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だいたい200回記念特別編 聖紀末暗黒幼女伝説

 ついに人々が恐れていた事態になってしまった。


 ニーナが悪堕ちしたのだ。


 王都は今や大混乱。


 ニーナの呪いで人々は、甘い甘いお菓子に変えられてしまった。


 王都の中心地にある教会前の噴水広場に、小さな影があった。


 黒いドレスに身を包んだ金髪幼女――ニーナその人だ。


 そんな幼女に人類最後の希望――勇者アコと神官見習いのカノンが挑む。


「やめるんだニーナちゃん! 悪い事なんてニーナちゃんには似合わないよ!」


「そうであります! 街のみなさんを元に戻すでありますよ!」


 王都の民の半分が、今やニーナによって“おやつ”へと変えられてしまった。


 幼女は暗黒微笑を浮かべると、手にした魔法のマカロンステッキを振って、アコとカノンに呪いを放つ。


「アコちゃんせんせーも、カノンちゃんも、ニーナが美味しくいただいちゃうから」


 黒い稲妻がニーナのマカロンステッキからほとばしり、アコは焼きたてのアコプルパイに、カノンは小豆カノコになってしまった。


「ニーナはさいきょーだから、みんなみんなおやつにしちゃうのです。これからは、朝昼晩ごはんも、みーんなおやつにするのです。三時のおやつもおやつなのです!」


 恐怖の甘味一党独裁政権樹立を目論む幼女の前に、果敢にも女騎士ベリアルが立ちはだかった。


「ニーナ様! 甘い物を食べた後は歯磨きをするというお約束です」


 ベリアルの手には三つ叉の槍ではなく、巨大な歯ブラシが握られている。


 ニーナはあっかんべーと舌を出した。


「やだやだやだー! 歯磨きまずいからいやぁ! ずっとあま~い味でいたいのぉ!」


 ベリアルは歯ブラシの柄を構えて吼える。


「虫歯になってからでは手遅れですから! さあ、歯磨きのお時間です!」


「いままでいいこだったけど、ニーナは悪のちからに目覚めたから、歯磨きしないし夜更かしするし、朝は三度寝までおっけーなのです!」


 まさに悪の権化だ。


 対抗するため、巨大な歯ブラシを手に、一気に間合いを詰めるベリアルだったが――


 ニーナのマカロンステッキから放たれた呪いの一撃は、薄褐色肌の美女を美白にして美麗なストロベリアルショートケーキに変えてしまった。


「やったー! いちごのケーキだぁ。うはぁいっぱいおやつがあるけど、ニーナはわるいこだから、ぜーんぶ一口だけ食べちゃうんだぁ」


 ニーナはアコプルパイも小豆カノコも一口だけ食べると、ストロベリアルショートケーキに至っては、上にのったイチゴのみを食べるという暴虐非道さを発揮した。


 残された街の人々は、その悪辣さに恐れおののき、誰もが世界の終わりと諦めかけたその時――


 赤毛の少女が教会の鐘楼のてっぺんから、噴水広場にシュタッと降り立った。


「そこまでよニーナ。アコもカノンもベリアルもだらしないわね。ここは、お姉ちゃんたる、このあたしがきちんとニーナにお仕置きしてあげるわ」


 ツインテールと尻尾を揺らして、魔王ステラがニーナの顔をびしっと指さした。


「おねーちゃ……ついに、ニーナがおねーちゃを越える時なのです」


「まだまだニーナに負けてられないわ」


 ステラは指先から“良い子に戻る呪い”を放った。


 同時にニーナも、マカロンステッキから呪いを解き放つ。


 二人の放った黒い稲光は、押し合いぶつかり合った。


 拮抗。その力は互角……かに見えたが。


「あ! おねーちゃあっち! 見てみて!」


「え? あっちってどっちよ?」


「あそこ! あそこー! 教会の壁のとこだよぉ」


 ニーナの視線にステラがつられて目をそらすと、教会の建物の壁に珍しい白い巨大なセミ――セミクリッドが張り付いていた。


 このセミは変わった鳴き声で有名である。


「ローリロリロリロリロリ♪ マナイタムナイタマナイタムナイタ♪」


 瞬間、ステラは自分の胸をさっと手で覆い隠してしまった。


「だ、誰がまな板な胸板よ!」


 その隙を突いて、ニーナの呪いがステラに炸裂する。


「きゃあああああああああああ!」


 ぷしゅー! と、白い湯気を上げて、ステラは焼きたての鈴カステラにされてしまった。


 ニーナは「ふう」と小さく息を吐く。


「やっぱりセミはニーナの味方なのです」


 セミクリッドは「マナイタムナイタマナイタムナイタ♪」と鳴きながら、教会の壁から東の空へと飛翔した。


「ばいばーい!」


 マカロンスティックを振って見送ったニーナだが、そのスティックの先端から黒い稲妻が宙を走ってセミクリッドの背中に直撃する。


「あ、あぁ……ま、いっか」


 闇墜ちしたニーナの辞書に罪悪感の三文字は存在しないのだ。


 空中からポトリと堕ちたセミクリッドは、立派なセミフレッドという白いアイスケーキにされてしまいましたとさ。


 ニーナはにんまり口元を緩ませる。


「今日から、世界はニーナのものなのです。まずはてはじめに、午後の紅茶を午前中に飲んじゃうからぁ! プリンもぷっちんしないで食べちゃうし、パッキンアイスもわらないし、バームクーヘンははがしてたべちゃうし、振るドリンクをよく振ってから飲まないし、ホットケーキ冷ましちゃうし、ラテアート見ないで飲んじゃうし、ソフトクリーム巻かないで直のみしちゃうんだからぁ」


 新たな魔王が誕生し、世界はその幼い悪行に震撼するのだった。

と、闇墜ちしたニーナの姿に妄想を膨らませるセイクリッドなのでした。(本編へつづく)

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