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ベラベラ喋った敵の末路ってだいたい死ぬ(夏休みダイナミックネタバレキャンペーン)

 月下蝶は胸元の蝶ネクタイを左右の手でピンッと引っ張った。


「ほんと、ぼくってラッキーだなぁついてるよなぁ。もう誰にも負ける気がしないし、いっそこの島の火山を噴火でもさせてみよっかなぁ。愛でも悲しみでも強い感情って美味しいんだよねぇ」


 俺やステラの正体には気づいていないようで、向こうはすっかり舐めプモードに突入した模様。


 まったく、勇者パーティーが蝶魔族の拘束に自力で打ちかってくれれば、好機や勝機をこうして探らなくて済むのだが……ベリアルが倒れた今、俺が全員を守らなければなるまい。


「パピメリオさんと仰いましたね。それほどの力を持ってして、ラッキーとはどういうことでしょう? 実力なのではありませんか?」


「え? ええ!? わかる? わかっちゃうそれ? おにーさん、結構いい人じゃん」


 褒められると乗ってくるのは、魔族のサガか。ともあれ、油断に油断を重ねてもらおう。


 あと三歩、こちらに近づいて来たら説得タイムである。分身しようが確実に改心してもらおう。


 だが、今の間合いでは遠いのだ。


 一歩俺の方に歩み寄って、パピメリオは羽をパタパタとさせた。


「まあ、実力ってのはもちろんなんだけどね。ぼくはずっとムーラムーラに生け贄を出すように仕向けさせてたんだ。家族を失った連中の悲しみや、村を火山の神の怒りから救うっていう健気な魂を吸って、細々と生きてきたんだよねぇ」


「自ら手を下さず、裏から支配するだなんて、憧れてしまいます」


「あはは! おにーさんだけは生かしておいてもいいかもね」


 アコが口を尖らせた。


「ぶーぶー! ちょっとセイクリッドひどいよ! いくら黒幕キャラでも魔族と同調するなんて!」


 カノンもキルシュも「ぶーぶーぶひぶひ!」と、途中からブーイングがブヒリングに変化しつつも、俺を批難した。


 ええい、お黙りくださいポンコツ三姉妹。


 ステラがアコの腕の中で暴れる。


「セイクリッドに文句を言うのももちろんだけど、アコも拘束を解く努力をしてちょうだい」


「いいよステラさん! さあ! 肘でも膝でも、ボクの身体に叩き込んで! その痛みがボクの犯した罪への罰だから! 償わせてよ!」


 そうしてくれるとありがたいのだが、ステラはしゅんっと大人しくなった。


「なんだかわからないけど、背中に大きなものが押し当てられてると、自尊心がどんどん失われていって力が出せないのよ~!」


 巨乳圧力。それはアコやベリアルが誇る脅威の胸囲が品乳にもたらす、恐るべき拘束効果なのだ。自分で言っていてわけがわからないが、アコに捕まってからのステラが大人しい理由は、その圧力プレッシャーによるものだったらしい。


 パピメリオが目を細める。


「おにーさん嫌われちゃったねぇ。あーかわいそう。かわいそうだから教えてあげるね。ある日、島に賢者とかいうヤツがやってきて、村のしきたりをぜーんぶぶち壊していったんだ。あの時はほんとピンチだったよ。生け贄も七年前に終わっちゃってさ。けど、賢者がいなくなったら、村の連中は観光化なんか始めちゃってね……そこでぼくも方向転換! 観光客からたっぷり吸い上げる方法に切り替えたら、これがバッチリだったんだよね」


 得意げに胸を張ってペラペラお喋りしてくれるものである。もう少し探りを入れつつ、俺も身を乗り出すようにして半歩踏み込んだ。あくまで「貴方のお話に大変興味があります」という雰囲気はそのままに。


「しかし、それも幸運ではなく貴方の機転、実力の賜物ではありませんか?」


「あ、そう? そう思っちゃう? だよねー。うん、けどほんとそれだけじゃなかったんだ」


「といいますと?」


「実はね、そろそろ島を出て海外進出狙ってたんだけど、海上路に相性の悪い魔族の連中がいてさ。シャチのオバサンと取り巻き? みたいなの。あいつらのせいで海に出にくくって。それが最近、ぱったりいなくなっちゃったんだよ!」


 あっ(察し)


 何気ない大神官の努力が、南国の魔族の勢力図を塗り替えてしまったようだ。


 俺はステラたちの厳しい視線に晒されながら、もう半歩踏み込む。残り一歩だ。


「確かに仰る通り、幸運です。とはいえ、人生そういったことが一度くらいは起こるものですし」


「うんうん、ぼくも一回きりなら、おにーさんと同意見。だけどさ、実はこの島で最も警戒してた、一番厄介な相手……超高速のセミーンが昨日、死んだみたいなんだ! 短期間に二度も幸運に恵まれるなんて、これはもうラッキー限界突破だよ」


 何気ない以下略。いや、セミーンに関しては寿命である。誰かが倒していれば、莫大な経験になっていたかもしれないと思うと、ややもったいない気もした。


 俺はじりりと半歩にじり寄る。


「なるほど、それは素晴らしい。まさに幸運も味方につけたと」


「そだねー。おっと、おにーさんさぁ……ちょっと近いよね? ぼくに気持ち良くお喋りさせて、チャンスを狙うなんて大人って汚いなぁ」


 見た目は子供、中身は何歳なのか得体も知れない魔族に言われたくはない。


 こちらはまだピッチピチの二十代半ばだ。


 パピメリオはふわりと宙に浮かんで俺から距離を取りながら、再びステラ目がけて鱗粉を飛ばした。


「赤毛のおねーさんは、いったいどんな甘い夢の蜜をぼくに味合わせてくれるのかなぁ? ピュアな欲望を吸えば吸うほど、ぼくは強くなれるんだ。さあ、みんなで心の中をじっくり見て辱めちゃおうね」


 アコもカノンも見るまいとギュッと目を閉じる。キルシュだけは「まあ、むしろこれを仲良くなるきっかけにしましょうよ」と、これまた空気の読めないことこの上ないのだが……。


 とってってって


 と、俺もまったく予期せぬところで、ステラの前にニーナが回り込んで鱗粉を遮るように立ち塞がった。


「おねーちゃは嫌がってるのです。ニーナが守るからぁ……」


 金髪幼女の身体を鱗粉が包み込む。


 ステラの悲鳴がこだました。


「ニーナ……どうしてッ!?」


「ふやああああぁぁ」


 鱗粉に包まれニーナの背中にチューリップのつぼみが浮かび上がる。


 まさか、ニーナの欲望まで開花してしまうというのだろうか。


 とりあえず、ニーナに攻撃をした時点でパピメリオの幸運が本日限りで終了することだけは決定した。その命の灯火とともに。

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