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めくって確認! (股間は)いかんでしょ

 とりあえずラヴィーナをどうにかしなければならない。


 誤解は解くのが遅れるほどこじれるものだ。


「いいですかラヴィーナさん。私は貴方の彼ぴっぴではございません」


「んもー! 遠慮しなくてもいいんだよ?」


「正しい交際とはお互いの同意があってのこと。私は同意した覚えはありません」


「いいじゃんいいじゃん! 細かいことは抜きにして、セイぴっぴも男ならやってみろってヤツ?」


 やればわかるさ的なフィーリングは嫌いじゃない。が、どうして俺を気に入ってしまったのだろうか。


 ステラがびしっとラヴィーナの顔を指さした。


「だ、だいたい、いきなり会ったばっかりで好きになるとかおかしいわ!」


 ラヴィーナは俺を解放すると、赤毛の少女に向けてあっかんべーで返した。


「ステぴっぴは恋したことないんだぁ。かわいそー」


「同情するなんて良い度胸……え? ちょ、なんであたしまでぴっぴなわけ?」


「二人ともアタシのことはラヴィとかラヴィちゃんって呼んでね」


 もう、ラヴィちゃんわかんねぇなこれ。


 これで性別が男なら、うざい系オカマキャラ(だいたい強キャラ)だが……いやまてよ、実はこいつ男なんじゃないか?


 しゃがみ込んでラヴィのまとう羽衣のような薄布を、俺は手で跳ね上げるようにした。


 股間は……膨らみなし。やっぱりなし。まるでなし。


 間違い無く女子だ。


 ラヴィーナは腰をくねらせた。


「やだもー! がっつかないのセイぴっぴってば」


 同時にステラが両手にそれぞれ炎の魔法力を集約させる。


「なにしてるのよセイクリッド! いきなり女の子の……そ、そういうことしていいの? 神官でしょ!?」


「ラヴィーナさんが男性ではないか確認しただけです」


 とろけるようなまったりとした口振りでラヴィーナは「んなわけないじゃ~ん」と、股間を包む薄布に手をかけた。


「もっとダイレクトに確認しちゃう?」


「いいえけっこうです。失礼しました」


「いいっていいって、アタシとセイぴっぴの仲なんだし。あっれー? なんで無関係なお隣の黒魔導士ちゃんが顔真っ赤なのかなぁ?」


 口を猫のようにωにして、ラヴィーナはちらりとステラに視線を向けた。


「カップル炎上しろおおおおおおおお!」


 負の感情たっぷりの炎が聖堂内を暴れ回る。


 俺はラヴィーナの身体を引き寄せると、防御魔法で炎を遮断した。


 ラヴィーナが死んでもここで復活するだけなのだから、やめなされ。


「うわ、ステぴっぴガチ切れじゃん。引くわー」


 切れさせたお前に俺はドン引きだ。


 と、俺にさらに身体を密着させてラヴィーナは耳元で囁いた。


「でさ、実際のところステぴっぴとできてるの? アタシ、浮気は許さないけど好きになった男の人がモテモテなのはダイジョーブな感じ?」


「私にとってステラさんは……信用できる大切な隣人です」


「そっか。じゃあこれからは、新しい彼女ができたらちゃーんとほーれんそーね!」


 寛容に縛るタイプとはこれいかに。


「野菜ですか?」


「報告、連絡、相談っていうじゃん?」


 ステラが魔法を撃ちきって肩で息をする。レベル2になって威力も増しているようだが、大神樹の加護の元、俺の防壁を破るほどではなかったか。


 それにしても――


「貴方は……いったい何ものですラヴィーナさん?」


 普通、ステラの炎系魔法を見れば、その威力に驚くものだ。


 どれほどの力かまるでわかっていないか、もしくは“ステラの魔法を単独で防御できる”実力が備わっているからこその余裕がなければ、平然としてはいられない。


 ラヴィーナはピースで自分の瞳を上下に挟むようにして、ニカッと笑った。


「女の子は秘密と甘い物でできてるんだよセイぴっぴ!」


 うわ面倒くさい。


 もう王都に返してしまおうと思ったところで――


「あうぅ……セイクリッドの……ばかぁ」


 たった一発、上級火炎魔法を放っただけでステラは頭をくらくらとさせた。


 すかさず彼女に駆け寄り抱き留める。


「大丈夫ですか? しっかりしてくださいステラさん」


 ラヴィーナが「ステぴっぴだいじょぶ?」と、心配そうにのぞき込む。


 そのままおでこをステラのそれにぴたりとつけると――


「うわ! ちょー熱出てんじゃん! セイぴっぴ早く治してあげなきゃだよ」


「そうしたいのは山々なのですが……この症状には見覚えがあります」


 発熱は恐らく魔法の使いすぎによるものだろう。


 魔法力欠乏症。治療のために魔法を使えば悪化する可能性があるものだ。


 先ほどまでケンカをしていたラヴィーナが焦りだした。


「ど、どどどどしたらいいの?」


「落ち着いてくださいラヴィーナさん。ステラさんは魔法力が枯渇している状態です。少し横になって休めばじきに回復するでしょう」


 俺はステラを腕の中に抱えると、私室に向かった。


 魔王城の前に送り届けるにも、ラヴィーナに教会の外を見られかねない。


「誰か街の人呼んでこよっか?」


「それには及びません。キッチンに綺麗なタオルがあるので、それを水に濡らしてしぼってもってきてください」


「おっけー! ラヴィにおまかせだよ」


 安易に人を信じるのはどうかと思うのだが、意外にいいところもあるようだ。


 ベッドにステラをそっと寝かせて、俺は彼女の髪を撫でる。


「……ん……ニーナ……クッキー……がんばるから……」


 どうやらクッキー作りに苦戦して、寝不足がたたったのかもしれないな。


 オーブンの火力も問題だが、一度手本を見せて作り方を直接指導した方がいいかもしれない。


 ほどなくして「水タオルできたよセイぴっぴ!」と、ラヴィーナが戻ってきた。


 軽くしぼって踊り子はそっと優しく、ステラのおでこにタオルをあてがう。


「ありがとうございますラヴィーナさん。ところで、貴方はステラさんの敵なのですか? 味方なのですか?」


「ん~~どっちかっていうと恋のライバルみたいな? けど、体調悪いステぴっぴに勝ってもずるいじゃん? 好きになったメンズは正々堂々、勝ち取るものだし」


「私はお断りしているじゃありませんか」


 ラヴィーナはまじめな顔で俺に返す。


「人間、好きって言われた相手のことを好きになっちゃうもんだよ? セイぴっぴは断るって言うけど、アタシのことキライとは言わないし。つまり脈有り!」


 ないです。(迫真)


 仕事以外ではあまり付き合いを深めたくないタイプだ。押しも強いし、正直理解しがたい。


 が、どうにもこの踊り子が気になる。妙な胸騒ぎが気のせいであれと祈っていると――




『やっほーセイクリッド! また来ちゃった!』


『恥ずかしながら戻ってしまいましたであります』




 あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ……。


 一人ずつでも面倒……もとい、大変なのに。


 ステラが熱を出して寝込んでいると知れば、神官見習いが「熱が引くのは座薬であります」とテンパり、勇者が「ボク、美少女を看病してみたかったんだよね」と、余計なことをする未来が見える。


 ラヴィーナがニッコリ笑った。


「女の子が二人追加って、セイぴっぴヤバくない?」


 あと幼女に女騎士がいるんだよ。そこにお前が加わったんだよ。


 最後の教会なのに利用者増えすぎ問題、深刻化の一途である。

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