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魔王より魔王味

 まだ夢の中なのか、ニーナはリムリムを見ると「ピンクのセミだぁ」と、ぼんやり呟いて、通り過ぎてしまった。


「せ、セミではないのだ! リムリムは誇り高き吸聖姫なのだ」


 立ち止まるとニーナは首を傾げる。


「そっかぁ。すごいねー」


「そうだぞ。なにせリムリムのパパは、前の魔王のライバルだったのだ。そして、リムリムは今は亡きパパの意志を受け継いで、魔王を倒して魔王になるのだ」


「わー、すごいすごーい」


「ほ、褒められるほどのことではないのだ」


 ニーナがパチパチパチと拍手すると、リムリムは頬を赤らめた。


 俺はステラの隣に立って、軽く肘で突くようにした。もちろん、リムリムがニーナに手を出さないよう視線はピンク髪幼女を捕捉したままだ。


「ステラさん。なにやら因縁めいているようですね」


「あたしは知らないわよ。けど、向こうはまだ気づいてないみたいね。あたしの事……」


 ステラが現在の魔王と、リムリムは認識していない。


 魔王としての胸囲もとい脅威ゼロの悲劇である。


 リムリムはビシッとステラを指差した。


「だからとっとと魔王の元に案内するのだ! そこの赤い小娘!」


「ちょ、小娘ってあなたに言われる筋合い無いわよ!」


「ぐぬぬ! リムリムに逆らうのか!? エリート上級魔族だぞ! 魔王城の小間使いが、そんな口の利き方しちゃだめなんだぞ! もし魔王を倒したら、リムリムがおまえのご主人様なんだからな!」


 その場でピンク髪の少女は、地団駄を踏んで見せた。


 本当にやる人いるんだ。そんな素朴な感想を心の中で漏らしつつ、俺は光の撲殺剣をリムリムに向ける。


 途端に、リムリムがビクンと肩を震えさせた。


「な、なんなのだ! 神官に用はないのだ。というか、格好だけで全然聖なる力を感じ無いし、おまえ本当に神官なのか?」


 実に心外な物言いだが、それならそれで好都合だ。聖なる力が無いというなら、利用してやろう。


 両手に構えた撲殺剣をバトンのように振り回しながら、俺は自称魔王のライバルに告げる。


「フフフフ……私に聖なる力が無いと見抜いてしまうとは、己の不幸を呪うがいい」


 リムリムの視線はニーナに向けられた。


「ここはあぶないのだ。とっととどこかに行くのだ」


「はーい。おしっこしなきゃなのです」


 ニーナはトテトテと廊下の奥へ。これで一安心だ。


 俺と対峙したリムリムの手には、暗黒のオーラのようなものが集まる。


「おまえ……さては魔王だな。その服も侵入者を欺くためのものだし、銀髪ロン毛の聖職者なんて常識的に考えてありえないぞ。しかもここは魔王城。こんなところに野生の神官がいるわけない! 魔王が協力者のフリをして勇者を騙すのに、神官とはうってつけだけど、リムリムには通じないんだぞ!」


「賢しい子供は嫌いですね」


 ニンマリ口元を緩ませると、リムリムは暗黒のオーラを球状にして俺に向けて投げ放つ。


「お命ちょうだいなのだ魔王ッ!」


 球体は膨らむと、先ほどさんざん潰してやった暗黒水饅頭――ゼリーワームに姿を変えた。


 問答無用で叩き潰す。


「はうわあああ! リムリムのゼリーワームが一撃で。な、なんて強さなのだ」


「どうしました? まさかこの程度で終わりではありませんよね?」


 胸元で撲殺剣を交差させ十字に構えつつ、俺はリムリムとの間合いを詰める。


「うわあああ! く、くるなああああ! くるなああああああ!」


 リムリムはポイポイと手当たり次第に黒い球体を俺めがけて投擲してきた。


 左右の手から次々と繰り出される暗黒の球体は、ゼリーワームとなって滝のように降り注ぐ。


 ステラの悲鳴がこだました。


「セイクリッド逃げてッ!」


「私が逃げたらステラさんが、ゼリーワームの触手に捕まってしまいますよ」


 どうしてこうも、魔王だの魔王候補だの上級魔族だのの少女というものは、俺に迫られると小さな攻撃を連打してくるのだろう。


 撲殺剣でゼリーワームを叩き潰しながら、じりじりと距離を詰める。


「さあ、魔王である私の手にかかり、永劫なる苦しみの中で息絶えるがいい」


 と、告げた途端――


 背後でステラが声を上げた。


「やだセイクリッドそれカッコイイじゃないの。っていうか、そういうセンスあったんだ。見直したかも」


 しまった。どうやら言い回しがステラのツボをついてしまったようだ。


 一方、目の前のリムリムはというと。


「うう、流石、現役の魔王なのだ。なんて凄みのあるセリフなのだ」


 こちらにも有効だったようで、リムリムはすっかり及び腰になっていた。


「では、リムリムさん……覚悟はよろしいですね」


「よ、よろしくないのだ! ここは見逃すのだ魔王!」


 暗黒の力が尽きたのか、ゼリーワームも品切れとなり、リムリムは怯えるように後ろに下がる。


 縮地歩行で目前まで間合いを詰め切り、俺は光の撲殺剣を振り上げた。


「くっ! やめるのだ! そんな棒で叩かれたら痛いのだ。魔王には人の心がないのか? 暴力反対なのだ!」


「魔王に人心があるとでも? だいたい我が居城に討ち入りしておいて、どの口が仰るんですかね」


 後方でステラがそわそわと「え、いつの間に所有権移ったの」と呟いているが、聞かなかったことにしよう。

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