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こちらラスボス魔王城前「教会」  作者: 原雷火
シーズン8 ※Pルートは「神トーク」までの通常ルートを読み終えてからお読みください
324/366

※Pルート 星のタロット

 昼というには遅く、夕暮れには早い時刻――


 熱砂に咲いた一輪の花――オアシスの町サマラーンに転移魔法でやってきたのは、なぜだろうか。


 ここなら会えるかもしれない。そう、思ったからだ。


 星を探すルルーナはここにいる。


 はっきりとした答えを胸に、教会前から中央通りに向かう。


 色とりどりの天幕が道の両脇を埋めるように並んでいた。が、行き交う人もモノも、かつての半分ほどしかない。


 この町も王都と同じく活気を失っていた。


 通りを進み、見覚えのあるオープンテラスを併設した、カフェ兼酒場の前を素通りした。


 足を速める。


 中央通りからずいぶんと離れたところに、ぽつんと小さな紫色の天幕があった。群からはぐれた一匹狼のようなテントの前で立ち止まる――


「……お悩み相談……有料」


 涼しげな声が俺に告げた。


 テントから水晶玉を手にした、占い師の装束姿の少女が姿を現す。


 見つからない星を探し続ける彼女の名を呼ぶ。


「ルルーナさん。ようやく会えましたね」


「……?」


 少女は首を傾げた。


「星は見つかりましたか?」


「……星は……白鳥が運んでくれる」


 少女はすうっと腕を上げると俺を指さす。


「私が白鳥ですか」


「……美しさゆえに孤立する。白い鳥は死の暗示」


「ずいぶんな言いようですが、当たらずとも遠からずですね」


 コクコクとルルーナは二度頷いた。


 どうやら彼女にはある程度“視えて”いるらしい。


「私のおかれている状態はわかりますか?」


「……たぶん……二周目」


「なるほど。では細かい説明は省きましょう」


「……そう」


 視線はぼんやり虚空を見上げ、相変わらず何を考えているのかわからない。


「……星……どこ?」


「居場所まではわかりません。が、貴女の探す星の名前をお教えしましょう」


「……うん」


「彼女の名はラヴィーナ。貴女の双子のお姉さんです」


 不意に、少女の頬を涙の粒がするりと滑り落ちた。


 二粒、三粒と雫は墜ちて、砂漠の町の砂の道に消える。


「……思い出した。ずっと探してた……名前……」


 感情表現に乏しいルルーナが、ぎゅっと目を閉じて飛び込むように俺に抱きついた。


「見つけるところまではいけませんでした。私の力不足です」


「……ううん。ありがと」


「……いいこいいこしてあげる」


 ルルーナが背伸びをして腕を伸ばし、俺の頭をもっさもっさと撫でる。雑な仕草だが彼女らしいといえばらしい。


「話の続きはどこか落ち着ける場所で、ゆっくりしましょうか」


 先ほど前を通り過ぎたオープンカフェに、今回も行くことにした。




 通り沿いのテラスにあるテーブル席に対面して座る。


 パラソルが木陰を作り、氷結系魔法で冷やされたレモネードが喉を潤した。


 ルルーナもグラスの飲み物を空にすると、おかわりを注文して俺を見つめる。


「……おごり?」


「ええ、もちろん。サンドイッチもいかがですか?」


「……うん」


 店員に声を掛けると「かしこまりました」と、一礼とともに返答があった。


 思わず口から吐息とともに言葉が漏れた。


「……なんでもお見通し?」


「なんでもではありませんが、ある程度は」


「……占い師が未来視で負けた」


 眉一つ動かしていないが、専門分野での敗北はルルーナにとってショックなようだ。


「ではルルーナさん。ラヴィーナさんの居場所について、考えてみましょう」


「……うん」


 彼女は腰のベルトにつけた革製のポーチから、絵札を取り出し一枚を俺に向けて差し出した。


 描かれていたのは太陽だった。大地に光が降り注ぎ、その下に広がるヒマワリ畑で双子が遊ぶというものだ。


 絵札を俺から見て正位置でテーブルの真ん中に置いた。


「太陽というのはカードの暗示なのでしょうか?」


「……太陽は約束された未来」


「ラヴィーナさんは未来にいる……と?」


「……うん。きっと戻ってくる。だから……」


 じっと俺を見つめてルルーナは告げる。


「……最後まで諦めないで」


「どこまで見えているのでしょう?」


「……未確定な部分まで。言語化は……無理」


 そんな話をしているうちに、おかわりのレモネードとサンドイッチが運ばれてきた。


「……いただきます」


 ハムスターのように両手でサンドイッチを手にして、ルルーナはパクパク食べる。


「どうにかしてラヴィーナさんには会えないものでしょうか?」


 もう一人、ラヴィーナを探している人間がいる。


 元々、ラヴィーナはルルーナの代わりに村を追放されて王都の神学校へ入ったのだ。


 そこを中退したというのは嘘だろう。彼女は教皇直属の密偵だ。大神樹の芽を通じて最後の教会にやってきたのは、エミルカの計画の一部でもあっただろうが、ヨハネの意向で俺を監視するためだったに違いない。


