片方人気なくなるパターンのアレ
勇者と神官見習いがステラのことを知れば騒ぎそうなので、魔王をベッドに寝かせたまま、俺はラヴィーナを連れて私室から聖堂に移動した。
蘇生後さっそく似たような波長を持つ二人が、お互いを一目で同類同族と見分け嗅ぎ分け握手をかわす。
「へえぇ、ラヴィーナっていうんだぁ。ボクはアコで、こっちは神官見習いのカノンだよ」
「よ、よろしくであります」
復活するやいなや、踊り子姿のラヴィーナにアコは「にょへ~」っと、鼻の下を伸ばし気味だ。
一方、そんな勇者を迷惑に思ったりもせず、握手を解くとその手で目尻にピースをあてて、踊り子はキメ顔を作る。
「よろしくー! えっとアコっぴとカノっさね」
「じ、自分はカノンでありますよ! カノッサではないであります!」
眼鏡のレンズをキランと光らせるカノンに、アコがそっと告げる。
「ラヴィは愛称をつけてくれたんだよ。ボクはアコっぴかぁ。アコアコアコっぴだね」
カエルの魔物にそんな名前のがいたような気がするがきっと気のせいだろう。
しかし――
ラヴィーナとアコ。危険な二人が揃ってしまったような気がしないでもない。
「アコっぴってゆーしゃ様なの?」
「そうだよ! こう見えてもラスベギガス近辺を根城にしてた、上級魔族をやっつけたんだから!」
えへんとアコが胸を張ると、大きな果実がゆっさたゆんと揺れた。
「すっごーい! アコっぴ上級魔族倒しちゃったんだぁ」
ラヴィーナは薄茶色の瞳をキラキラさせてアコの胸をツンツンつつく。
「きゃん♪ もー! いきなり触られると驚くんだけど」
「えーいーじゃん。女の子どーしってやつ? ねえねえこの中に何が入ってんの? スライム何個分のプニプニかなぁ」
「ボクの胸にはスライムどころか、魔王も驚くくらいの夢と希望と美少女への愛がいーっぱいなのさ。あ! セイクリッドへの愛もあるから心配しないでね」
黒いツンツン髪を愉快そうに揺らしてアコは笑う。
「っていうかー二人だけなの? ねぇねぇアタシも仲間にしてよ!」
「うんいいよ! カノンもいいよね?」
「り、リーダーはアコ殿でありますから、従うでありますが……」
神官(見習い)のお許しが出たところで、アコとラヴィーナはハイタッチをかわして、その場で腕を組むとスキップしながら踊りだす。
カノンが俺の隣にススッと身を寄せるようにしてぼやいた。
「アコ殿が二人に増えたであります」
「がんばってくださいね。ちょうど、ラヴィーナの引取先を探していたところでした」
「引き取るって、子犬ではないのでありますよ!」
俺はカノンに微笑んで返す。
「いいですか後輩よ。これも光の神が貴方の成長のために与えた試練です」
「あうぅ……セイクリッド殿はオーダー厳しいでありますな」
「神官はパーティー崩壊を防ぐ最後の要ですから。アコさんだけを見ているだけではいけませんし、これからはどちらもフォローしつつ、時には手遅れと判断した場合、見殺しにする冷静な判断力も必要となります」
視野が狭く戦闘中に感情のコントロールができず、さらに自身が攻撃参加してしまうカノンのトレーニングにもなりそうだ。
アコとの交友を深めたところで、ラヴィーナが俺のもとにやってきた。
「セイぴっぴのおかげで友達増えちゃったし、この教会気に入ったからまた来るね。あとステぴっぴが元気になったら、ライバルだかんね! って、言っといてよ」
ステラの名前が出た途端、アコが俺の顔も見ないで俺の私室に入ろうとする。
「ステラさん大丈夫! 元気がないならボクのおっぱい揉むかいッ!?」
揉ますんじゃあない。イヤミか貴様ッッ。
もう面倒臭いので、送り先は王都でいいな。
「転移魔法」
俺は三人まとめて王都へと転移させた。この魔法、少し改編すると、行き先を決めずに適当にぶっ飛ばすこともできるのだが、そこで行き倒れてこの教会に戻ってこられても困る。
「あっ……しまった。蘇生費用の寄付金を奪い……もとい、納めてもらいそこねましたね」
つい、溜息が出たところで、またしても大神樹の芽が光を帯びた。
壊れているのだろうか。管理局員の頭が。
『…………』
大聖樹の芽からは声もメッセージも出ないが、誰かがいるのは間違い無い。
「蘇生魔法」
忙しさにうんざりしつつ仕事をこなすと――
「…………」
「おや、ラヴィーナさんまた死んでしまうとは情けないを通り越して、いささか不可思議ですね」
王都の教会前に送ったばかりのラヴィーナが蘇生された。
「…………」
じっと沈黙を続けるラヴィーナだが、不思議なことに気づいた。髪が長い。
肩に掛かる程度だったのだが、付け髪でもしたように腰の長さまであった。
それ以前に、身なりからして別人だ。
服装も際どい踊り子風だったものが、ゆるやかなローブ風に変わっている。
頭には玉のはめ込まれた銀のサークレットをしていた。手足にジャラジャラとつけた金細工はどこへ消えたのだろう。
装飾品はどれも銀系でまとめられており、その腰には占い符――タロットカードの収まったケースをベルトから下げている。
「占い師の格好などして、いったいどうしたのですか? たった今、王都に送り返したばかりでどうやって死んだのかもわかりませんが……」
「…………」
薄茶色の瞳がじっと俺を見据えたままだ。
「あの、ラヴィーナさん?」
「…………」
「いきなりアコさんたちとケンカでもしたのですか?」
「……?」
先ほどから言葉を封じられたように、一言も喋らない。
「喋れなくなる呪いでしょうか? 解呪のお手伝いなら喜んで承りましょう」
「……名前……教えて」
喋れるじゃないか。しかし、声色というか声の感触まで先ほどの騒がしさが嘘のようだ。
よく通る聞き取りやすさはあるのだが、どことなくか細く寂しい感じである。
「先ほど私のことをセイぴっぴと仰っていたのは貴方ですよ」
「……セイぴっぴ」
眉一つ動かさず少女はもう一度、淡々とした口振りで繰り返す。
「……ぴっぴ」
すると、抜刀するような勢いで、彼女は腰のケースからタロットカードを取り出し身構えた。
「あの、ラヴィーナさん?」
「……ぴっぴの運命は……これ」
スッとカードの束から一枚を抜いて俺に見せる。
それは黒い影がデスサイズを構えた『死神』のカードだった。