートルほど後方に跳んだだけだ。れたほほかばうようにでながら、砂の上に着地する。


 どうやら自ら後方に跳んで衝撃を和らげたようだ。それに、そもそもピッグミーの肉体は、脂肪の塊ではなく、鋼のように強靱な筋肉でできているらしい。


 打ち据えたこちらの手が軽く痺れる。


 かぎ爪を俺に向けてピッグミーは吼える。


「い、いきなり殴るなんてひどいぷぎー!」


「いきなり船で乗り付けて荷物を置いていけと脅し、五〇人以上のそれはそれは恐ろしい獣人たちで取り囲み、あまつさえ一斉に剣で突き刺せと指示を出した貴方には言われたくありませんね」


 今度はもう少し、光の撲殺剣の火力を上げた方がよさそうだ。


 片手持ちできるサイズだった撲殺剣を、極太の柱サイズにして肩にかける。


「ひ、ひいい! おっきくなったぷぎー!」


「私に光の撲殺丸太を持たせる魔族は、そうそういません。では、行きますよォ」


「こうなったら奥の手ぷぎー!」


 ピッグミーが懐から小さな煙筒を取り出した。


 魔法道具か。こういったモノは使い手の実力と無関係に、予想外に強力なものもある。


 と、一瞬踏み込むのをためらい、警戒してしまった。




 ボシュッ……………………ヒューン…………パアァン!




 煙筒から赤い光弾が夜空に放たれる。と、沈黙を守ってきたピッグミーの背後の海賊船が振動し、その船体横っ腹から突き出た十門の大砲が火を噴いた。


 即座に防御魔法を前面に展開する。


 着弾はしなかったが、中級爆発魔法を十発同時に浴びせられたような衝撃だ。


 砂煙と硝煙でピッグミーを見失う。


「死の商人よさらばだぷぎー! 帰還魔法ッ!」


 目視を砂塵さじんに阻まれては、正確に呪封魔法でピッグミーの魔法をキャンセルすることもままならない。


 海賊船長の奥の手は逃げの一手だったようだ。


 巨体は砂煙が収まるころには姿を消し、砂の海を渡る海賊船もすでに俺から逃げるようにはるか遠くへと走り去っていった。


「仕留め損な……説得には失敗しましたね」


 しばらく実戦から遠のいていて、交渉(物理)の勘が鈍ったようだ。


 まあ、一度や二度失敗したくらいで、説得を諦めるような俺ではない。


 奥の手も把握できたし、次こそ逃がさず必ず会心して……もとい、改心させてやるからな。


 そう、心に誓って俺は撲殺丸太の素振りをしながら、砂漠のオアシスの帰路についた。




 それからしばらく、活気を失っていたサマラーンで噂が流れ始める。


 (´・ω・`)と描いた仮面をつけ、同じしるしの旗を掲げると海賊に襲われなくなるというのだが……実際に被害は減少したという。


 (´・ω・`)は旅の安全を守るという伝説が、ここに生まれた。

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