覆面野郎Sチーム(´・ω・`) ※チームというけどボッチ
砂漠の商都から戻ると、ステラはニーナを連れていったん魔王城に戻り、すぐにベリアルの着替えを持って教会にやってきた。
きちんと魔王らしいドレス風の装束に着替えなおして、無断外出の痕跡を完全に隠蔽する徹底ぶりだ。
俺の私室でベリアルが、ベッドの上で頬を赤らめる。
「美味い酒を飲んだまでは覚えているが、なぜわたしはきさまの部屋のベッドで、あられもない姿なのだ……まさか、わたしは……」
「何もしていませんよ。そうですよねステラさん」
聖堂から私室をのぞき込むようにしてステラが呟く。
「セイクリッドのセイは性欲のセイね」
ベリアルの顔がますます赤くなる。
「そ、そんな。ああ……く、殺せ……」
逆上して襲いかかってくるかと思いきや、しおらしくなるベリアルに、ステラが部屋に入るなり早口になった。
「うそうそ! ベリアルがお酒飲んで寝ちゃったから、ここに運んだの。汗がすごかったから、あたしが脱がせて拭いてあげただけ! セイクリッドはずっとあたしが監視してたから安心して! はいこれ着替え!」
魔王城から持ってきたベリアルの私服をステラは押しつけるように手渡す。
「そ、そうでしたか。お恥ずかしい! やはりこの命を断つよりほかない! どうか介錯をお願いいたします魔王様」
このあと、ベリアルの説得に二時間かかった。
数日後――
「あれぇ? セイおにーちゃいないのです。今日は二号さんだぁ」
「この案山子の名前が二号っていうの? っていうか、神官が職場放棄!?」
「おねーちゃ、お手紙があるのです。読んで読んで」
「んもう! 書き置きなんて、あたしが読むとは限らないじゃない。なになに……本日はお休みしますですって。アコやカノンや双子姉妹が死んだらどうするのよ?」
「おねーちゃ、二号さんの中、きらきらしてるよ?」
「げっ!? 殺魔王兵器じゃないのッ!? ニーナは下がってて!」
「きらきらだねぇ~きれいだねぇ~」
「襲ってこないみたい。はっはっは! この魔王であるあたしの威光にひれ伏したわね」
「お手紙はそれだけなのです?」
「えーと、おやつはキッチンの戸棚にあるので、みなさんで召し上がってください……だって! 見に行きましょニーナ!」
「「わーい! マカロンだぁ~」」
熱砂の海に咲いた華――オアシスの大都市サマラーンにて、午前中は情報収集に励んだ。
およそ海賊がどの辺りに出没するか、集めた情報から検討しつつ、ラクダと荷車を購入する。海賊を恐れてサマラーンを離れる商人も多いため、入手にはさほど苦労はしなかった。
荷車に空の木箱を積んで、準備は万端だ。
フード付きの白い外套を羽織ると、俺は教会の私室から持ってきた懐かしい装備品を手にした。
白い仮面である。
純白の陶器のようにつるりとしたそれには、古代文字を組み合わせて(´・ω・`)と記されていた。
学生時代に身分を隠す時、よく使ったものだ。
まあ、上級魔族をしばきだした頃には、面倒になって使わなくなってしまったのだが……現在の俺は学生ではないので、こういった非合法活動をするにあたり、使わざるを得ない。
「さて、行くとしますか」
ラクダを引いて月の昇る砂漠を歩き出す。
ほどなくして――
街で集めた情報通りに、遠方から巨大な船が砂の海を渡って俺に向かってきた。
かなりの大きさだ。
何も、俺のようなラクダ一頭荷車一台めがけて襲ってくることもなかろうに。
砂煙を上げて船は迫ると、俺の行く手を阻むように船の横っ腹が砂の交易路を遮った。
側面片側だけで大砲が十門。海賊船を名乗るには十分すぎる武装だ。
甲板から曲刀を手にした男たちが姿を現す。
その中に、ひときわ大きな……というか、デブっとした影があった。
赤い羽根付き帽子に立派な赤いコート姿。
右目に眼帯をして、左手はフック状のかぎ爪の義手をした豚顔の豚である。
「ぷぎー! 獲物だぷぎー!」
豚は鳴いた。すると、トカゲやらオーガやらゴブリンやら、様々な種族が混然とした船員たちが声を上げる。
「「「「ピニキッ! やっちまいやしょうぜピニキ!」」」」
ピニキと呼ばれた船長は、いの一番に甲板から飛び降りてきた。
それに続いて次々と、異形の者たちが曲刀を手に砂の大地に降りるやいなや、俺を取り囲む。
「プギッギッギッギギ! 人間! 商人かぷぎー? ならオレぴっぴこと砂漠の大海賊のことを知っていないはずないぷぎー?」
太鼓でも抱えているような巨漢が俺に問う。
一つ言えることがあるとすれば、この魔族は手下ではなく、自分が率先して行動するタイプであった。
リーダーシップのある人材だ。
実に惜しい。
「どうしたぷぎー? この大砂海の支配者ピッグミー様を前にして、言葉を失ったぷぎーか?」
オーク系の上級魔族は不思議そうに首を傾げる。
まず、間違いなくこの豚野郎が海賊の団長に違いない。
「っていうか、なんだぷぎー! そのふざけた仮面はッ!」
俺の(´・ω・`)顔に立腹のようだ。
「…………」
あえて沈黙で返す。あえてね。ああ、なんだろうか。
十代の自分を思い出した。
「ともかく命が惜しければ荷物だけ差し出すぷぎー! オレぴっぴは寛大だから、命だけは助けてやるぷぎーよ?」
豚のような鼻をヒクヒクさせて、巨漢の海賊船長は左手のかぎ爪フックで俺をびしっと指差す。と、同時に俺を囲んだ異形の者――魔族たちが、殺気を漲らせた。
焦るなって。
「「「「オイコラテメェ! ピ(ッグミー)ニキに応えろやコラァ!」」」」
砂漠に響く大合唱。
男たちの怒声に俺はゆっくり頷いて返す。
「どーもピッグミー=サン……上級魔族デストロイヤーです」
ああ、あの頃の情熱に溢れていた自分を思い出す。
魔族許さないマンだった己が甦り、俺はフード付きのローブを脱いだ。
ピッグミーが声を上げる。
「抵抗するならやっちまうぷぎー!」
配下の海賊たちが俺に押し寄せる。
荷台を引いてきたラクダを解放して「自由に生きろよ」と告げると、俺は右手に光の撲殺剣(打撃属性)を構える。
様々な種族が斬りかかった。
「「「「死にさらせやクソ商人がああああ!!」」」」
全方位から迫る曲刀の斬撃。
が、どれも他愛ない。ステラの魔法に比べれば、そよ風のような殺意だ。
正面から挑んできたトカゲ獣人の剣を光る棒で弾き飛ばす。
トカゲ獣人は砂の海を転がり、のたうち苦しみ意識を失った。
一撃KO余裕でした。
他の曲刀はすべて躱しきり、俺は俺を殺そうと躍起になる一同に告げる。
「死にたい方からかかってきてください」
「ぷぎー! 人間のクセに生意気だぷぎー!」
お前が俺の知人に手を出したのが運の尽きだ。
(´・ω・`)仮面をつけているので表情は伝わらないが、俺は久しぶりの闘争に笑顔になっていた。
ああ、仮面って素晴らしい。
なにせ何人ブチのめしても、俺だと特定できないのだから。
まずは三桁近くは乗船しているであろう、海賊船長の配下を一人ずつしばき倒して、二度と交易商人に手出しできないようトラウマを植え付けることにしよう。




