ふえ~る勇者ちゃん
アコである。疑似餌のようにカノンを模したゼリーワームから、アコのそっくりさんが姿を現したのだ。
さらにアコは分裂し、見る間に増えていく。大広間が狭くなったように錯覚するほどの賑わいだ。剣や盾といった装備も再現されており、元がぶよぶよとしたゼリーワームとは思えない、鋭い刃を偽アコは一斉に抜き払う。
百体ほどに増えきったアコと、本物を足すと“百一匹アコちゃん大集合”という様相だった。
そして、百一匹がまとめて俺たちに襲いかかる。ステラが悲鳴を上げた。
「ちょ、どうしてアコ本人まで敵になってるのよおおおおおおお!」
まあ、ある意味、抵抗した瞬間に偽物の渦中にある本人が、一番最初に袋だたきにされるので、仕方ないといえなくも……いや、よくない。
キルシュが淡々と、斬りかかってくる偽アコの顔面を傘で貫いていく。偽物は膨らんだ風船のように、パンッと弾けた。
「あー仲間を手にかけるなんて心が痛むなぁ。ほら、わたしってこう見えても、結構仲間思いなところもあるじゃないですか」
パンパンパンパンッっと、リズムよく偽アコを処分していく、自称仲間思い。
絶対にアコ(本物)は、キルシュの方にだけはいかないだろう。
ステラの正面から三体の偽アコが飛びかかった。
「もう、どうなっても知らないんだから!」
初級火炎魔法を散弾にしてばらまくと、偽アコが炎に触れてまとめて爆ぜた。
「ど、どんなもんよ! 偽物のアコなんて、何匹来ようが怖くないんだから」
勝ち誇ったように魔王様は胸を張った。
が、その隙をまるで待っていたかのように、一匹のアコがステラの背後に回り込んで抱きついてくる。
「うわああああん怖かったよぉステラさぁぁん」
本物のアコだった。偽物に紛れてなんとか戻ってきたのだが、キルシュはともかく俺ではなくステラに泣きつくとは。
おかげでステラは身動きもとれず、そこにアコの姿を模したゼリーワームたちが殺到した。
「お二人ともあぶない!」
今度はステラを取り込もうと、偽アコがぶよぶよと変形して覆い被さろうとした。
そこに俺が飛び込み、二人に代わって捕食される。
「「セイクリッドッ!?」」
ステラとカノンの見ている前で、俺の体は暗黒水饅頭に包まれると……アコの時と同じようにペッと吐き出された。
すぐにステラが駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫? 悪堕ちとかしてないわよね?」
「聖なる力を奪うというのではなく、私の体を隅々まで調べるという感じでしたね」
このゼリーワームは複数に見えて、元は一匹だ。俺を取り込んだことで情報が書き換わったらしく、残り五十体ほど(キルシュによる虐殺でずいぶん減ったものだ)が、アコから大神官の姿へと変じた。
アコが剣を構える。
「よし! 日頃のうら……感謝を示す時だね!」
ステラも魔法を連射し始めた。
「こういうの得意なのよ」
二人は偽セイクリッドの群れに、自ら飛び込んでいった。
だが、どうやらこのコピーワーム(命名、大神官)は元にした相手の能力によって、性能も変化するらしい。
アコの火炎斬を白羽取りで止めたり、ステラの魔法を防壁魔法で防いだりと、一気に手強さが増していた。
キルシュも一撃では倒せず、撃破ペースは先ほどの偽アコに比べてガクンと落ちる。
「セイクリッド強すぎるよ!」
「初級魔法だけじゃ厳しいかも」
「あー、やっぱり強いですねセイクリッドさんって。まいったまいった」
多勢に無勢で劣勢だ。
このままでは全滅必至。だが、俺が偽物の中に飛び込んでいけば、三人の少女たちが間違って本物の大神官を攻撃してしまう恐れがあった。
どうにか偽物と見分けがつくようにしなければならない。そういった考えに至り、俺が服を脱いで全裸になることは、もはや必然だったのである。
「敵の注意は私が引きつけます。みなさんはそれぞれ、自衛に徹してください」
「きゃあああああああああああ! セイクリッドのバカァアアアアアアア!」
「セイクリッドなにしてるのさ! いくらなんでも脱ぎすぎだよ!」
「あ、はい。知ってました」
下半身に謎の後光をまとい、大神官の肉体は本日も躍動する。全裸で。
いつもなら、このままフィニッシュだったのだが――
「どうやら私のコピーというのは伊達ではないようですね」
分身たちも俺が脱ぐのに合わせて、全員が脱ぎ始めた。今や大広間は腹筋の展示会だ。
どれも俺を元にしているだけあって、なかなか壮観な光景である。
アコが声を震えさせた。
「え、えっと、これ女子的には喜んだ方がいいのかな?」
キルシュは「本物は傘が刺さると血が出るので、判別できますから大丈夫ですよ」と、独自の選別法で戦闘を継続中だ。
そして、迫り来る腹筋に囲まれて、円を描いた偽セイクリッドのラインダンスの中心で、魔王様は絶叫した。
「一人でも変態……じゃない、大変なのに裸になって増えないでちょうだいッ!」
初級魔法縛りだったのだが、こればかりは仕方ないか。元は俺がコピーされたのが悪いのだ。
俺は足の止まったアコと、戦い続けるキルシュ、そして自分自身に防壁魔法を展開する。
直後――
カッと閃光が走り、大広間は魔王様の放った上級火炎魔法によって、隅々まで焼却されるのだった。