 サンドイッチを頬張るのをやめて、少女はコクリと頷いた。


「……やって……みる」


 すうっと眠りに落ちるように、ルルーナは背もたれに体重を預けて目を閉じた。


「ルルーナさん!? いきなり昼寝ですか? まさか死んでませんよね?」


 彼女も冒険者登録をしているので、死ねば大神樹の芽を通じて教会に跳ぶのだが、その兆候は見られない。


 胸がゆっくり上下している。呼吸は正常なようだ。


 そして――


「ん……ここ……どこ?」


 ルルーナはゆっくり身体を起こすと目を開いた。


「あ! セイぴっぴじゃんお久し~!」


「ラヴィーナさんなんですか?」


「そだよー♪ っていうか、マジ死ぬかと思ったんだけど……あれ? ここってば天国? セイぴっぴも死んじゃったかぁ」


 双子の絆が起こした奇跡なのだろうか。ルルーナがラヴィーナの意識を霊媒した。


「いったい何があったのか、詳しくお聞かせください」


「ん~! 天国についたんだし、もうちょっと緩く楽しまない?」


 ラヴィーナ自身は自分が死んだものだと認識しているようである。


「いったい誰に殺されたのです?」


「それがチョーびっくりしたんだから。あいつよあいつ! 管理局設備開発部のエミルカって部長ね。セイぴっぴのそっくりさんまでつくって、絶対怪しいじゃん? って、思ってたの。あ! もう死んでるしノーカンだから言うけど、あたしってヨハネ様の密偵じゃん?」


「え、ええまあ、そのような気はしておりました」


「あはーやっぱバレてたか。ぶっちゃけちゃうと、セイぴっぴのことは好きだよ。本当にガチの好き。だけどねヨハネ様は放っておけないじゃん。あたしがいないと話し相手にも困るし。ってゆーかーセイぴっぴの姉不幸もの! ヨハネ様を残して死んじゃうなんて情けない!」


 ラヴィーナがビシッと俺の顔を指さし、ばきゅーん! と撃つような素振りを見せた。


 自分の人差し指にフッと息を吹きかける。


「ラヴィーナさん落ち着いてください。ここは天国ではなく砂漠の都市サマラーンです。貴女が今、どこにいるのかはわかりませんが、ルルーナさんがラヴィーナさんの意識を自分の身体に呼び寄せたようです」


「えっ!? ルルーナなのこの身体ッ!?」


 すうっとラヴィーナは視線を胸元に落とした。


「あっ……この占い師チックな服装と胸元の軽さ……これルルーナの身体じゃん!?」


「ずっとルルーナさんは貴女を探していました」


「それは知ってるし、ルルーナには悪い事してるって思ってるけど、密偵のお仕事ってキケンもいっぱいだから、あんまルルーナ巻き込めないし。辞めてもよかったんだけど、そーしちゃうとヨハネ様が寂しいでしょ?」


 やはりヨハネの言う青い小鳥はラヴィーナだったようだ。彼女は落胆するように溜息をついた。


「そっかー。あたしって死んでないけど生きてもいないって感じなんだ。これってルルーナの身体を借りてるからだよね? じゃあルルーナにはもう会えないんだ」


「手紙でやりとりしてみてはいかがでしょう?」


「あっ! それいいかも。なんか密偵の時よりルルーナとやりとりしやすいね!」


 このポジティブさは死んでも(?)健在である。心強いくらいだ。


「ラヴィーナさんに折り入ってお願いがあります」


「ん? いいよ! セイぴっぴがこうしてルルーナにあたしの意識を引っ張るよう言ってくれたんでしょ? ま、身体がないから戦うのは無理だけど、できることならなんでもオッケー!」


 ヨハネの説得ももちろんだが、もう一つ訊いておきたいことがあった。


 教皇庁内にある“知者の書塔”の地下室――エミルカの研究室への入り方である。


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