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ちゅーちゅーぺろぺろ

 追い詰められた吸聖姫だが口は減らないらしい。


「リムリムには夢があるのだ。魔王になって大軍を従えるのだ」


 残念、魔王城には従えるべき大軍など存在しない。


「その程度の力で私に挑むのも愚かですが、軍を従えてどうするつもりです?」


「そ、それはぁ……従えた後で考えるのだ。ともかく、リムリムに城の権利を受け渡すのだ。でないと……な、泣くぞ! 大の大人が小さな子を泣かせて、プライドは傷つかないのか?」


 この世間知らずで無鉄砲な感じ、ステラと出逢った時の事を思い出す。


 そんな脅しに屈するような俺ではない。答えはノーだ。


「子供の泣き顔を見るのはとても愉快ですからね。さあ、存分にさえずってください。この撲殺剣で貴方の苦痛と悲しみの歌声を指揮コンダクトしてあげましょう」


 リムリムはへなへなとその場にへたり込んだ。もはや蛇に睨まれた蛙ならぬ、大魔王(≒大神官)に睨まれた小娘魔王候補である。


「う、うう、や、やるならやれなのだ! だがな魔王よ! いかにおまえが強大な力をもっていようとも、その野望は必ず潰えるのだ! なぜなら、この世に悪の栄えた試しはないからなのだ!」


 ステラが「それ、魔族が言っちゃだめなやつじゃない」と、ぼそりとツッコミを入れた。


 魔王様が成長なされて嬉しいと、神官が喜ぶのもいかがなものかと思うのだが、彼女がさも成長したかのように感じられるのも、ひとえにリムリムの幼い挙動のたまものだ。


 さてと、もう十分に脅しも効いただろう。


 あとは尻でも叩いて軽く泣かせて……もとい反省させてから、お帰り願おうと思ったところで――


 リムリムが俺の顔をじっと見つめた。これまでの怯えきった顔ではなく、瞳をキラキラさせている。


「あの、私の顔に何かついていますか?」


「近年まれに見るほどの聖なる力が溢れているのだ。これは……チャンス!」


 蛇に睨まれた蛙だったはずの、ピンク髪の少女が突然俺に飛びかかってきた。


 ぎゅっと抱きつき俺の首元に少女は八重歯の光る口でカプリと噛みついた。


 そして声にならない悦びの声を上げる。


「んんんん~~! んふううううううううんん~~!」


「首を甘噛みするのはやめてください」


「ぷはー! すっごく美味しいのだ。急に聖なる力が大洪水で……ま、まさかおまえ、魔王じゃなかったのか」


 聖なる力とは慈悲の心なのだろうか。


 見逃すという気持ちになった途端に、これである。


 俺の首に吸い付き、猫がミルクを飲むように舐めながらリムリムは不思議そうに呟いた。


「うう、けどおかしいのだ。吸っても吸っても聖なる力が溢れてくるのだ。無限涌き状態なのだ。嬉しい誤算ってやつなのだ」


「あの、そろそろ離れていただけませんか?」


「どうしてなのだ。魔王じゃないならお互いに戦う理由は無いのだ。それにこんなに上質な聖なる力をペロペロできて、リムリムは今とっても良い感じなのだ。減るもんじゃないなら、もっとチューチューさせるのだ!」


 ステラがなぜか怒りの形相でリムリムを指差した。


「セイクリッドが嫌がってるでしょ! 離れなさいよ!」


「あっかんべーなのだ! リムリムに命令するなんて百万年早いのだ中途半端おっぱい小間使い!」


「な、な、なんですって?」


「だってそうなのだ。ありそうで無かったがっかりおっぱいより、リムリムみたいな方が喜ぶ人も多いのだ」


 ステラは顔を真っ赤にして吼えた。


「あなたなんて完全に板じゃないの! まな板よ! それに比べればあたしなんか、超グラマラスなんだから!」


 ぷいっとリムリムはそっぽを向いて、自称グラマラスさん(住所魔王城職業魔王)をスルーした。


「んーおいしいのだずっと舐めてられるのだぁ。リムリムは気に入ったのだ」


 どうやら俺は吸聖姫にとって、たまらなく美味らしい。聖なる力を暗黒の力に変換するともリムリム自身が言っていたため、あまり好き勝手に吸わせるのもよくないか。


 リムリムの首根っこを掴んで、母猫が仔猫を運ぶ時のように引き離す。


「うぬぬ! なにをするのだ!」


 抗議の視線を俺に送りながら、リムリムは空中で手足と尻尾に羽までばたつかせた。


「さて、どうしてくれましょう」


「リムリムを解放するのだ。そして……お、おまえをスカウトするのだ。いや、救出! これは救出なのだ! 魔王城に捕まっていた神官を、リムリムがお持ち帰りしてあげるのだ! そしたら、リムリムのおうちでたっぷりチューチューできるのだ」


 なぜこうも、人の話を訊かずに自分の意見が通ると思うのか。


 倒してしまっても良いのだが、恐らく玉座は吸聖姫の自宅なりアジトなりにあるのだろう。


 それを封印しない事には、復活して同じ惨劇の繰り返しだ。


 少なくとも、彼女がどうやって魔王城に入りこんだのか確認し、そのルートの遮断は急務である。


 俺はリムリムをそっと地面に下ろした。


 とりあえず情報を聞き出すことにしよう。


「どうやら私が魔王ではないと看破されてしまったようですね」


「リムリムも騙されそうになったぞ。というか、もうほとんど魔王だったぞ神官! しかし、本物の魔王はどこなのだ? これだけ騒ぎを起こしても、兵士も魔物も出て来ないし、いるのはカワイイ幼女と神官と、そこの小間使いの微妙おっぱいな小娘だけなのだ」


 リムリムがそっとステラに視線を向けると――


「あ、あ、あ、あたしがその魔王様よおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ステラが切れた。

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