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こちらラスボス魔王城前「教会」  作者: 原雷火
シーズン8 ※Pルートは「神トーク」までの通常ルートを読み終えてからお読みください
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奪還準備

 評議場で敵に関する情報がまとめられた。


 誘拐犯は俺にそっくりな“賢者”であり、その戦闘力は非常に高く、マーク2曰く「戦闘用に特化された、かなりハイスペックなゴーレム素体」とのことだ。同時に生体部品も使われているという。生体部品にはドラゴンなど強力な魔物の細胞が使われ、かつてマリクハで賢者と対峙した時よりも、より性能向上しているらしい。


 ニーナを守ろうとしながら、敵の情報収集もしていたマーク2有能すぎて、最後の教会に神官不要論が出てもおかしくない件。


 幼女型簡易素体ぴーちゃんが、いかに内部的なバージョンアップをしていても、賢者との性能差はかけ離れている。と、ロリメイドはマーク2に断言されてしまった。


 なにかあれば単独でもニーナを取り戻そうとするであろう、ぴーちゃんは尊敬する先輩(マーク2)にくぎを刺された格好だ。


 マーク2による分析は、賢者のことだけに留まらなかった。


 賢者のゴーレム素体を作れるのは、この世界でも恐らく数人程度。そのうちの一人が大神樹管理局の設備開発部長エミルカであること。目的こそ不明だが、教皇庁内で俺を見かけたという目撃談からも、賢者とエミルカが繋がっていることは、ほぼ確定と言えるだろう。


 なんらかの犯罪の証拠を掴み、ヨハネに直訴することも考えたが、証拠固めの時間がない。


 直接しばき……もとい、問いただそうにもエミルカが教皇庁から姿を消してしまっていた。


 もし時を戻せるなら、先日、遭遇した時に叩いておくべきだったかもしれない。物理的に。


 マーク2の分析が一旦終わったところで、リムリムが挙手をした。


「ところで、マーク2でも町の人の元気がなくなる原因はわからないのか?」


 意外な魔族からの意外な質問だが、マーク2は「試作六号機の集めたデータ以上の事は不明」と、端的に返した。


「ふーん、そうなのかぁ……」


 平たい胸を隠すように腕組みをして、リムリムはうつむいた。何か、気がかりでもあるのだろうか。


「気になることでもあるのですかリムリムさん?」


「べ、べつにないのだ。当てずっぽうはよくないのだ」


「考えがあるのなら、出してみてはいかがでしょう?」


 俺が促すと、カノンも「そうでありますよ! なんでもやってみろの精神であります!」と、追従する。


 が、珍しくリムリムは勢いのまま流されなかった。


「考えなんてじょーとーなものじゃないのだ。ニーナの命のかかった作戦の前なのだ。やっぱりそっちに集中するのだ」


 無理に聞き出すようなことでもないのだろうが、リムリムは思いつきを呑み込んで腹の底にしまいこんでしまった。


 逆に気になってしまうパターンだが、ニーナ奪還に向けてのタイムリミットは迫っていた。


 そして――




 かつてノルンタニアという小国があった。


 魔族の侵攻に抗いきれず滅んだという。その跡地は極大魔法によって真円の形にくりぬかれ、海が注ぎ湾を成す。


 海を背に慰霊碑が建っていた。


 そのすぐ脇に芽吹いた大神樹の芽から、俺たちはこの地に降り立ったのである。


 空は青く晴れ渡り太陽が眩しい。


 大神官になるための研修で訪れたことを、目の前に広がる孤を描いた巨大な湾を前にして思い出す。


 たった一度きりだが、かつて見た光景と何も変わっていない。さざ波は静かに陽光をキラキラと反射していた。


 穏やかで、物寂しい風景だ。復興の余地も残さず国一つ消し去ったのは、ニーナの母親を連れ去ったステラの父親――先代の魔王だろう。


 詳細な記録もここで暮らした人々の記憶も、目の前の海の底だ。


 俺は湾に背を向けた。


 人質の受け渡し場所は、ここから数キロ離れた森になる。


 森の奥には古代文明の遺跡とおぼしき朽ちた塔が建っており、ここからでもその高い塔の姿を目視することができた。


 蔦で覆われた塔の前庭が指定された場所である。


 森ならば隠れられる場所は多く、敵の伏兵にも気をつけねばならない。


 が、こちらも隠密行動が可能だった。


 むしろそれを誘っているかのようにも思える。


「さて、では手はず通りにまいりましょう」


 魔王城内の評議場で、簡易ながら作戦を立て今に至ったのだが――


 ここに来てステラが俺の隣でまた、赤い瞳を潤ませた。


「やっぱり、あたし独りで行った方が……」


「殺されますよ」


「で、でもニーナは無事かも……」


「誘拐犯が善人ならば、そもそもこんなことはしないでしょう」


 俺の言葉に、アコたち勇者パーティーの三人がうんうんと頷いた。


「ボクらだって身を挺して肉の壁くらいはできるからさ!」


「じ、自分も今回は光弾魔法を自重するであります」


 鼻息荒く意気込むアコとカノンの後ろで、隠密行動に定評のある元暗殺者が俺にウインクを飛ばした。


「ま、こっちは任せといてくださいって。大船に乗ったつもりで」


 評議場で居眠りをしていたキルシュが一番頼りになりそうだな。アコたちは森を迂回して塔の裏手側に回り込み、奇襲のためのスタンバイだ。森に罠など仕掛けられていたとしても、キルシュなら回避するルートを選んでくれる。


 出発するアコの元に、ロリメイドゴーレムが歩み寄った。


「わたくしの大切な先輩ですから、くれぐれも大事に扱ってくださいね」


 戦力として習熟度なども考えて、ぴーちゃんが元の素体に戻っていた。


 幼女の手からアコに魔法水晶が渡される。


 連絡役である。数キロ程度であれば、ぴーちゃんとマーク2はリンクして情報のやりとりが可能らしい。


「うん! 任せてよ! 案山子のマーク2さんにはいつもお世話になりっぱだもんね!」


 アコはうんうんと頷いてみせた。


「まあ、アコ殿も自分も、ピカピカ光ってもなにがなにやらでありますが」


「そこらへんもお任せあれ」


 アコからカノンの手を経て、マーク2のコアはゴシックドレス姿の少女の手に渡った。


 発光信号の明滅を読めるのもキルシュだけである。たとえアコとカノンを捨て石にしてでも、離脱できるキルシュがマーク2の記録水晶を持つのは当然といえば当然だ。


 こうして、アコたちがまず先行した。


「では、我らも行くとしよう」


「盟友の頼みなのだ! ニーナを救うのだ!」


 魔族チームはベリアルとリムリムという組み合わせである。


 ベリアルならば、リムリムを御せると踏んでのことだ。


 二人は高い木々の上から戦況に応じて投入される遊軍となった。


 ステラは単独で指定された場所に向かい、俺はロリメイドゴーレムとともに、その後ろを追う。


 完璧とは言いがたい作戦かもしれない。


 最終的に一番の鍵となるのは、先行する赤毛の少女の交渉力なのだから。




 俺は懐から懐中時計を取り出した。針が約束の時刻まで迫りつつあった。


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