バカだけどバカじゃなかった!?
くじ引きの結果、クラウディアが最初に壇上に立った。
彼女と相談して草稿を起こした演説内容は、ハレム王の政策を引き継ぎ安定した国家運営を目指すというものである。
スピーチも終盤にさしかかり、礼拝堂内の雰囲気は変わっていた。
ニーナの応援団は息を呑み、マーゴの取り巻きたちも次第にクラウディアの言葉に耳を傾けるほどだ。
毅然とした態度を崩さず透き通った声色を維持したまま、クラウディアは最後にこう、締めくくった。
「先王のご意志を受け継いでいきたいと思います。以上をもって所信表明の挨拶に代えさせていただきます」
俺が拍手をすると、教皇庁の司祭たちも一斉に手を叩いた。釣られて拍手をしそうになった貴族連中を、マーゴが一睨みする。
アコたちはといえば、ニーナの応援のはずが「いいぞいいぞー!」と、こちらも拍手をクラウディアに浴びせていた。アコの隣でカノンが「一応、ライバルなのでありますが……」的な表情を浮かべているのが興味深い。
なにより――
「クラウディアおねーちゃかっこいいなぁ」
ニーナ自身が、堂々としたクラウディアの演説にパチパチパチと小さな手を叩いていた。
内容はニーナには難しかったようだが、それでも「これまで通り平和で安定した王国を」というメッセージはニーナにも伝わったように思える。
ほっと胸をなで下ろすと、クラウディアはニーナに微笑みかけた。まるでお手本を示したような仕草をみせつつ、王女は講壇から降りる。
講壇の袖はもう、世界に向けて配信される映像の外側だ。
フッと緊張が解けると同時に、クラウディアはよろけそうになった。
俺は席を立つと彼女の元に駆け寄って支える。先ほどまでとは打って変わって、生まれたての子鹿のような足取りと、震える声で王女は呟いた。
「ちゃんとできたでしょうか?」
「大変ご立派でした。クラウディア陛下」
俺の言葉で青い瞳に安堵が浮かんだ。そのままクラウディアはドレスのお腹のあたりをたくし上げようとする。
このドレスは特注品だった。王印紋の輝きを確認できるよう、上下でセパレート構造が採用されている。メイド女学院の学長が手がけたものだ。
「セイクリッド様、王印紋が熱くて……か、確認のために脱いでも……」
「ダメです」
隙あらば脱ごうとするなんて、クラウディア……恐ろしい子。
こうして世界中にクラウディアの声が響き渡り、彼女への祈りが支持率にも反映された。
クラウディアが40%にも届きそうになり、マーゴが五割を割った。ニーナも微減である。
マーゴの地盤は揺るがないことから、浮動票が流れたといったところか。クラウディアをハレム王の後継者とする戦略は、概ね正しかったようだ。
隠遁を続けていた第十三王女は、脱がなければ王族のカリスマを発揮できる。
あとはマーゴがどう動くかだ。
クラウディアを講壇脇の席に着かせて、俺も元の長椅子に戻った。
続いて、金髪碧眼の青年が壇上に立つ。
スピーチを前に大臣が紹介を挟む。血統という意味では第一王子サンズの息子という、揺るぎない正統性を誇っている青年――マーゴ。
王都に生まれ王都で育ち、ハレム王の政をずっと間近で見てきたことに加えて、第一王子サンズによる英才教育(甚だ疑問だが)を受けて育った、エリート中のエリートだ。
俺も独自に情報を集めたのだが、マーゴの父親であるサンズという男は、俗物で野心家で優秀だった。純粋さとはほど遠いが故に、貴族たちを束ねて王国内でも一大派閥を築き上げていた。
その強固な地盤を受け継いだのが、純粋なバカというのは皮肉である。
礼拝堂が静まるまでマーゴは待った。大神樹の芽を通じて映し出される映像に、世界が息を呑む。
マーゴの第一声が解き放たれた。
「あのさぁ……教会ってズルくね?」
先ほどのクラウディアが行った品行方正な演説とは真逆の、友人に雑談でもするような語り口である。マーゴは続けた。
「大神樹の芽って利権じゃん? 別に誰が管理したっていっしょっしょ? つーか、冒険者のみんな絶対騙されてるって。国のためにがんばってんのに、蘇生代金高いよねぇ? アレ前からおかしいって思ってたんだよ。だから蘇生も毒の治療や呪いを解くなんてのも、タダ! 無料にしちゃえばいいんだって! 冒険者は教会の奴隷じゃないんだ!」
「そーだそーだ!」
おいアコまてコラおいコラ勇者アココラァ。
残念すぎる勇者はコロッとマーゴ王子の口車に乗ってしまった。
しかし……こうきたか。マーゴ自身が考えたのかはわからないが、教会にとって柔らかい下腹をむしり取るような政策だ。
「だからさ、国営にして教会のどくりつせー? だっけ? あれやめようって話なんだわ。権力が二つに分かれてるのって、そもそもおかしくね? 魔族と戦うためにも一致団結が必要っしょ? ハレムじーちゃんは優しかったからさ、そこらへん教会の好き勝手も認めてたけど。あっ! おい、そこのおまえ。司祭のお前だよ、なに集会を解散させようとしてんだよ? みんなの知る権利ってのを侵害してんだろ?」
この演説の様子は各地の教会で流されており、どのような情勢になろうとも公開せよと、教皇ヨハネが厳密に命じている。
このままではまずいことになりそうだ。俺は立ち上がった。




