どうして魔王城には魔王を倒す剣とかがあるんですか?
ある日の事――
本日も皆勤賞と言わんばかりに魔王ステラが教会にやってきた。
読みかけの本にしおりを挟んで、長椅子から立ち上がると振り返る。
「おはようセイクリッド! 良い朝ね!」
「おはようございます魔王様。本日は蘇生ですか? 毒の治療ですか? それとも呪いを 解いてさしあげましょうか?」
「今日は別の相談なのよ」
尻尾を楽しげに左右に揺らして少女は俺を見上げた。
「ねえセイクリッド! 聖剣ちょうだい!」
「はい?」
「だから聖剣よ聖剣! セイクリッドなら持ってるかなって思ったの」
「色々と確認したいことがあるのですが……魔王であるステラさんに聖剣は必要ないのではありませんか?」
少女はなだらかな胸をぐいっと張って鼻高々だ。
「それが聖職者の限界ってやつよね。使えるか使えないかの問題じゃ無いのよ。まあ、もし聖剣をあたしが使えたら、聖と魔が合わさって一見最強に見えちゃうでしょうね」
にししっとイタズラっぽく笑いながら「あー聖魔王ステラとかなんかカッコイイかも」と、妄想に独りご満悦だ。
「使えない聖剣でいったいなにをなさるおつもりですか?」
「そりゃあもちろん、魔王城に置いておくのよ」
「それからどうするのでしょう」
少女は呆気にとられたような顔でぽつりと呟いた。
「え? それだけよ」
「なぜまたそのようなことをするのか、理解に苦しむのですが……」
「だって魔王城には最強の武器とか、魔王を倒せる武器とかがあるものでしょ? ちょっと探してみたんだけど、そういうの見つからなくて……」
もじもじと膝をすりあわせてうつむくと、少女は口を尖らせながら左右の人差し指をツンツンと胸元でキスさせる。
「それで隣の教会に相談にやってきたわけですね」
「ええそうよ! だからちょうだい! あ! 無理なら貸してくれるだけでもいいから」
「調味料感覚ですか。残念ながら私は聖剣を持っておりません」
「ええぇ……セイクリッドなら持っててもおかしくなさそうなのに」
「一応神官ですから、剣などの刃物を武器として使うことは忌避しているのです」
「光の撲殺剣使ってるじゃない! あれでお尻を叩かれた者の痛みを知ってるのかしら?」
お仕置きされるようなことをやらかさなければいいのだが、それを言って説得できる魔王ではない。
「ともかく聖剣はありませんので、本日はお引き取りを」
胸に手を当て頭を下げるとステラはルビーの瞳をまん丸く見開いた。
「あっ……そういえばセイクリッドの光の撲殺剣って……アコも倒してそうよね? 最強の魔王たるあたしだけでじゃなく、勇者までその聖なる毒牙にかけるなんて……」
そんなことはあっただろうか? 勇者アコの性格を考えると、無いとは言い切れない。
ステラはビシッと俺の顔を指さした。
「つまり……セイクリッド! あなたこそが闇の力を秘めたる邪聖剣だったのよ!?」
「な、なんだって――ッ!? と、驚くわけないでしょう」
「だからセイクリッドを魔王城にしまっておけばいいんだわ。最強武器の代わりに大神官がいるなんて、魔王城の箔がつくってものよね」
「それでもし、勇者アコさんが成長して魔王城を攻略し、私を手に入れたらどうなりますか?」
見る間にステラの顔から血の気が引いていった。
「あっ……だめだめ無理無理絶対そんなのだめだからぁ! それじゃあセイクリッドがアコの所有物になっちゃうでしょ。それは公共の利益に反すると思うの。優秀な大神官を私物化するのはよくないことよ!」
腕組みをして少女はうんうんと頷く。
この教会に赴任してしばらく、もはや魔王に私物化されている気がしないでも無い。
「わかりました。聖剣はありませんが、今度、教皇庁の通信販売部から魔法力を回復させる魔法の聖水を取り寄せておきますので、それで我慢してください」
途端にハラハラとした顔の少女が太陽のような笑みを浮かべる。
「それいいわね! 隣の宝箱にはミミックを用意して……っと。魔法の聖水を見つけたら、多分アコって隣のミミックも開けちゃうと思うのよ! おもてなしできそうね」
まるでホームパーティーの計画でも立てるように少女は楽しげに笑ってみせた。
決着の時はまだまだ先になりそうだ。
悪役令嬢短編も書いてみました もしよろしければ~♪
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『悪役令嬢の神託を受けたから旧王都を出ることにしましたが、結局屋敷から一歩も外に出られそうにありません。』




