ベリアルさんまたしてもお嫁にいけなくなる
聖堂にステラの声が響く。
「なにぼーっとしてるのセイクリッド! ニーナが悪い子になっちゃったのよ!?」
ハッと我に返って俺は状況を確認した。
ニーナの背中には吸聖姫リムリムが放ったゼリーワームが、ぴったりと張り付いている。
「あうぅぅ……ニーナは……ニーナはもっとわがままボディになりたいなぁ」
これに赤毛の魔王がさらなる悲鳴を上げた。
「ニーナまでベリアルみたいになっちゃったら、あたしの立場もなくなっちゃうから! あーん! もう、どうにかしてセイクリッド~~! 聖職者なんだから、こういう時にピンポイントで使える解呪グッズとか持ってないの?」
アコもカノンも、自分たちがやられる分には慣れっこという敗者の風格が身についてきたのだが、ことニーナが毒牙にかかったことに動揺していた。
「どどどどどどうしようセイクリッド!?」
「ニーナちゃんが一大事でありますよロリコ……セイクリッド先輩」
あとでカノンには指導が必要なようだ。
俺は胸元で手を組んだ。リムリムが警戒したように俺を見据える。
「な、なんなのだ。神官の祈りの力で悪堕ちの呪いを解くつもりか?」
組んだ手の指をポキポキとならしながら、俺はゆっくりと幼女の元に歩み寄った。
すかさずベリアルが吼える。
「手荒なまねはするな! というかニーナ様に触れるなセイクリッド! ああ、どうしてニーナ様がこんな目に。やるならわたしにしろ! さあ! 触手で縛れ!」
胸を揺らして訴えるベリアルに、リムリムは「わかったのだ!」と、ゼリーワームを二体放った。
きゅぽんきゅぽんと、二体の暗黒水饅頭がベリアルの胸にそれぞれ張り付き、えもいわれぬ妖艶な蠢く触手で薄褐色肌の美女を縛り上げる。
「待て待て! わ、わたしの代わりにニーナ様はかいほもごごごごごごごごご」
触手がベリアルの口に猿ぐつわを噛ませた。手足を縛られ女騎士は触手で簀巻きにされると、聖堂の床に転がる。
最初に胸にゼリーワームが食らいついていたのだが、それらは今やミミズのようなロープ状に姿を変えて、ベリアルのたわわな胸を絞って持ち上げるようにした。
「もごごー!?」
合掌。我々は、くっ殺女騎士の勇姿を忘れない。
倒れたベリアルに向けて胸元で聖なる印を切ると、カノンが眼鏡を中指で押し上げた。
「そ、それは冥福を祈るヤツでありますよ!」
「おっと、そうでしたね」
しかし、ニーナは闇墜ちしたものの、元々悪属性だからかベリアルは正気を保ったままだ。
「もごごーもごごーもごーもごーもー!」
なぜか拘束を命じたリムリムではなく、ベリアルは俺を涙目で睨みつけた。
そんなベリアルの元に悪堕ち幼女は歩み寄ると、その胸の谷間のあたりを指でツンツンと突き始めた。
「ベリアルおねーちゃつんつんしちゃうんだからぁ」
「もごごー!」
陸に打ち上げられた魚のように、ベリアルは床の上を跳ねる。
だが、ニーナはおかまいなしでベリアルをツンツンし続けた。
さらにもう一人、ベリアルつつき隊に参加者が増える始末である。
「わたしもいいですかそれ? 最近、あんまりカップル突いてないんで、欲求不満だったんですよね」
「いいよ~! ニーナといっしょにツンツンしようね」
幼女の許しを得たのは元暗殺者のキルシュだった。
二人の指がベリアルをツンツンぷにぷにとする度に、薄褐色の肌はほんのりと上気し、魔王軍の守りの要は切なそうに眉尻を下げながら、首を何度も左右に振って「止めて許して」と、悪堕ち幼女と元暗殺者に懇願する。
口に触手を噛まされて、呼吸は苦しげに荒くなるばかりだ。
ステラがびしっとリムリムの顔を指差した。
「もう許せないわ。ニーナとベリアルを今すぐ解放しないと、この教会ごと吹き飛ばすわよ」
リムリムもステラの顔を指差し返す。
「そんなことしたら、神官が住む家を失うのだ。そんな残酷なことがおまえにできるのか?」
うっ……と、ステラが半歩下がった。まあ、大神樹の加護で教会の建物自体は事なきを得るだろうが、せっかく届いた着替え一式も含めて、俺の最低限文化的な生活が危機に瀕してしまう。
かといって、俺がニーナからゼリーワームを解呪(物理)するのは、ステラもベリアルも看過できないという雰囲気だ。
俺はアコの前に立って跪いた。
「勇者様。どうか、この窮地を……教会存亡の危機から我々をお救いください」
そっと頭を垂れると、どこか間の抜けたような声でアコが俺に訊く。
「え? けど……無理だよ! ボク、解呪なんてしたことないよ。だいたいセイクリッドにできないのに、どうしてボクにみんなが救えるのさ?」
「それはアコさんが勇者だからです」
「ボクなんて……勇者じゃないよ。なりたくてなったわけじゃないし。頼むから頭を上げてセイクリッド! ニーナちゃんだって、きっとセイクリッドに救って欲しいと思ってるから!」
ニーナもキルシュもベリアルツンツンにすっかり夢中なようだ。
「つんつんするのたのしーねー」
「あー、そうですね。これ、指にすうって吸い付いて、それでいて柔らかいのにポヨンと弾力があって。前々から良い体してるなって思ってたんですよぉ」
キルシュがツンツンから、五指を駆使したさわさわタッチで
「ん! あ! んふー! もごー! もごーん♥」
段々、ベリアルの反応がおかしな事になり始めたな。女騎士に残された時間は少ない。
アコはブンブンと頭を左右に振った。
「できっこないから! セイクリッド……頼むよ」
俺は見逃さなかった。できないと言うアコがギュッと悔しそうに拳を握ったのである。
そっと顔を上げて俺はアコに告げる。
「私がベリアルさんとニーナさんを助けるには、少々強引な接触が必要になるでしょう」
「ご、強引な接触って……犯罪だよ!」
言い方というものがあるだろうに。
俺たちが手も足も出ないことに、吸聖姫もご満悦の様子だった。
「さあ! もっともっと苦しむのだ! 仲間だった者の手にかかって逝くがいいのだぁ!」
「もごおおおおおおおお♥」
これはひどいことになってきたな。さて、どうしたものか。