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これから毎日襲撃チャンス

 ステラの乱入に、つい押さえつける腕の力を緩めてしまった。


 その隙にリムリムはするりと俺の膝の上から抜け出る。


「ひーひーふーひーひーふーなのだ。危ないところだったのだ。これ以上やられてたら、お尻がクライシスだったのだ」


 あと数発で落ちそうだったのだが、トラウマ植え付け作戦は中断である。


 赤く腫れたお尻を後ろ手に抱えて、リムリムは涙目になりながら叫ぶ。


「だいたい、またしても魔王と大神官なんて責任ある立場な二人がかりで、リムリムに挑むなんて卑怯なのだ! リムリムは独りなのに……うううう! それに教会に魔族が簡単に入ってくるなんて、いったいどういうことなのだ! 魔王と仲良しな聖職者なんておかしいのだ! それができるならリムリムの部下にもなれるはずなのにぃ……」


 転移門なんて裏技的な手口を使った、リムリムの言えた事ではない。むしろ正面口から入ってくるあたり、ステラの方がマシである。


 と、赤毛の魔王に視線を向けて「こんばんはステラさん。こんな夜分遅くにどのようなご用件でしょう」と、俺は目を細めて訊いた。


 ぷいっと顔を背けるステラ。


 そうそう、これが全裸に対する正しい乙女のリアクションだ。


 赤毛と尻尾を逆立ててステラの批難声明がこだまする。


「なんで裸なのよ!」


「これには深い訳がありまして。そうですよねリムリムさん」


 俺が話題を振ると、リムリムはエヘンと胸を張った。


「神官のクローゼットに転移門を上書きして、神官が着替えられなくしてやったのだ。どうだまいったかなのだ!」


 自分では何もしていないのに勝ち誇れる鋼のメンタルに敬礼。


 これでステラも納得するかと思いきや――


「だからって脱ぐ必要ないでしょ? 聖堂に神官服が綺麗に畳んであったから、嫌な予感はしていたのよ!」


 俺はコホンと咳払いを挟む。


「シャワーを浴びようとしていただけです。私が聖堂で脱ぐことを、ステラさんもご存知でしょう」


「知りたくなかったわそんな大神官豆知識。ともかく、爆発と獄炎、好きな方を選ばせてあげるから、二人まとめて葬ってあげるわよ」


 これにはリムリムも肩をビクンとさせる。


なにせ先ほど魔王城内で対決した際に、廊下の壁を吹き飛ばしオープンテラスに改築した、ステラの匠の技の威力を目の当たりにしたばかりなのだ。


 リムリムは「な、なんだか今夜はいっぱい遊んで眠くなったのだ。お尻も痛いし、ひとまず挨拶代わりにこれくらいで勘弁してやるのだ!」と、俺の顔を指さした。


「三度目はありませんよ」


「日を改めれば問題無しなのだ! おまえら全員、リムリムの手下にしてやるのだ! さらばだー!」


 ステラの極大獄炎魔法が解き放たれる前に、ピンク髪のポンコツ吸聖姫は帰還魔法で姿を消した。


 俺は立ち上がると、部屋の入り口付近で身構えるステラに歩み寄る。


「あと少しで調教……もとい、説得完了でしたが、あの調子では再び相まみえることになるかもしれませんね」


 ステラは俺が一歩近づくごとに半歩下がる。


「ちょ、こ、こ、こないでよ! 裸で女の子に歩み寄る聖職者なんておかしいでしょ?」


「おっと、これは失礼いたしました。ですが着替えようにもクローゼットはこの通り。ぴーちゃんさんに再び転移門の移設か、可能なようであれば封鎖をお願いしたいのですが」


 開かずのクローゼットをノックする俺に、ステラはくるんと背を向ける。


 おお、すぐにも、ぴーちゃんを連れて来てくれるのだろうか。


「あのねセイクリッド。落ち着いて冷静になって訊いてほしいんだけど」


「はい、なんでしょう?」


「ぴーちゃんはすごいわ。うん、だけど万能じゃないって本人も言ってて……」


「はあ、なにやらそれ以上先の事を、うかがいたくない気持ちになってきました」


 ステラの背中で尻尾が小さく揺れた。


「一度動かすのが精一杯で、閉じるには元を叩くしかないそうよ。しかも転移門は一方通行のタイプで、こちらから入ることは無理みたいなの」


 相互に行き来できては、逆侵攻の危険もある。


「なるほど。そのような可能性も考慮に入れてはいましたが、今後はいつ何時なんどき、あのピンクの魔族の襲撃を受けてもおかしくないということですね」


 ステラが俺に背を向けたまま呟いた。


「だからね、あの……セイクリッドさえ良ければ、魔王城に引っ越ししてくれてもいいのだけれど」


「お心遣い感謝いたします魔王様。ですが、私は司祭として“最後の教会”をあずかる身ですから」


「仕事なら有能なマーク2に任せちゃえばいいじゃない? アコたちが死んでも、蘇生と同時に王都に転移魔法で飛ばせるんでしょ?」


 ただでさえ道を間違えやすい勇者である。俺がこの場を離れれば常識の定期検診ができなくなってしまうだろう。


勇者を見守るのも大神官の務めだ。


「そういうわけにも参りません。アコさんがおかしなことをしでかさないか、確認も兼ねていますから。それに……」


「そ、それになによ?」


「まだ赴任してからの年月はさほど経ってはいませんが、この小さな教会のガランとした聖堂には、愛着もありますし」


 ステラの尻尾がだらりと下がる。


「も、もう。人がこうして心配してあげてるのに」


「大変お優しい魔王様で、感謝の言葉もありません」


 少女の背中にそっと頭を下げると「もう、知らないんだから」と、ステラはこちらに一瞬振り向いて、あっかんべーをしてから走り去っていった。


 本当に上級魔族系女子というのは、嵐のようだ。ステラはこれでもだいぶ落ち着いた方だが、リムリムが問題だ。


 まあ、酒を飲んだベリアルほどではないのが救いと言えば救いだった。

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