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目からビームが出るメイドさんは好きですか?

 リムリムについて俺の言葉に耳を傾けると、ぴょんと長椅子から飛び降りるようにして、ぴーちゃんは口元を緩ませた。


 スカートの裾を両手で摘まみ上げるようにして、足を交差し恭しく一礼する。


「大変参考になりましたわ。恐らく、見つけられましてよ」


「私の話を聞いただけで名推理が発動するなんて、ぴーちゃんさんは大した探偵ですね」


 そっと頭をあげると、ゴーレムメイドは「あらあら、わたくしとしたことが優秀すぎて自分自身が怖いですわ」と、おどけて見せる。


「では、お聞かせください名探偵様。カノンさんは今どちらに?」


 幼女メイドはエイっと胸を張る。


「さっぱりわかりませんわ」


「このポンコ……いえ、なんでもありません」


「あらあら、わからないのはカノン様の居場所ですわよ」


 プイッとそっぽを向く彼女の前に回り込む。


「もったいぶらずに、お願いいたします。ぴーちゃんさんだけが頼りなのですから」


 魔王城から、この教会に転移門を押し付けた手腕の持ち主である。その魔法力の流れを逆探知なりなんなりできてもおかしくはない。


「仕方ありませんわね。本当にわたくしがいないと何もできないのだから」


 初期のぴーちゃんはメイドとして忠誠を誓っていたのだが、最近の厚かましさとドヤりっぷりは、まるでステラのようだ。


 と、突然ぴーちゃんの瞳から魔法力の光が聖堂の壁に照射された。


 資料映像が浮かび上がる。それは動く紙芝居というべきか、順番に画像が次々と切り替わっていく代物だった。


「わたくしが開発したプレゼンテーションシステム。その名もパワー……」


「わーすごいすごい。では、結論を急ぎましょう。要点ポイントだけで良いですからね」


 照射した映像内の文字がバカにきりかわり、大きくなったり小さくなったり右から左に流れ始めた。


 嫌な抗議のされ方だな。


 メイド幼女は目から光を発しながらため息をついた。


「張り合いがありませんわね。では、かいつまんで説明いたしますわ。まずは私が先日忍び込んだ、大神樹管理局の情報制御水晶から得た機密から……」


「しれっととんでも無いことを口走りましたね。聞かなかったことにしましょう」


 機密情報にアクセスして情報を抜き取るとは、警備の厳しい教皇庁の最奥に潜り込んで、教皇ヨハネの私物をかっぱらってくるくらいには難易度が高かろうに。


 どうやら成長しているのは人間や魔族ばかりではないらしい。


 俺のオーダーをようやく聞き入れて、ぴーちゃんは機密情報から抜き取ったという、大神樹の芽の座標情報を表示した。


「こちらが現在、教皇庁が把握している世界中の大神樹の芽ですわね」


 世界地図に点々と表示された双葉のマークのいくつかには、赤い×印がつけられている。


「この×は不通ということでしょうか?」


「ええ、けれど不通と言っても理由はいくつかありますの。完全に大神樹の芽が破壊されてしまった場所もあれば、一時的に枯れてしまって復活を待っているケースもありましてよ」


 画像から通常運転中の大神樹の芽が消えて、赤い×印つきだけが残される。


 が、それとてざっと見ても100ヶ所は超える数だった。


「この中のうち、どれかがリムリムさんの拠点に通じている可能性があるということでしょうか?」


 ぴーちゃんは「未発見のものでなければ」と断りをいれると、さらに条件を絞り込む。


 表示された芽の数はずいぶんと減り、30ヶ所程度が残った。


 メイドゴーレムが口元を緩ませた。


「現存していながら不通となっているものだけを残しましたわ。」


「だいぶ絞られましたね。しかし、その条件で大神樹の芽が使えない状態というと……」


 俺が顎に手を触れてうつむくと、ぴーちゃんはゆっくり頷いた。


「魔族の支配地域か、魔族によって封印されている。もしくは環境が過酷で神官を派遣できない危険地域でしてよ」


 東西南北、津々浦々、王都を世界の中心とするならば、辺境魔境に秘境揃いで、まともな地図もなく地形情報なども不明な場所にまで、赤い×のついた芽が画像の中で揺れている。


 揺らす技術は、ぴーちゃふぁいたーで得たノウハウをフィードバックしたものらしい。今後、ゲーム内のキャラクターの胸を揺らすのにこの技術を応用していきたいとは、開発者ぴーちゃん談である。


「一つ一つ探しに行くだけで、途方も無い時間を要してしまいそうですね」


 教会でリムリムが出てくるのを待って、彼女を騙し……説得し、帰還魔法で一緒に連れて行ってもらう方が早いかもしれない。


 が、カノンとの暮らしにリムリムが満足してしまった場合、もう教会に姿を現さないことも考えられた。


 場所が分かっているだけでは、大神樹の芽に転移魔法で飛ぶことはできない。


 それができれば、俺とて苦労せずに、この教会にやってくることができたのだ。


 ぴーちゃんは再びドヤ顔で平たい胸を張った。


「座標情報だけでは転移魔法は無理ですものね」


 俺の考えはお見通しのようだ。


「そうですね。大神樹の芽に触れることができれば、座標を記憶できるのですが……」


「そこでわたくしの出番というわけですの。人間でも魔族でも、ましてや生物ですらないわたくしでしたら、座標さえわかっていれば直接転送できましてよ」


 それについては俺も考えなくはなかったが、いかにぴーちゃんが優秀とはいえ、単身で危険地帯に送り込むのは非人道的だ。


「いけません。あまりに危険すぎます」


 俺だけでなく、講壇の上に立たせた案山子のマーク2まで「フォーン……フォーン……」と、どことなく悲しげな音色を聖堂に響かせる。


 ぴーちゃんはマーク2に向き直った。


「心配には及びませんわよ。危険と判断したら、すぐに戻ってまいりますもの。わたくしがドジを踏むなんて、あり得ませんわ」


 幼女はそっと胸に手を添えて俺に向き直る。


「ここは信じて任せていただけませんこと? 教皇庁の監視網をかいくぐって、大神樹のネットワークを利用できるのは、このわたくしを置いて他にいませんわよ」


 その眼差しは本気がにじみ出ていた。もはやゴーレムに芽生えた感情は、溢れんばかりだ。


「本気……なのですね」


「メイド幼女に二言はありませんわよ。それに、この姿でしたら、転移先でもし魔物や魔族に囲まれてしまっても、きっと油断して見逃してくれましてよ」


 相手が全員ロリコンだったらどうするつもりだ。いや複数人に囲まれなくとも、偶然居合わせたロリコンと、密室に二人きりになる危険性もあるというのに、なんて勇敢なのだろう。


 ぴーちゃんはペロッと舌で上唇を舐めるようにして、俺にウインクしてみせた。


「幼女好きへの対処法はすでに学習済みですの♪」


「いつの間にそのような技術まで開発していたのか……このセイクリッド感服いたしました」


 言うが早いか「では、善は急げといいますし」と、ぴーちゃんは講壇の上に上がっていった。


 俺はそんな彼女に質問する。


「ところでぴーちゃんさん。私が大神樹の芽に触れなければ、転移魔法は使えないのですが」


「それについてはプランが二つほどありますの。大船に乗ったつもりで、お待ちくださいませご主人様」


 久しぶりに俺をそう呼ぶと、ぴーちゃんは大神樹の芽に触れる。


 何か甲高い高速言語を音波のように発した途端、幼女メイドの姿は聖堂から忽然と消えるのだった。

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