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発動! まさかのNTR

 花の蕾が開くように、ゼリーワームがほどけてカノンが姿を現した。


 リムリムが瞳を輝かせる。


「わぉ! 完全に悪堕ちしたのだ!」


 その場でピンク髪の吸聖姫は嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。


 目の前で仲間を奪われたアコは言葉を失う。勇者だけでなく、ステラも神官見習いの変貌と変容に「ええっ?」と目を皿にした。


 カノンの神官服はゼリーワームによって溶かされて、再構築でもされたとでもいうのだろうか。


 リムリムと同じようなタイトなスカートにヘソ出しルックの黒いビスチェ風に変化していたのだ。


 溶かすだけでなく服を作り上げるとは、ゼリーワーム恐るべし。


 少女の青い瞳は今や何かに取り憑かれたように金色に輝き、表情は虚ろだ。手にした短杖を落とすと、床に落ちた眼鏡を拾おうともしない。


 アコがとっさにカノンの眼鏡に手を伸ばす。ひび割れたレンズのそれをカノンに差し出して、勇者は声を上げた。


「だ、大丈夫カノン?」


「どちらさまでありますか?」


 カノンの口振りは冷淡なものだ。アコは後ろ手に頭を掻いて、引きつった笑顔を浮かべた。


「そんなぁ、やだなぁ冗談だよね? 機嫌直してよ」


「おっぱい丸出しの痴女に知り合いはいないでありますよ。まったく……リムリム殿は、もう少し付き合う相手を選ぶであります」


 アコをスルーしてカノンはリムリムの元に歩み寄る。


 ピンクの魔族が頬を赤く染めた。


「え? リムリムのこと心配してくれるのか?」


「当たり前でありますよ。自分とリムリム殿の仲でありますから」


 途端にリムリムは羽と尻尾を激しくばたつかせる。


「リムリムはおまえの……カノンの友達か?」


「友達でありますよ。確認しなきゃ不安になるなんて、今日のリムリム殿はちょっと変でありますな。それに、ここは人間どもの教会でありますし……いったいどういうことでありますか?」


 まるでリムリムの事をアコのように扱う神官見習いに、気づいたのは俺だけではなかった。


 ステラが声をあげる。


「しっかりしてカノン! いったいどうしちゃったのよ?」


 カノンの視線が赤毛の少女を射貫くように見据えた。


「他の上級魔族でありますか。馴れ馴れしいでありますね。リムリム殿に刃向かうというなら、自分が許さないでありますよ」


 その一言に吸聖姫の顔は耳まで真っ赤になった。


「うひゃー! すごいのだ! お友達どころの騒ぎじゃないのだ! リムリムはカノンを大切にするのだ! あいつらはカノンの扱いが悪すぎてお話にならないのだ」


「そ、そ、そんな、自分は大切にされるなんて、別にいいでありますよ」


 と、言いつつもまんざらでもなさげな悪堕ちカノンの腕を、勇者の少女がぐいっと掴む。


 アコはうつむいていた。その頬を涙が伝う。


「ごめん……ごめんねカノン……これからちゃんとした勇者になるから……そんなこと言わないで。もっと大切にするよ。わがままも言わないし、ギャンブルもしないから……」


 カノンはアコの手を振り払う。


「誰だか知らないでありますが、さっきからしつこいでありますよ」


 勇者の身体からフッと、力が抜ける。


 演技ではなく、カノンはリムリムに心酔していた。


 それでもアコは食い下がる。が、声に覇気は無く、まるで蚊の鳴くような小ささだ。


「じゃ、じゃ、じゃあ、お友達からもう一度やり直させて……」


「なんでありますか。捨て犬みたいな目をこっちに向けないでほしいでありますが……そうでありますなぁ」


 軽く腕組みしたカノンは、アコから離れてリムリムにそっと耳打ちした。


 その進言に吸聖姫は「おー。それはすごいのだ」と、感心しきった表情を見せる。


 俺はリムリムたちとアコの間に割って入った。背中越しにアコに告げる。


「ここは私におまかせください」


 これ以上、人間の犠牲者を出すわけにはいかない。悪堕ちの効果は魔族に対しては拘束するだけだが、人間には――特にカノンのような神官職にはてきめんらしい。


「セイクリッドやめて! カノンにひどいことしないで!」


 悪オチカノンにはちょっと気絶してもらうつもりでいたが、アコは俺を押しのけてリムリムに掴みかかった。


「返してよ! カノンを返してよ!」


「やだやだやだやだなのだー! カノンはリムリムの部下で友達で親友なのだ! カノンをとろうとするお前は……こうなのだ!」


 先ほどカノンを包んでいたゼリーワームたちが、今度はアコに殺到した。


「うわあああああああああああああああああああああ!?」


 と叫びながらもアコは動かない。そんな勇者を――


「あぶないですってばー!」


 黒い影が突き飛ばす。今度はキルシュがゼリーワームに包まれた。


 が、キルシュに張りつこうとしたゼリーワームたちが、水と油が分離するようにツルリンポロポロと剥がれていく。


 足下に落ちて溜まった暗黒水饅頭をキルシュはツンツンと指で突いた。


「あー、わたし悪堕ちしちゃいました。いやーまいりましたね。困った困った」


 悪堕ちの兆候無し。それどころか、魔族のベリアルさえも束縛拘束プレイに持ち込んだゼリーワームたちが、捕獲さえ拒否する闇属性っぷり。


 元暗殺者の心の闇は深い。


 が、今回に限ってはキルシュまでリムリムの手先にならなかったので、不幸中の幸いとしておくべきだろう。


 アコは再び吸聖姫に向き合い間合いを詰める。


 半裸で。


「カノンを……返せえええええええええええええええええええええ!」


 勇者の絶叫が聖堂いっぱいにこだました。

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