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ニーナクライシス

 ロリぴーちゃんは俺を押しのけるようにして扉の魔法陣に触れる。


解析アナライズ開始ですわ」


 ぴーちゃんの瞳から光が線状に放たれて、扉に浮かび上がった魔法陣をなぞるように走る。


 俺は撲殺剣を手にしたままロリメイドに確認した。


「この魔法陣の正体がわかるのですか?」


「伊達にぴーちゃふぁいたーの開発などをして過ごしていたわけではありませんわ。物理的な戦闘においては、以前のボディほどの強度や戦闘能力はありませんけれど、こういった魔法的な仕掛けを看破するくらい、お茶の子さいさいでしてよ」


 じっと眼差しは扉に固定したまま、ぴーちゃんはどことなく得意げに続けた。


「ニーナ様。すぐにおトイレのドアを修理いたしますわね。もう少しの辛抱でしてよ」


 ニーナは返答も無理なようで、しゃがんだ姿勢から立ち上がって、その場で駆け足をし出す。


 これはもう限界だ。俺はドアノブ目がけて、再び突きの構えを取る。


「これ以上、ニーナさんに時間は残されていないようです」


 狙いを鍵穴に定めて、腕を弓のように引き絞り、溜め込んだ一撃を――


 ぴーちゃんが珍しく声を荒げた。


「あと一秒以内に完了いたしますわ!」


 その言葉に、俺の突きは寸前のところでとまった。というか、突きを放つと同時に手の中から撲殺剣の魔法力を霧散させたのだ。


 ほぼ、同時のタイミングで扉から魔法陣は消え失せた。


「おしっこー!」


 ニーナが無事に滑り込み、ステラは胸をなで下ろす。


 ぴーちゃんが俺の顔を見上げた。


「信じてくださって、ありがとうございます」


「さすが優秀ですね、ぴーちゃんさんは」


 こと、ニーナの危機においては、ぴーちゃんが見栄を張ったり嘘をつくなど、天地がひっくり返ろうとあり得ないことだ。


 きょとんとした顔でステラがロリメイドに訊く。


「ところで、いったい今の魔法陣はなんだったのかしら?」


 ぴーちゃんはそっとメイドらしく一礼してから顔を上げた。


「おそらくは転移門の一種かと。先ほどの侵入者の痕跡などを、こっそり調査していましたの」


 俺とステラはある意味囮に使われていたらしく、ぴーちゃんはリムリムへの対処をこちらに任せて、その先の事――つまり、リムリムの侵入経路潰しに動いていたらしい。


 スタンドプレイが結果的に生んだ、ニーナを守るためのチームプレイとしては上出来だ。


 ステラは腕組みをすると「転移門ってことは、ここを通ってきてたってことよね」と、不安そうに呟く。


 ぴーちゃんは小さく口元を緩ませた。


「ご安心くださいませステラ様。転移門は他の場所に移動させましたので、もう魔王城内に侵入されることはありませんわ」


 すると、ステラは膝を折って、ぴーちゃんをぎゅっと抱きしめた。


「ありがとうね、本当に、本当に!」


「ちょ、おやめになってくれませんこと? セイクリッド様の前で、は、恥ずかしいですわ」


 と、言いながらもまんざらでもなさそうなロリメイドだが、今回の影のMVPは彼女に違いないな。


 ちなみに表の功労者は身を挺してステラの変わりに触手プレイに溺れた、某女騎士魔族ということにしておこう。


 ほどなくして、すっきりとした顔のニーナが戻ってきた。


「おやすみなさ~い。ふやああぁ」


 眠そうに目をこすり、半分夢の中のニーナは、ぴーちゃんに手を引かれて自室へと戻る。


 ステラは小さく息を吐いた。


「お城壊しちゃったわね。まあ、何日かすればひとりでに元に戻るんだけど」


 どことなく落ち込み気味な魔王様に俺はそっと返す。


「それは便利ですね。なら、もう何も問題はないでしょう」


 すると「それもそうね!」と、ステラの表情は再び明るさを取り戻した。


 まったく迷惑な吸聖姫だったが、侵入経路も断たれたことだし、もう会うこともないだろう。




 シャワーを浴びようかと思っていたところに、急な呼び出しを受けてしまったのだが、やっとこれで眠れそうである。


 目を閉じればまぶたの裏には、ニーナの我慢する顔が浮かんだ。


 何か、目覚めてはいけない感情が目覚めてしまいそうである。


 教会の聖堂に戻るなり、俺は服を脱ぎ捨てた。


「さて、やっとシャワーで汗を流せそうですね」


 ぽつりと呟き自室に戻る。


 クローゼットからタオルを取りだそうと、取っ手に手をかけたのだが――


「おや、立て付けが悪くなってしまったのでしょうか」


 普段は軽く引けば開くはずのクローゼットの扉が、まるで凍り付いたように動かなかった。


 そして、扉にうっすらと、先ほど見たばかりで見覚えがあるというには直近すぎる、独特な魔法陣が浮かび上がる。


「きっとくる~♪ きっとくる~♪ なのだ~♪」


 魔法陣の発光とともに、これまた聞き覚えのある少女の声が響いて、クローゼットの扉が“内側”からバタンと開くとともに、ゴロゴロと前転しながらピンク髪の魔族の少女が部屋へと転がりこんできた。


「あうち!」


 勢い余って少女はゴロゴロ転がると、部屋の壁に頭から激突する。


 クローゼットの扉は独りでにバタンと閉じて、再び固く閉ざされる。


「んふ~! 痛いけど侵入大成功なの……だ?」


 膨らんだたんこぶを庇うように、頭をそっと手で押さえつつ、少女――リムリムは顔を上げると瞳を輝かせる。


「わああ! 美味しい神官なのだぁ!」


 俺は心の中で頭を抱える。と、同時にロリメイドゴーレムへの“本日の影のMVP”を取り消した。


 転移門の移設先は、もう少し選んでほしいものである。

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